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ブルガリのオクト フィニッシモは、ローマ建築から着想を得たデザインを取り入れた超薄型ケースに現代的な素材に見事に融合させて誕生したコレクションです。2014年の登場以来、3針からトゥールビヨン、パーペチュアルカレンダーまで、さまざまな複雑機構を備えた極薄のムーブメントを展開し、数々の世界記録を打ち立てて、賞を受賞してきました。
当初はサンドブラスト仕上げが施されたケースにトーンオントーンのダイヤルが組み合わさったものでしたが、やがてスティールやゴールド、時にはタンタルといった素材がケースに取り入れられ、ダイヤルにも新たなカラーやデザインバリエーションが与えられるようになり、誕生から約10年で成熟したコレクションへと成長しました。
同コレクションのなかで最もシンプルなモデルが、2017年に発売された3針のオクト フィニッシモ オートマティックです。ケースの厚さはわずか5.15mmで、リリースされた当時の最薄自動巻き時計で、ブルガリが3つめの世界最薄記録を獲得したモデルとして話題を集めました。2020年にはスティール製ケースを備えたオクト フィニッシモ オートマティック Sを発表。同じ直径40mmですが、厚さが6.3mmとなり、100mの防水性能が確保されたことでより日常使いしやすいパッケージになりました。
ここで紹介するオクト フィニッシモ タスカンコッパーは、シンプルに言えばオクト フィニッシモ オートマティック Sのカラーバリエーションモデルです。実は2023年に北米限定50本で発表されたリファレンスと同じものですが、今回のリリースで通常ラインナップに加わることになりました。
オクト フィニッシモ タスカンコッパーの最も重要な要素であるダイヤルカラーは、時計業界ではいわゆるサーモンダイヤルと呼ばれるものですが、ややピンク色が強く、控えめながらも独特な雰囲気を備えています。デザインを手掛けたブルガリ ウォッチ デザイン センター シニア・ディレクターのファブリツィオ・ボナマッサ・スティリアーニ氏は、同モデルについてこう話します。「このメタリックサーモンの色合いは、一般的に見られるコレクターが好むヴィンテージの美学から来たものではありません。イタリア美術のルーツである16世紀、正確にはマニエリスムと呼ばれる当時の改革的な運動からインスピレーションを得たものです」
マニエリスムは、16世紀中頃から末にかけて見られる後期イタリア・ルネサンスの美術様式を指します。レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ、ボッティチェッリといったイタリアの盛期ルネサンスの巨匠たちが作り上げた完成された洋式に倣いつつも、わざと極端な比率に引き伸ばされた人体やS字曲線を描いたねじれたポーズ、不安定な構図、フラットな遠近法や空間表現が取り入れられた絵画が特徴です。
僕は本作のプレスリリースのなかでマニエリスムからの影響であると読んだときにフィレンツェのサンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂につながりがあるのではないかと考えました。なぜならマニエリスムを提唱したミケランジェロの弟子ジョルジョ・ヴァザーリが大聖堂内部のフレスコ画を描いていたからです。もちろんオクト フィニッシモの形状がローマのマクセンティウスのバシリカから着想を得たものであることは知っていましたが、フレスコ画が描かれた大聖堂の天井も八角形で、外から見た屋根の赤褐色もこのダイヤルに近いものがあるように感じました。
ファブリツィオ氏に伺ってみるとヴァザーリではなく異なる作品であると伝えられました。「いい推測ですね。でも私の直接的なインスピレーション源となったのはヤコポ・ダ・ポントルモの絵画『十字架降下』です。デザイン学校2年生のときに授業でマニエリスムについて学んだ際に習ったのがこの作品でした」。なるほど、確かに時計愛好家たちがサーモンダイヤルと呼ぶローズゴールド色よりもピンクが強い色合いなのも頷けます。
スイスのウォッチメイキングにおいてサーモンダイヤルは定番のカラーのひとつですが、タスカンコッパーのダイヤルはメタリックトーンでありながら、艶消しの質感があるユニークなもので、光を受けると深みのあるアニメーション効果が見られます。ロジウムメッキの針とインデックスとの組み合わせによって美しいコントラストが生まれ、視認性も良好です。クラシックなドレスウォッチやヴィンテージスタイルの時計に見られるカラーをブルガリらしいやり方でスティールのオクト フィニッシモ オートマティックのケースにマッチさせているのです。
オクト フィニッシモは、何度も身につけたことがありますが、ダイヤルカラーが異なるだけでも大きく印象を変える不思議な感覚があります。多面的かつ立体的なケース構造ながらその薄さによる控えめなデザインが異なるカラーや意匠をより大きな違いのように感じさせるのかもしれません。当初は北米限定としてリリースされたモデルでしたが、着けてみると日本人の肌なじみのよいカラーリングのように思いました。
個人的にブルガリのオクト フィニッシモは先述のとおり成熟したコレクションであり、完成されたものであると捉えています。だからこそ建築家の安藤忠雄 氏や現代美術家の宮島達男氏らとのコラボレーションや、先日発表されたばかりのオクト フィニッシモ スケッチ 限定モデルのような前衛的なデザインとの組み合わせでもまったく破綻しないのだと感じます。タスカンコッパーは、カラーバリエーションといえばそれまでかもしれませんが、ファブリツィオ氏が選択したマニエリスムから汲み取ると完成されたコレクションにより改革的なアプローチを与え続けようとする動きなのだと言えるのではないでしょうか。
ブルガリ オクト フィニッシモ タスカンコッパー Ref.103856。直径40mm×厚さ6.4mm、ステンレススティール製ケース、100m防水。サンレイ加工タスカンカッパーメタルダイヤル、ロジウムプレートの針とアワーマーカー。ムーブメントはCal.BVL138搭載。自動巻き、パワーリザーブ約60時間、2万1600振/時、時・分、スモールセコンド。211万2000円(税込)
さらなる詳細はブルガリ公式サイトへ。
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