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Hands-On エルメス スリム ドゥ エルメス GMT

エレガンスと斬新さを兼ね備えた遊び心あふれるトラベルウォッチ。

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腕時計の複雑機構の中でもGMTは重要な要素のひとつだ。実用的でありつつ、エビエーションへのロマンを湛えたこの機構が世に出てから半世紀以上が経った。わたしは、GMTとシンプルなデイトとクロノグラフが複雑機構の神聖なる三位一体のようなものだと思っている。意外だと捉える向きもあるかもしれないが、エルメスがスリム ドゥ エルメスコレクションでGMTモデルを展開するのは時間の問題だった。エルメスらしいルックスを持つ本機は、従来のGMTとは全くの別物だ。タイムゾーンのディスプレイは類まれなる遊び心に満ちている。万人受けはしないかもしれない。でも好みにあえば最愛の時計になるだろう。


フィリップ・アペロワによる特徴的なフォントデザイン

基本的なスペックは数年前からカルトクラシックとして地位を占めているスリム ドゥ エルメスとほぼ同じだが、ムーブメントがアップデートされ、合わせて文字盤も新しくなった。

ケースは直径39.5mm、厚さ9.48mmで誰の腕にもほぼ完璧に映えるプロポーション。(大きからず小さからず調度いい) “ゴルディロックス”なケースサイズといえるだろう。素材は希少で軽量なホワイトメタルのパラジウムで、プラチナとも思わされる外観だ。時計に使われることは稀だが、多くの面で他の時計と異なるこの時計にはふさわしいと思う。

エルメス スリム ドゥ エルメスGMT。

ムーブメントはキャリバーH1950でGMTモジュールが追加されている。これは時刻表示のみのスリム ドゥ エルメスに使われているものと同じベースムーブを用いている。キャリバーの厚さはわずか2.6mmで本機 (厚さ9.48mm) の名前の所以となっている。スリム ドゥ エルメスの新バージョンである本機には、日付およびナイト&デイ表示、第二時間帯表示用のサブダイヤルのモジュールが加わっている。このモジュールによりムーブメントが1.4mm厚くなり、厚みの合計は4mmになった。エルメスのムーブメントで特筆すべきなのは、それがインハウス製だということだ。実はエルメスは、2006年にムーブメントメーカーであるヴォーシェ (Vaucher)の株式の25%を取得し、ETAムーブメントの使用を止めている。それが高級メゾン・エルメスにとっての分岐点だったのだが、それについてはまた改めて触れたい。

インハウス製キャリバーH1950は、オリジナルのスリム ドゥ エルメスと同じムーブメントだが、GMTモジュールが加わっている。

この時計の最大の特徴は、言うまでもなく文字盤だ。エルメスはデザインに対する美意識を、このレイアウトに存分に注ぎ込んでいる。本機最大の個性は、フィリップ・アペロワ (Philippe Apeloig) がスリム ドゥ エルメスのためにデザインした特徴的な時刻表示の数字だ。ここではアワーマーカーに加え、2つめのタイムゾーンを示すサブダイヤルにもこのフォントが使われている。

ご覧の通り、このサブダイヤルは少しばかり個性的だ。数字は普通の順に並んでいるが、通常の時計の文字盤とは異なり、周囲をぐるりと囲んではいない。文字盤上に左右非対称に散らばるように配置され、最初は少し読みづらい。初めのうちは落ち着かなかったものの次第に馴染んできた。さらに6時位置に日付のサブダイヤル、ローカルおよびホーム (LとH) タイムのナイト&デイ表示がある。

新しいGMTモデルには、オリジナルのスリム ドゥ エルメスと同じくフィリップ・アペロワによるフォントが使われている。

文字盤全体は、この時計にとても良く似合うスモーキーグレーだ。標準モデルのスリムには、いくつかカラーバリエーションがあり単色の文字盤を採用している。スモーキーグレーの文字盤は2つの部分から成り、外側がスモーキーである一方、中央部分はソリッドな色合いだ。このバージョンは、90本限定でエルメスブティックでのみ販売される。ただしオリジナルのスリムがヒットしたことを踏まえると、GMTモデルは近い将来もっと発売されるだろうと私は確信している。

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レビュー

腕に着けてみるとドレッシーかつ快適である。

最初にスリム ドゥ エルメスGMTを見たときの印象は、それほどでもなかった。私はオリジナルモデルが大好きで、近年作られた3針時計の中でもベストのひとつだと思っている。美しく、身に着けやすく、面白みがあり、洗練されていて、腕時計マニアの批評に耐えうるだけの時計としての力がある。GMTはオリジナルのようにフィットし (ちょっと厚みは増えたけれど)、同じような着け心地で、斬新なエネルギーを備えていた。ただしこちらには非常に便利なGMT機能が付いている。個人的にはこれが最高に使いやすくてとても気に入っている (まだ自分用には持っていないけれど)。

オリジナルのスリム ドゥ エルメス 。

はっきり言ってしまおう。これは万人向けの時計ではない。非常にデザイン重視の、個性満載の時計だ。

本機は、アペロワ氏への、また広範な意味でエルメスが象徴するものへの想い入れがある人のための時計だ。しかし時計であるからには実用的でなければならない。数日間身に着けてみて分かったのだが、慣れると着けるのも使うのも案外ラクだった。初めのうちは、別のタイムゾーンの時刻を読むのに相当手こずることだろう。しかし実際どうだろうか。本来、時刻を読むのに数字がきれいに並んでいる必要などない。針の配置はかなり見やすい。10時位置のボタンで別タイムゾーンを設定するのも簡単で、これも絶対にプラス材料だ。しかし、別タイムゾーンの針が反時計回りに回るのは特殊で、これには少し慣れが必要だろう。

日付とホーム/アウェーのナイト&デイ表示も便利で、見せ方も上手。しかし、恥ずかしながら私 (と匿名希望の同僚数名) は、一体LとHって何なのかと何分間も考えてしまった。フランス語の何かだろうか?  Lune (月)か?  Heure (時)か? ノンノン、なんのことはない、ローカル時刻とホーム時刻だった。ハイエンドメゾンだから何か奥深い解釈があると思いきや、地に足のついたアプローチをするエルメスは珍しいので、逆に親切感をもたらしてくれる。(深掘りが職業病になっている)

第二時間帯と日付用にサブダイヤルが2つあり、ローカル/ホームタイムのナイト&デイ表示も付いている。

この腕時計を身に着けることそのものが特別な楽しみとなった。スモーキーグレーの文字盤は控えめかつエレガントで、先に述べた通り、慣れると時刻も読みやすい。別タイムゾーン用の風変わりな数字は、確かに使う人の雰囲気を選ぶが、しばらくしたら私はかなり気に入ったし、普通のGMTではないものを身に着けられるのはいいものだ。着け心地は快適で、ストラップはもちろん名高いエルメス製のアリゲーターストラップだ。

この時計は着けやすく、ほぼ何にでも合わせやすい。もちろんドレスウォッチとしてもいいし、カジュアルな場面でも着けられる。グレーの文字盤と、同じくグレーのストラップが本機の美しさに真面目な雰囲気を添えているため、スーツにも合うし (スーツを着る人の場合だが)、Tシャツやジーンズやスニーカー (私が好きなユニフォームはこっち)にも合わせやすい。しかしこの腕時計の一番いいところ、それは、個性を主張しながらもうるささを感じさせない点だ。会社で私を呼び止めてその時計は何かと聞いた人たちは、いつものロレックスやロイヤル オークじゃないのか、と驚き称賛した。この腕時計には好奇心をそそる何かがあり、私はそれが気に入っている。声高に主張しないのに会話のきっかけになるからだ。

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考慮すべきこと

旅の最高のパートナーだ。

この腕時計が万人受けするものではないと書いたが、「誰にでも着けられるわけではない」ことが理由ではない。誰にでも着けられる時計だ。要は着ける人の雰囲気を非常に選ぶデザインだということだ。初めての時計には向かないし、道具としての腕時計を求める人にも向かない。ただし年季の入った腕時計好き、美しいものを愛し、非凡なものを見抜く目があるには向いている。エルメスは常に独自のルックスと個性を備えた特別な製品を生み出しているが、スリム ドゥ エルメスGMTも例外ではない。

スリム ドゥ エルメスGMTは万人のための時計ではない。

この腕時計が大切にしているのはルックスと美であり、インハウスムーブメントも素晴らしい。しかし私は、文字盤ディスプレイの特異さにより注目している。風変わりなサブダイヤルが成功している例は珍しい (私の個人的な第一位はランゲ1) 。エルメスがここに挑んだことは新鮮だった。同社は、前例のないほどヒットしている当コレクションにこのデザインを組み込み、すばらしい成果を挙げたのだ。

ジャガー・ルクルト マスター コントロール ジオグラフィック。

この時計を着けた気分は特別なものだった。エルメスの製品にはどれもこうした特別感がある。ディテールはすべて吟味しつくされ、美しいオブジェとなるようデザインされている。スリム ドゥ エルメスGMTもその例に漏れない。確かに数字のレイアウトには私も手を焼いたが、ゴージャスなトラベルウォッチを着けて最高にシックでいられるなら、そんなのは些細なことだ。

それに、ドレッシーなGMTは市場に大きく空いていた穴だった。見渡してみても、この価格帯のデュアルタイム/GMT/ワールドタイム腕時計はわずかしか見当たらない。一番目立っているのはジャガー・ルクルト(以下JLC) マスターコントロール ジオグラフィック (税抜100万4000円) で、伝統的な文字盤レイアウト (自動巻きムーブメントも) が採用されている。必ずしも1対1で比較されるようなものではないが、両方に興味を持ってどちらかを選ぶ人がいるだろうと想像できる。

カルティエのロトンド ドゥ カルティエ レトログラード式 2タイムゾーン。

比較対象になる時計はないかとカルティエも覗いてみたら (覗くなら当然ここでしょ?) 見つけた! ロトンド ドゥ カルティエ2タイムゾーン。42mmのスチール製のケースで価格は98万4000円(税抜)だ。この時計の文字盤レイアウトはある意味エルメスと似ていて、ちょっと変わったレトログラード表示とナイト&デイ表示がついている。JLCやスリム ドゥ エルメスGMTと似た雰囲気だが、エルメスのようなひねりのあるデザイン性には欠ける。またサイズも大きく、搭載するムーブメントは自動巻の1904-FU MCだ。私的には、カルティエやJLCより価格が高いものの、ここでもやはりスリム ドゥ エルメスGMTの勝ちだ。

スモーキーな文字盤が本機にはふさわしい。

本機の価格はかなり高めの167万円(税抜)だ。オリジナルのスリムが約80万円だから、タイムゾーンを追加しパラジウム製のケースにしたことで価格がおよそ2倍になったわけだ。製造もデザインも極めて優れたコンプリケーション時計を、世界最高の高級ブティック兼デザインハウスであり過去数十年にわたって興味をそそる時計の製造に注力してきたメゾンから買うのだ。ロレックスのGMTマスターII (税抜88万8000円) よりも約70万円高い。しかしやはり、スリム ドゥ エルメスは全くの別物である。世界有数のラグジュアリーメゾンが手がける実用的なトラベル機能付きドレスウォッチであり、インハウス製でもある本機は注目に値する真に特別な腕時計といえる。

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結論

デザインと美を愛する人なら最愛の一本になるだろう。

本機に対する結論-私は非常に気に入っている。着けやすく使いやすく、腕にとても映える。ラグジュアリーなトラベルウォッチとして考えると値段も適切で、市場のすきまを上手く埋めている。過去数年ドレッシーなトラベルウォッチはあまり発売されていなかったが、エルメスならこれを作るブランドとしてこれ以上ないほど適任だ。さらに、この時計は新たなコンプリケーションとして、スリム ドゥ エルメス コレクションの一角を担っていくと思う。今後エルメスがこの人気コレクションにどんな新作を加えてくるか気になるところだ。

エルメス スリム ドゥ エルメスGMT 価格167万円(税抜)
90本限定リミテッドエディション

詳細についてはエルメス公式サイトへ