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Hands-On ジャクリーン・ケネディ・オナシスが愛用したカルティエ タンク

カルティエのタンクのなかでも特別な存在と言えるだろう。

※本記事は2017年6月に執筆された本国版の翻訳です。

最近、時計業界のほとんどの人がポール・ニューマンのポール・ニューマン デイトナに羨望の眼差しで見ているなか、わたしは別の時計を夢見ている。誤解を恐れずに言えば、ポール・ニューマンのポール・ニューマンは、ほとんど定義上、最もクールなコレクターズウォッチだろう。ポール・ニューマンがいたからこそ、ヴィンテージロレックスのマーケットがあるのだが、私にとってはデイトナよりもずっと魂に響く時計がもうひとつある。それは、ジャクリーン・ケネディ・オナシス(第35代アメリカ合衆国大統領ジョン・F・ケネディの夫人)が愛用したカルティエ タンクだ。

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jackie o watch

1962年に製造され、1963年にジャクリーン・ケネディに贈られた「ジャクリーン・ケネディ・オナシス カルティエ タンクウォッチ」。

 ポール・ニューマンのポール・ニューマン デイトナと同じように、ジャッキーの(そう、わたしのなかではもうファーストネームで呼び合っている)カルティエ タンクは、時計そのものというよりも、その時計が象徴する人物と時間について考えている。ニューマンは無骨なハンサムで実直なタイプ。娘のボーイフレンドにプレゼントするまでは、そのデイトナを毎日、何気なくつけていたそうだ。彼はこの時計を、時間を知るため、そしてカーレースのタイムを計るために使っていた(実際、時計はそのためにある)。同様に、ジャッキー・Oも時間を知るための手段として、またセンチメンタルな理由から、それに彼女のオーバーサイズのメガネとピルボックスハットに似合うという理由から、腕時計を身につけていたようだ。

 カルティエのタンクは、最もエレガントなデザインの時計であり、最も認知度の高い時計のひとつであることは周知の事実だ。そして、ジャッキー・Oが象徴的な女性のひとりであることも周知の事実である。実際、彼女が最も象徴的な女性であると主張する人もいるくらい(咳払い、私だけど)。

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ジャクリーン・ケネディ・オナシス、そのひと
Jacqueline Kennedy Onassis wearing her Cartier Tank

カルティ エタンクを身につけるジャクリーン・ケネディ・オナシス。

 ジャクリーン・ケネディ・オナシス(旧姓ブーヴィエ)は、1929年、ニューヨーク州サウサンプトンに生まれた。妹のキャロライン・"リー"・ブーヴィエとともに恵まれた家庭で育ったが、両親は1940年に離婚。ジョージ・ワシントン大学(ヴァッサー大学から編入)を卒業し、ワシントン・タイムズ・ヘラルド紙のカメラマンとしてワシントンD.C.に住み、仕事をするようになった。

 1952年5月、ディナーパーティーでジョン・F・ケネディ下院議員に出会ったのはこの頃。ケネディはその後、その年にマサチューセッツ州の上院議員になり、ジャッキーにプロポーズした。1953年に結婚。1961年、JFKは大統領に就任し、ジャッキーはファーストレディとなった。ジャッキーは、個人的な苦難を抱えながらも、エレガントで落ち着きがあり、話好きな人だった。ふたりの結婚生活は完璧とは言い難いものだったが、それは本が書かれるほどのラブストーリーでもあった。しかし、1963年11月22日のJFK暗殺により、彼女の人生は悲劇的で予期せぬ方向へ向かっていく。

Jacqueline Kennedy watch inscription

ケースバックには、"Stas to Jackie / 23 Feb. 63 / 2:05 AM to 9:35 PM."(スタスからジャッキーへ/63年2月23日/午前2時5分から午後9時35分まで)と刻印がある。スタスは、スタニスラフ・ラジウィル王子のこと。

 暗殺後、ジャッキーはキャロラインとジョン Jr.を育て、20世紀最大の海運王と呼ばれたギリシャのアリストテレス・オナシスと1968年に再婚した。その後、ジャッキーが生涯を通じてスタイルアイコンとして、また最もシックな女性のひとりとして知られるようになったのだ。常にクラシックで流行を追わず、アメリカングラマーを体現した彼女のスタイルは、現在も色あせることはない。彼女のスタイル、強さ、そして優しさを常に尊敬してきた私にとって、かつて彼女が愛用していたものを手にすることがどれほどスリリングなことか想像いただけると思う。


時計にまつわるストーリー
Jacqueline Kennedy Cartier Tank and 50 Mile Walk

ライフ誌に掲載された「50マイルウォーク」の記事、パームビーチを歩いたときの時計とジャッキーのイラスト。

 このタンクは、当時姉のキャロライン・リー・ブーヴィエと結婚していた義兄のスタニスラフ・ラジウィル王子から、ジャッキーに贈られたものだ。一家がパームビーチで行われた「50マイルウォーク」(ジャッキーとJFKは一部のみ参加)を記念して贈られたもの。ケースバックに刻まれた文字は、“Stas to Jackie / 23 Feb. 63 / 2:05 AM to 9:35 PM”と書かれている。ミシェル・オバマの「レッツ・ムーブ」キャンペーンのように、50マイルウォークはジョン・F・ケネディ大統領がアメリカ国民に外出と運動を奨励するために始めたプログラムだった。この呼びかけはすぐに大流行となり、現在でも世界の一部で続けられている。

Jacqueline Kennedy Cartier Tank with JFK portrait

50マイルウォークは、ジョン・F・ケネディが大統領在任中に推進したものだった。

 この時計をプレゼントされたジャッキーは、それ以降常に身につけており、その様子は多くの写真に記録されている。このウォークを記念して、ジャッキーはスタニスラフ・ラジウィル王子とチャック・スポルディング(JFKの親友で、彼のために選挙活動を行い、ラジウィルとともに50マイルを完歩した)の小さな絵を描いた。私にとっては、アイスクリーム・サンデーの上に乗ったチェリーのような豪華なおまけといってもいいかもしれない。

 Jacqueline Kennedy Onassis, West Palm Beach, Florida, 1973

ジャクリーン・ケネディ・オナシス、フロリダ州ウェストパームビーチ、1973年。(写真:The Fashion Plate提供)。

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その時計、カルティエ タンク
Jacqueline Kennedy Onassis, Cartier Tank, "France" marked dial

シルバーの文字盤には、“Cartier France”のサインがある。

 時計そのものは、まさに私が夢見ていたものだ。小ぶりで経年変化したこのカルティエ タンクは、祖母のゴールドジュエリーのような親しみやすい輝きとノスタルジックな雰囲気を持っている。彼女がよく身につけていたことが時計から伝わってくるようだ。ケースは横20mm×縦28mmとコンパクト。エッジは滑らかに加工され、カボションサファイアがついたリューズはタンクとしては伝統的な形をしているが、カルティエがより幾何学的なリューズの形を試みていたこの時代には珍しい形だ。

 確認することはできないが、このタイプのケースは3個しか作られなかったという噂もある。しかし、この時代のカルティエ タンクは非常に多く存在するため、何とも言えない。私が知っているのは、どの参考書にも、クリスティーズにも、この正確な例を見つけることができなかったということ。だからこそ、これは間違いなく希少なのだ。

Jackie O Cartier Tank


Jackie O Cartier Tank caseback inscription


 文字盤は見慣れたシルバーにボールドの黒いローマ数字、針はブルースティールだ。文字盤と裏蓋に“Cartier France”のサイン、そしてケースナンバー44374が記されてる。これは通常、この時計がパリで販売されたことを意味するのだが、実際には1962年にニューヨークのブティックで販売されたもので、手巻きムーブメントにOYPの輸入印があることでさらに確認することができる。すでに述べたように、ケースバックにはスタスの筆跡と思われる「Stas to Jackie / 23 Feb. 63 / 2:05 AM to 9:35 PM」の刻印がある(かつてカルティエは購入者の直筆で刻印を施していた)。また、封筒の形をしたシャッターウォッチを作っていて、表には所有者の名前と住所が文字で書かれていた(こちらからどうぞ)。

Jacqueline Kennedy Cartier Tank Closeup

時計は優雅に年を重ね、イエローゴールドのケースは美しい光沢を放っている。

Jackie Kennedy Cartier Tank Wrist Shot

ジャッキー・Oがリザードストラップを好んだことから、この時計には彼女が最後に着用したオリジナルのストラップが装着されている。

 しかし、この時計で最もクールなことのひとつは、ジャッキーのオリジナルのリザードストラップが残っていること!  このストラップを最後に触ったのはジャッキー本人かもしれないのだ。

 このように、この時計は手に持っても見ても素晴らしいものであったことは言うまでもない。ジャクリーン・ケネディ・オナシスのような人物が所有していた時計に出会うことは、私の腕につけることはおろか、非常に稀なことなのだ(!)。この時計と彼女が描いた絵は、6月21日にニューヨークのクリスティーズで売りに出される予定だ。エスティメートは6万ドルから12万ドル(編集注: オークションはすでに終了。落札額は37万9500ドル、約4380万円。落札者はあのキム・カーダシアンだ)。この時計は、ポール・ニューマンのポール・ニューマンよりシンプルなものかもしれないが(結局はただのヴィンテージタンクなのだが)、それでも誰もが共感できる素晴らしい個人との不思議な結びつきがあるものなのだ。