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November 24, 2020
November 24, 2020
In-Depth ブルガリ オクト フィニッシモ オートマティック サテン仕上げのステンレススティールモデル

In-Depth ブルガリ オクト フィニッシモ オートマティック サテン仕上げのステンレススティールモデル

ブルガリが、看板モデルのSS製オクト フィニッシモに新たな仕上げを加えて強烈プッシュ!


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あなたがもし時計と、そして貴金属や卑金属の社会人類学的意義にも興味がおありなら、この記事は楽しんでいただけることだろう。ステンレススティールは時計づくりの歴史の大部分において、あまり使われることのない金属だった。1800年代半ばに量産手法が登場するまで、腕時計はどちらかといえば貴重な、そしてしばしば珍しいものであったし、20世紀初めにステンレススティールが量産され始めるようになってもなお、SSケースが一般的になるまでには少し時間がかかった(上質な時計のケース素材として好まれたのは、金や、金メッキを施した卑金属だった)。よって、スティールは実用的ではあるが貴金属とはみなされず、大体において、特定の機能や専門性が必要な時計のみの使用に限られていた。だがそれも1972年までのこと。この年に、最初のSS製ロイヤル オークが、時計づくりにおけるそれまでの貴金属の概念を覆したのだ。

  それ以降、スティールというものが指す意味合いは時計愛好家の間で絶え間なく進化し続け、ロイヤル オークが確かに最初のラグジュアリーなSSウォッチではあったにしろ、今ではSS製の腕時計に高級時計としての価格を付けることが可能な時代にまで行き着いた。その栄誉は素晴らしいことに思えるが、しかしロイヤル オークは当時(も今も)高級時計のムーブメントを使っており、それはロイヤル オークに使われるまではもっぱら、非常に洗練された貴金属製の超薄型自動巻き時計だけにしか使われなかったものであることを考えると感慨深い。さらに、ロイヤル オークの精緻な面取りや仕上げがビジュアル的な躍動感を与えていたが、それは今日我々がツールウォッチといういくらか野暮ったい名称で呼ぶ時計には、あまり見られないものであった。

 ステンレススティールのビジュアル的特徴を装飾目的に使うという発想は、ロイヤル オークよりも遥か前からあり、クラシックなアールデコ調の建築物のいくつかに見ることができる。つまり、ステンレススティールの素材としてのクオリティを愛でるという考えは突如として現れたものではなかったのだ。しかし、時計づくりにおいては、スティールの外見的可能性の探求は実用的用途に対して二の次になりがちであった。今日の高額な新しいヴィンテージ調SSウォッチの多くは、ロイヤル オークに見られるような装飾的特質の模索には力を入れていない。SS製の高額時計は、何年にもわたってますます珍しいものではなくなってきているが、ロイヤル オークやノーチラスのデザイン言語と競合する時計は、今でも比較的珍しい。

SS製オクト フィニッシモ 2018年モデル。

 だからこそ我々は、最近発売されたブルガリのサテン仕上げのSS製オクト フィニッシモ オートマティックを取り上げることにしたのだ。ブルガリの時計づくりをフォローしている方には、一見、とりたてて注目すべき時計ではないように思われるかも知れない。結局のところ、厳密な言い方をすればこれは新しい時計ですらない。SS製オクト フィニッシモは2018年に登場しているからだ。しかしそれは、SS素材のクオリティをそれほど謳歌するものではなく、むしろケースの構造を際立たせるために、素材の特徴を目立たせないようにしていた。仕上げにはサンドブラストが施され、この時計は当時、ロイヤル オークやノーチラスのような時計と直接競合するものとして、私に響くことは特になかった。それは欠点というわけでもなく、マットな仕上げがクールなポストモダンの趣きを醸しており、それがSS製高級腕時計の常套手段である一種のドヤ感を、その控え目さによってはっきりと拒絶しているように見えた。
 それは当時、スマートなやり方に感じられ、非常に新鮮な新作であった。何か一風変わっていながらも、同時にたちまち伝統的なクオリティを感じさせ、そしてそれは「オクト フィニッシモ」シリーズにとっての、競合製品に対するアドバンテージとなっていた。

 しかし新型のオクト フィニッシモ オートマティックは、既存モデルの新型バージョンというよりは、全く新たな時計のように感じられる。我々が今年の1月にこの時計を紹介したときに掲載した写真を見たときに、私はそう感じた。そしてその印象は、実際に時計を手にしてみてさらに強化された。

 実質的には、サテン仕上げのSSバージョンと前のバージョンは、完全にではないがほぼ同じだ。ムーブメントは当然同じもの。超薄型のブルガリ製Cal. BVL138「フィニッシモ」ムーブメントで、これはマイクロローターで巻き上げるのだが、2.23mmというナイフのような薄さだ(そして直径は36.6mm)。超薄型であるにも関わらず60時間のパワーリザーブが実現できている(これは、最も近い競合相手のひとつであるAPのCal .2120が、ほんのわずかに古びたことを示している。1960年代にデビューした後者のパワーリザーブは40時間。ただしそれが28.4mmケースに入っていた)。
 ケースとブレスレットの仕上げ以外には、既存モデルと新型にはたった2つの違いしかない。ひとつは、新型モデルは既存モデルよりもごくわずかに厚みが増し、5.15mmであったのが5.25mmになったこと。もうひとつは、おそらくより注目に値すると思うが、防水性能の違いだ。新型モデルは防水性能100mで、これはサンドブラストSSバージョンの30mを遥かに凌ぐ。

 仕上げと防水性能向上の変化は文字で読むと大した違いに感じられないかも知れないが、メタルを実際に見て腕に着けてみると、話は全く変わってくる。既存バージョンは洗練されているものの(そして私がこれを洗練されたデザインだと感じるのは以前も今も変わらない)、非常に独特な好みをもつ一部の特定のオーディエンスをターゲットとしているように見えたのだ。サンドブラストバージョンは表現の裁量と削ぎ落しを称えるものであり、その薄さと均質な仕上げは、本来の意味におけるラグジュアリー スポーツ ウォッチというよりも、それが金やプラチナ製のラウンドケースならばドレスウォッチと呼ばれるであろうものである。

 いっぽうサテン仕上げモデルは、それ独自の取り組み方によって、少なくとも幾分かは従来のラグジュアリー スポーツ ウォッチというものの様相をより帯びているといえる。

 サテン仕上げのブルガリ オクト フィニッシモ オートマティックは、価格がそれほど高くないにもかかわらず、他のラグジュアリー スポーツ ウォッチにほとんど引けを取っていないように見えることは言っておこう。非常に込み入ったケースとブレスレットの構造は、より高価な競合モデルのいくつかと少なくとも同レベルに私には映る。追い求めている優先事項が全く違うように感じられ、それが上手くいっている。
 オクト フィニッシモの基本デザインは、もし他社の既存人気モデルを真似たデザイン言語をどこかに採用しようとしたならば重大なミスを犯していたといえるほど、非常に独自のものだ。本機の美点のひとつは、それ自体以外には、ほかのどの時計にも言及する必要はないと感じさせる。

 「オクト フィニッシモ」は概してブレスレットかストラップかを選べるが、本機は、実際にはブレスレット一択でと勧めたくなる時計のひとつだ。私にはこの時計が、2つのものがどのように作用し合うべきかという拘りの哲学を、非常に雄弁に主張しているようにみえる。極端に言うと、時計そのものがブレスレットから連続した単なる物理的な拡張に過ぎなくなる。例として思い浮かぶのは、ピアジェのポロS・ヴィンテージモデル、あるいはロレックスのチェリーニ キング マイダス(これがジェラルド・ジェンタのデザインであるのも偶然ではない)などだ。
 いっぽうの極端な例としては、ブレスレットは機能的パーツとして時計を腕にしっかり留めることを目的としたものであり、ビジュアル的には特に時計とのつながりをもたせようとしていないもの(例えば、ライスビーズ・ブレスレット付きのクロノグラフ スポーツウォッチなどはほぼ全てがそうだといえる。ヴィンテージ・クロノグラフの世界の味わいという意味では素晴らしいつながりだが、それは真のマリアージュというよりは利害関係でつながる友人という感じだ)。

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 オクト フィニッシモのブレスレットは、その中間のどこかにある。ケースのデザイン的クオリティと明確に共鳴しながらも、それと同時にどちらもが際立つパーツとして存在している。それぞれが独自の興味深い点をもっており、それが合わさると、それぞれの個性を失うことなく一方が他方のベストなクオリティを引き立てているのだ。

 非常にしなやかな手首回りでの存在感は前型モデルと共有しながらも、ケース形状のミニマリズムは、今作ではより従来型の仕上げを施したことによって目立たなくなっている。その仕上げは本機全体の、非常に型破りな表情と雰囲気を際立たせている。ケースの面ひとつひとつが個々の要素として直に感じられるようになり、ブレスレットのポリッシュ仕上げを施した中側リンクがサテン仕上げを施した周囲の面とドラマチックなコントラストをなし、よりいっそうの奥行き感を出している。

 明らかに、本機で大いに興味をそそるのはムーブメントだ。BVL 138は、その発売時に保持していた記録を今は失っている。現在の自動巻き超薄型の記録をもつムーブメントは驚くなかれ、別のブルガリ製ウォッチで、しかもトゥールビヨンだ(オクト フィニッシモ トゥールビヨンのムーブメントは1.95mm厚)。だがそれでも、これが極めてフラットでクラストップレベルのパワーリザーブを有していることには変わりない(超薄型キャリバーは主ゼンマイのスペースが限られるために、概して2日を超えるパワーリザーブをもたせるのが難しい)。
 マイクロローターはプラチナ製だが、ここではそれは何よりも工学的用途で使用されている。マイクロロータームーブメントのローターが小さい理由は、ざっくりいえば、主ゼンマイをパワーリザーブいっぱいに巻き上げるだけのトルクを出すためには高密度の金属を使う必要があるということだ。他の選択肢としてはタングステンや金などがあるだろう。これら3つの素材は元素周期表でそれほど離れていない。プラチナの使用は、ある意味象徴的なアイロニー的見地からみて、素晴らしいセンスである。本機で唯一の貴金属を使っている箇所が、重要なのは物理的特徴であって金属の希少性そのものではないパーツ部分なのは、かなり頓智が利いている(もっとも、そこまで意図していたかどうかは分からない)。

 上でも述べたが、高級価格帯のSSウォッチには、ロイヤル オークやノーチラスのように時計自体がラグジュアリーなものから、少なくともデザイン的な意図や特質としてはラグジュアリーではない、広い意味での高級スポーツウォッチとがある。後者のカテゴリーには(例として)ロレックスのプロ用ダイバーズモデルが入る。ロイヤル オークとノーチラスがトップの価格帯に位置していて、それらが位置する価格点と、遥かに低価格のSS製ロレックスが位置する価格点との間には、現在では有り余る選択肢があり、それらをSS製高級時計というカテゴリーに含めることにする。
 その中には、ランゲのオデュッセウス、ピアジェのポロ S、ショパールのアルパイン イーグル、ウルバン・ヤーゲンゼンのワン・コレクション、そして今、ブルガリのオクト フィニッシモ が入る。これらの時計(そしておそらく私が入れ忘れているものも含めた)全ての中には、一体型ブレスレットの付いた自社製ムーブメントウォッチもある。そういった時計の非スポーツウォッチをお求めならば、ベル&ロスのBR05のように1万ドル(約100万円)以下の選択肢もある。

 ますます競争激化するこの市場において、この新たなブルガリ オクト フィニッシモは見事に際立つことに成功している。そのデザインには、カテゴリー内のほかの何かを流用したものは全くない。これを成し遂げるのは我々がこれまで見てきたところ、なかなか容易なことではない。新たな仕上げを採用したことで、デザインのオリジナリティは弱まるどころかむしろ強調されており、直近の前モデルを隣に並べても、それ自身の注目すべき個性で際立つ時計だ。

 公式定価の129万円(税抜)は、得られる価値からすれば注目に値する(ブルガリによれば7月発売予定)。非常にオリジナルで、誰も真似することなく自己をアピールしており、世界クラスの自社製超薄型自動巻きムーブメントを備え、自動巻きローターの中には少量のプラチナまで隠しもっているのだ。腕に着けると、これまでに見たどのSSウォッチにも負けないほど、人の目を引き付ける。そしてこれは、時計づくりで非常に長きにわたり称賛されてきた、技術的にも難しいカテゴリーの、エレガントで超薄型のタイムピースなのだ。しかし本機がもつのは新たな種類のエレガンスである。そして近年たびたびそうであったように、ブルガリはまたしても証明を重ねた。ウォッチメイキングと、斬新で成功を収める新たなデザインとの間にあるのは、達成するという信念と構想の努力だけなのだと。

ブルガリ オクト フィニッシモ:ケースは40mm x 5.24mm、表も裏もサファイア製。100m防水性能。ムーブメントはCal .BVL 138、超薄型自動巻き、プラチナマイクロローター付き、36.6mm x 2.23mm、60時間のパワーリザーブ、3Hz(2万1600振動/時)、現在生産されている3針の自動巻きムーブメントとしては世界最薄。価格は上述の通り129万円(税抜)。発売時期は2020年7月。ブルガリ ウォッチメイキングのさらなる詳細はブルガリ公式サイトへ。