時計との付き合い方、8つのステージ（運がよければ9つのステージ）

　恋に落ちるように好きになった（それ以外に言葉が見当たらない）時計に狙いを定めることは、とりつかれることに似ている。腕時計に夢中になることは珍しいことではないが、それはこれから腕時計のコレクターになる人、あるいはすでにコレクターである人が、ある時点で経験する一連の8つのステージの始まりでもある。今回はバレンタインデーにちなんで、この8つのステージをご紹介しよう。

　このリストは一部の人にとって引き金になる可能性があるので、ご注意を。

　さて、あなたは理想の時計を見つけた。友人がつけていたのかもしれないし、このサイトの記事で紹介されたのかもしれない。どんなきっかけであれ、あなたのなかに何かが芽生えたのだ。でもその前に、昔ながらのインターネットを使った調査をしてみよう。Tinderのマッチングやブラインドデートを吟味するのと同じように（まだやっている？）、SNSにアクセスする必要がある。FacebookやTwitter、そしてもちろんInstagram。時計の場合、最初のふたつはおそらくアウトだ。

　そして、自分の好きな時計を実際に身につけた画像を見せてくれる、ありとあらゆるハッシュタグをInstagramで検索し始める。さらに、価格を調べるためにグーグル検索をする。まだ購入する段階ではないかもしれないし、それを検討する段階でもないかもしれないが、どんな時計なのかを知っておきたいのだ。

　この段階が短いのは疑問がなくなり、今まで以上にその時計が欲しくなる可能性が高くなるからだ。この感覚はあなたの体内で育まれ、そしてその感覚は、これを……時計を所有することでしか解消されない。

　次は、比喩的な意味でも文字通りの意味でも、本を読む番だ。静止画を見終わったなら、YouTubeで最近夢中になった時計のレビュー動画を見ることもできる。まるで自分が手にしたかのように、その時計が動いている様子を見ることができる。秒針の動き、時針と分針の動き、光の加減でどのように見えるかを確認でき、また、装着しているレビュアーから大きさもだいたいわかる。そして、この時計の豪華なサブカットを見よう。肉眼では決して体験できないマクロショットやビューポイントを、とにかく見る。これをウォッチポルノと呼ぶのは嫌だし、そう呼びたくもない……でも、ある意味では当たっている。

　動画を見たり、Instagramで写真を繰り返し見たりするのは、次のステップである「購入」に向けて準備をしているからだ。しかし、あなたはまだそこに到達していない。なぜなら、あなたは価格が気がかりで、最初のオファーに飛びつくことはないからだ。夢の時計の完璧な1本を、完璧な価格で見つける必要がある。それも完璧なパッケージで。

編集部注：オーデマ ピゲ、パテック フィリップ、ロレックスなど、一部のブランドは非常に人気があり、小売店で新品を探すよりも中古市場で探す方がいいというのはよく知られていることだ。この場合、フラストレーションや怒り、攻撃性、さらには時計に対する憎悪が生じる可能性がある。そんなときは、時計が時間を告げるツールにすぎないのだということを思い出してみよう。 または私にメールをくれてもいい。じっくり話をして時計の崖から救い出してあげよう。

　通常のプログラムに戻ろう。

　時計とのつきあいで最も刺激的なのは、やはり「HUNT＝探す」段階だろう。このとき、時計への情熱はピークに達し、手に入れるためなら何でもするようになる。多くの場合、時計のインターネットの奥深くに入り込むことになるだろう。フォーラムだ。ここでは言論が非常に荒くなることがある。生の画像、生の意見、そしてしばしば生の取引を見つけることができる場所だ。万人向けではないが、誰もが探す途中でそこに行き着くのだ。

　通常、我々全員の頭のなかでは、あるゲームが行われている。「時計を見て、それについて考え、1ヵ月以上飽きずに執着できたら、その時計が本当に好きだということ」。それが一般的に行動する準備ができたと判断する方法だ。最初のデートに誘うようなものだ。ただし選んだのが高級時計なら、ディナーは一皿3000ドルもすることになる。

　見つけた。ハンティングは成功だ。もしかしたらオンラインで注文したのかもしれないし（HODINKEEに注文したのかもしれない）、代理店やヴィンテージディーラーから直接手に入れたのかもしれない。どのようなルートであれ、あなたは今、箱に入った時計、つまりあなたの時計を手に入れたのだ。

　まるで8歳の子供が新しいアクションフィギュアを見るような気分で開封する。ワクワクしながら手首に合ったブレスレットを得ると、本当に楽しいことがスタートする。手に入れる瞬間は一度だけなので、この段階は間違いなく最も短いものだ。

　ハネムーン期間のタイミングはケースによって異なるが、その心情に変わりはない。この期間、あなたは時計を集めることを止める。ほかの時計をすべて金庫にしまっておけるような完璧な時計を買ったのだから、これが最後の買い物ということだ。

　毎日身につける時計、ベッドサイドで隣にいると夢を見続ける時計、そして腕から外してただ眺める時計。今、この時計は単なる時計ではなく、宝物だ。意味もなく写真を撮り、Instagramに投稿し、無数の人があなたと同じように楽しんでくれることを期待する（ネタバレ注意：彼らは期待を裏切る。あなたの休暇の写真に興味がないのと同じように）。

　ハネムーン期間中、この時計は絶対に売らない、この時計で自分は知られている、この時計と一緒に埋葬されたい、と自分に言い続ける。だがもちろん、家宝としても残しておきたい。この時計は永遠の愛なのだ。

　この段階については、あまり語るべきことはないだろう。魔法は消えても、使い心地は変わらない。毎日つけ続けるが（例えばブラックタイのイベントなど、もう存在しないかもしれないが）、必要な場面には時計を交換することもある。

　すべての段階のなかで、この段階が最もロボット的で精神的な負担が少ない。時計は生活の一部であり、何も考えず、ただ身につけるだけだ。愛着は完全に根付いている。しかし最初の輝きは失われ、その先には危険が潜んでいるのだ。

　ある日、いつもと同じように目を覚ますと何かが変わっている。枕元の同じ時計に目を落とすと突然、手に取りたくなくなるのだ。それどころか、あなたのなかの何かが、この時計の前につけていた時計（場合によっては、より広いコレクションのほかの時計）を恋しく思うのだ。もし、あなたがまだその前の古い時計を持っているなら、今朝、あなたはそれを手にすることになる。いつもと同じものに飽きたあなたは手首に変化を求めているのだ。

　しかし、あなたはそれを快く思っていない。あなたは新しい時計をつけたい。悩んだもの、それを買うためにお金を貯めたものを。ほかのものを身につけたいということに罪悪感もある。場合によっては、感情を深く押し殺して、新しい時計をつけ続けることになる。

　でも、いつかはできなくなる。ある時点にくると、ほかのものを身につけるか、ほかのところに目を向けることになるのだ。

　街を歩く、通勤する、買い物をする、そんな日常のなかで、時計を購入する前とは違う感覚で手首を見つめている自分に気づく。

　あなたは再び時計のコンテンツに渇望し始める。本当にインパクトのあるものが欲しくなる。もしかしたら、お気に入りのブランドの新作が控えているかもしれない？　何か話題になっていないか、噂になっていないか、掲示板を覗くようになる。あなたの胸には時計サイズの穴が開いていて、今の時計ではもう埋められないのだ。

　以前のような感覚が、夢中になれるものが欲しい。無理矢理にでも求め始めるのだ。

　必ずと言っていいほど、別の時計が目に留まる。それは次なる大物であり、新たな憧れでもある。どうであれ、その時計があなたの人生に入り込む余地はあるはずだ。

　この段階では、あなたの状況に応じていくつかの方法がある。例えば、次の時計を見つけ、ステージ1と2を無事に終え、購入の準備が整ったものの、資金を用意しなければならないとする。その場合、時計を通貨として使用することもある。つまり売却するか、交換するかのどちらかだ。いずれにせよ、かつて真剣に想いを馳せた時計との別れが待っている。どんなに思いが薄れても、別れは簡単ではない……新しい時計を手に入れるまでは。

　あなたが新しい購入資金を得るために時計を売る必要がない場合は、少し複雑だ。新しい時計はあなたがまだ元カノと一緒に住んでいるのを見るわけだ。あなたは元の時計を金庫やボックスに配置する。新しい時計とハネムーン期を過ごすあいだ、元の時計はそこに座っているだろう。

　しかし、多くの時計所有者は別れをあまり大げさに扱わないようにしている。「友人であり続ける」という道を本当に実践できるのだ。多くのコレクターは、これを「コレクション」と呼んでいる。新たに購入するたびにステージを踏んでいくが、そのほかの時計とは友人として付き合い、ローテーションで身につけるのだ。

　このガイドがすべての人に当てはまるわけではない。そもそも何が自分に当てはまるのだろうか。まれに、たったひとつの時計を見つけたり、贈られたりすることがある。その時計は最初からあなたにぴったりで、二度とほかの時計を探すことはない。そして、あなたは「ワンウォッチガイ」「ワンウォッチガール」として知られ、ほかの時計に夢中な人たちから嫉妬の目で見られるようになる。私はただ、よかったね、としか言いようがない。

　我々はこの8つのステージを延々と続けていくわけだが、あなたには素敵なウォッチライフを歩んでもらいたいと願っている。

All photos, Kasia Milton