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August 04, 2020
In-Depth ステンレス製のパテック フィリップRef.1518

In-Depth ステンレス製のパテック フィリップRef.1518

世界で最も貴重な時計に光を当てる。

ステンレス製の1518が今年、公開オークションにかけられると知って以来、私はこれをどう解説したらいいものかと悩んでいた。我々は、これまでにもたくさんの腕時計を「聖杯」と呼んできたし、「最も神聖な杯」と呼んだものさえある。これ以上なんと呼んでも読者には真剣にとってもらえないだろう。しかし、ステンレス製の1518は真の意味で別格なのだ。だからこそ、このメッセージをどうやってきちんと伝えるかについて考え込んでいた。

あれはオーレル・バックス(Aurel Bacs)に初めて会ってから間もなくのことだった。当時、彼はクリスティーズの時計部門を統括していて、プラチナ製のパテック フィリップ2499の売却準備を進めていた。この時計は2つ存在し、1つはある人物の手に、もう1つはパテック フィリップ博物館に展示されていたものだ。この時計はエリック・クラプトンから直接委託されたものだった。我々もそこにいて、私は彼にプラチナ製の2499をオークションで販売することは、彼のキャリアにとってどう意味するのかと尋ねてみたのだった。彼の答えはまだこちらから聞けるが、こうだった。「この時計は1989年から知っていました。それに触れて、手に持ち、売ってみたかったんです。四半世紀ほど経った今、あの時の夢が実現するなんて思いもよりませんでしたよ」。私はこう思ったのを覚えている。
「なんと、既にこの分野で最高の品々を扱い尽くした男を興奮させるものがまだあるのか」と。(ちなみに彼は、一点物のJB Championとプラチナ製の1579も同じように売却している

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次に私が、彼にした質問は動画ではカットされてしまったが、こういうものだった。「これに引けを取らない値段になる時計といったら何かありますか」。バックスは、間髪を入れずにこう答えた。「ステンレス製の1518でしょう」。あぁ、なるほど。ステンレス製の1518は既に4本が人の手に渡っているが、彼にとってある意味プラチナ製の2499以上に価値のあるものなのだろう。当時の私には、その理由がよく分からなかったが、同氏をよく知るようになった今、あの時の自分がそう思ったことは、正しかったのだということがよく分かる。

ステンレス製の1518が特別なのは知っているはずだ。ステンレスで作られた唯一の永久カレンダー搭載クロノグラフであり、史上初めての永久カレンダー搭載クロノグラフのシリーズといわれる。多くの時計愛好家にとって夢の一品であり、世界に4つ存在していることが分かっている。そこで今回はその4つの個体それぞれの詳細についてお伝えし、それと同時にステンレス製の1518の継承に大きく関わってきた数人へのインタビューを紹介したい。オーレル・バックスにはこの驚異的な品を売却することが何を意味するのかを直接話していただく。さらに、かつてこの時計、ステンレス製の1518を所有したこともあるアルフレド・パラミコ(Alfredo Paramico)からの話も聞いていただこう。彼はコレクターの大家であり、それが高じてディーラーをするようになった人物で、今回売られる個体を所有したこともある。その後にはダビデ・パルミジャーニ(Davide Parmegiani)からまた別の角度からの視点を提供していただく。彼は、世界で最も重要なヴィンテージ時計ディーラーの一人と称される人物であり、プラチナ製の2499を二度売却したことがあるばかりか、ステンレス製1518の4本それぞれを少なくとも一度以上は売った経験がある人物だ。

では本題に入ろう。

動画:オーレル・バックス、オークショニア、ステンレス製の1518について

オーレル・バックスはヴィンテージ時計界の白馬の騎士だ。彼は、クリスティーズと在籍するフィリップスにおいて、最も重要で希少価値の高いヴィンテージウォッチの委託販売や売却に携わり、比類のない記録を打ち立てている。そんな彼の手を30年間以上も逃れてきたのが、このステンレス製の1518なのだ。そして彼自身の個人的な執着の対象にもなっていたという。それが今週末、腕時計を史上最高額で売った記録を持つこの男にまた新たな記録をもたらすことになる。 


ステンレス製の1518とは一体何なのか?

まずオーレルの話からこの腕時計についての客観的な事実をまとめてみよう。パテック フィリップの1518は1941年に発売されたモデルだ。パテック史上、そして時計作りの歴史上でも初の永久カレンダー式のクロノグラフだ。さらにこの時計の登場以来、永久カレンダークロノグラフは半世紀以上1518と2499しか存在しなかった。ちなみに、この2つには同じキャリバーが用いられている。このことは忘れられていることが多いように思えるが、ミッドセンチュリーの時代に永久カレンダー付きの腕時計を作るメーカーは、パテックの他はオーデマ ピゲだけであったし、それも9つしか作られていない。さらに言えば、その中にクロノグラフは含まれていないのだ。Ref. 5503があるではないかと言う人もいるだろうが、5503は永久カレンダー機能のついていないシンプルなカレンダー式のクロノグラフだ。一方、パテックでは永久カレンダークロノグラフのシリーズが作られており、これについてはリファレンスポイントをご覧いただきたい。

この時計の直径は35mmで手巻き式、バルジューのエボーシュを大幅に改良したものが使われており、パテック フィリップによって丁寧に仕上げられている。もちろん、当時はサファイアのケースバックなどというものはなかった。つまり、以下に見られる美しい技巧はコレクターに自慢させるためではなく、すべて職人が自身の技を出し切った結果として生まれたものなのだ。すべて金属で作られたのはRef. 1518の281本だけであり、そのほとんどがイエローゴールドで、およそ20%はローズゴールド、そしてステンレススティールケースはたった4本だけだ。では、ステンレス製の一体何が特別なのだろうか?

知らない人にとっては、これはすぐに理解しがたいことかもしれない。ただの古びたステンレスでできたものが、他の貴金属製のものよりも価値があるというのはどういうことなのだろう? 腕時計のコレクションで重要になるのは希少さとスタイルであるが、実はシンプルな金属で作られた複雑時計というのは非常に希少なのだ。1518はシンプルなステンレスで作られたコンプリケーションウォッチの中でも最も複雑な機構を備えているともいわれ、さらに永久カレンダー式のクロノグラフがパテック愛好家の間で最も求められている時計であることを考慮すると、1518の価値がこれほどまでに高まることにもご納得いただけるだろう。
 

また、これがヴィンテージウォッチだということも忘れてはならない。現在パテックは、ステンレス製の、それも限定の時計を作ることは可能であり、実際に作ってもいる。そして、もちろんそれらは良い品である。しかし、ここで重要なのは、第2次世界大戦の最中にこのような腕時計が作られたというストーリーなのだ。

では、次に数字に目を向けてみよう。イエローゴールドの1518が200本以上存在するとすれば、およそ25万〜50万ドル(約2750~5500万円)の間で取引されるだろう。そしてその残りのほとんどがローズゴールドで、これらは45万〜150万ドル(約4950~1億6500万円)で取引される。ステンレスの1518が初めて取引された時、小売価格で2265ドルだった。こう聞くと、インフレ率を考慮するととんでもない額に換算されていると思う人もいるだろうが、実のところその逆が真だ。今の貨幣価値に換算しても、これは3万8000ドル(約418万円)程にしかならない。パテック フィリップの現在のパーペチュアルカレンダー・クロノグラフの買値と比較すると破格だ。

では、このヴィンテージのステンレスウォッチは2016年現在、いくらになるのだろうか。ここからは、ステンレス製の1518のそれぞれの個体に目を向け、その出どころや今までどのぐらいで売られてきたのかについて見ていくことにする。初めに、これらの腕時計すべてを売った経験のある男の話を聞いてみよう。

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動画:ダビデ・パルミジャーニ、伝説のディーラー, ステンレス製の1518について

ヴィンテージウォッチの収集や取引に関わりのない人なら、ダビデ・パルミジャーニの名を聞いたことがない人も多いかもしれない。彼は世界で最も重要なディーラーといっても過言ではない人物だ。マーケットメーカーというものが存在するとしたら、彼はまさしくその一人になるだろう。多くの人が彼を「ビッグ・ボス」と呼ぶし、彼の在庫のスケール、そしてヴィンテージウォッチ市場への影響力には並び立つものがいない。例えば、ダビデはプラチナ製の2499を二度も売却したことがあり、その一つはエリック・クラプトンが所有したかの有名な個体だ。ステンレス製の1518の市場においては議論の余地なく、彼が最も影響力のある人物だ。4つの個体すべてを売ったことがあり、そのうちの3つに関しては何度か売った経験があるのだ。


ケースナンバー508473の歴史(1) – 90年代中頃のドイツで初めて見つかる

ステンレス製の1518でその存在が知られているのは4本で、その内の3つは同じGenevor SA製のケースが採用されている。ラグはケースと一体になっており、ラグ穴がある。4本の中で今までオークションで売られることのなかった個体は、この度フィリップスにてオークションに出されるもののみである。それにも関わらず、この個体が一番有名なのは、アルフレッド・パラミコ(Alfredo Paramico)が所有していたからだ。彼はTalking Watchesにゲストとして出演したことがあり、この記事でも後に彼についてお伝えする。この時計のケースナンバーは508473で、裏蓋の内側に「1」と書かれている。これは1518として1番最初に製造された個体であることを意味している。

ジョン・ゴールドバーガーの著書「Patek Philippe Steel Watchesに掲載されているこの2枚の写真をご覧いただくと分かるように、それぞれの個体のベゼルにはケースナンバーの下3桁が彫り込まれており、さらに各歯車の裏にも番号が入れられていて、部品が間違えられないようになっている。

この個体が作られたのは1943年で、1944年にハンガリーの小売業者であるジョセフ・ラング(Joseph Lang)にて販売された。ステンレス製の1518の2本目の時計も同じ日に、この店に届けられたようだった。もちろんこれも1944年のハンガリーでのことだ。この時この場所に高級な複雑時計が届けられるなど、誰が想像しただろうか。

さて、この時計はもともと1944年に届けられたものであることが明らかになった。そして2007年の時点ではアルフレッド・パラミコが所有していた。では、その間はどこに行っていたのだろうか。これから数人の関係者との会話を頼りに、可能な限りその足跡を辿ってみよう。

この時計はオークションに登場したことのない個体だが、一番多くの人の手にわたったものなのだと私は踏んでいる。この個体は1990年代、もっと踏み込んでいえば94年か95年に、ドイツのトレードショーで発見された。聞く話によると、この時はドイツのコレクター兼ディーラーの人物がハンガリーの女性から20万ドル(約2200万円)程の値段で購入したようだ。彼の手元にあった期間はそれほど長くなく、この個体はすぐにミランを拠点としていた若き日の野心にあふれたダビデ・パルミジャーニに売却されている。

ダビデもドイツの紳士から購入した後、ほどなくして当時のイタリア人大物コレクターにこれを売っている。さらにこの個体がアルフレッドの手に渡るときも、ダビデが仲介している。この時の売り手とアルフレッドをつなげたのもダビデだったのだ。
パラミコがこの時計を売った時、ダビデがまた買い戻そうとしたが、結局クリスティーズに売却され、その後で直接取引を通して今回の委託者であるオーストラリアの紳士の手にわたった。それをもうすぐジュネーブのフィリップスで見られるのだ。もう一度言うが、この個体はステンレス製の1518として最初に生産されたものである。パテックにて修理とクリーニングを受けてはいるが、4つのうち所有するならこの個体だとアルフレッド、ダビデ、そしてオーレルの全員が口を揃えて話すのだ。

動画:「ステンレス製の1518について」アルフレッド・パラミコ、コレクター

アルフレッド・パラミコがHODINKEE に登場するのは、今回が初めてではない。このコレクターとしての顔も持つイタリア人ディーラーは、2014年5月にTalking Watchesに出演しており、素晴らしいエピソードを披露してくれた。この動画は世界でも5指に入るコレクターであったパラミコが引退した1年後に撮影したものだ。コレクターであった当時、彼は世界でも最高級といってもいいような数々のパテック フィリップの時計を所有していた。その中にはステンレススティールやホワイトゴールド、プラチナのものもあった。今週末に売り出されるステンレス製の1518はそれほどのコレクションの中にあっても、時には最高の品といえるようなひと品であった。上記の動画をご覧いただきたい。その中で、彼はこの品を所有したときの気持ちを表現してくれている。ちなみに彼は220万ユーロ(約2億6540万円)でこの時計を購入している。


ケースナンバー508474の歴史(2) – クロット博士が2004年に売却

次の個体、ケースナンバー508474(2)は今週末に売りに出されるものとほぼ同じものだ。4本のうち最後に見つかったもので、売りに出された回数も最も少ない。この時計も元は最初の時計と同様に、1944年の同じ日にジョセフ・ラングで売られたものだ。私はこの時計についての話をヘルムート・クロット(Helmut Crott)博士にお伺いすることができた。
彼は「この時計はハンガリーのとある家族のものでした。その家族はこの時計の価値を知っておらず、何人かのディーラーから数千ドルで買うと言われたようです。しかし次にオファーをもらった時には、その額が5万ドル(約550万円)に跳ね上がったため、疑念を抱いたようでした」

その後、このハンガリー人の家族はオークションハウスのオーナーも経験した専門家に、この時計を売る手伝いを頼み、彼もその頼みを受けてくれたそうだ。ケースナンバー508474(2)は、2004年の11月に130万ユーロ(約1億5682万円)で売却された。バイヤーはもちろんダビデ・パルミジャーニで、彼はイタリア人のクライアントの代理をしていた。同人物がこの時計を現在まで所有している。


ケースナンバー508475(3)の歴史 – 1980年代に47丁目で見つかる

 3つめのステンレス製の1518はオリジナルケースに入っているものとしては最後の個体となる。お金の動き、実際の移動経路という点からすると、これが一番興味深い個体といえるかもしれない。ケースナンバー508475(3)はコレクター市場に初めて出たステンレス製の1518だ。クロット博士とダビデの2人によれば、この時計は47丁目(マンハッタン)で売られていたそうだ。80年代の初めにダイヤモンド・ディストリクトとして知られていた地区である。この時計は4500ドル(約49万円)で売られていたが、買い手はいなかったようだ。当時、イエローゴールドの1518なら7500ドル(約82万円)で売られていただろうとクロット博士が教えてくれた。 

コレクターに初めて見つけられた

ステンレス製の1518は、1980年代初期に

47丁目で売られていた。

値段? 4500ドルだったよ。 

– ヘルムート・クロット博士

我々の信じるところ、この時計は1980年代の中頃にイタリア人ディーラーの手にわたったようだ。その後の1989年11月12日、ステンレス製の1518が初めて公の場所で販売されることとなった。今はなきオリオンという名のモナコのオークションハウスでのことだった。クロット博士はあの日の興奮を私に伝えてくれた。彼もその場にいたのだ。この時計が160万フランスフラン(当時約28万1600ドル)で売られたその場に。

当時、ステンレス製の1518として知られている個体はこれだけであったし、次の個体は1994年になるまで市場に出回らなかった。この次の個体というのが今週末に売りに出されるもので、ドイツで発見された一番目にご紹介した最初の個体である。ダビデ・パルミジャーニによるその時計のプライベートセールの成功を受けて、1995年10月21日に3番の所有者が金銭的な成功を期待し、この時計をアンティコルムで売り出したことがあった
これほど重要な時計にもかかわらず、このオークションは全くといっていいほど振るわなかった。当時、この時計がステンレス製の1518として知られている2つの内の1つだったという事実にもあまり目が向けられていなかったようだった。そうしてこの時計のオークションは失敗に終わった。 

クロット博士によると、このオークションの失敗の後、彼はあるクライアントのためにアンティコルムにて直接この時計を53万1869ドル(約5823万円)で購入したそうだ。その後、ダビデがこの時計を買い、少なくとも2回は売却している。ダビデが自分のコレクションとして少しの間保有していたのはこの個体だと私は考える。現在はイタリアのダビデのクライアントの手にわたっている。

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ケースナンバー6335561の歴史 – 2000年にダビデ・パルミジャーニがトルコで発見

この時計も興味深い個体だ。まずケースが他の3本と全く異なり、ウェンガー製となっている。他のものよりラグが幅広く、ソリッドで、ラグ穴がない。この時計が市場に出回った背景にも、もちろんダビデ・パルミジャーニが関わっている。

90年代の中頃〜後半ごろ、ダビデはサービスや記録、そしてオーバーホールのためにステンレス製の1518のひとつ(たしか3番)をジュネーブのパテックに送った。現在に比べると、当時のこの時計の真価はまだ知られていなかったが、サービス部門の人間がきちんと記録に残している。その数年後、また別のステンレス製の1518がジュネーブのサービス部門に届いた。今回はトルコのある一家が所有していたもので、さっそくパルミジャーニに連絡が入ったのだ。

今ではこのような情報がディーラーに伝えられるなど、考えられない話だが、時代が違ったのだ。こうして、ダビデはトルコにいるステンレスの1518を所有する一家の連絡先を受け取った。詳しくここには書かないが、その家族は家庭内で問題を抱えており、この個体をダビデに売りわたすことに同意した。これもまた今となっては想像しがたいことかもしれないが、ダビデはミラノから、そしてオーナー一家はイスタンブールからジュネーブを訪れることになった。双方はローヌ通りにあるパテックのサロンで面会した。時計はパテック フィリップにまだあったので、検査が済んだ後、ダビデは大金が記入された小切手をオーナーに手渡し、パテック フィリップから時計を受け取った。

その後、2000年にダビデはこの時計の話を彼の上客の一人に持ちかけた。彼は興味を持っていたようだが、100万スイスフランは高すぎたようだ。そこで2000年の10月15日にダビデはアンティコルムに販売を委託し、結果として143万3500スイスフラン、つまり100万ドル(約1億950万円)弱の値段で売られたのだった。

この時計は言わずもがな、いまでもイタリアのダビデ・パルミジャーニのクライアントが所有している。


ステンレスの1518はこの4つ以外にもあるのだろうか? おそらくあるだろう

4つの個体のうちどれが狙い目かを決めることは容易ではないが、個人的には今回出てくる個体がベストだと思っている。理由はフィリップスに出されるこの時計以外が近い将来市場に出回ることはないという話をダビデから聞いたからだ。他の3本はすべてダビデの付き合いの長いクライアントが所有している。彼らはすべてイタリアの実業家の一家で、ダビデによるとすべてがその家族の中で次の世代に継承されていくことになっているのだという。本当にそうなるかどうかを確かめることはできない。それにオークショニアも全力で別の個体を競売にかけられるように駆けずり回っているはずだ。今回のオークションがうまくいけばなおさらだろう。

最後になるがゴールドバーガーによると、Genevor SA社に4つのケースが注文されたが、4つ目のケースは使われていないらしい。彼はステンレス製の1518を所有したことはないが、4つの個体すべてに精通している人物だ。ではウェンガーのケースに入った個体はもっとあるのだろうか。あまり期待は持てないが、可能性はある。また、彼はパテック フィリップについての書籍において、ステンレスとピンクゴールドのコンビの1518についても言及している。これはアルフレッド・パラミコも動画で同じ個体について語っている。現代にこの個体を目にしたものはまだいないが、実際に存在するものである。

上の写真はWikipediaのルーマニアのミハイ1世のページにあるもので、この時計が写っているのが分かる。ズームして輝度を上げると、腕にパテック フィリップの1518が着けられているのが確かに見えるはずだ。パラミコの動画を公開した後の2014年、我々の古き友人であるエリック・ウィンド(Eric Wind)がこの件についてルーマニア王家に尋ねたことがあった。その結果、王のアシスタントがこの時計が実在することを教えてくれたが、彼によるとこの時計は王のお気に入りで、売られることはないだろうとのことだった。しかし、他にも眠っている個体が存在するということだけはお分かりいただけたと思う。

では、別の1518が市場に出ることがあるのだろうか。あるかもしれないが、可能性は低いだろう。3本がイタリアの歴史的なコレクターの手にわたり、そしてそれらに最も近い男が、しばらく市場に出でることはないだろうと考えているからだ。それを踏まえると、フィリップスに出品される個体は奇しくも一番初めに製造されたものであり、本格的なコレクターにとっては絶好のチャンスとなるだろう。推定売却額は300万スイスフラン(約3億2836万円)以上だが、どんな値がつくかなど誰にも分からない。
唯一分かっていることは、この時計が非常に特別であることだ。世界で最も貴重なパテック フィリップといってもいいかもしれない。私も市場がどのような反応を見せるかを楽しみにしながら見守るつもりだ。この特別な時計についての詳細はこちらから


Special Thanks

今回、世界で最も重要な時計の世界に光を当てる手伝いをしていただいたオーレル・バックス氏、ジョン・ゴールドバーガー氏、ダビデ・パルミジャーニ氏、ヘルムート・クロット氏、アルフレッド・パラミコ氏らに感謝を申し上げたい。