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Talking Watches ロジャー・スミスが語る素晴らしき時計の世界とコーアクシャル脱進機の秘話

存命中の時計師として世界最高峰に数えられる一人が、その知識と哲学、そして自身が製作した時計を披露する。

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※本記事は2018年2月に執筆された本国版の翻訳です 。

時計業界において最も尊敬されている人物を編集部に迎える機会が得られた。ロジャー・スミス氏である。彼は、コーアクシャル脱進機の発明者であるジョージ・ダニエルズ博士(故人)のもとで、長年にわたって製作活動に勤しんできた。ロジャーは現在も、マン島にある自身のアトリエでダニエルズ博士の仕事を引き継ぎ、独自の厳しい基準で年間10本程度の時計を製作している。彼の目標は、過去に発見された解決策に頼るのではなく、機械式時計学の芸術と科学を発展させ、手作業で伝統的な時計製造方法を用いながら、現代的な時計を作ることだと語る。彼の考えでは、時計製造の醍醐味は、(例えばスイスレバー脱進機のような)既知数に依存するのではなく、独自に限界を探り、常に精度と信頼性の向上を追求することにある。

ロジャー・スミス氏の6本の時計コレクション。

伝説のCal.321を搭載したオメガ スピードマスター プロフェッショナル "エド・ホワイト"。

1970年代半ばにオメガが製造した超高周波クォーツ腕時計のマリンクロノメーター。


ジョージ・ダニエルズのコーアクシャル脱進機を搭載したパテック フィリップ製懐中時計ムーブメント

コーアクシャル脱進機を搭載した17リーニュのパテック フィリップ製懐中時計ムーブメント。

 今まで見た懐中時計のムーブメントのなかで、最も興味深いもののひとつといっていいだろう。ベースムーブメントは何とパテック フィリップ製で、1980年代半ばにダニエルズ博士のコーアクシャル脱進機を同社がバージョンアップして搭載されたものだ。もちろん、パテックは最終的にコーアクシャル脱進機の開発と量産化を断念したが、最終的にオメガが成功を掴むまでの非常に長い道のりの過程に咲いた美しい作品だった(実を結ぶことはなかったが)。


コーアクシャル脱進機を搭載した初期のオメガ製プロトタイプ

 次に紹介するのは、テスト用のコーアクシャル脱進機を組み込んだETA社のプロトタイプムーブメント(ETA2892ベース)を搭載した1994年製の2本である。ロジャー・スミス氏とダニエルズ博士は、コーアクシャル脱進機の性能評価と量産化プロジェクトの一環として、これらの時計を実際に着用し、考え得る問題点を洗い出したという。


ジョージ・ダニエルズが所有した1948年製のジャガー・ルクルト マークXI

 ロジャーが我々のオフィスに持ち込んだ時計に共通するテーマは“高精度”であり、その精度が信頼性と耐久性に結びついているならば、価値がより増すことになる。このマークXIは、かつてダニエルズ博士が所有していたもので、ケースとムーブメント両方が非常に高品質な構造と飾らない雰囲気を持つため、長年にわたって愛用されたらしい。マークXIは英国国防省の要求した仕様で様々なメーカーにより製造され、そのデザインの朴訥さ、目的の完全性、高い性能が評価を得ており、非常に貴重である。


オメガ マリンクロノメーター

 オメガ マリンクロノメーターは1974年に発表された。このモデルは、オメガが超高振動数と高精度を持つクォーツ時計を開発するために、大規模な研究を実施した時期の成果であった。通常のクォーツ時計は、1秒間に3万2768振動する水晶振動子(この振動数は、1970年代にジラール・ペルゴ社が基準として初めて設定した)を内蔵しているが、この時計のために開発されたCal.1500系ムーブメントは、1秒間に235万9356振動する水晶振動子を搭載し、月差約1秒の精度を実現している。温度補正などの技術の進歩により、現在では標準的な3万2768振動で年差5~10秒のクォーツ時計も難しくなくなったが、当時は世界最先端の超高精度腕時計であった。


オメガ スピードマスター“エド・ホワイト”

  宇宙飛行士"エド・ホワイト"の愛称を冠するこのスピードマスターもまた、ロジャー氏お気に入りの1本で、やはり素晴らしい歴史を持つだけでなく、ムーブメントが備える極上の資質がこの時計を特別な存在にしている。Cal.321は、コラムホイールによって制御された水平クラッチ式クロノグラフで、ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイを備えている。ミッドセンチュリーのオメガの偉大なムーブメントの多くと同様、ロジャーが言うように、非常に信頼性が高く、時計メーカーにとってメンテナンスしやすいムーブメントで、数十年にわたり優れた性能を発揮することが可能だ。


ロレックス エクスプローラーI

 ロジャー氏の普段使いの時計はというと、驚くなかれ、この地味なロレックス エクスプローラーである。ご想像に違わず彼のような経歴と経験を持つ人物は、この種の時計を一般の人とは異なる視点から見つめている。対話のなかで彼はロレックスが精度と信頼性に関する一部の人々による熱烈な高評価に値するかどうか、彼自身の見解を述べてくれた。エクスプローラーと彼が持ち込んだ他の時計たちとの文脈から、本当に賞賛に値する時計とは何かについて彼が多くを語ってくれているのがおわかりいただけるだろう。

 そして最後にロジャー、あなたの出演を心から感謝する。ロジャー・スミスの作品及び活動については、RWSmithWatches.comをご覧いただきたい。