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Introducing クレヨン エニィウェア(Anywhere)ユニバーサル・サンライズ-サンセット・コンプリケーション

クレヨンのシグネチャーであるコンプリケーションが、より新しく、より汎用的になって登場。

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複雑機構の日の出・日の入り時刻表示の導入は、メカニカル的には驚くほど簡潔であるにもかかわらず、依然として腕時計でお目にかかることはめったにない。クロックタイプの時計では何世紀も、そして懐中時計では(最も有名どころではパテック フィリップの懐中時計「スターキャリバー」や「キャリバー89」、より初期のものでは「グレーブス スーパーコンプリケーション」など)何十年も採用されてきた一方で、腕時計に導入されたのは2000年になって「ジュール オーデマ イクエーション・オブ・タイム」が初めてであり、その数カ月後にマーティン ブラウンの「イオス」が続いた(いずれも個人的にはこの20年のうちで不当に忘れ去られている時計だと思っている)

ジュール オーデマ イクエーション・オブ・タイム 画像:クリスティーズ

 日の出・日の入り時刻表示付き腕時計の根本的な問題点は、表示可能な日の出・日の入り時刻が必然的に特定の単一地点向けになってしまうことだ。どちらの時刻も経緯度、季節、常用時に左右されるからである。従ってこの機能を腕時計に備えるには、日の出と日の入りをそれぞれ制御する2つのカムを、地球表面上のある特定地点向けに設定するために、顧客ごとのエクスクルーシブにならざるを得ない。例えば、カムをニューヨーク向けに設定するのは可能だが、もしも他の都市へ移動するとなれば、その機能はもはや正確ではなくなる。

 もし常に家にいるのを好む方であれば、あるいはその時計を旅行の際に特に頻繁に着けていくわけでなければ、この問題は机上の空論となる。しかし、そもそもこの手の時計を希望するほど裕福でエキセントリックな好みをもつ御仁なら間違いなく、トムやディックやハリー(やハリエット)たちから、まずは「それ何?」、そして次に「なぜシンシナティでは問題なく機能するのにマヨルカ島ではちゃんと機能しないの?(適当に2カ所を挙げてみた)」と聞かれるたびに説明する必要に迫られることなく旅がエンジョイ可能であって欲しいことだろう。
 さらに、事は単なるオーナーのエゴという問題に留まらない。日の出・日の入り時刻表示には、本質的に深い満足感を与えるものがある一方で、機能的に地球表面上のある単一地点に留まらざるを得ないという点には深い不満感がつきまとうのだ。

マーティン ブラウン製のイオス。クリスティーズより。

Martin Braun EOS watch, Christie's.

 そして最近になってついに、地球上のどこでも使える日の出・日の入り時刻表示コンプリケーションを作るという課題が解決した。それを成し遂げたのは、クレヨンの創立者であるレミ・マイヤ(Rémi Maillat)という名の設計士だ。クレヨン第1号の腕時計は「エブリウェア」(Everywhere)で、これは中世のユニバーサル・アストロラーベの末裔といえるものだった。アストロラーベは、天体高度をはじめとして様々なものを測定できる天文観測装置であり、ある特定の時刻に地平線の上や下にある星々を示すことも可能だ。しかし日の出・日の入り時刻表示コンプリケーションと同じく、一般的には単一地点での使用という制約があった。だがやがて、緯度の違いを考慮できるユニバーサル・アストロラーベが開発された。
 クレヨンの腕時計「エブリウェア」は、ユニバーサル・アストロラーベのさらなる改良版といえる。エブリウェアは基本的に、腕に装着する天文学コンピューターなのだ。任意の地点の協定世界時、緯度、経度などの必要データをインプットすると、この腕時計は(均時差も考慮に入れて)世界中どの場所の日の出・日の入り時刻も正しく表示してくれる。

初代のクレヨン エブリウェア。世界で初となる、ユーザーによる完全プロブラムが可能な日の出・日の入り時刻表示コンプリケーションだ。

 多くの技術革新に加えてエブリウェアは、装着性も非常に優れている。わずか42mm x 11.7mmというサイズは、これほどの複雑機構を備えた時計としては驚きの偉業だ。文字盤のレイアウトにしても、ロジカルかつ視認性に優れ、美的にも調和している。欠点はただ、その究極的複雑さ(600個以上の部品)と高価な値段のみだ。エブリウェアは非常に高価で、約60万スイスフラン(約6674万円)から始まり、そこから買い手のオーダーによってかなり急激に上昇する。
 クレヨンは今回、おそらく日常的に着けて眺めるよりもそれを作っているところを眺める方がより適切な腕時計であるエブリウェアから、多くの利点をそのまま移植した時計・エニィウェアを発表した。価格は9万6000から11万6000スイスフランだ(約1068万から1290万円)。これは、地球上どの場所の日の出・日の入り時刻をも表示する機能をそのまま維持しつつ、知りたい全ての地点用に新たなカムを作るという面倒で高く付くプロセスを無くし、それらの切り替えは時計師に任せるという時計だ。つまり、オーナーにとっては必要な情報を直接インプットすることがもうできなくなった。

クレヨンの腕時計・エニィウェア。同ブランドのシグネチャーである日の出・日の入り時刻表示コンプリケーションの新バージョンだ。

 この2機を比較すると、すぐさま分かる明白な違いがいくつかある。エブリウェアは、相対的にその複雑さを軽快に纏っているとは言えるが、それでも、文字盤には紛れもなくかなりの量の情報が搭載されている(私が思い描ける限り無駄なく簡潔にではあるものの)。とどのつまりエブリウェアは、単に情報を受動的に表示する機器ではないのだ。正確に言えばこれは機械式コンピューターであり、つまりは複雑なメカニズムにより情報アウトプットだけでなく、情報インプットをも表示する必要があるのだ。その意味でこれは時計であると同時に天体計算機であると言える。

 エニィウェアの文字盤は、それよりもはるかに明快だ。エニィウェアとエブリウェアのシグネチャー的データは依然として表示、つまり日の出・日の入り時刻は表示しながらも、プログラムインプット表示や緯度表示を省いているのだ(オリジナルのエブリウェアは北緯60°から南緯60°ならどの緯度にも設定可能だ。これは「白夜」が観測される最北と最南の緯度であり、つまりは日の出・日の入り時刻表示の実際的な限界となる)。

 エニィウェアに使われているCal.C030には、ユーザーが調節できるインプット機能はないが、その分エブリウェアのムーブメントにある面倒な煩雑さもない。その煩雑さこそが、いくぶん高度なまでに精密な様々な部品mの全てが意図した通りに動いているか否かという、かなりの懸念と引き換えにエブリウェアのオーナーに自律性を与えているのだ。
 それに比べてエニィウェアのムーブメントは、よりフラットで、あえて言わせてもらえば外観もよりエレガントになっている(仕上げの面で個人的には、ボール-ハミルトンの鉄道用懐中時計を彷彿させる)。日の出・日の入りの場所を調整するメカニズムは文字盤側の6時位置にあり、2時位置辺りでテンプが時を刻んでいる。ムーブメント側の6時位置に地域設定の調整メカニズムを見ることができ、日の出・日の入りの位置を再設定する2本のスクリューが付いている。これは明らかに、自身の運命の主人でありたいとするオーナーにとっては魅力とならないだろうが、オーナーとしての自分に完璧な自信があるわけではないオーナーや、(大昔から時計の顧客がそうしてきたように)時計師に委ねることを厭わないオーナーにとっては、おそらく実用的な意味において魅力的と映るだろう。

日の出・日の入り時刻表示コンプリケーション用の調節可能なカム。

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 テンプは上部プレート側の2時辺り片持ちブリッジの下に配されているが、概して非常にハイクラスの仕事のように見える。ウェイトで歩度調整するフリースプラング方式のテンプは昨今、時間測定を厳しく捉えるのであればある程度当然のものとなってきたとは思うが、依然としてそれを目にするのは好ましいことであり、ヒゲゼンマイの外周末端コイル用のジュネーブ式キドニー型スタッドにしても然りだ。フィリップス製であれ何であれオーバーコイルなら良かったが、この場合には明らかに必須とも言えない。日の出や日の入りとはつまるところ、光の増減を長期にわたって循環するものであり、そこでは何分の1秒などという細かな時間は観測上も美的にも意味を為さないのだ。

 ここで、エブリウェアと比較した場合の不利な点は明らかだ。あなたは小さなコンピューターを手首に着けたいのであり、ユーロにしろフランにしろ、あるいはドルや円にしても同じく、約6600万円 といういまいましいほど法外な値段のものを着けたいのだ。そしてその価格であなたは胡散臭いものを求めているわけではないということだ(もし求めているのであれば、探す場所を間違えている)。一方でエブリウェアは、マルチ機能のG-Shockを持ちながら取扱説明書を失くしてしまったときに感じるのと同様の懸念を突き付けてくる時計だ。もしも扱い方を間違えて時計マニア仲間の間で物笑いの種になったらどうする? エニィウェアが絶対的な主体性を好むオーナーから少しばかり自律性を奪うのは確かだが、飛行機に飛び乗るたびにいつも全てを自分でしたいというタイプでなければ(いずれにしても昨今は自分ですることは少なくなる一方だが)、バラ色が差してくる夜明けが現れるのが(場合によっては消え去るのが)いつなのかを知るという問題に対して、エニィウェアはある意味、よりリラックスした関係をもたらしてくれる。

 クレヨン エニィウェア サンライズ-サンセット・コンプリケーション。ケースは39mm x 9.5mm、ホワイトまたはローズゴールド、裏も表もサファイアガラス。ムーブメントはクレヨン製Cal. C030、35.40mm x 5.0mm、パワーリザーブは86時間、振動数3Hz、35石、ストップ機能付き手巻き式。総部品数は432。時間表示、分表示、日の出・日の入り時刻表示、年5回の調整を要するシンプルカレンダー付き。価格は、ホワイトゴールド、ローズゴールド共に11万6000スイスフラン(約1290万円)、SSは9万6000スイスフラン(約1068万円)。さらなる詳細はクレヨン公式サイトへ。