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In-Depth オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシン(編集部撮りおろし)

あのコンセプトモデルが現実に。パーペチュアルカレンダーの世界に革命が起こる。

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超薄型の時計を作れば注目されて当然だが、その分野に参入するのは大変なことだ。まず、それには広範な専門性が必要となる。超薄型の時計作りは、一般的な時計作りとは全く異なるものであり、大変複雑なものだとされるのも当然である。実際、ラトラパンテのクロノグラフやミニッツリピーターを作るのと同じレベルの技術が要求される。
 すべてを薄くするだけでも大変だというのに、それだけでは不十分だ。部品間の隙間をほとんどゼロにしなければならないため、厚みのあるムーブメントや時計では問題とならないような部品の位置ズレであっても、超薄型の時計では大きな問題となってしまうからだ。また、時計の部品はもともと繊細であるが、超薄型時計ではそれがさらに繊細なものとなり、組み立て工程においてもはるかに注意深く扱わなければならない。新しいオーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシンは、超薄型時計の世界に新たに加わった刺激的な逸品であり、魅惑的な美学を体現すると同時に、ウルトラシンの根本的な問題に対して興味深い独創的な解決策を採用している。

 実に目を惹かれるウルトラシン、もしくはエクストラ フラットタイプの時計(ちなみに、どちらの用語も一般的には同じ意味で使われるが、私は常々ウルトラシンの方がインパクトがあるように思ってきた)を作ろうとするならば、まず従来型の時計とは異なる方法でムーブメントを作り上げなければならない。時計製造500年の歴史の中で、時計の薄型化にあたって特に重要ないくつかの出来事があった。その一つめは、薄型化を可能にする脱進機の開発である。まずシリンダーエスケープメント、そして次にレバーエスケープメントが登場し、それまでのバージエスケープメント(知られている中で最も古い時計用エスケープメントで、ヨーロッパで腕時計や置き時計を作るのに使われた)を用いた時計よりもはるかに薄い時計を作ることができるようになった。

 もう一つの重要な成果として、レピーヌキャリバーと呼ばれるキャリバーの進化が挙げられる。ジャン=アントワーヌ・レピーヌによって18世紀に開発されたレピーヌキャリバーによって、分厚かったものの当時どの時計にも使われていたフュジー(均力車)が不要となった。
 この新たな機構のおかげで、テンプを他の歯車列と同じ平面に配置することができるようになった。これに加えて、当時一般的だった柱板を用いる構造の代わりに今ではスタンダードになった受け板を用いることで、史上初めて極めて薄い時計を作ることができるようになったのだ。

史上最薄のトゥールビヨンの1つ

発売時点で、リファレンス25643は史上最薄の自動巻きトゥールビヨンで、その薄さの記録は何十年も破られなかった。その秘密と歴史に関して詳細はこちらへ。

 オーデマ ピゲのエクストラフラットタイプの時計作りの歴史は長い。1912年には厚さ1.32mmの「ナイフ」のように薄い懐中時計用キャリバーを生み出し、第二次世界大戦後にはバルジューから商標なしで提供を受けた13リーニュのムーブメントを用いて3針タイプの時計を製造している。
 もちろん、1967年には2.45mmのキャリバー2120を発表し、この記録は今日でも破られていないのは周知の通りだ。しかし、超薄型の時計を作るにあたり、同社が最も誇りにしているのは、1986年発表のキャリバー2870トゥールビヨンである。このRef.25643は驚嘆すべき時計であり、その4.8mmという薄さはつい最近まで自動巻きトゥールビヨンの世界最薄記録であった。また、時計のケースの背面が上部のムーブメント板も兼ねるという、革命的な構造のケースも用いられた。

 しかし記録は破られるために作られるともいわれる。このモデルは長きにわたって、誰も抜けそうにない最薄の記録を誇ってきたが、世界最薄のトゥールビヨン腕時計の称号はブルガリが2018年に発売したオクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティックに移った。
 しかし、その頃既にオーデマ ピゲでは、同社の超薄型の時計作りの技術を再び世に知らしめる時計の開発が進んでいた。ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシンである。

 ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシンはもともと、最終的に発売されたものとは少し違う設計であった。SIHHでのお披露目を2018年1月にジョン・ブース (Jon Bues)が報告した際には、プラチナ製のケースに艶消しベゼルと、ロイヤル オークではおなじみのタペストリー文字盤が使われていた。そのため、技術的には目をみはる成果であることに変わりはないが、試作品の印象も強かった。実際に発売されたものと比較すると、特にその試作品らしさが目立つ。ジョンは、その素晴らしいサイズ(41mm x 6.3mm、この寸法は実際に発売されたモデルと同じである)にしては少し重く感じられると指摘した。(時計本体もブレスレットの部分もプラチナであれば、どれほど薄いにせよ、結局のところ重いことは驚くべきことではない)。

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 実際に発売されたモデルでは、縦方向に艶消し加工されたマットな青色の簡素な文字盤(艶消し加工は極めてかすかに施されている)が用いられ、日付が表示されるインダイヤルはほとんど高さが変わらない。月齢の表示も健在だ。
 インダイヤルは少し大きくなり、こうした文字盤の改良とプレーンな鏡面加工のベゼルへの変更により、見やすさが格段に向上していると同時に、かなり洗練されて控えめな印象の時計に仕上がっている。試作モデルと寸法は同一であるのに、なぜだかより超薄型の時計らしさを醸し出しているのだ。また時計の大部分はPTではなくチタン製に変更され、薄さに見合うだけの軽さが実現されている。ケースとブレスレットはTi製で、ベゼルとブレスのセンターリンクはPTとなっている。

 超薄型時計の全体的なインパクトを評価する方法はいくつもあるが、初めて見て手に取る人がそのような時計が存在することに驚嘆するような反応を示せば、それは良い兆候である。本機は本当にそのような時計であり、その完璧さをひけらかすことなく漂わせているからなおさら良い。もう少し広い視野でその良さを伝えるなら、この時計は、初めてのロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーではない。
 例えば極めて美しいロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー 41mmもあり、表面上はウルトラシンとの共通点が多く見当たる。例えば両方とも、 ムーブメントはオーデマ ピゲの極薄キャリバー2120をベースにしている。そのため、どちらも全体のサイズはある程度近いものになると思われるだろう。しかし実際には、 ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー 41mmは直径は41mmだが厚さは9.5mmであり、新たに発売されたウルトラシンの6.3mmとは大きく異なっている。

 しかし、本機はわずかに幅があるものの(その差はちょうど1mmだ)、3mm、正確には3.20mm薄いことを考えると、このムーブメントはどれだけ工夫して再設計や製造が行われているのか、少し疑念も生じてしまう。つまりオーデマ ピゲは、元々からかなり薄かった時計を、さらに3分の2近くまで薄くする方法を見つけ出したということなのだ。

 ケースバックから内部を覗くと、パッと見たところ標準的なCal.2120のようにも見えるが、この新しいCal. 5133は、オーデマ ピゲの標準的な2120を用いたパーペチュアルカレンダー(Cal. 5134)とはかなり異なるものである。Cal.5134のムーブメントは、本質的には2120であるが、ムーブメントの文字盤側にパーペチュアルカレンダー機構が追加されている。
 5134では、文字盤裏(文字盤裏の機構はカドラチュールとも呼ぶ)のパーペチュアルカレンダー機構は典型的な構造で、レバー、歯車、ジャンピング機構は3層に分かれている。この機構の他にも、ムーブメントの地板の反対側には、ゼンマイの香箱、計時装置、エスケープメント、テンプからなる実際の計時機構と、自動巻きフルローターが取り付けられている。ベースとなっているCal.2120は厚さ2.45mmで、5134は4.31mmなので、5134のパーペチュアルカレンダー機構はムーブメントを1.88mm厚くするだけで実現されているということになる。

 Cal. 2120ベースのパーペチュアルカレンダー5134の表面(裏側)、厚さ4.31mm。

 Cal. 5134のパーペチュアルカレンダー機構(文字盤裏)。

  Cal. 2120を出発点にするということは、超薄型の時計作り専用に作り出されたムーブメントをベースに開発を行うということである。同キャリバーは、1967年に登場した際には、世界最薄の自動巻きムーブメントであり、今ではより薄い自動巻きムーブメントもあるが、フルローター自動巻きムーブメントとしては世界最薄のままである。これほど長期間世界最薄の座を譲らないのは目を見張る記録だ。
  Cal. 2120のローターは、大部分の質量をローターの縁に集中させるよう設計され、ベリリウム製のリングによって支えられているローターは、裏側にあるルビーローラーの上で回転する。巻き上げ機構は、その他のムーブメントではしばしば計時機構より一段上の別の受け板に配置されるが、2120では計時機構と同じ平面上に配置されている。香箱には「吊下」型香箱と呼ばれるものが使われている。つまり、上部には香箱受け板がなく、香箱はムーブメントの地板1点のみで固定されている。

新しい Cal. 5133のムーブメントの表面、厚さ2.89mm。

  Cal. 5133は5134の改良型で、従来の3層構造のパーペチュアルカレンダー機構が1層に圧縮されている。また単に1層にするだけではなく、部品を地板の文字盤側に彫られた薄い段差内に配置し、また文字盤そのものをパーペチュアルカレンダー機構を支える構造として用いることで、さらなる薄型化に成功している。これは、同社が1986年に発表した Cal. 2870においてケースバックが同じ目的で用いられていたのを思い出させる構造だ。

 Cal. 5133のパーペチュアルカレンダー機構(文字盤の下)。

 その他にも重要な技術革新がなされている。細かい変更に思われるかもしれないが、典型的なパーペチュアルカレンダー機構から大きく変更されている箇所があるのだ。多くの時計愛好家には周知の通り、パーペチュアルカレンダーは、閏年の2月末であっても、常に正しい日付を表示する(簡易なカレンダー機構は、31日未満の月には、月末に手動で日付を修正しなければならない)。一般的なパーペチュアルカレンダーでは、暦の各月の長さを把握するために、縁に各月の長さに対応する深さの刻みが12箇所設けられた特別なプログラムの歯車を用いている。
 腕時計においては、この12箇所の刻みを読み取るレバーが、各月の月末にカレンダーの日付を何日飛ばすかを決める。レバーはそれぞれの刻みに順にはまり、刻みが深いほど、その分多くカレンダーの日数を飛ばすという仕組みだ。最も刻みが深いのは、2月28日から3月1日まで飛ばさなければならない2月である。

 4年に1度の閏年には、2月に日数を1日増やすことで、グレゴリオ暦を地球の公転軌道上での実際の位置と正しく同期させている。つまり、閏年には、時計は2月28日ではなく2月29日から3月1日に日付を飛ばさなければいけない。これは多くの場合、4年ごとに回転する4辺カムをプログラム歯車の裏側に配置することで実現されている。しかしオーデマ ピゲは薄型化のため、このカムを廃止し、縁に12ではなく閏年の1サイクルに対応する48もの刻みがある特別なプログラムの歯車を用いている。
 また刻み自体も、従来型のパーペチュアルカレンダーで使われているものとは異なり、細長く、曲線状になっている。これによって、48もの刻みを腕時計のムーブメントに搭載することが可能となり、また日付送りレバーの先端がより滑らかに歯車とかみ合えるようになっている。

上図では、48ヵ月で1周するプログラム歯車が右上、日付ディスクがその左下に位置している。日付ディスクの5時方向のあたりに、1ヵ月に一度プログラム歯車を回す長い歯がある。プログラム歯車と日付ディスクの間には、ローターを支えるルビーローラーの1つが見える。

 その他にもいくつか興味深い革新がなされている。プログラム歯車は通例、別に設けられた月送りカムによって動く。しかし Cal. 5133では、この機能は(察しがついているかもしれないが)1ヵ月で1周する日付ディスクの特別な歯に委ねられている(5時方向にある尖る歯)。
 月末になると、この歯はプログラム歯車の歯とかみ合い、次の月におくる。このようにパーペチュアルカレンダーの部品すべてを一層に薄型化することで、 Cal. 5133は直径32mmとなり、直径29mmの Cal. 5134や2120よりは大きいが、それによって他の追随を許さない世界新記録の薄さを実現できたことを鑑みれば、小さな代償のように思われる。
 競合相手にとっては、特にフルロータームーブメントでこれに匹敵する薄さを実現するのは大変困難なはずだ。 Cal. 5134でさえ、ベースキャリバーの2120から1.86mm厚くなっているだけだということを思い出して欲しい。厚さ2.89mmとさらに薄型化された Cal. 5133では、元々の Cal. 2120に0.44mmのわずかな高さが加わっているだけなのだ。

 どこから眺めても、この時計はオーデマ ピゲの驚嘆すべき到達点であり、愛好家にとって、そしてひょっとするとオーデマ ピゲ自体にとっても、同社の時計作りの歴史は単純な技術向上の歴史ではなく、別次元に高められた、独特といっても良い技術による時計作りの歴史なのだということを気付かせてくれる、待望の存在だ。ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシンは、感服せずにはいられない時計作りの最高峰を体現しているのである。

 伝統的な時計作りで驚嘆すべきは、どこにでもある材料が機械仕掛けの芸術品に変身するという点である。時計作りでは、ほぼどの時代でも多くの場合、比較的簡素な少数の材料、例えば真鍮、金、スティールなどが用いられてきた。この時計は、その伝統を継承しているもののように感じられる。
 確かに少しは、目新しい素材も使われている(例えばヒゲゼンマイに使われている合金や、ローター用のベリリウムのレールなど)。しかしこの時計の大部分は、昔ながらの時計作りを継承するものである。つまりこの時計は、常識を捨て、伝統をじっくり極限まで捉え直し、能力の限り新しいアプローチを探ってみることによって、そこからどれほどの潜在性が引き出せるかを証明する存在なのだ。


基本情報

ブランド: オーデマ ピゲ (Audermars Piguet)
モデル名:ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー ウルトラシン(Royal Oak Selfwinding Perpetual Calendar Ultra-Thin)
型番:26586IP.OO.1240IP.01
直径:41mm
厚さ:6.3mm
ケース素材:チタンケース、プラチナベゼル
ストラップ/ブレスレット:サテン仕上げのチタン製、センターリンクは 鏡面加工 プラチナ製


ムーブメント情報

キャリバー:Cal. 5133
直径:32mm
厚さ:2.89mm
巻き上げ方式:自動巻き
振動数:2.75Hz(1万9800振動/時)
石数:37


価格・限定

価格:要問い合わせ
限定:オーデマ ピゲブティック限定

詳細についてはオーデマ ピゲ公式サイト

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