ロレックス エクスプローラーは、3針というシンプルさと、さりげなく身につけられるサイズ感で、王冠を冠したブランドのどのスポーツウォッチよりも、ツールウォッチとドレスウォッチをわける境界線に近い存在である。そして、悪条件下での視認性や風雨にさらされることを前提に作られた、最もわかりやすいロレックスでもあるのだ。
ヒマラヤ登頂のために誕生したエクスプローラーは、サブマリーナーやターノグラフと同じ1953年に登場した。この年は、ロレックスにとっても、時計業界全般にとっても、重要な年であったと言っていい。この年、ロレックスが将来的に目指すべき時計会社、現在のスポーツウォッチのジャンル、そしてロレックスを頂点とする時計収集のピラミッドを形成したのだ。
1953年は、ロレックスによるエクスプローラーの発表と、69年後の現在もイギリスに君臨する女王、エリザベス2世の戴冠式の年と重なる。
当時のロレックスの広告では、この歴史的な慶事にエクスプローラーを結びつけながらも、どんな環境でも使用可能とするため、この新しい時計に“北極”仕様の潤滑油を使用していることを紹介している。「ロレックス "エクスプローラー "は、水深300ft(100m)の水中でも完璧に機能し、高度12マイル(1万9300m)でも機能する」さらに広告では、ウラン鉱山や原子力発電所での作業にも耐えられることをアピールしている。
リファレンス・ポイントの記事と動画のために広告の写真を提供してくれたAd Patinaに感謝申し上げたい。
エクスプローラーは、多くの人が理想とする “1本だけ選ぶとしたら、これだ”を体現した時計だ。その単純明快さとクラシックなデザインは、遠くの山頂だけでなく、どこにでも連れて行くことを可能とした。特にRef.1016は、1960年から1989年までの29年間に渡って製造された、ヴィンテージの殿堂入りモデルだ。控えめな36mm径のケース、ノンデイトのシンプルさ、ミラーダイヤルであれマットであれ、鮮明なブラックダイヤルは、人を引きつけるスポーツロレックスであり、いわゆる非合理な熱狂の対極にあるロレックスでもある。まさに、知る人ぞ知るロレックスだ。
オークションでは、状態がまずまずなエクスプローラーがそれなりの金額で取引されるが、サブマリーナーやデイトナほど高騰することはない。実際、エクスプローラーのオークションでの記録をネットで検索すると、3-6-9の文字盤を持つエクスプローラーダイヤルのサブマリーナーの検索結果の方が多く出てくるくらいだ。エクスプローラーは、69年前に発売されたロレックスのプロフェッショナルモデルとしては、地味な時計である。しかし、イアン・フレミングが愛用していたロレックスであり、ジェームズ・ボンドが身につけるものとして彼が検討していたであろう時計でもある。
今日、エクスプローラーは、現代のロレックスのスポーツウォッチのラインナップでは異端児のような存在だ。そのコンパクトなサイズは、2010年にRef.214270で一時的に39mmに拡大されたような回り道を経ながらも、誕生当時のミッドセンチュリーデザインを踏襲している。それ以来、エクスプローラーは36mmのサイズに戻ったが、ツートンカラーのケースとブレスレットという予想外の変化球もコレクターに与えられた。ロレックスのプロフェッショナルモデルのなかで、最も小さく、シンプルで、一貫性のあるエクスプローラーは、我々を驚かせるために存在しているわけではないだろうが、思いがけずそれが実現したときの効果は絶大だ。
この記事では、可能な限り克明に各リファレンスの製造年月日を記載した。しかし、裏蓋の内側に記載されている数字が、ケース製造時期を示していることを理解することが重要だ。多くの場合、時計は1年後まで組み立てられず、その後、何年も経ってから販売されることもあったからだ。70年代半ば、ロレックスは時計の裏蓋にケース製造日付を記載することをやめた。ラグのあいだに記載されているシリアルナンバーが、製造時期を知る最良の方法だが、これは科学的というには不正確な方法でもある。
エクスプローラーの起源
時計愛好家のあいだでは言わずと知れたロレックス エクスプローラーだが、その誕生秘話もまた然りである。1953年5月下旬、テンジン・ノルゲイとエドモンド・ヒラリーはアルピニストとして初めて世界最高峰を制覇し、瞬く間に歴史に名を刻むことになった。彼らが遠征の際に携行したのが下の写真のロレックス クロノメーターで、今日ではプレ・エクスプローラーと呼ばれており、何世代も続くチューリッヒの時計店の地下にあるベイヤー時計博物館に展示されている。チケットを購入すれば、実際に見ることができる。
我々は、航空業界、ダイビング、軍官給品、芸術など、長年にわたるロレックスのコラボレーションを観察してきたが、そこにはマーケッターとしての巧みな手腕、先駆者たることや、史上初の栄誉を好む企業文化、そして偉大な人々が偉業を成し遂げたときに、タイミングよく居合わせる強運さがよくわかる。ロレックスは、ヒラリーとノルゲイの歴史的登頂をサポートすることで、世界で最も過酷な環境にも全幅の信頼を寄せることができる時計のメーカーとしての地位を確立した。そして、そのまた次に登場する時計に対しても入念な準備をしていた。その年の1月、ロレックスはエクスプローラーの名称を商標登録した。
さて、ヒラリーとノルゲイは確かにロレックスの時計を着用していたが、英国ブランド“スミス”の時計も着用していたことも忘れてはならない。この2ブランドは、エベレスト登頂のために重複してスポンサーとなっていたのである。アウトドアジャーナル誌の記事によると、当時の証拠をもとに、山頂まで登ったのはロレックスではなくスミス社の時計だったと結論づけている。ロレックスが登頂したかどうかは別にして、この遠征との関連性を最もマーケティングに活かしたのがロレックス社とエクスプローラーというモデルであったことに異論はあるまい。
ノルゲイとヒラリーの遠征と同じ年に発表されたRef.6350は、すべてのモデルのダイヤルにエクスプローラーの名を冠した初の時計である。その前身であるRef.6150は、EXPLORERではなく、Precisionと表記されていることが多く、プレ・エクスプローラーと呼ばれてもいる。しかし、今回のリファレンス・ポイント特集では、運よくRef.6150版エクスプローラーを入手できたので(上の動画のなかでも、時計ディーラーであり専門家のエリック・ウィンド氏に紹介されている)、世界で最も有名な、万能時計の歴史を解き明かしてみようと思う。
Ref.6150 (1952年-1953年頃の製造)
Ref.6150は、多くのコレクターが初代エクスプローラーだと主張するRef.6350の1世代前のモデルである。このモデルには、のちにエクスプローラーを代表する特徴が、すでにいくつか現れている。1952年から1953年にかけて製造されたRef.6150は、ノルゲイとヒラリーの探検に使用されたモデルと同じムーブメントCal.A296を搭載し、36mm径ケースは、20世紀中と21世紀の多くの期間、そして現行のエクスプローラーに至るまで共通する仕様だ。のちにエクスプローラーダイヤルと呼ばれるようになった3-6-9のレイアウトを採用しているが、6時位置上に“Explorer”表記があるのは一部のモデルだけだ。それ以外の大半は "Precision "と表記されている。ここでご紹介するのは前者で、通常より長い時針を備えているのが特徴だ。ダイヤルにOCC(Officially Certified Chronometer)表記がない。これは、この時計がクロノメーター認定を取得していないためで、他のエクスプローラーとは大きく異なる点だ。クロノメーター認定ではないこと、そしてこのリファレンスが必ずしもダイヤルにエクスプローラー表記があるわけではないことからも、コレクターのなかではRef.6150を真のエクスプローラーとみなさないという意見もある。
Ref.6350(1953年~1955年頃の製造)
Ref.6150の1世代後に登場したのが、誰もがエクスプローラーと認め、初代エクスプローラーIとも言われるRef.6350だ。このモデルは、ワッフルダイヤルと呼ばれる、表面にハニカム模様のダイヤルを採用している。ワッフルダイヤルは、この時代の他のロレックスモデルにも見られるが、Ref.6350はエクスプローラーで唯一このダイヤルを採用している。このモデルにはペンシル型針が付いているが、Ref.6350にはメルセデス時針が付いたモデルもあり、さらに分針が注射針型になっているモデルもある。大半は、裏蓋の内側に1953年に製造されたことを示すシリアル番号が記載されているが、実際には数年後に組み立てられたようだ。
Ref.6350はクロノメーター公式認定を受けており、1世代前のモデルであるRef.6150との差別化が図られた。ロレックス エクスプローラーといえば、まさにクロノメーターのことが話題に挙がるほどだ。そもそもエクスプローラーには複雑機構はなく、派手な装飾もない。去年までは、ステンレススティール仕様しかなかった。ロレックスのプロフェッショナルモデルの中でも最もベーシックなモデルであり、正確で高い視認性こそがこのモデルの強みなのだ。
今回ご紹介する時計の数々は、ほとんどがクロノメーター仕様だ。最初のグループは公式認定クロノメーター仕様で、初代Ref.1016になると公式認定高精度クロノメーターとなる。この他にもいくつかの非クロノメーターモデルを紹介するが、こちらは厳密にはエクスプローラーではない。詳しくは以下を読み進めて欲しい。
Ref.6610(1955年~1959年頃の製造)
1955年から1959年にかけて製造されたのが、Ref.6610だ。これは、次にロレックスの時計の中で最も長い歴史を持つリファレンス、Ref.1016に引き継がれることになるエクスプローラーのモデルだ。このRef.6610は、Ref.1016よりも製造期間が短く希少価値が高いのだが、今回4本の特別な個体を紹介したい。それぞれの時計の6時上のテキストが、その1世代前のRef.6350のOCCと同じく“Officially Certified Chronometer”と表記されていることに気づくだろう。
エクスプローラー初期のRef.6610には、ダイヤル上半分のExplorer表記のすぐ下に、非常に淡い赤文字で防水表示(50m=165ft)が表記されている個体が存在する。これは、GMTマスター Ref.6542やデイトジャスト、その他のロレックスのスポーツウォッチに見られる様式でもある。ダイバーズウォッチ市販開始につじつまを合わせるかのように、マーケティングの一環としてRef.6542やデイトジャスト、それに34mmオイスターパーペチュアルまで防水性能を表記するようになったのだ。
次にご紹介するのは、エクスプローラーのバリエーションのなかで最も希少価値の高いRef.6610の針までホワイトの個体、つまり“アルビノ”だ。この時代にはサブマリーナーに加え、GMTマスターのRef.6542にもアルビノダイヤルが存在した。その後、アルビノのRef.1016が市場に登場した。なお、このアルビノRef.6610は1957年製である。
そろそろRef.6610のモデル末期に近づいてきた。エクスプローラーは伝統的に暗所での視認性の確保を重視しており、ここでは1957年に製造されたサブマリーナーのロリポップ秒針に似た、大きなホワイト夜光秒針が確認できる。
最後にご紹介するのは、Ref.6610の最終モデルで、ロリポップ秒針の夜光が先代よりも小さくなっている。このバージョンでは、希少な“ビッグロゴ”ブレスレットが採用されている。
ロレックス エクスプローラー Ref.1016(1960年~1989年頃の製造)
Ref.6610の生産終了後に現れたのが、エクスプローラーと聞いてヴィンテージファンなら誰でも思い浮かべること間違いなしの、愛すべきRef.1016だ。
Ref.1016では、ダイヤルに“Superlative Chronometer Officially Certified”表記が導入され、Cal.1030からマイクロステラナットで歩度調整可能な新ムーブメントCal.1560へと移行を果たした。その後、60年代半ばになると、ロレックスは1万8000振動/時のCal.1560から、1万9800振動/時にハイビート化したCal.1570にアップグレードした。1970年代初頭、ロレックスはこのムーブメントにハック(秒針停止)機能を追加し、1989年に生産が終了するまでRef.1016をラインナップに留め続けた。
コレクターのアンドリュー・ハンテル博士が完璧かつ的確なネーミングである彼のウェブサイトExplorer1016.comに掲載するこのリファレンスに関する詳細な調査に、この場を借りて感謝申し上げたい。
それでは、ファンに愛されてきたこのリファレンスの長い歴史を振り返ったあと、著名なコレクターの方々に、ロレックス エクスプローラー Ref.1016を愛する理由を語っていただくのでお楽しみに。
ミラーダイヤル(1960年~1967年頃の製造)
これまで見てきたブラックダイヤルは、高価なメッキ加工を使用して、艶のある漆黒の表面にくっきりとした金色文字を浮かび上がらせるものだった。ミラーダイヤルは、文字やマーカーをマスキングしたのち、黒い塗料をダイヤルに塗布する。それからラッカーを吹いて光沢を出すのだが、1957年以降に製造された個体で現在までその姿を保っているのはこれらのダイヤルである。1957年より前は、すべてというわけではないが、光沢さがやや劣るフラットな外観のブラックダイヤルが大半であった。本記事では、Ref.1016のミラーダイヤルを始祖として、その後のマットダイヤルへの変遷に至るまで、この長寿モデルを探求する。ここでは、Ref.1016の派生モデルを区別するために便宜上ミラーダイヤルを“タイプ”、マットダイヤルを“マーク”と呼称する。ただし、動画でも触れられているように、俗に“マーク”はミラーダイヤルを指す場合にも使われるので必ずしも厳密でない点に注意が必要だ。
初期のRef.1016には、Ref.6610に見られるOCCの文字が残されているものがわずかに存在するが(これらはRef.1016のミラーダイヤル タイプ0と呼ばれる)、その後すぐに、こちらの個体のように、ロレックス社が開発したマイクロステラナットによる歩度調整機能付きのCal.1560ムーブメントに移行したことを示す、“Superlative Chronometer Officially Certified”表記のある個体が登場した。Ref.6610の特徴であるダイヤル外周のチャプターリングは健在で、ダイヤル最下部を見るとSwiss表記があるが、エクスクラメーション・ポイント(!)やアンダーラインはない。英作家イアン・フレミングが身につけていたのは、初期のミラーダイヤルのRef.1016で、裏蓋内側に1960年製と記されていた。デル・ディートン(Dell Deaton)氏の調査によると、ジェームズ・ボンドの小説のなかで言及されたモデルのようなので(訳注:『女王陛下の007』でボンドが夜光の入ったアラビア数字を読むくだりがある)、オリジナルのボンドウォッチと言えるだろう。これはRef.1016のミラーダイヤル タイプ1と認識されている。
ここで、6時位置の数字の真下にある小さな夜光のドットに「エクスクラメーション・ポイント(感嘆符の下のドット)」を付けたRef.1016を紹介しよう。このダイヤルは、エクスプローラー以外のモデルにも見られる特徴で、この頃のサブマリーナーやGMTマスターにも採用されている。このダイヤルのもうひとつの特徴は、ノッポのロレックス王冠で、これはエクスクラメーション・ポイント付きのミラーダイヤル タイプ3として知られている。
この時計の元オーナーは地図製作者であり、英国工兵隊の一員であった。世界各地の測量旅行で30ヵ国以上を見て回ったそうだ。世界最北の地(カナダ最北端、ヌナブト準州アラート)に滞在中、砕氷船の船体にぶつけ左サイドに凹みができたという。
この時計には、エクスクラメーション・ポイントとアンダーラインのふたつのマークが付いている。これらは、夜光塗料に含まれる放射性物質が抑制されていることを示している。このふたつの特徴の組み合わせは、GMTマスターやサブマリーナーではなく、エクスプローラーRef.1016の数少ない個体にしか見られないものだ。このモデルはメキシコで発見されたものなので、日光による経年変化が見られる。初期のモデルと同様、チャプターリングが秒/分のトラックを囲んでいる。これはミラーダイヤル タイプ2にエクスクラメーション・ポイントとアンダーラインが入っている個体である。
同じく1963年製で、前2世代と非常に近いシリアルナンバーを持つこのバージョンは、ミラーダイヤルとチャプターリングの組合せに終止符を打ったモデルだ。SCOC表記の下にアンダーラインが入っているだけである。このマークは、夜光塗料がトリチウムであることを示すものだ。これはミラーダイヤル タイプ2のアンダーラインとして知られている。
本記事で初めて扱うオープンチャプターダイヤルには、秒・分のハッシュマークを囲む円がない。Ref.1016のミラーダイヤルの時代も終焉に近づいたところで、ミラーダイヤル タイプ5が登場した。このタイプ5の書体は手書きに近いスタイルなので、以前はリダン品ではないかと噂された。また、オープンチャプターの最初のモデルであるシリアル番号範囲が若いタイプ4も存在する。
こちらが艶を保ったブラックミラーダイヤル タイプ4だ。この個体は金色針が美しく映えている。タイプ4ダイヤルは、1963~1964年頃に製造されたケースを中心に、かなり短い期間製造された。Explorer1016.comによると、このタイプには2種類の派生版が存在する。初期の個体は下部の “SWISS” 表記にアンダーラインが入るものが多い。後期の個体は、画像のようにアンダーラインなしの“SWISS -T<25”表記が多い。タイプ4の見分け方は、ミラーダイヤルで、かつチャプターリングがないダイヤルである。したがって、タイプ4を探すには、まずチャプターリングがないミラーダイヤルを見つけよう。6時の位置にSWISSと書かれていれば、タイプ4初期だ。また、ハッシュマークの下の部分にT<25表記があれば、タイプ4後期であることがわかる。
このモデルはジェットブラック(漆黒)が太陽光と高熱に晒され、表情豊かなダークブラウンに経年変化したタイプ6のダークトロピカルダイヤルである。タイプ6の見分け方は、ミラーダイヤルにチャプターリングがないこと。また、ロレックスの "E "の飾り線が傾斜している点に注目して欲しい。T<25表記は、6時位置のミニッツトラックの上部に置き換えられている。
ミラーダイヤルのRef.1016を締めくくるのは、恐らくダイヤルがルワンダの直射日光に晒されたことによってライトブラウンに変色した、完全トロピカルのタイプ6の個体だ。
マットダイヤル
1966~1967年頃、Ref.1016はミラーダイヤルからマットダイヤルへと移行。マットダイヤルは、ロレックスがエクスプローラーで目指していたスポーツウォッチの美学にマッチした質感を持っている。また、ミラーダイヤルのような手の込んだメッキではなく、はるかにシンプルな製法で作られており、コストも抑えられたという。このマットダイヤルのRef.1016は、1989年に新型機であるRef.14270が登場するまでの20年以上のあいだ、進化を遂げてきた。
マーク1のダイヤルは、ロレックスの王冠マークがある動物の網状の指に似ていることから、コレクターの間で“フロッグフット(カエルの足)”と呼ばれている。すべてのマーク1には12時位置に両生類のようなロゴが共通するが、主に3、6、9の夜光数字インデックスの形状で派生型が分類される。まずは、ふっくらとした夜光インデックスを持つのがこのモデルだ。
先ほどのモデルと製造番号が近い、別のマーク1の個体。このモデルは数字が少し平らで、幅広だ。
この時計は、1969年に開催されたロデオのイベント、カルガリー・スタンピードで、カウボーイのゲイリー・レフューがブルライディング競技で優勝した際に贈られた実物だ。彼の勝利を記念して、ロレックスはこの時計を大々的に取り上げた広告まで出した。その数年後、レフューはエクスプローラーを競技会場のギアバッグに入れたままにしていたところ、雄牛に踏まれて風防が割れてしまったという。最近になって交換されるまで、長いあいだそのままの状態であったという。
広告に掲載された実物のロレックスが私たちのオフィスに来たのは初めてなのはもちろん、牛に襲われて生き残ったのは、私が手に取ったなかではこの時計だけだ。
3本目であり最終型のマーク1は、初期のマーク1のような太い夜光ではなく、細い夜光が採用された。この最終型の数字インデックスの完成をもって、Ref.1016は初期のマットダイヤルに見られた膨らんだ数字インデックスではなく、将来にわたって引き継がれる均整のとれた外観に落ち着くことになったことが見て取れる。マーク1はマットダイヤルの最初のモデルだが、のちの世代にも見られることがある。しかし、それらがオリジナルかどうかは不明だ。なお、この時計には1972年製造のシリアルナンバーが刻印される。
マーク1の製造期間は長く、1967~1974年に製造された個体に見られるが、それよりもあとのモデルでは1978年製造のケースと組み合わされた個体もある。もっとも、それらがオリジナルかどうかは不明だが、Ref.1016は製造期間中に様々なダイヤルバリエーションが現れては消えていくという、やや行き当たりばったりのモデルであったことが窺える。
Ref.1016マーク2 は、1969年のごく限られた期間だけ生産されたモデルである。短命に終わったマーク2は、王冠マークがより均整の取れた左右対称なデザインになっており、後期のミラーダイヤルの個体を彷彿とさせる。また、このモデルはT<25表記がミニッツトラックの下ではなく、上にあるのが他のマットダイヤルとの決定的な違いだ。マーク2を見分けるもうひとつの方法は、ROLEXの“E”の上下の飾り線を注意深く観察することである。飾り線が外側に向かって斜めにスロープを描いているのが特徴だからだ。かつて、マーク2はオリジナルではなくリダンダイヤルではないかという憶測が流れたこともあったが、コレクターのあいだでは、ロレックスがオリジナルで製作したもので、製造期間は極めて短かったという結論が出ている。この時計に見覚えがあるとしたら、2018年のフレッド・サベージ氏とのTalking Watchesで紹介されていたからだろう。
マットダイヤル マーク3のステージは2幕に分かれている。最初は1974年から1976年頃に製造された個体だ。その後、1984年頃に再び登場し、1989年にRef.1016の生産が終了するまで続いた。これらのダイヤルの書体とマークはどちらも同じ仕様だが、初期の生産ロットの古い個体は、高年式の個体よりも夜光が黄色い傾向があり、後者の白さとは対照的だ。Explorer1016.comによると、マーク3のダイヤルを見分ける最も簡単な方法は、マーク1(“フロッグフット”王冠マーク)、マーク2(傾斜した“E”の飾り線)、マーク4(ノッポの王冠)、マーク5のマットダイヤル(エクスプローラーの“E”)を見分けることができる“判別ポイント”がないことである。
エリックは、今回のリファレンス・ポイントに、特別なマットダイヤル マーク4を持ってきてくれた。この時計は、アメリカの園芸家、慈善家、美術品収集家であるバニー・メロン氏が、あるディナーパーティーのために他の7本のエクスプローラーと共に購入したものだ。8人のゲストには、ダイヤルにティファニーの刻印が入ったロレックス エクスプローラーRef.1016が贈られ、そのうち6本の裏蓋には彼女のイニシャルである "R.L.M."(フルネームのレイチェル・ランバート・メロン)が刻印され、刻印のないものが2本あったそうだ。パーティーが中止になったのは、参加するゲストが取り組んでいた最終プロジェクトに彼女が不満を持っていたためとも囁かれたが、この時計は引き出しのなかに保管され、彼女が亡くなったあとの2014年11月21日にサザビーズでメロン家の遺品が公開されたときに初めて姿を現したと言われている。ティファニーの刻印が入った8本のヴィンテージ エクスプローラーは、1本を除きすべて2万ドル以下で落札された。7年ちょっと前のことだが、価格の手頃さからすると一生分の時間が経ったようにも感じられる。サザビーズでは、メロン邸オークションの一環として、他にもティファニーの刻印が入ったロレックスのモデルを数本販売した。
マットダイヤル マーク4は、他のマットダイヤルのエクスプローラーと比べて、やや誇張された細長い王冠マークが特徴だ。Explorer1016.comでは、コレクターのアンドリュー・ハンテル氏が、このモデルを“Gumby(間抜け)”と呼んでいるのも納得だ。彼は、マーク4のRef.1016をシリアルナンバー400~600万と見積もっており、1989年のL品番にも含まれるとしている。
Ref.1016の最終バージョンであるマーク5は、実はRef.1016の最後のダイヤル構成ではない。実際には、その栄誉はL品番のマーク3に与えられる。マーク5は、1981~1987年のあいだに製造されたモデルが対象だ。マーク5の “EXPLORER”表記は、Eの中央の線が上下非対称であることが特徴だ。いずれの“E”も上部のバー寄りに位置しているのだ。
エクスプローラー風モデルの数々
ここで少し脇道に逸れるが、エクスプローラーをテーマにしたロレックスの時計を年代順に4本紹介しよう。ロレックスは長年にわたり、伝統的にエクスプローラーとはみなされていないリファレンスのなかに、エクスプローラーを模したモデルや、その精神を取り入れたモデルを製造してきた。以下の1本は、ダイヤル以外はすべてエクスプローラーRef.1016とまったく同じだが、他の3本は完全に別物だ。
まず、ダイヤルにエクスプローラーと表記されるロレックスのモデルは他にもいろいろあるが、それらは1950年代前半に作られたものが多く、当時のロレックスはエクスプローラーのポジションを明確に決めていなかったようだ。また、エクスプローラーIの標準的なデザインを踏襲していないモデル(1960年代の無名のエクスプローラー・デイト Ref.5700など)もあり、これらは特筆すべき点である。
まずは、Ref.5500 エクスプローラーを紹介しよう。一見すると、60年代半ばのRef.1016のようなヴィンテージ エクスプローラーを思わせる。3-6-9のミラーダイヤルに、Rolex/Oyster Perpetual/Explorerの3行表記、メルセデス時針とロリポップ秒針である。しかし、このモデルはひと回り小さい34mm径なのだ。また、クロノメーター認定はないため、ダイヤル下半分にPrecision表記が入る。
エクスプローラーのバリエーションのなかでも特に偽物が多いのが、エアキング Ref.5500のケースを流用する手口だ。エクスプローラーの偽ダイヤルをケースに入れるだけで、より希少価値の高いモデルのように装うことができるからだ。
動画のなかでエリックは、34mmのエクスプローラーを所有する人や購入したい人から、本物かどうか気になるというメッセージをよく受け取ると話していた。その際には、悪い知らせを伝えなければならないことが多いそうだ。本物はどんなものかというと、こんな感じだ。我々が紹介しているのは、1966~67年頃の製造で、美しい金文字の光沢のあるダイヤルを持つ個体である。
GMTマスター Ref.1675のブルーベリーベゼルインサートのように、ロレックスのスペースドゥエラーには多くの伝説がある。それは、エクスプローラーの名を完全に排除した、幻想的なダイヤルを持つ別世界のエクスプローラー風派生モデルだ。
スペースドゥエラーは、ミラーダイヤルに銀色文字で“SPACE-DWELLER”表記が入る他は、すべてロレックス エクスプローラーRef.1016と同じである。スペースドゥエラーについてはあまり知られていないが、1960年代にアメリカの宇宙飛行士が到着したことを記念して日本市場で発売されたという話がある。スペースドゥエラーのシリアルにはいくつかのバリエーションがあり、分針が長かったり短かったりする個体もある。
2008年にサザビーズのオークションで4つの文字盤が落札され、そのうちの1つがこの時計に採用された。
ロレックスがスペースドゥエラーを商標登録したのは1968年であり、最初に使用されたのは1967年である。ロレックスは1966年にスイスでこの商標を出願している。Watchistryによると、彼が知る限りスペースドゥエラーのケース番号は、1963年と1968年のものだという。商標登録申請の時期を考慮すると、1963年製のケースにスペースドゥエラーのダイヤルを搭載する整合性には疑問が残る。
おそらくだが、アバクロンビー&フィッチと20世紀半ばのスイス時計産業の関わりについては、ホイヤーが頭に浮かぶことだろう。ホイヤーは、伝説的なアウトドア用品店であるアバクロンビー&フィッチで販売されていた、同ブランドの時計を数多くOEM製造していたからである。当時は、彼らが郊外のショッピングモールでコロンの香りに引き寄せられた10代の若者に、グラフィックTシャツを売ることに軸足を移す前の時代だった。
実はロレックスもアバクロンビーを通じて時計を販売していた。ここに掲載されているのはロレックス コマンドーと呼ばれる、ミラーダイヤルにトリチウム夜光塗料の34mm径の手巻きモデルである。メルセデス針の代わりに角型の針が使われているのが特徴だ。ここで紹介するのは1969年製の個体だ。ロレックス コマンドーは当時、100ドル以下で販売されており、当時のロレックスのオイスターシリーズでは最も安価であったと言われている。遊び心に溢れ求め易いこのレファレンス。現代のコレクターたちは、この神話的な時計が大好きなようだ。このモデルは、Ref.6426/6429にダイヤルを差し替えた偽物が出回っているので、購入の際には注意が必要だ。
Ref.6429には、ダイヤルにコマンドー表記がない。代わりに、“Rolex Oyster”とだけ書かれている。興味深いのは、前作のロレックス コマンドーが市民権を得たモデルだということ。アバクロがその時計を販売するのと同時に、米軍基地ではまったく同じリファレンスにステルス的な雰囲気を与え、ダイヤルのコマンドーを廃したもう少し地味なバージョンを販売したとされる。このモデルは、1969年頃に製造されたもので、コマンドーのバリエーションに近いシリアルナンバーを持つ。
Ref.14270
1989年までモデルを牽引し、永遠にラインナップに残るだろうと思われたRef.1016でさえ、よいことには必ず終わりが訪れる真理とは無縁ではなかった。デザイン面でRef.14270は、現代のエクスプローラーに分類される。アプライドインデックスがエクスプローラーの歴史上初めて3-6-9の重要な位置に採用され、Ref.1016のマットダイヤルに代わり光沢のあるブラックダイヤルが採用された。また、新しい自動巻きムーブメントCal.3000に刷新され、ロレックス社製ムーブメントの標準的な2万8800振動/時という現代的な振動数で時を刻む。サイズは他のスポーツロレックスよりも小さい、直径36mmに留まった。Ref.14270には、エクスプローラーのDNAを守りながらも、新時代の現代的な基準に合わせる必要があるという思いが込められているのである。
最もコレクターのファンが多い初代のブラックアウトから、ルミノバ夜光塗料を使用したインデックスが特徴のスイスオンリーまでRef.14270の代表的なモデルを4本紹介しよう。Ref.14270には“Swiss Made”表記の最終バージョンが存在するため、外見上は次世代のRef.114270と同じ特徴を備えていた。
殿堂入りのロレックスのなかでも最も熱心にコレクションの対象となる時計のひとつ、Ref.1016を継承することはRef.14270にとって容易ではなかったようだ。私の同僚のダニー・ミルトンが言ったように、このモデルは、“腕時計の地獄に嵌ってしまっている‐ヴィンテージというほど古くもなく、クールというほど新しくもない”からだ。とはいえ、Ref.14270は長く愛されてきた興味深いモデルであり、バリエーションも豊富で、細かな変化を特徴としているため、読み解く価値は十分にある。特に、次に紹介するブラックアウトを除けばどんなRef.1016よりも遥かに入手しやすい点に注目だ。本記事と動画ご覧になったあと、このリファレンスについて深堀りしたいと思われた方は、Ref.14270に関するダニーの記事をご覧いただきたい。
このリファレンスの数字のアプライドマーカーは、エアキングやその他の小径モデルのエクスプローラー風ダイヤルにも採用されている。
初代Ref.14270は、Ref.1016が引退したあとのエクスプローラー後継モデルとして発売された。初期のエクスプローラーを象徴する36mm径と3-6-9のインデックスは健在だ。しかし、Ref.1016の数字はペイントで描かれていたが、Ref.14270では高級仕様のアプライドされたバーインデックスと数字マーカーが採用されている。Ref.14270は、ラグジュアリーなツールウォッチであることを恥じることなく、独特のモダンテイストを加えている。ブラックアウトの名前の由来は、アプライドマーカーに着色されたブラックラッカーで、ダイヤルにステルスな雰囲気を醸し出している(各マーカーには夜光が使用されているものの)。エクスプローラーは当初から、どこにでも連れて行くことのできるツールウォッチとして認知されていたが、このモデルは洗練されたスタイルのために暗所での視認性を犠牲にしたデザインになった。そのため、異端児のような存在となっている。また、コレクション性も非常に高く、今回ご紹介するRef.14270の他のモデルよりもはるかに高額だ。ブラックアウトはロレックスのなかでも非常に希少なモデルで、E品番後期とX品番前期のシリアルナンバーでのみ見られ、製造期間は1989~1991年だ。
ブラックアウトの直後に登場したのが、Ref.14270のなかでも最も長い歴史を持つ“T-Swiss”だ。最後期のU品番の一部を除いて、T-Swissはそのニックネームが示すように、針とインデックスにトリチウム夜光が充填されている。T-Swissは、Ref.14270と広い意味で同様に、過渡期の存在と言えよう。また、他のRef.14270と同様に、T-Swissはサファイアクリスタル風防を採用し、ムーブメントは引き続きCal.3000だが、製造当初の3年間だけはバネ棒用の完全な貫通ラグが採用されていた。1994年からは、プレーン、つまり穴の塞がったラグが主流となった。Ref.14270は、ロレックスが現在のようなモダンな時計メーカーになるまでの過渡期を表したリファレンスなのである。
1994年以降、ラグはプレーンなタイプが主流となり、ヴィンテージ時代のデザイン要素に代わって現代的な特徴に置き換えられた。Ref.14270は、ロレックスが現在のような現代的な時計メーカーになるまでの過程を示すリファレンスである。以降、すべてのRef.14270は、そしてあらゆるエクスプローラーは、ラグに貫通穴が開いていないことが特徴である。
Ref.14270の最後から2番目のバリエーションであるSwiss Onlyは、90年代の終わりに短期間だけ製造されたモデルだ。現在では、光応答性のルミノバが主流となっているが、このモデルでトリチウムが廃止されたことで、ヴィンテージウォッチとのわずかな絆もこれで失われた。Swiss Onlyは、後期T-Swissと同様、ラグがプレーン(側面の穴が塞がれた状態)になっている。
Swiss Onlyのあと、Ref.14270の最後の2年間(1999年~2001年頃)には、それに続くSwiss Madeが登場する。このモデルには夜光にスーパールミノバが使用されているが、これはエクスプローラーの次の世代のモデル、Ref.114270にも使用されている。
Ref.114270(2001年~2010年頃の製造)
1世代前のRef.14270と同様、夜光塗料にスーパールミノバを採用している。ケースサイズは36mm径で、6時位置にはSwiss Madeの文字。このモデルの特徴は、Cal.3130にアップグレードされたムーブメントとスティール無垢のエンドリンクを採用していることだ。これはロレックスではその時々で見られる手法である。徐々に変化させるがゆえに、新しい時計のなかで唯一のアップグレードが、鉄のカーテンの後ろに隠れてしまうこともあるのだ。
Ref.114270は10年近く続いたモデルで、Ref.14270よりも改良する余地がなかったため、ロレックスはしばらくエクスプローラーに手を加えないことにしたようだ。しかし、約21年間に渡るエクスプローラーの一貫したデザインと、57年間に渡る36mm径ケースに固執してきたが、事態は変化しようとしていた。それも非常に大きな変化である。
Ref.214270
2010年、ロレックスは予想外の動きを見せた。ツールウォッチの堅牢性とドレスウォッチ的なサイズ感を両立するのに最適な36mm径という、最もシンプルで控えめなステンレススティール製のスポーツウォッチとして50年超の歴史を有するロレックス エクスプローラーにとって初めてのことである。振り返ってみると、これほど時間がかかったのは驚きだ。
Ref.214270では、ムーブメントがCal.3132にアップグレードされた。このムーブメントは先に紹介したRef.3130をベースにしているが、ロレックス独自の耐震機構とパラクロムヒゲゼンマイを搭載している。製造開始から6年間は、3-6-9の数字マーカーに非コーティングのホワイトゴールドが使用され、視認性を高めるためのホワイトペイントも施されていなかった。また、ダイヤルの直径に対して針が短く感じられ、時計愛好家のあいだで物議を醸した。
2016年には、ダイヤルにフィットするように針のデザインが変更され、数字マーカーは引き続きアプライドされていたが、今度は夜光塗料(訳注:クロマライト夜光)が充填されていた。マーク2では、デザインが改善されており、ロレックスが何十年も前から行ってきたエクスプローラーの改良を、新しい現代的なスポーツウォッチのサイズでも入念に行うことに迷いはなかったのである。
現行モデルについて
昨年には、もうひとつの驚きがあった。いや、正確にはふたつだ。エクスプローラーはRef.124270というまったく新しいリファレンスで復活したのである。ロレックスは、最もシンプルなスポーツウォッチを、クロナジー脱進機を搭載した現行世代の自動巻きムーブメントにアップグレードし、70時間のパワーリザーブを与えた。しかし、これはサプライズではなかった。最初のサプライズは、時計愛好家に愛されている36mmケースへの回帰であった。11年のときを経て、エクスプローラーはマニアックな時計愛好家が求める姿になって戻ってたのだ。ふたつめのサプライズは大きなもので、2モデルの発表である。ロレゾールモデル、別名コンビ仕様のエクスプローラーとの併売だ。
ロレックスが参加するどの展示会でもそうだが、Watches&Wonders 2021が始まると、時計界はこの王冠を戴く時計メーカーに注目した。誰もが次に何をするのかを知りたがっていたようだ。この年の話題は、エクスプローラーの従兄弟であり、50周年を迎えたエクスプローラーIIに集中していた。エクスプローラーIIは確かにいくつかの改良が加えられたが、各メディアの見出しを攫ったのは、エクスプローラーの進化であった。最もシンプルなプロフェッショナルウォッチを以前の36mmサイズに戻したことは、愛好家から好評を得たが、それに伴って予想通りの、それほど刺激的ではない改良が加えられた。ムーブメントにCal.3230が採用され、クロナジー脱進機と70時間のパワーリザーブを備えたのだ。この時計は、かつてのRef.14270/114270の両モデルに酷似している。6時位置のSwissとMadeのあいだにあるロレックス王冠を見れば、すぐに見分けがつくだろう。
このモデルは衝撃的で、発売から1年近く経った今でも誰もが夢中になるような作品だ。エクスプローラーは初期の頃から、クロノメーター規格の自動巻きムーブメントを搭載したツール然とした時計だった。その主たる機能は、貴重な高級時計の安全を確保することよりも深刻な事態を抱えている着用者に、時間を読みやすく正確に伝えることだったのだ。しかし、エクスプローラーはごく稀に、性能や耐久性を犠牲にしてスタイルを主張することがある。たとえば、Ref.14270のブラックアウトは、光沢のあるブラックダイヤルにダークラッカーのアプライド数字マーカーを配したモデルだ。Ref.14270のなかでも最もコレクション性の高いこのモデルは、少なくとも暗所でも高い視認性を発揮するモデルではない。
新しいロレックス エクスプローラーは、ネパール人登山家ニルマル・プルジャ(NimsPurja)氏が撮影した有名な写真のようなイメージがあっても、私たち一般人がエベレストに登ることはないということを完全に受け入れた時計だ。ロレックスは高級ブランドであり、エクスプローラーもまた、小売店で入手することが事実上不可能になってしまったプロフェッショナルモデルのひとつである。ロレックスがエクスプローラーを予想外のツートンカラーにした今、次の関心事は、金無垢のエクスプローラーが登場するかどうかだ。これはときが解決してくれるものである。私たちの友人であり、長年の同僚であるスティーブン・プルビレントは、1週間にわたってロレゾール エクスプローラーを着用した。彼による詳しいレビューはこちらから。
コレクター界から
エクスプローラーには多くのリファレンスが存在することがご理解いただけたと思うが、中核的なリファレンスは次のとおりである。Ref.1016だ。このモデルは非常に高く評価されており、ヴィンテージコレクションにとって非常に重要な存在であるため、いくつかの追加証言が必要だと考えた。そこで、Ref.1016を所有する著名コレクターたちに、なぜこのリファレンスが好きなのかを聞いてみた。彼らのコメントをご紹介しよう。
Ref.1016は、私がヴィンテージウォッチに興味を持つきっかけとなったモデルです。初めてこの時計の実物をWanna Buy A Watch?で見たのは、大学を卒業して間もない22歳くらいのときでした。その日は、イリノイ・ウォッチ・カンパニーの手頃なモデルを買って店を出たのですが、いつかRef.1016を手に入れると心に決めていました。その後、ヴィンテージウォッチの知識を深め、買い足していくなかで、Ref.1016は手の届かない存在でした。あまりにも美しい。完成度が高すぎる。プロポーションが素晴らしすぎたのです。妻と結婚したとき、妻は私にベル&ロスRef.123を買ってくれて、それが社会人としてのRef.1016になったのです。自分では絶対に買えなかったRef.1016ですが、のちに妻が私の40歳の誕生日にプレゼントしてくれました。私にとってRef.1016は、GMTマスター Ref.1675やその他の偉大なロレックスの時計と並ぶ、エクスプローラーの真髄ともいうべきモデルなのです。スポーツファンであれば、ジョー・ディマジオの連勝記録である56をご存知でしょう。これは説明するまでもない歴史的な数字です。私にとって、時計の世界では、1016は多くの説明を必要としない数字なのです。知る人ぞ知る、称賛すべき数字なのです。
Ref.1016を好きになる理由は、挙げればきりがないが、私にとっては“繊細な美しさ”が一番の特徴です。ヴィンテージロレックスのような目立ちたがり屋ではありませんが、そのシンプルさには驚かされますし、深く掘り下げれば掘り下げるほど新しい発見が出てくるのです。初期のバージョンに見られる凹んだ夜光プロットのようなディテールは見落としがちですし、36mmというサイズは、大きくてカラフルなものを求める今日のコレクションの時流にはそぐわないものです。ダイビングウォッチでも、パイロットウォッチでも、レーシングウォッチでもありませんでしたが、繊細でありながらも同じくらい立派な生活を送っていた、様々な分野の人々が身につけていた時計だったのです。私は、大工、医者、地図製作者が所有したRef.1016を持っています。彼らは、スミソニアン博物館の建設に携わったり、外科手術の技術を開発したり、北極圏の地図を作成するためにRef.1016を着用していました。彼らはニュースで読むような有名人ではなく、一緒にビールを飲みながら学びを得たいような人たちなのです。私にとって、Ref.1016はそのような無名の人々の姿を映し出す鏡のような存在なのです。Ref.1016には、コレクターのための素晴らしい要素がたくさん詰まっています。ただ見るだけでいいのです。
お気に入りの時計は、その人自身を映し出すものだと常々考えています。私のお気に入りはRef.1016です。いろいろな意味で私らしいからです。派手さはありません。そうではなく、シンプルで、黙って仕事をこなすだけです。最初はあまり評価されていませんでしたが、今では特に知る人ぞ知る存在となっています。エレガントでありながら、無骨でもある。小さくても、とてつもなくハンサムでもある。セクシーな時計と言っても過言ではありません。おそらく、すべてのなかで最もセクシーだと思います。ポール・ニューマンやスティーブ・マックイーン、その他の白人の有名人が身につけるどの時計よりもずっとセクシーですね。でも、Ref.1016の最も好きなところは、私のように謙虚なところですね(笑)。
僕にとって、ロレックスのエクスプローラーは完璧な時計です。必要なものはすべて揃っていて、必要でないものは何もない。それでいて、特別で贅沢な感じがするのです。シンプルなものをうまく作るのは最も難しいことですが、ロレックスはエクスプローラーでそれを見事に実現したと思います。
2016年に自分のコレクションにエクスプローラーを加えると決めたとき、最初からRef.1016の初期モデルが欲しいと思っていました。Ref.1016はエクスプローラーを象徴するリファレンスで、30年近くほとんど変更が加えられず生産されていました。僕の個体は1960年代前半のもので、数字マーカー“6”の下にエクスクラメーション・ポイントが付いた美しい光沢のあるダイヤルで、ケースは正直なところ使い込まれた状態です。よい状態だったら、かえって身につけるには惜しくなったかもしれません。僕はこの時計を見るたびに微笑んでしまうのですが、あまりにも新品同様な状態だったら楽しめなかったでしょう。また、光沢のあるミラーダイヤルのロレックスを所有したことがない方には、とてもお勧めです。この時計は、マット文字盤では触れることのできない、まったく別次元の時計なのです。
この時計をさらにレベルアップさせるのは、実はブレスレットです。一見すると他のリベットブレスレットと同じように見えますが、これは珍しいエクステンションブレスレットなのです。長時間のフライトで体が浮腫んでしまったとき(ラーメンを食べ過ぎたときなど)に、このブレスレットならばとても快適に過ごすことができますよ。また、コレクター仲間間でも、“知る人ぞ知る”完璧なアイテムです。
そうそう、この時計の針は交換されてしまったものなんですが、ダイヤルと完璧にマッチしているので、まったく違和感がありません。この時計は、元の所有者からディーラーの友人を介して僕のところに来たものなので、本物だと知っています。
編集後記:エリック・ウィンド(Eric Wind)氏の協力なしには今回のリファレンス・ポイント特集記事は実現しませんでした。また、Explorer1016.comのアンドリュー・ハンテル博士(Dr. Andrew Hantel)、AdPatina.comのニック・フェデロウィッツ(Nick Federowicz)氏、ジェフリー・ヘス(Geoffrey Hess)氏、@watch.me_watch.Youのアダム・ゴールデン(Adam Golden)氏、ヤコブ・メイス(Jacob Mace)氏、ポール・アルティエリ(Paul Altieri)氏 と Bob's Watches、ジェームズ・ラムダン( James Lamdin)氏 とanalog/shift、エリック・クー( Eric Ku)氏、ケン・ヤコブ( Ken Jacobs)氏、リッチ・フォードン( Rich Fordon)氏, グレイディ・シール(Grady Seale)氏、アーウィン・グロウズ( Erwin Grose)氏、 @watchistry、ジェフリー・ビンストック( Jeffrey Binstock)氏、ダニー・ミルトン(Danny Milton)、イアン・コックス( Ian Cox)氏、チャールズ・カーキン( Charles Curkin)氏、ジョゼフ・ネズゴダ博士(Dr. Joseph Nezgoda)、ウォン・キム博士( Dr. Won Kim)、 ジャスティン・ヴラカス(Justin Vrakas)氏、フレッド・サベージ( Fred Savage)氏、スティーブン・プルビレント( Stephen Pulvirent)氏、 そしてランドール・パク( Randall Park)氏にも感謝の意を表します。
その他、詳細はロレックス公式サイトへ。
動画撮影 :ウィル・ホロウェイ(Will Holloway)、グレイ・コーホネン(Grey Korhonen)、デビッド・オジェロ(David Aujero)
スチール撮影:ティファニー・ウェイド(Tiffany Wade)
動画編集:アレックス・タイソン(Alex Tyson)、デビッド・オジェロ(David Aujero)
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