今回のトーキングウォッチは、2023年最初のエピソードというだけではない。3人の時計コレクターを一挙まとめて動画で取り上げるのは初めてのことだ。ひとつわかったこと。それは彼らのチームワークの素晴らしさだ。
そのチームとは、ニューイングランド・ペイトリオッツだ。そして、今回登場する選手は、パンターのジェイク・ベイリー、ロングスナッパーのジョー・カルドナ、プレースキッカーのニック・フォークの3氏だ。
フィールドでの仕事がきっかけで、彼らは親しい友人となり、時計収集沼に一緒にハマることになったそうだ。多くのアスリートが、最新のハイプウォッチを誰が最初に身につけることができるかを競う、永遠の一人相撲を演じている一方で、彼らは互いにヴィンテージのセイコーを贈り、高額な買い物にも助言し、それぞれの時計が彼らにとってどんな意味を持つのか、個人的なストーリーを共有しているのだ。
アメリカンフットボール、家族愛、そして同胞愛をテーマにした新エピソードをお届けできることに編集部一同、興奮している。今回のトーキングウォッチにご出演いただくのは、ニューイングランド・ペイトリオッツのジェイク・ベイリー、ジョー・カルドナ、ニック・フォークである。
プレースキッカー:ニック・フォーク
フォーク、38歳、賞や記録の数多くにその名を刻むNFLのベテランプレースキッカーだ。今シーズンの初め、リーグで15年目の出場となった彼は、50ヤード以下のフィールドゴールを連続して決めたNFL記録を打ち立てた。そして一昨年は? NFLの得点王である。NFLのキッカーとして成功するには、献身と精密さが必要であり、フォークは飽くなき精密さをフィールド外の誰もが羨望するロレックスのコレクションに求めている。
これは狂気の時計だ。Ref.6264デイトナは“ポール・ニューマン”スタイルのエキゾチックダイヤルを持つだけでなく、実は1970〜71年の1年間だけ生産された、ポンププッシャーとアップグレードしたCal.727の組み合わせを特徴とする珍しい移行期のリファレンスだ。Ref.6264は、まさに伝説的なRef.6262の兄弟機だが、従来のメタルベゼルではなく、美しいブラックアクリルベゼルが特徴である。フォークのモデルはステンレススティール製で、アイコニックなステップ状の3トーンダイヤルと、6時位置の12時間積算計の上に弧を描く赤い“DAYTONA”表記が目を引く。彼は昨年末、NFLの15回目のシーズンを迎えるにあたり、自分へのご褒美にこの時計を購入したそうだ。
心臓血管外科医だったフォークの祖父は1977年にロレックス サブマリーナー Ref.1680を400ドルで購入した。ケースバックには祖父の姓が刻まれており、数年前に他界した際にフォークがこの時計を受け継いだ。祖父の思い出を胸に、よくこの時計を身に着けているそうだ。そして、いつか自分の息子たちにこの時計を譲りたいと願っている。
フォークが時計の世界に足を踏み入れたのは2010年代の半ば、妻がクリスマスにプレゼントしてくれたクラシックなクロノグラフ、ブラックダイヤルのスティールベゼルを持つロレックス デイトナ Ref.116520がきっかけだった。その後、次のロレックスを手にするまでの数年間、彼はほぼ毎日この時計を身につけていた。
パンター:ジェイク・ベイリー
25歳のベイリーは、ペイトリオッツのスペシャルチームのなかでも若き大物だ。名門スタンフォード大学から2019年のNFLドラフトでペイトリオッツに指名され(同校史上最長のパント記録を持ち、平均パント距離で、歴代のチームリーダーである)、すぐにチームとリーグにその名を刻むことになった。NFL2年目にして、2020年APオールプロのファーストチームに選出され、ペイトリオッツのパンターとしてチーム史上初の栄誉を手にした。
ベイリーが時計に熱中しているのは、フォークの功績だけとはいえない。ベイリー家は高品質な時計への造詣も深く、その事実は彼の祖父が1956年に購入したロレックス サブマリーナーからもうかがえる。ベイリーの祖父はパイロットで、空軍に所属したのち、トランス・ワールド航空(TWA)で民間ジェット旅客機の操縦士に転身した。当時TWAの主要路線のひとつが、ニューヨークを経由してサンフランシスコとスイスを結ぶもので、彼は最終的にこのロレックス サブマリーナー Ref.6538を旅行先のスイスで1956年に100ドル(!)で購入した。ベイリーの祖父はやがてネバダ州リノ郊外に牧場を購入し、そこで農作業をしながら毎日サブマリーナーを着用していたという。ベゼルは数十年にわたる着用でいつの間に外れてしまっていて、初期型サブマリーナーのリューズガードのないデザインと相まって、活動的な人生を強調する非常にクールなルックスを醸し出している。
昨シーズン末に、フォークがベイリーとカルドナのふたりに、1年の成功と労をねぎらうために1970年代後半に製造されたセイコー “ポーグ”ヴィンテージクロノをプレゼントした。ブルーダイヤルとペプシベゼルはペイトリオッツのチームカラーにちなんでおり、ベイリーはポーグを、コレクションへの興味を確固たるものにした時計のひとつに挙げている。
ロレックス デイトナ Ref.116509
フォークの初代デイトナに触発されたベイリーは(それに若干の仲間内の“圧力”もあったのだろう)、ボストンの有名なニューベリーストリートにあるロレックスブティックで、サンバーストブルーダイヤルに赤いアクセントが加えられたWG製の現行ロレックス デイトナを手に入れた。ペイトリオッツのユニフォームやロゴに使われている原色を彷彿とさせるカラーリングだ。
NFL2年目のシーズンにプロボウルに選出されたベイリーが、登録名簿入りした選手への土産品として配られたのが、この一見地味なクォーツウォッチだ。3つのインダイヤルとツインプッシャーにより、かなりベーシックなクロノグラフに見えるが、実はインダイヤルにはカレンダー(曜日と日付)と24時間表示がレイアウトされている。ベイリーは試合のたびにこの奇抜なクォーツウォッチを腕にはめ、これまで自分が成し遂げてきたことを思い出している。
ロングスナッパー:ジョー・コルドナ
アメリカンフットボール界で最も過小評価されているポジションのひとつが、ロングスナッパーだ。非常に専門的な役割で、膨大なスキルと緻密さが要求されるにもかかわらず、称賛や栄誉を受けることはまれだ。うまくやるのが当たり前だと思われているが、もしスナップが弱かったり、外れたりしたら、ロングスナッパーは簡単に非難される損な役回りでもある。NFL8年目の30歳、カルドナは、このプレッシャーの大きい仕事を、わずかな誤差でこなしている。
カルドナが2015年のNFLドラフト5ラウンド目でペイトリオッツに指名されたとき、彼はNFLの全歴史上4人目の指名ロングスナッパーとして注目された。また、NFL史上2番目に高いドラフト指名を受けたロングスナッパーでもあり、大学4年間、1度もバッドスナップを課されることなく、この栄誉を手にしたのである。
アメリカ海軍兵学校を卒業し、フットボールのキャリアに加え、現在はアメリカ海軍予備役の中尉として二足のわらじを履いている。
カルドナも昨シーズンの終わりにフォークからポーグを受け取ったが、彼が持ってきてくれたヴィンテージセイコーは、実は別の種類のものだ 。それはセイコー Ref.6105の非常に美しい個体で、1979年にフランシス・フォード・コッポラ監督が製作したベトナム戦争を描いた大作『地獄の黙示録』に登場し、主人公のウィラード大尉(訳註:マーティン・シーンが好演)が着用した時計として有名になったダイバーズウォッチだ。しかし、カルドナの時計は単なる映画の記念品ではなく、実は元々ベトナム戦争中にある軍人が購入し、戦争中ずっと着用していたものなのだ。
時計愛好家であり、アメリカ海軍予備役軍人でもあるカルドナは、時計と軍事史との関わりについて純粋な関心を持っている。だから、ウェブサイトWatches Of Espionageとして知られる匿名の元CIA職員の記事を彼が楽しんでいるのは、何ら不思議なことではない。カルドナは、ヨルダンのアブドラ2世・ビン・アル・フセイン国王から贈られたことを示すユニークなダイヤルのサインを持つブライトリング エアロスペースの個体を偶然発見した。この時計の背景を知ったカルドナは、南カリフォルニアの質素な宝石店で思いがけずその時計を見つけ、衝撃的な出合いを果たしたのだ。そしてこの時計は、カルドナの腕に最もよく似合う時計となっている。
カルドナは今年初め、この現行のロレックス サブマリーナーを手に入れた。ダイバーズウォッチの軍事的歴史と、フォークとベイリーがヴィンテージサブマリーナーを通じて持つファミリーヒストリーに触発されたからである。カルドナは、近い将来、米海軍に24年勤務し、米国防総省で長いキャリアを間もなくまっとうしようとしている父親へのプレゼントとして、もう1本同型のサブマリーナーを購入する予定だという。
ペイトリオッツの特別チームは、3人とも歴史に裏打ちされた繊細な時計を好むが、カルドナは、私たちが話しているあいだ、ちょっとした煌びやかなものを見せびらかさずにはいられなかったようだ。ペイトリオッツで最も在籍期間の長いメンバー(フォークは2019年に入団)であるカルドナは、このトリオのなかで唯一スーパーボウルリングを持っているのだ。実はふたつも持っていて、2017年のスーパーボウルLI(51)と2019年のスーパーボウルLIII(53)の優勝に貢献したことでチームから贈られたものである。リングのデザインとセッティングは、それぞれの勝利の一部を強調するためのものだが、カルドナの話の詳細を聞くには、上の動画全編をご覧いただきたい。
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