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私は基本的にカートゥンウォッチは好きではない。スヌーピーのスピードマスターやミッキーマウスのアリーナ レトログラードを朝の服装にあわせようとは思わないのだ。オーバーサイズのジーンズを履き、ヴィンテージのTシャツを着て、ブーツを履く。でも、「この服にぴったりなのはこれだ!」とは思わない。目の前にポパイのフランク・ミュラーの時計があったとする。もし今日を台無しにしたいのなら、後でやればいいのだ。
昨年4月、私はオランダ人で、時計会社デ・ライク&カンパニー(De Rijke & Co)の創設者であるローレンス・デ・ライク氏に会い、ほとんど、いや、ちょっとだけ、彼を信じる気にさせられた。
彼は親切で物腰が柔らかく、ほぼ1週間の展示会日程のドタバタの後に会って本当に安心しました(私の頭のなかはミニッツリピーターのチャイムが永久にループしていた)。彼は、50年前のヴェスパに乗って古代のシルクロードを旅したこと、そしてその旅の途中でジョージアの蚤の市で初めて機械式時計を購入したことを話してくれた。その時計が、後に彼の会社の原点となるのだ。
同業者と世間話をしたり、赤ワインを飲んだり、疲れたと愚痴をこぼしたりしながらもデ・ライク氏は小さな木箱を握りしめたまま、なかなか手放そうとしない。
私は、このなかに時計が入っているに違いないと思った。そうでなければ、時計の催しに小さな四角い箱を持ってくるはずがない。説得の末、ようやく開けさせてもらった。なかに入っていたのは、ミッフィーのムーンフェイズだった。
完璧だった。
青い文字盤に小さなミッフィーのムーンフェイズがついた、丸い回転式のドライビングウォッチ。こんなものが誰かのために、ましてやカートゥン好きでもない私のような人に、実際に機能する確率はどのくらいあるのだろう?
ミッフィーとは、1955年にオランダのアーティスト、故ディック・ブルーナによって生み出されたウサギの漫画であることはご存じだと思う。ミッフィーのシンプルな線と大胆な色彩は世界中で親しまれ、ブルーナは「ハローキティはミッフィーのコピーだ」と主張したほどだ。
実際の時計に話を戻すと、私は試着して、その晩のあいだ、ずっとつけていた。
その時計を好きになったという事実は、居心地悪くさせるだけでなく、一瞬私をパニックさせた。もしかして私は自分の好みを理解していないのだろうか? 私が永久に変わるために必要なのは、2杯のワインと見知らぬ人との会話だけだったのだろうか?
キャラクターウォッチの魅力がわからないわけではない。真面目すぎる、特にたくさんの宝石がセットされた時計の世界に、ちょっとした気まぐれをもたらして楽しませてくれる存在だ。そして、現在のキャラクターウォッチとのコラボレーションの波も、決して無関係ではない。ハイファッションの世界では、アニメの装飾品に夢中になっている人たちがいる。グッチ×ドナルドダック、ランバン×バットマン、ジバンシー×101匹わんちゃん。数え上げればきりがない。キャラクターウォッチは、もっと大きなパイの小さな一片に過ぎないのだ。
スポンジ・ボブのウニマティックや、S.U.F.サルパネバ×ムーミンの時計は、何かすぐにイラッとしてしまう。カウルネックのセーターもそう。本能で、こればっかりはどうしようもないのだ。
でも、ミッフィーは違った。ミッフィーはブルーナによってデザインされた。ブルーナは、面白いことに、1927年生まれで、干支のうさぎ年。そう、2023年もうさぎ年なのだ。
ブルーナは、バウハウスとオランダのデ・ステイル運動の両方に影響を受けていた。ピート・モンドリアンやアンリ・マティスからインスピレーションを受けたと語っている。つまり、ミッフィーは洗練された、高尚なモダニズムの美学から生まれたウサギだということだ。かわいいというだけでなく、モダニズムの遺物であるという擬似知的な感情も抱くことができたのだ。
今日のミッフィーはどこでも見かける。これを書く前の晩、イーストビレッジのおもちゃ屋で彼女の前を通り過ぎた。トミー ヒルフィガーはミッフィーコラボをしたばかりだし、イギリスのアクセサリーブランド、マルベリーは最近ミッフィーのカプセルコレクションを発売し、ストリートウェアブランドのポップトレーディングカンパニー(Pop Trading Co.)は2019年にミッフィーコラボをデザインしている。MoMAのデザインストアで販売されているミッフィーのランプや、コスメ、ステーショナリーだってある。それにバカラのクリスタルミッフィーなんてものも。
しかし、デ・ライク&カンパニーの限定版ミッフィーが生産終了であることが判明した。私はデ・ライク氏から時計が完売していることをはっきりと確認したので、レビューを書いたり、気に入っていることを公言する必要もなかった。
それから1年近く経った頃、デ・ライク氏が私のメールボックスに飛び込んできた。彼は3台のミッフィーを作ったという。またもや完璧な出来栄えだった。しかも、技術的な改良と色の変更で、以前よりさらに完成度が上がっている。
デ・ライク氏は、オリジナルのミッフィーウォッチとほぼ同じスペックを踏襲。どの時計も90度回転する直径38mmのケースを採用しているのは変わりない。しかし今回は、オレンジ、ホワイト、イエローの3種類の文字盤カラーがあり、いずれもディック・ブルーナらしい色合いになっている。
各色を同じくらいの時間試着して、最終的な着用感はこうだ。平日、急いでいるけどいつも気を遣っている服装に合わせたいと思った。小ぶりなサイズ(時計の厚みは11mm)、滑らかで丸みを帯びたシンプルなシルエット、鮮やかでポップな色合い、これらすべての要素によってミッフィーが私のアクセサリーとして加わってくれる。
ブラックとダークブルーのペブルドレザーストラップはとてもニュートラルで、私としてはちょうどいいと思うのだが、デ・ライク氏の説明によると、バネ棒に少しカーブをつけたため、ストラップの交換が少し楽になったのだそう。このため、ミッフィーはパテントクロコダイルストラップにアップグレードすることも、NATOストラップに変更することも容易なのだ。
ムーンフェイズは、デ・ライク氏の最初のシリーズと同じものだ。真鍮にレーザー加工を施し、ポリッシュとブラックロジウムプレートが施された小さなミッフィーは、月の周期にあわせて姿を消したり現れたりする。ミッフィー、月、そしてブルーのムーンフェイズに描かれた小さな星は、インデックスと同様にスーパールミノバで手作業で塗りつぶされている。星を追いかける小さな小さなウサギ。ミッフィーが見えるのは1ヵ月のうち限られた日数だけという、とても趣のあるデザインとなっている。
ケースバックには、風船を抱えたミッフィーのエングレーヴィングがレーザー加工で施されている。ムーブメントは約38時間のパワーリザーブを備えたセリタ製SW288-1を搭載。このことは脇に置いておいてもカートゥーンのウサギが目立つ時計でないものを身につけたい必然的な場面に役立つことだろう。
ミッフィー・ムーンフェイズの最もユニークな点は、ドライビングウォッチであることだ。デ・ライク氏がシルクロードをドライブした際、中央アジアの長い山道を疾走するには、3時位置に固定されたリューズを持つ標準的な機械式時計では限界があることに気づいたから。
この時計は1時半にねじ込み式のリューズがあり、実はケースは90度に弧を描くように回転する。つまり、文字盤の角度が45度に固定されているカルティエのタンク アシメトリックやヴァシュロン・コンスタンタンのヒストリーク・アメリカン1921とは異なり、自分で角度を選ぶことができるのである。デ・ライク氏は、着用者のために柔軟性を保つためにこのような方法を取ったと説明している。バイクに乗るときは40度、クルマを運転するときは45度、それ以外のときはゼロに戻せばいい。
ミッフィーが主役の時計だが、主張は強くなくポップな美学を持ったコンプリケーションである。シンプルなラウンドシェイプ、モノクロームで洗練されたソリッドカラー、滑らかに回転するケースも、星空に浮かぶ愛らしい小さなウサギと同じくらい魅力的な時計だ。
このバウハウスにインスパイアされたバニーウォッチがさらにクールなのは、多くの部品が自社製(オランダの都市ドルトレヒト)で、日本の由紀精密社製のリューズチューブとガラスを除けば、残りの部品はオランダのサプライヤーと密接に協力して作られていることだ。地板とケースバックは、実はミッフィーの生まれ故郷であるユトレヒト(オランダ第4の都市)のものだ。
オランダで「生まれも育ちもミッフィーと一緒なんです」とデ・ライク氏。「オランダの子供はみんなミッフィーの絵本を持っていて、何世代にもわたってそうだったから、ある意味不滅な存在なんですよ」と説明してくれた。そして今、私のミッフィーへの愛は不滅であり、それは同じく不滅の俗物性とともに生きなければならないことを意味する。ミッフィーが共有する術を知っていることを願う。
デ・ライク・アンド・カンパニー: ミッフィー ムーンフェイズ、カラーはオレンジ/イエロー/ホワイトの3種類。38mm x 11mmのステンレススティールケース、ブルーまたはブラックレザーストラップ。無反射コーティングが施されたサファイアクリスタル。38時間パワーリザーブのセリタ SW288。50m防水。価格は2888ユーロ(執筆時の換算で約40万円)で、1月19日よりオンラインで販売開始。全世界への送料を含む。
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ミッフィー・ムーンフェイズの詳細については公式サイトへ。
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