trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Hands-On カルティエの新作「タンク フランセーズ」は、もはやレディスウォッチではない

最近施されたアップグレードにより、この時計は非常にユニセックスな時計であることを証明した。

Photos by Tiffany Wade

先月、カルティエは「タンク フランセーズ」をリニューアルし、ハリウッド俳優のラミ・マレックとフランス映画界の伝説であり神話的美女、カトリーヌ・ドヌーヴを起用した、ガイ・リッチー監督による非常に洗練されたコマーシャル(疑問の残るCGIは除く)を公開した。

ADVERTISEMENT

 このCMは、「タンク フランセーズ」が現行のカルティエのカタログなかで、どのような位置づけにあるかを要約したものである。比較的入手しやすい価格かつ、コンテンポラリーでユニセックスなカルティエのデザインは、ファッションやポップカルチャーの時計対談に欠かせない存在となっている。カルティエの歴史的モデルにおいて、「タンク フランセーズ」は決して目立つ存在ではないかもしれない。だが、この「タンク フランセーズ」には独自の歴史的なバックボーンがあり、言うまでもなく、これは私自身の個人的な背景でもあるのだ。

 私は「タンク フランセーズ」を所有していないし、手に入れようとも思ったことはないが、この時計とは長い付き合いになる。というのもこの時計は、私が記憶しているなかで、初めて認識することができた高級時計なのだ。2000年代初頭、私がまだスパイス・ガールズの解散を引きずっていたころ。母が持っていたステンレススティール製「フランセーズ」の、冷たくて滑らかなリンクに指をかけ、ベタベタのピンクのリップグロスと蝶の刺繍の入ったジーンズで、自分の心を慰めていたころの小さな自分の姿が目に浮かんでくる。私はロンドンにある母の寝室に忍び込んで、そこにあったドレッサーの上に置かれた宝物の数々を鑑賞していたとき、小さくて青いムラーノガラスのボウルに入れられた時計が、触ってくれといわんばかりに納められていた。

Original Tank Française

1997年に発表された、オリジナルのSS製「フランセーズ」。

 「フランセーズ」のことをいちばんはっきりと覚えているのはそのときだ。それは母親が身につける、大人のためのレディスウォッチだった。

 そして2000年代後半に入ると、若い女の子たちが自身の節目となる誕生日プレゼントとして贈ることが増えてきた。「タンク フランセーズ」は、私が育ったロンドンのある女の子たちのあいだでも、とても人気が高かった。若い女の子が女性としての自覚を持ち、大人の階段を登るシンボルとして、“レディスウォッチ”を手にし始めたのである。

 2023年の今日、私は「フランセーズ」の過去の懐かしい映像に酔いしれている。イエローゴールドモデルに身を包んだダイアナ妃や、90年代後半、空港でお揃いの「タンク フランセーズ」とルイ・ヴィトンの荷物を持っていたデビッド&ヴィクトリア・ベッカム夫妻。そして若くてスリムなマーク・ジェイコブスに腕を回すケイト・モスの腕には、ゆるくつけた「フランセーズ」が写っている。ケイトのその姿はルーズで見ていられないと思うか、あるいは自分のアクセサリーを身につけるときも、同じような自信があればいいのにと思うかだ。私のように、Instagramで90年代のノスタルジックなポップカルチャーのアカウントをスクロールして時間を過ごしていると、「フランセーズ」がよく出てくるのだ。

Kate Moss in Tank Française

マーク・ジェイコブスとケイト・モス。Image: Courtesy of Getty. 

 ダイアナ妃が「タンク フランセーズ」を所有し、それを着用した写真は、このタイムピースのすべての軌跡に影響を与えている。80年代から90年代にかけて、ダイアナ妃の個性的なスタイルが、ロンドンの街角の人々の装いを刺激し、そしてそれは世界へと広がっていった。現在では、ダイアナ妃のイメージは、若い世代にも広く浸透している。彼女のオンとオフのスタイルに特化したInstagramのアカウントやハッシュタグは数え切れないほどあり、そのなかには彼女が選んだ時計も見ることができる。Instagramアカウント、@ladydirevengelooksの創設者(そして、『The Lady Di Look Book』の著者)はダイアナのことを、“死後のインフルエンサー”と巧みに呼んだが、それは間違いではない。王妃が亡くなってから25年が経った今でも、我々は「タンク フランセーズ」をレディ・ディの時計と呼んでいる。

Princess Diana in Tank Francaise

YGの「タンク フランセーズ」を身につけたダイアナ妃。Image: Courtesy of Getty.

 「タンク フランセーズ」が再び脚光を浴びるようにしたいと考えた、Dimepieceの創業者であるブリン・ウォールナー(私のポッドキャストの共同MCであり、彼女もニューヨークではお姫様だ)は、非常に反響を呼んだ。彼女のInstagramアカウントで、90年代のアーカイブ画像を投稿すると、突然この時計が再び注目されたのだ。彼女は、「“タンク”と聞くと、レザーストラップのクラシックなものを思い浮かべる人が多いでしょう。しかし私は、タンク フランセーズのメタリック的な重さと、角ばったケース、少しごつごつしたブレスレットが好きなのです」と言う。彼女はこう続けた。「こうした作りやディテールが、女性向けのデザインにパッケージされているということは、90年代に流行した中性的スタイルを語るうえで欠かせないものです。この時計は、レディスウォッチを身につけた女性であっても、ちょっとしたエッジを効かせることができることを証明しているのです」

 「タンク フランセーズ」もまた、ひと目でそれとわかるカルティエの巧妙なトリックを踏襲しており、見た目をアップグレードしたにもかかわらず、そのデザインを維持している。「フランセーズ」はエントリーモデルとして最適であり、LOVE ブレスレット(ビスをモチーフにしたカルティエのブレスレットコレクション)の時計版のようなものだ。実際購入されるのは、時間を知ることができるジュエリーであるからだ。これはLOVE ブレスレット同様、大量に生産されている時計である。そのため女性(そして男性)は、カルティエのこの小さな作品を身につけるだけで、ちょっとしたステイタスにもなり、誰もが認める贅沢な時間を過ごすことができるのだ。

 現在、メーガン・マークル妃が自身のYGの「フランセーズ」を着用して世間に出ているが、この時計がダイアナ妃のものなのか、それともオマージュなのかは、注目されているにもかかわらず、いまだ確認ができていない。ここ2、3年イギリス王室がメディアに登場する機会が多いところを考えると、メーガン妃は、腕時計を重ねるか、重ねないかという議論の最前線に立っているため、時計業界からも厳しい目で見られているようだ。なぜならこの時計が家宝のように大切な時計であるならば、これはとても重要なテーマとなるからだ。

Meghan Markle in Tank Française

「タンク フランセーズ」を重ね付けするメーガン・マークル妃。Image: Courtesy of Getty.

 そのため、カルティエがリニューアルを発表した際、私はまったく驚かなかった。ソーシャルメディア上で話題になったが、この時計は90年代後半から2000年代前半に生まれた歴史的な遺物のような存在だ。カルティエが懐古趣味の波に乗るには、絶好のタイミングだったのか? Instagramのページをゆうに超えて、より広い世界に目を向けるために新しいペンキを塗り直す時期なのか? しかし今は、すべての性別にアピールするべきという課題がプラスされたのでは?


新世代の「タンク フランセーズ」

 「フランセーズ」には、全部で7つの新しいバージョンが存在する。リニューアルに際して、旧型のスタイルはすべて正式に廃止された。私はスモールモデル(ダイヤ付きとダイヤなし)と、ラージモデルの両方をじっくりと観察してみた。そして、時計が入ったボックスを開けると、見た目はほとんど変わらないのにすべてが変わっているということにすぐに気づいた。

Cartier Française lineup

 最も明らかな違いは、ブレスレットとケースのサテン仕上げの多さだ。オリジナルとは対照的な、洗練されたスタイルとなっている。「フランセーズ」が「サントス」の派生モデルに変身してしまったのだろうか? そういえばYGが普段どれだけ輝いていたのか、実際に見て思い出した。この光の加減は、(がらくたをなんでも集めたがる)カササギのような私にとってはぴったりである。最初は違和感を覚えたが、トーンダウンしたゴールドがいい感じだ。私はさらにリサーチを続けた。

Cartier Tank Française

 スモールモデル(25.7×21.2mm)であれば問題なかったのだが、ミディアム(32×27mm)、ラージ(36.7×30.5mm)モデルとなるとかなり大きい印象だ。確実にサイズアップしている。やはりというべきか、幻覚ではなく、ケースがそれぞれ2mmほど大きくなっていることがわかった。

 その後、ルーペを使った念入りな調査を行った(そう、今の私はルーペを使うのだ)。文字盤には大幅なアップデートが施されており、本当にいやがる人はここを嫌うだろうと感じた。

 YGモデルにはシャンパンカラーダイヤル、SSモデルにはシルバーダイヤルが採用されている。文字盤の仕上げは、スモールモデルがサンレイ仕上げ、ミディアムとラージのSSモデルはサテン仕上げを採用している。また、インデックスの数字もプリントではなく、アプライドタイプに変更されていた。その結果、SSモデルはより賑やかな印象のデザインとなり、視認性も悪くなったかもしれないが、数字が背景に溶け込んでいるような感じがして、私はとても気に入った。旧型よりさらにジュエリーらしくなった気もする。

Tank Francaise dial
Francaise caseback
Francaise bracelet

 かなり陰険なコメント(HODINKEEのコメント欄より)に出くわした新型のエンドリンクについては、現在は従来の3つのリンクから、ひとつの大きなブラッシュ仕上げのエンドリンクとなり、そして新しいケースとブレスレットが一体化して、シームレスで人間工学に基づいたデザインを実現している。そのうえで、ブレスレットの外部リンクが連動するようになったため、より重量感のあるデザインとなった。時計という側面から見ると、これらのディテールはすべてうまく機能しているように見える。やはりカルティエはシェイプの王者といえるだろう。

 カルティエの伝統的なブルーカボションサファイア(高級モデルにはブリリアントカットしたダイヤモンドをセット)をあしらった埋め込み型のリューズは、使い始めは気になるが、時間が経つにつれて当たり前に受け入れられるディテールのひとつだ。私は、この新機能によってもたらされる、より合理的でモダンな側面がとても気に入っている。

Cartier Française
Cartier Française clasp
Cartier Française diamond crown

 日付窓付きの自動巻きムーブメントCal.MC 1853を搭載しているSS製のラージモデルを除き、全モデルがクォーツムーブメントを搭載している。このバリエーション展開は、おそらくこの時計を買おうとしている人の多くが、必ずしも機械式に興味があるわけではないだろうという推測が成り立つ一方で、私のような時計好きには少し残念な印象を与えてしまう。確かに、これらの時計をすべて、機械式にアップグレードするとコストがかかってしまう。それはわかるのだが、ティーンエイジャー用の小さな機械式ムーブメントを見るのは楽しいじゃないか。さらに機械式ムーブメントを搭載した宝飾品のような小振りな量産時計は、カルティエのような企業にとって費用対効果が高くない。だからユーザーは理解すべきだ、という議論をさらに深掘りしていってしまうと、どうしてもレディ デイトジャストのことが頭に浮かんでくるのだ。

Cartier Française Large

 正直なところ、私はダイヤモンドをあしらったYGのスモールモデルを身につけている時間のほうが長かった。SS製が私の腕に10分以上巻かれることはなかった。そして、SS、YG両素材をすべてのサイズで試着したあと、私は突然、何が起こっているのか理解した。それは、この時計がよりユニセックスになったということ。ブラッシュサテン仕上げ、より大きなケースサイズ、より充実したブレスレットによって。

 「フランセーズが誕生した当時、この時計は主にレディス専用のモデルだった」と、HODINKEEの卒業生でありParchieの創業者であるカーラ・バレットは教えてくれた。「ブリックレイ(バングルタイプのように留め金がないもの)ブレスレットを用いた、あからさまに女性的だったパンテールとは異なり、タンク フランセーズは当時、非常にモダンなデザインで、しかも男性的なエッジが効いた時計だったのです」

 よりマットな仕上げで、さらに充実したスペックを持つという、おそらく新解釈が施されたこの時計は、カルティエが掲げるミッション、つまりジェンダーフルイド(編注;複数の性のあいだで揺れ動く性自認のこと)なブランドであるということを証明するという未来に、貢献するものなのかもしれない。90年代には、この時計はより男性的な“レディスウォッチ”としては現代的だったのだろう。2023年の今、時計におけるモダンデザインの定義は、大きく変化している。これはユニセックスなデザイン言語を、さらに強く推し進めようとするカルティエの計画の一環なのだろうか?

Cartier Tank Française

 長年カルティエを収集しているロニ・マドヴァニ氏は、「これらの変更が、よりユニセックスな時計であることをアピールをしています」と語る。「これは、メンズウォッチのサイズダウン化の傾向と、レディスウォッチのビッグサイズ化というパラダイムシフトに沿ったものであり、個々の時計のスタイルや仕上げの要素が共通化してきていることに対応するものです」。

 時計のジェンダー化というのは、何でもかんでもユニセックスにすればいいという簡単なことではないが(名称には常に意味が伴うからだ)、その中間に位置し、男女を問わずアピールする時計づくりは、徹底した現代的なアプローチだと思う。

 「GMTやサブを欲しがる女性に取って代わることはないでしょう」と、サザビーズの副社長で時計部門のスペシャリストであるリー・ザゴリー氏は、私にそう言った。「しかし新型は旧型に比べ、さらにしっかりとした品質になっており、これはもはや単なるレディスウォッチではないことを意味します」

 この時計のリ・ローンチ後、私は何日も「フランセーズ」に思いを馳せながら過ごしていた。おそらく、カルティエ全体の最も重要な史実にとっては、女性用腕時計の歴史ほど重要ではないだろう。しかしこの時計はポップカルチャーの歴史には極めて深く刻まれており、今日の、若年層のユーザーに与える影響を無視することはできないはずだ。

 我々はInstagramやノスタルジアに大きく影響され、さらに90年代のパパラッチの写真に対して、非常に高い再評価を受けている時代に存在している。子供たちは以前のものに憧れるが、カルティエはほかのスマートなブランドと同様、次になにが来るかを見据えているのだ。そしてそれがジェンダーレスな「タンク フランセーズ」を意味するならば、私は歓迎しよう。スモールからミディアムまで、次に発売されるモデルには、機械式ムーブメントを搭載して欲しいと願いを込めて!

Princess Diana in Tank Française

Image: Courtesy of Getty.