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Buying, Selling, & Collecting 商業的なコンプリケーション パテック フィリップ5035アニュアルカレンダー

真に現代的なコンプリケーションの誕生。

90年代ウィークへようこそ。このウィークでは、その10年間で最も魅力的な(そして最も過小評価されている)時計と、20世紀末を特徴付けたトレンドとイノベーションを再考していく。ダイヤルアップ接続を行い、クリスタルペプシ(無色透明のコーラ)を手に取ろう。

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今週のテーマから察していただけると思うが、90年代は時計メーカーにとって奇妙な時代であり、多くのブランドが振り出しに戻らざるを得ないような時代だった。クォーツクライシスを乗り越えたように見えたブランドでさえ、特にコレクターとして幾分熱意を失った顧客に直面していることに気づいた。時計業界では最も崇高なブランドとされるパテック フィリップも例外ではない。次に何をすべきか、どうすればより多くの、より商業的に価値ある顧客をひきつけられるかを、すぐに検討する必要があった。時計製造が限界まで弱体化した時代を経験し、再び今、現金を持って戻ってきたような顧客をだ。

the patek philippe 5035

1996年当時の5035の画像 © Europa Star

 そこで90年代初頭、パテック フィリップは自社のラインナップを見直した。ベーシックなカラトラバが約9000ドル、3940のような永久カレンダーが4万5000ドルで、そのあいだに何か穴があると考えたのである。そこでパテック経営陣は、永久カレンダーほど高価でない実用的な複雑機構が必要だと考え、穴を埋めるために、年次カレンダー搭載の腕時計というまったく新しいものを作り出した。

 そう、年次カレンダーは、ルイ・ブレゲや懐中時計、経度問題といった過去の時代までさかのぼることはない。それどころか、このカレンダー機構は、NINTENDO 64やDVD、Ask Jeeves(英語の検索エンジン)、そして『インデペンデンス・デイ』(Independence Day)やアラニス・モリセット(Alanis Morisette)の『Ironic』といったポップカルチャーと同じぐらいの歴史しかないのだ。具体的には、パテック フィリップが1996年のバーゼルフェアで発表したのが、年次カレンダー腕時計の最初とされている。

a patek 3940 QP

パテック フィリップ 3940 パーペチュアルカレンダー

 特定の価格帯で特定の購買層向けに作られた複雑時計であるにもかかわらず、初の年次カレンダー腕時計、Ref.5035は、ムーブメントの設計とパテック フィリップの商業的成功において大きな功績を残したと言うほかはないだろう。新しい領域を開拓するために、ブランドは新しい時計を必要としていた。5035は、複雑な時計製造の輝きを持ちながら、古典的なハイエンドの複雑時計よりも大幅に低いプライスタグを提供した。

 どういうことかというと、まず年次カレンダーコンプリケーションの理想を説明する必要があると思う。カレンダーコンプリケーションは、多くの派生商品のひとつだが、月ごとのカレンダーの非対称性を考慮して、どれだけムーブメントを修正する必要がないかに大きな注意が払われている。皆さんもよくご存じのように、ひと月はすべて同じ日数ではないし、それから閏年の威力も忘れてはいけない。

 日付表示付きの腕時計は、月ごとに31日を記録することができるが(おそらく曜日表示も)、31日未満の月については何らかの調整が必要になる。さらに複雑なのは、伝統的なトリプルカレンダーでは月、日、曜日を表示することができるが、日付だけの腕時計と同様に、曜日と日付の表示にも調整が必要なのだ。

a Patek Philippe 5035 Annual Calendar

プロゴルファー、グレッグ・ノーマン(Greg Norman)が所有したパテック フィリップ 5035年次カレンダー。

 ここでパーペチュアルカレンダー(永久カレンダー)の話に飛ぼう。30日しかない4つの月だけでなく、閏年の周期や、2月が28日か29日であることに関係した計算もできるのだ。パーペチュアルカレンダーは素晴らしく複雑だが、その分高価であり、万が一、現実との乖離が生じた場合(巻上げを怠った場合など)、しばしば、カレンダーの多くのポイントをリセットする煩わしい作業を必要とする。そこで登場したのが、年次カレンダーである。

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 年間カレンダーでは、基本的に永久カレンダーの閏年や2月のグレゴリオ暦の煩わしさを考慮する必要がなくなる。30日の月を自動的に調整可能だが、2月から3月になったときに積極的な調整が必要になるカレンダー機構だ。技術的なレベルでは、年次カレンダーはQP(永久カレンダー)よりもかなりシンプルで、したがって製造コストもかなり低くなっている。エンドユーザーにとっては、年次カレンダーは設定も簡単だ。頻繁に着用する人にとっては、2月末の日付調整は、QPが腕にもたらすものとほぼ同じようなユーザー体験における小さな妥協点だと思われるだろう。

 フル装備のQPがカレンダーの王者であることに変わりはないが、1996年に登場したパテックの年次カレンダー・コンプリケーションは、コスト重視で永久カレンダーを買えない人々や、3針カラトラバ以上の高級時計が欲しい人々に、複雑なカレンダーウォッチを提供することを可能にしたのだ。

the case back of a 5035

315 S QAが覗くパテック フィリップ 5035アニュアルカレンダーのケースバック。 Photo courtesy of Christie's

 発売当時、特に複雑な貴金属時計は好意的には見られなかったバーゼルワールドにおいて、パテックは5035のファンファーレを楽しんだ。当時は売上が落ち込んでおり、安全なのはスティール製の時計だけだった。1996年にEuropa Star社が発表した数字によると、1995年の最初の4ヵ月間のスイス時計市場の輸出が1.9%減少したにもかかわらず、スティールウォッチだけは48.6%の増加を記録している。

 この頃、パテック フィリップはフィリップ・スターン(Philippe Stern)氏によって運営されており、彼は、同業者や競合他社の多くがキャッシュを得るため一刻も早く複雑機構で高級化を図ろうとしていた時代に、ブランドの舵取りをするという気の重い仕事を担っていた。その結果、スターン氏は、独占性を損なう長期的な見通しに目を向けない人々の行動への対応として、複雑時計の生産を削減した(これも、1996年に5035の発売に合わせてEuropa Starがスターンのプロフィールで報じたものだが、こうした戦術は聞き覚えはないだろうか?)

当時は、パテックがこのような時計を作るのを相応しくないと思っていた人たちもいた。

– ベン・クライマー

 市場の需要を満たすために、スターン氏自身の言葉を借りれば、この「実用的なコンプリケーション」、すなわち5035年次カレンダーとその自動巻きキャリバー315 S QAが完成したのだ。パテックの研究開発チームが自社で設計したこの315は、基本のデイトコンプリケーションから年次カレンダー機能を派生させることに成功した。これは注目に値する。

 Europa Star (1996年 218号)やCollectabilityのパテック フィリップの年次カレンダーに関する優れたタイムラインで言及されているように、315のデザインは、(QPのような)複雑なカレンダー機能によく見られるカム、ジャンパー、レバーを車輪とピニオンに置き換えようとしたものだった。そのため、315のカレンダー機能は、2本の爪で日付を進める24時間ホイールを使用している。1本の爪は31日の月に対して有効で、もう1本は4月、6月、9月、11月に対して有効になっている。

 30日の月は、時間が来ると、約4時間かけて30→31→1へと進む仕組みになっている。カレンダーの設定もいたって簡単で、ケースサイドにフラッシュ状にセットされた3つの調整装置で、日付、曜日、月の表示を必要に応じて(理想は3月1日だけ)繰り上げることができるのだ。興味深いことに、315は(針ではなく)6時位置の開口部によって日付を表示するように設計されており、またセンターセコンドと24時間サブダイヤルを日付のすぐ上で管理していた。

the 5035's movement

5035のキャリバー315 S QA分解図。 © Europa Star

 5035についてコレクターの見方を尋ねたところ、「これは、80年代から90年代にかけて行われた、高級時計の商業化のステップのうちのひとつだった」とベン・クライマーは言った。「年次カレンダーは、非常に複雑な機構として紹介されたが、確かにシンプルなカレンダーに比べればそうだ。 しかし、あらゆる面でフルのパーペチュアルより数段劣る」

 興味深いことに、永久カレンダーよりもシンプルで製造が容易なムーブメントであるにもかかわらず、315は3940のムーブメントよりも多くの部品を必要とし、これらの機能すべてが幅37mm、厚さわずか11mmのケース内に集約されている。ディスプレイケースバックの5035は、やがて通常の貴金属製モデルも登場するようになるが、スティール製は存在しなかった。パテックマニアは、文字盤のローマ数字に「IIII」ではなく「IV」が使われていること、さらなるマニアは夜光針と数字のインフィルが含まれていることに注目することだろう。

 確かにクラシックで伝統的なレイアウトではあるが、特に当時のハンサムな兄弟モデル、3940永久カレンダーと比較すると、5035はパテックの最も成功したダイヤルデザインのひとつではなかったと、僕はあえて言うだろう。美しいケースに収められた5035は、中央のダイヤルの高い位置に曜日と月のサブダイヤルがふたつ、ダイヤルの下半分の中央に小さな24時間ダイヤルがあり、さらにダイヤルの6時位置の端に日付のための基本的なカットアウトがセットされていた。

a 5035 in white gold

サーモン文字盤でホワイトゴールドの5035。 Photo: courtesy of Christie's 

 前述したように、90年代後半に3940が4万5000ドル程度だったのに対し、5035は1万7500ドルから(Collectabilityによる)購入できた。フラッグシップの複雑時計の生産を制限する計画とともに、5035はパテック フィリップの新しい道を切り開いた。伝統的なスイス時計製造と1990年代における商業化の必要性の高まりを融合させたのである。

 その昔、5035の発売は大きな話題となった。スターン氏自身、1996年を「パテック フィリップ史上最高の展示会」(Europa Star1996年218号)と呼んだ。それから間もなく、5035は『Montre Passion』誌の「スイス・ウォッチ・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。

a patek philippe 5036

パテック フィリップ 5036 アニュアルカレンダーの一例。 Photo: courtesy of Antiquorum 

 1998年になると、Ref.5036にはパワーリザーブ表示とムーンフェイズが追加された。5035は2004年末に生産が終了し、2005年に5146に置き換わった。5146は同様の、より洗練されたデザインと39mmのケースサイズにアップデートされたモデルだ。

 以来、パテックは年次カレンダーを採用し続けた。深くクールなRef.5960に触れずにこのような話を書くのは難しい。5960は、カレンダーコンプリケーションにフライバッククロノグラフを組み合わせ、非常にスポーティな外観に仕上げている。2006年、5960と同時に発表されたのが、Ref.5396である。5396は、年次カレンダー機能を搭載し、カラトラバ・ケースを中心に、文字盤には曜日と月の2つの小窓、そして6時位置に日付の小窓を配した非常に豪華なモデルだ(3448からの明らかなインスピレーションに加え、5035へのオマージュが込められていると僕は考える)。

a patek 5960

パテック フィリップ5396アニュアルカレンダー(左)と5960年次カレンダー・クロノグラフ(右)。

 5035はパテック フィリップにとって、その昔大ヒットしたモデルだが、現代のコレクターにはどのように映るのだろう? 実のところ、ややバランスの悪いダイヤルデザイン、そしてハイエンドウォッチメイキングの高級品を身近なものにしたこのモデルの力を考慮すると、5035に関しては、コレクター市場は安定しているものの、決して熱狂的とは言えない状況だ。

 現代の価格設定は2万5千ドルから3万5千ドル(約340万円から478万円)の範囲であり、レガシーオークションの実績も同様のデルタを支持するだろう(ただし、インフレに対する認識補正はない)。もしあなたが鋭いなら、僕のお気に入りモデル、ホワイトゴールドにサーモンダイヤル(上の写真)か、うまくマッチしたシルバートーンダイヤル(下の写真)を見逃さないで欲しい。

a patek philippe 5035

ホワイトゴールドの5035G-039。シルバー文字盤にホワイトメタルのアクセントが効いている。 Photo courtesy of Bonhams 

 ピークバリューに近いものをお探しなら、2014年当時、クリスティーズはシンガポールの小売店「Sincere Watch Limited」の50周年を記念して、2004年製18Kホワイトゴールドの5035スペシャルエディションを出品していた。バイヤーズプレミアム前の現代に換算するとおよそ5万5000ドル(約759万円)で落札された。

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 これは確かに元のリスト価格から上昇しているが、僕は5035は、ヴィンテージやそれに近いパテック フィリップのほかの複雑機構モデル(新品は言うまでもなく)のような価格の上昇を甘受していないと言っていいと思う。そして、僕たちが上記で取り上げたことを考えると、本当にそれは理にかなっていると思う。

a patek philippe 5035

 90年代の変化に対応するためのマーケティング的妥協の産物として、5035はパテックにとって革新と創造の重要な時期を作ったが、それは同時に、時計愛好家の旧勢力が新しいオンラインの世界へと移行しつつある時期でもあった。

 この20年余りのあいだに、世界的に時計に対する熱意が高まり、パテック フィリップのようなブランドにとって、5035の妥協は、特に純粋主義者の観点からすると、想定外だと感じられるかもしれない。「当時は、こんな時計を作るのはパテックらしくないと感じる人もいた」と、ベン・クライマーは当時のことを話してくれた。そのことを理解した上で、僕は純粋主義者でない立場から、5035は知るべきリファレンスであると思うし、その時代のシグナルとして、また技術的な達成として、価値を求めていいと思う。

an ad for the 5035

 また、HODINKEEの卒業生で、パテックにこだわるCollectability.comの運営者であるジョン・リアドン(John Reardon)氏に話を聞いた。「5035は、当初は収集家のあいだで"衝撃と畏怖 "をもって迎えられました。しかし、すぐにパテック フィリップの定番となり、ほぼ10年にわたり生産され続けました。それはよく熟成され、いまや外観的にも機械的にも、最も1990年代的デザインのひとつとして認識されています。興味深いことに、価値という言葉はRef.5035と同義語になっています。5035は25年前と同じように、今日もなお、その価値を保っています」

 5035が最初にリリースされたとき、パテック フィリップは、外部の複製からデザインを保護する25年間の特許(番号CH685585G)を付与された。しかし、このようなことはよくあることで、他ブランドはすぐに、パテックがオリジナルの複雑機構について行った方法を回避しながら、機能を複製する方法を発見したのである。今日、年次カレンダーはA.ランゲ&ゾーネ、IWC、F.P.ジュルヌ、ロレックス、ブランパン、ユリス・ナルダン、そしてノーチラスのコンプリケーションとして2022年の Ref.5326Gに搭載されている。また、グランドコンプリケーションの一部としてパテック フィリップのRef.5033 ミニッツリピーターにも使用されている。

 最初の特許が成立するまでのわずかな期間に、便利で手頃な価格の複雑機構というアイデアが、高級時計業界をはじめ、さまざまなブランドにとって魅力的であることが証明されたのだ。5035は、90年代にはパテック フィリップにとって奇妙な商業的行動に見えたかもしれないが、その技術的完成度、業界のリーダーシップ、そして年次カレンダーの革新による市場効果は、26年経った今でも非常に高いブランド価値を感じさせるのだ。

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