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Introducing パテック フィリップ ミニット・リピーター・トゥールビヨン 5303

手直されたクラシックなパテックのキャリバーが、腕元でミュージアムとなる。

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1839年9月4日、旧市街からローヌ川を挟んですぐの場所にあるジュネーブのケ・デ・ベルグにある、まだオープンして数ヵ月の小さな時計店が懐中時計を販売した。その時計は、クォーターリピーターと呼ばれるタイプの複雑機構のひとつで、ムーブメントはジュウ渓谷で作られていたが(当時の複雑なスイス時計の多くがそうだった)、ジュネーブで組み立て、仕上げ、時刻合わせ、ケーシングが行われていた。アントワーヌ・ノルベール・ド・パテックと彼のパートナーであるフランソワ・チャペックが経営していたショップの記録によると、この時計は彼らが販売した19本目の時計であり、657スイスフランを支払ったオーナーはポーランド出身であったという。

 あなたはおそらくこの物語の残りの部分を知っている。この会社は1851年にパテック フィリップ社となり、以来、リピーター時計で有名になった。そして今日、パテック フィリップは新しいリピーターウォッチ(正確にいえば、リピーターウォッチの新バージョンというべきか)、Ref.5303R-001 ミニット・リピーター・トゥールビヨンを発表した。この時計の最初のバージョンはミニット・リピーター・トゥールビヨン シンガポール 2019 Ref. 5303で、昨年秋にシンガポールで開催された「パテック フィリップ・ウォッチアート・グランド・エグジビション」で発表された。それはシンガポールと東南アジアに向けられた12本の特別版であり、5分目盛りに星が付いた真っ赤なミニッツトラックをもっていた(シンガポールの国旗へのオマージュ)。新しいバージョンは限定版ではないが、私は生産数が非常に少なくなることを期待しているが(全てのパテック製チャイミングコンプリケーションの場合と同様に)、新しいバージョンは、より落ち着いた黒のミニッツサークルを備えており、42mmの18Kローズゴールドのケースを含め、それ以外の点でも2019年のものと同じ仕様となっている。

 通常、リピーターには2つのゴングがある。チャイムを鳴らすには、ケースサイドにあるスライドセットを引き戻して離すと、時計は下の方で時を鳴らし、次に上の方と下の方で4分の1時間の数を鳴らし(15秒ごとに1回“チンドン”という音を鳴らす)、次に上の方で15分を過ぎた分を鳴らす。リピーターが10分間隔の数などの直感的なものよりも、15分をチャイムで鳴らすというのは奇妙に思われるかもしれないが、ミニッツリピーターはクォーターリピーターから徐々に進化してきたので、機能的な基盤としてクォーターリピーターを維持してきたのだ。(実際には時間を10分間隔と分ごとのチャイムで鳴らす、いわゆる10進リピーターは存在するが、これは稀だ。私が知る限りでは最初に作ったのはカリ・ヴティライネンであり、今日ではA.ランゲ&ゾーネのツァイトヴェルク・ミニッツリピーターがその一例だ)。

 一般的に、ミニッツリピーターは機械的に2つの階層に分かれている。1つめは文字盤の下にあり、2つめはムーブメントの裏側にある(時計職人はトッププレートと呼ぶ)。文字盤下の構造、またはフレームはリピーター機構の最も重要な部分を構成する。リピーターは、針を駆動する機構と同様で、目にすることはできないが針を回転させるようなステップカムのシステムで駆動する。スライドを引き戻すと、チャイムシステムに動力を供給し、また、レバーのシステムがカムの上に落ちることでリピーターの輪列が時間を感知する。レバーがカムから持ち上げられると、それらが取り付けられた台が、実際にゴングを打つハンマーのためのスイッチを通過し― ハンマーとゴングはムーブメントの反対側、トッププレート側にあり、ゴングがチャイムを鳴らす速度は調速機構によって制御される。これはアンカー(懐古趣味が好きな人にはたまらないし、そうでない人は上の空かもしれないが)、またはフライホイール(弾み車)、より現代的な遠心力調速ガバナーのいずれか(これらは一般的に静かであるか、ほぼ音がしない)と同じ原理で動作する。ハンマー、ゴング、調速機構はムーブメントのトッププレート側にある打刻機構のパーツであり、トランスパレントバックをもつリピーターでは、唯一の目に見える部品だ。

 2013年、パテック フィリップはニューヨークで当時のリピーターのコレクションを一挙に展示する特別展を開催。ホディンキーでは、パテックのローラン・ジュノーの監修のもとで、その仕事をしている全ての時計の動きを記録した

 リピーターは、最もシンプルなものでも非常に複雑だ。これには、間違ったステップでレバーが落ちるのを防ぐサプライズ・ピースや、スライドを引き戻さない限りリピーターがチャイムを鳴らさないようにするオール・オア・ナッシング機構などがある。これらの様々な要素は全て正しく動作するために非常に精密な調整を必要とする。そのうえ、ゴング(通常は硬化したスティール)は正しく固定され、適切に調整されなければならず、ハンマーの打鍵の深さ(ゴングを打つ深さ)は深すぎても浅すぎてもいけない。リピーターのテストは、11時59分に設定してからチャイムを鳴らし、もちろん11時間のストライク、4分の3のストライク、14分のストライクを聞く必要がある。

 これらのことを考えれば、あらゆる複雑機構の中で、リピーターが工業製品化出来なかった理由がお分かりになるだろう。スプリットセコンドクロノグラフや永久カレンダーの工業化は進んでいるが、リピーターは、昔ながらの製法が(いくつかの注意点はあるにしろ)唯一の方法であり、高級時計製造の最後の砦のひとつであり続けている。

Cal.R TO 27 PS。左から右へ、トゥールビヨンキャリッジ、それを駆動し、キャリッジのピニオンにギアをかけている大きな車輪、リピーター機構のための調速機構。

 Cal.R TO 27 PSはトゥールビヨン式のミニッツリピーターで、パテックのチャイミングコンプリケーションのいくつかに搭載されているが、素晴らしいが滅多に見ることができない(生産終了している)Ref.3939を含むパテックの最も有名なチャイミングコンプリケーションに搭載されている(この時計は2011年のOnly Watchで約1億5000万円で落札された)。このムーブメントはパテック フィリップを含め、これまでに製作された時計の中でも最も高いレベルにあり、仕上げのレベル、非常に味わい深く重厚感のあるムーブメント構造、そしてドラマ性もまた、このキャリバーを腕時計用手巻き複雑機構の中で最も重要なものの一つにしている。

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オリジナルバージョンのR TO 27 PS、Ref. 3939トゥールビヨン・ミニッツリピーター。

 左側のカラトラバ・クロスの下には調速機構、右側にはハンマー、そしてトゥールビヨンを駆動する特徴的な巨大なホイール、そして最後にトゥールビヨン本体がある。ハイグレードなリピーターによく見られるように“ハンマーに宝石がちりばめられたような”チャイミング機構が採用されており、ひと目見ても、何度見ても印象的な外観となっている。これはパテック フィリップのシグネチャーであり、パテックの名誉会長フィリップ・スターンが着用していた天文台トゥールビヨンなどにも見られる。

1945年天文台コンクール・トゥールビヨン、ムーブメント番号861,115、ボルナン社製。現在はパテック フィリップの名誉会長であるフィリップ・スターンが個人的な腕時計としてケースに入れて着用している。

 この5303に搭載されるCal.R TO 27 PSのバージョンは所有者が簡単に見ることができるように大幅に再構成されている。特にハンマーはムーブメントのダイヤル側に移設され、現在はオープンダイヤルの下に置かれている。ゴングはもちろん文字盤側にもある。トゥールビヨンは、印象的な駆動輪と調速用遠心ガバナーと共に、時計のブリッジ側の通常の場所に残されているが、ムーブメントは回転するケージの下側と、ケージのピボットに取り付けられた秒針(1分に1回転する)を見ることができるように開放されている。

 品質が高いというのは、何も言わないということと同義だ。古典的な高級時計製造の観点から見ると、ムーブメントはその最も本質的な要素において、たいてい保守的である。批難の余地がないばかりか、時間や生産コストなどの現実的な制約を一切無視した、悠長な感覚がある。これは当然のことだが、高級時計の世界ではそうあるべきであるほど頻繁に起こることではない。全てのコンポーネントにおける目に見える卓越性は、少なくともパテック フィリップでは、他のいくつかの価格帯と同様に、最高の価格帯、どのような価格帯においても、ここ数十年でますます稀になってきた、技術の贅沢さが存在することを示している。

 他の市場では、トゥールビヨン・ミニッツリピーターというのは意外と少ない。ヴァシュロン・コンスタンタンにはトラディショナル トゥールビヨン・ミニットリピーターがあるが、オーデマ ピゲにおいてはリピーター単体でも他の複雑機構と組み合わせてたものでも、今のところリピーターとトゥールビヨンだけの時計は作られていないようだ(ジュール・オーデマのコレクションでは作られていたが)。この複雑機構を少し変態的に解釈してみたい方には、モーザーの「スイス・アルプ・ウォッチ・コンセプト・ブラック」がある。このモデルには針が全くないため、リピーターはアクセサリーではなく時間を知るために必要不可欠なものとなっている。

 最後に一つだけ重要な疑問が残っているが、それはこの時計のデザイン哲学に関係している。ここで正直に言うと、パテックのトゥールビヨン・リピーターに関しては、私は「less is more」という意見に固執している。私は以前に「保守的、復古的」という言葉を使ったが、個人的にはこのCal.R 27 TO PSのより外向的なスタイルの変化に苦しんでいる。しかし、このRef. 5303には、私自身の半懐古趣味的な不満以外の文脈で欠点を見つけることができない(それどころか、その文脈でも欠点を見つけることができるとは完全には確信していない)。結局のところ、スカイムーン・トゥールビヨン(例えば)は大人しくはないし、パテックの控えめなチャイミング・ウォッチを望むのならば、Ref.5178のような非常に多くの選択肢がある。

 Ref.5303は、非常に現代的でありながら、驚くほど古風でもある。スイスの高級時計製造の代表格であり、厳格な手仕事によるクラフツマンシップと非常に複雑なメカニズムの奇妙な交差を生き残り、繁栄させることほど難しいことはない。この時計は、近年、ほとんどが特定のSS製スポーツウォッチの文脈で語られるようになった会社によって作られていると思うと、驚くべきことである。5303はパテックのもう一つの、そしてはるかに古い側面であり、このムーブメントは常に時計製造における偉大な知的で美的な喜びの一つを象徴している。今回のCal.R TO 27 PSの最新の使われ方は、このムーブメントの概念的な楽しさ同様、はっきりと目に見えるものになった。

 パテック フィリップのRef. 5303:ケースは18Kローズゴールド、42mm×12.13mm、両面サファイア、"湿気や埃から保護されているが、防水ではない" 。文字盤はサファイアクリスタルにブラックラッカー仕上げのアワーサークル、ホワイトプリントの分目盛とパウダー状のローズゴールドのマーカー、18Kホワイトゴールド製、穴が開いたブラックラッカー仕上げのリーフ型時分針、18Kローズゴールド製のリーフ型の針をもつスモールセコンド。
ムーブメントはCal.R TO 27 PS。手巻き、ミニッツリピーター、トゥールビヨン機構付き。31.6mm×8.35mm、パワーリザーブは最大48時間、29石、2万1600振動/時。ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイ、ジャイロマックス・テンプ。価格は時価。その他詳細は、パテックフィリップ公式サイトまで。