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Hands-On ランゲのツァイトヴェルクを理解しているつもりだったが、それは大きな間違いだった

絶対に好きになれないと思っていた時計が、なぜ、過去と未来が交差する時計づくりの私的な尺度となったのか?


 数年前、私は当時付き合っていたガールフレンドを引きずってフィリップスのオークションプレビューに参加した。お決まりのレアな時計、それよりは珍しくないが、私にとっては初めてとなる愉快でレアなレインボーデイトナなどを見ながらぶらぶら歩いていたが、私はより珍しい時計がたくさん並んでいるケースの前で立ち止まった。

The A. Lange & Söhne Zeitwerk watch sitting on a camera strap next to a Leica camera and a book

 「ほら、これ。A.ランゲ&ゾーネのツァイトヴェルクだけど、本当に気に入らないんだ」と言い、私はこの時計の歴史、ドレスデンのゼンパー・オーパー(オペラハウス)の時計について、そしてこの時計の存在と特異な美学にまつわるすべての根拠を説明した。私の反応は、2009年にこの時計が発売されたときの一般の人々と同じだった。ランゲのような伝統的なブランドとしてはもちろん、どんなブランドにとっても珍しい時計であり、世界的な不況のなかで豪華さを誇示するものだったのだ。それから数年後、我慢強い元カノの目は明らかに疑っていたものの(私は気づかなかったが)、私は伝統的な時計を偏愛するあまり、「あの時計が好きになるとは考えられない」とだけ言ったのである。

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 数年経って賢くなった私は、特にツァイトヴェルクを含め、かなり多くのことについて認識が間違っていたことに気がついた。

The Lange Zeitwerk laying on a table

 幸運なことに、私はこれまでに多くの時計に触れ、机上の知識だけでなく実体験に基づいた見解を持てたことで、ツァイトヴェルクがなぜランゲの憧れのモデルとして高い評価を得ているのかがわかってきた。これほどまでに、じっくりと時間をかけて楽しみたいと思える時計はほかにない。この時計は、すべての人の足を止めてしまうような時計なのだ(実際、ランゲを愛するHODINKEEのスタッフに話しかけると、皆、自身で実際に触ってみたいがために集まってきた)。だが、この“ハンズオン”の機会に私は気後れしてしまい、この記事を書くことを長いあいだ避けていた。

 最新世代で何が違うのか、そのハイライトをお届けしたいと思う。これは詳細な歴史や“リファレンスポイント”記事ではなく、最新のツァイトヴェルク、特にピンクゴールドケースにブラックダイヤルを持つRef.142.031を着用した、極端な主観を含むレビューだ。ケースと色の組み合わせは素晴らしいが、オリジナルのツァイトヴェルクをはじめ、ルーメン、デイト、デシマルストライクなど、長年にわたってさまざまなモデルを愛用してきたファンにとって、最新のツァイトヴェルクは大きな違いを感じさせるものではないかもしれない。

 確かに、ピンクゴールドとブラックの組み合わせは、ツァイトヴェルク・ハニーゴールド “ルーメン”を手に入れられなかった人への(やや弱い)気休めのようなものだろう。だが、このモデル単体で見れば、オリジナルから今日のツァイトヴェルクまでの13年間にランゲが繰り返し行ってきた改良を結集した、素晴らしい時計であることに変わりはない。2009年と現在では、その差は歴然としている。その違いを見るためには、(私がよくやるように)まずムーブメントを見ることから始めなければならない。そして着用感についてのレビューを約束した以上それには触れるつもりだが、この先、難解でマニアックな時計用語が飛び交うかもしれないので、注意して欲しい。

The digital time telling display on the Lange Zeitwerk

ランゲ ツァイトヴェルクのデジタル時刻表示。1桁目と2桁目のあいだにある縦間隔は極わずかだ。

 外見が複雑な時計の機能に関しては概念的には理解できる。ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー、ラトラパンテなどの時計は、そのデザインと機能から、いかに複雑な時計であるかがよくわかる。だが、ランゲのツァイトヴェルクにおける独創性は、白黒のわかりやすい数字の集合によるデジタル表示というツァイトヴェルクの時刻表示機能が、文字盤の下にある驚くべき複雑な時計製造技術を覆い隠しているところにある。この時計を一般の人に見せることを想像してみて欲しい。“ベッドサイドに置いてあるデジタルフリップクロックのようなデザインのディスプレイを持つ時計が、果たしてどれほど複雑なの?”というのが大方の反応になるだろう。ではその答えは? “信じられないほど(複雑)”だ。

A wide view of the new Zeitwerk movement

新しいツァイトヴェルクのムーブメントの全体像。

 昨年10月に新しいツァイトヴェルクが発表されたとき、ローガンはそれら改良点の多くを見事にまとめてくれた。ツァイトヴェルク・デイトとルーメン(例えば、ルーメンの半透明な文字盤に対応するために必要な修正など、細かな変更点については、それぞれのムーブメントにサブネームが付けられている)に搭載されている新しいL043は、パワーリザーブが従来の36時間から72時間へと倍増し、オリジナルモデルよりも大幅に向上している。オリジナルモデルは42mm×12.6mmと、複雑時計としては比較的スリムなサイズだが、これまでのパワーリザーブは(今にして思えば)かなり物足りない印象があった。しかし、従来の腕時計のように2本の針をゆっくりと動かすのではなく、デジタル表示のひとつ、ふたつ、あるいは3つを瞬時に正確に動かすために、どれだけのパワーを蓄え、解放しなければならないか想像してみて欲しい。

 そのために、どちらの時計もルモントワール(主ゼンマイのトルクを一定の力で脱進機に伝える機構)にパワーを蓄え、放出することに頼っている。新しいツァイトヴェルク Ref.142.031では、0.4mmという薄さを実現しながら、ほぼすべての機能を向上させた。

The old remontoire bridge of the Zeitwerk

オリジナルツァイトヴェルクのルモントワールブリッジを拡大したところ。

The new remontoire bridge

新しいツァイトヴェルクのルモントワールブリッジ、きれいに整えられ、明るく輝いている。

 ルモントワールブリッジをひと目見ただけで、新しいツァイトヴェルクは何かが違うと感じられるだろう(友人に頼んでオリジナルのツァイトヴェルクをオフィスに持ち込んでもらい比較することができれば、より明白だ)。オリジナルのツァイトヴェルクでは、伝統的な錨型の底部を持つ“ねじれた”ブリッジが、(ほかの修正も含めて)よりクリーンでスマートな直線的ルモントワールブリッジに変更された。伝統主義者のなかには、オリジナルの侘び寂びを評価する人もいたように思う。だが、このムーブメントの仕上げは、ルモントワール、地板、テンプ受けのエングレービング、そして内角に至るまでムーメントの仕上げが完璧かつ魅惑的で、そのファセットは私を何日も夢中にさせてくれる。いずれにせよ、形だけではない。ルモントワールのゼンマイはより薄く、テンプはより軽く、そしてムーブメントの輪列全体が最適化されているため、ルモントワールに必要な動力は少なくて済み、1万8000振動/時を維持することができるのだ。

A comparison photo of new and old Zeitwerk movements

ツァイトヴェルクの新旧(写真左が旧、右が新)ムーブメント比較写真。

 だが、そのパワーの大部分は、直列に配置されたふたつの主ゼンマイ香箱を積み重ねた新しい機構によって生み出されている。実際のゼンマイの幅を狭くすることで、香箱は垂直方向にわずかにスペースを取るだけで、ムーブメントの設置面積を増やすことなく、パワーリザーブを72時間に倍増させることができた。

The Zeitwerk display rolling over

 私の大きな指では、巻き上げや時刻合わせに際してリューズの位置が右上のラグに近いのが難点だったが、幸いにもパワーリザーブが増えたことで、この問題は解消された。そしてツァイトヴェルク最大の改良点は、クイックセットアワーボタンの存在だ。当たり前のように思えるかもしれないが、これがどれほど大きな変化であるか言い尽くせないほどである。

The button to jump the hour on the Lange Zeitwerk.

 もしあなたがオリジナルのツァイトヴェルクをお持ちで、その時刻合わせに楽しみを見出しているのなら、その心に祝福がありますように。友人のポール(Instagramの@alangejourney)が撮影のために持ってきてくれた例の時計の時刻を合わせなければならず、数時間でも時刻がずれていると、途方もなく大変な作業に感じられる。だが、新しいツァイトヴェルクは、ボタンを押すだけで1時間先にジャンプし、時間と多くのフラストレーションを軽減してくれる。さらに率直に言って、見ているだけで楽しいのだ。

The dial comparison of the first and second generation Zeitwerks

初代(写真左)と2代目(写真右)ツァイトヴェルクの文字盤比較。

 もちろん、ほかにも主に外観上の変更もある。文字盤側では、パワーが低下した際にパワーリザーブ表示に真っ赤な“警告”が表示されるようになり、各ハッシュマークは残存パワーが2倍であることを表している。また、以前は同じ大きさだったパワーリザーブとスモールセコンドのサイズが調整され、スモールセコンドのほうがわずかに大きい。正直なところ、私はこのバランスの変化にはっきりと気づき、理解するまでに長い時間を要した。強いていえば、新しいダイヤルのほうが好きだが(ランゲファンのなかには、私が100%正しい、100%間違っているという人がきっぱり同じ数だけいるだろう)、この時計を買うか買わないかという問題になったとき、それが大きな違いになるとは信じがたく思っている。だが、時計愛好家はディテールにこだわるもので、ローズゴールドで10万1000ドル(約1340万円)、プラチナで11万2000ドル(約1485万円、前者とともに日本での定価は要問い合わせ)強の時計について語る際には、すべてのディテールが世界を変えてしまうのだ。

Case differences between Zeitwerks in profile

 文字盤の変更が私にとって衝撃的ではなかったのと同様に、時計の厚みが0.4mm薄くなったからといって、ツァイトヴェルクの魅力に突然引き込まれるようになるわけではなかった。42mm径で厚みが12.6mmであろうと、改良されて12.2mmになろうと、腕にはめると大きく重い時計なのだ。ランゲがサイズを犠牲にすることなく、技術の向上に努め続けていることには称賛を送りたい。バランスはよくなっているし(ランゲフレンドから何度も再確認させられた)、これが世界に大きな違いをもたらすとは思えないが、この価格帯ではすべての変化が重要であることを忘れてはいけない。一方で、これはウィスコンシン州の大きなドイツ系コミュニティで育った私の直感かもしれないが、サイズの変更にかかわらず、ツァイトヴェルクを身につけたときの存在感は、まさに“ドイツ的”としか言いようのないものがある。真面目なものを身につける喜びを感じさせてくれる、そんな時計なのだ。

 しかし、それは時計そのものの楽しさに比べれば、たいしたことではない。

Three different Lange Zeitwerk watches laying on a table

(写真左から順に)初代ツァイトヴェルク、最新のツァイトヴェルク、そしてツァイトヴェルク・デイトを並べたところ。デイトのほかが明らかに大きいが、それ以外にも微妙な違いがある。

 新しいツァイトヴェルクと過ごした23時間、私はそのすべてを楽しみ、あえて言えば、言葉では言い表せないほど、この時計が大好きになった。私は友人にメールをし、このような時計を持っていないことを残念に思うほど、素晴らしい時計だと伝えた。オフィスで共有したり、ワインを飲みながら身につけたりすることで、私の1日がより素晴らしいものになったのだ。リストショットを撮りたいという衝動が抑えられず、ルモントワールの魔法がかかるまでの時間を知るために秒針を見るのが楽しみだった。もし時計に感覚があるとすれば、私が何度もクイックセットボタンを押しながら、なぜ500万回もタイムゾーンを変更したのか不思議に思ったことだろう。ムーブメントの仕上げも素晴らしく、ブリッジのルモントワール仕上げとテンプ受けのエングレービングの異なる輝きがもたらす相互作用は、何日でも見ていられそうなほどだ。ひと言で言えば、時計をつけるのが楽しくなるような時計である。

All three Zeitwerk movements side-by-side

ツァイトヴェルクのムーブメントを3つ並べて比較。

 だが、このストーリーを書いているあいだにも、私をこれほどまでに引きつけた時計のどこが変わったのか、理解するのに苦労し、今でも多少の戸惑いが残っている。何しろ30数時間ごとに時計を巻き上げるのも、オリジナルのツァイトヴェルクで時刻を合わせるのも、数年前には面倒だとは思わなかったからだ。そしてほとんど気づかないほどの文字盤の変更に、強い思い入れがあったわけでもない。ムーブメントのレイアウトがもう少しすっきりしていれば…と思うようなこともなかった。どの変更も考え抜かれたもの、かつ必要なものであり、大げさなものではなく、そしてそれは軽蔑と愛情を分け分けるようなものではないはずだ。当時の私は自分の決断に必要なことをすべて知っていたつもりだったし、それを誇りに思っていた。

The Lange Zeitwerk being worn on the wrist
The engraving on the balance cock of the Lange Zeitwerk movement

テンプ受けに施された刻印がいい味を出している。

The buckle of a Lange Strap

ランゲのバックルも同様にいい。

The Lange Zeitwerk laying on a table

 だが、ランゲがもたらした変化のなかで、吐き気がするほど陳腐な言葉なので言いたくはないのだが、最も大きな変化は私自身の経験だった。ここではニーチェの言葉を引用するのが適切な気がしている。「自分の意見を覚えておくことは十分大変だが、その理由を覚えておくこともまた大変である」。そして、過去にツァイトヴェルクに対して強く感じた理由を思い出すために、戦わなければならなかったのは事実だ。時計愛好家として成長する過程で、ツァイトヴェルクは時計のなかでどのような位置を占めているのか、改めて理解することができた。同じく年月を経て、ウルヴェルクやMB&Fのような未来的なアプローチにだんだん引かれ、まるで自分が何者なのかわからず、伝統と未来というふたつの世界に足を踏み入れたツァイトヴェルクが愚かしく見えたのだ。

 それはツァイトヴェルクを伝統的な選択肢の一部としてではなく、より多くの選択肢を前にして、現代的であるためにモダンであるのだと言う私の誤解だった。私が短所だと思っていたのは、実は長所だったのだ。ツァイトヴェルクは、伝統的な時計づくりを見ることができる最も現代的なレンズのひとつかもしれない。そしてそれは決して飽きることのない見方だと思う。

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