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HODINKEEのスタッフや友人に、なぜその時計が好きなのかを語ってもらう「Watch of the Week」。今週のコラムは、ソーシャルメディアマネージャーのトレバー・ギリランド(TREVOR GILLILAND)が担当する。
7年前、私は時計の沼に真っ逆さまに落ちてしまいました。7年といっても、時計界隈のベテランというわけではありません。それほど昔のことではないとしても、人生の4分の1を占める“旧き良き時代”のバラ色の思い出に浸る権利が、私にだってあると信じています。
そんな時代は覚えていないって? 時計店に行けば、探している時計を実際に見つけることができた時代のことです。
アトランタ在住で20代前半だった私は、これまでに地元の正規代理店(AD)との付き合いも購入歴もなく(そして経済的な余裕もなく)、HODINKEEで紹介されていた作品を初めて“生で”見るために通りから店内に入りました。ジョージアの州都バックヘッドの高級ブティックに足を踏み入れた瞬間、私は光輝く販売カウンターと無料で振舞われるシャンパンの世界に誘われたのです。
そこで目にしたのは、ロレックスのショーケースです。
時計愛好家であれば多くの方が同意してくれると思いますが、ロレックスというブランドは“良い”時計を所有するための旅路を導く北極星のような存在です。クォーツウォッチと機械式時計の違いを知る(あるいは気にも留めなかった)ずっと前から、私はロレックスの名前を知っていました。販売員が最初のオイスター パーペチュアルを私の腕に乗せたときの、心地よいクラスプのクリック音を今でも鮮明に覚えています。その光景は信じられませんでした。お金のない大学生だった私が、生まれて初めてロレックスを身につけている。さらばセール品、よろしくラグジュアリーといった印象でした。
その時、20本以上の時計を試着したはずですが、私の頭上に戦略的に配置された照明の下で、時計をつけるごとにその前につけた時計よりも際立って輝いて見えました。私はサブマリーナー、GMTマスター、そしてデイトナ(何と割引価格の提示まで!)など燦然と輝くスポーツロレックスを眺めながらも、控えめなエレガンスを放つオイスター パーペチュアルに何度も目が留まりました。
ほかの人は退屈な時計と言ってしまうかもしれませんが、私は確信を持っていました。この時計は、自分が何者であるかを明確に知っています。インダイヤルや貴金属、複雑機構などは一切ありません。それ以上でもそれ以下でもない、シンプルな計時装置としての時計であることを。
その日の午後、私は何も買わずに帰宅しました。しかし、その短い訪問のあいだに、私の購入体験や時計に求めるものについての認識は一変しました。
話を2021年まで進めます。
ロレックスを所有するという夢が現実になりつつありました。欲しいものはずっと前から決まっていて、初めて手に入れるためのお金を手にすることもできました。唯一の問題は在庫です。
その時には“旧き良き時代”はもう終わったも同然だったのです。ロレックスのサプライチェーンについては、あえて触れないことにします。HODINKEEのソーシャルチャンネルのマネージャーとして、またサイトのモデレーションに従事している私は、この問題に関する皆さんの意見をよく知っています(何せ1000件以上読んでいますから)。最終的に、自分に合った時計を手に入れようと思ったら、中古市場に目を向けなければならないと思いました。
中古市場に怖れを抱いたことはありませんでした。現在の時計を取り巻く環境を考えると、中古市場でロレックスを買うことは必要不可欠なことなのです。私にとっては、購入することの重大さが大きな意味を持っていました。結局のところ、これはただの時計ではなく、“これぞ”と思う時計だったからです。私がこの趣味に没頭しているあいだ、ほぼずっと追い求めていた時計なのです。初めての高級時計を買うのに、ブティックに赴いたときのような華やかさがなければ高級感に欠けるのでしょうか?
ロレックスが届いた日は、不安で胸がいっぱいでした。不安という招かれざる客がやってきたのです。死ぬまでに欲しいリストからこの高額商品を二重線で消す直前になって、がっかりしてしまうのではないか、そればかり考えていました。
そして、不意に目に飛び込んできたのです:私の最愛の高級品を乗せた車が、静かな田舎道を進んでいたところを。まさかジャン・フレデリック・デュフォー(訳注:ロレックスCEO)が運転するリムジンが、ありふれた時計を乗せて車道に入ってくるとは思ってもいませんでした。マーチングバンドや紙吹雪が降ることもないだろうと思っていました。しかし、フェデックスがT型フォード並みのおんぼろトラックでやって来るとは思ってもいませんでした。控えめに見積もっても、このトラックは100万年前の代物です。錆びついた金属が軋む音、咳き込むようなマフラー音を轟かせながら、家の前で急停止しました。苛立った様子の運転手が降りてきて、芝生を駆け上がり、私の手に箱をポンと渡したのです。
7年間、あれほど待ち焦がれた感動の瞬間は、まさに一瞬にして消えてしまいました。
カウンターの上に箱を置き、何時間見つめていたでしょうか。そして、ついに私は開封することにしました。
時計を手に取り、手首に滑り込ませました。そして、クリック音を確かめました。あのおなじみの、心地よいクラスプの音です。
キッチンの蛍光灯はブティックほど明るくありませんでしたが、時計は変わらず輝いていました。ブラックダイヤルとステンレススティールケースとのカラーコントラストが魅力的です。思わず安堵してしまいました。それは、見紛うことなく36mmのロレックス オイスター パーペチュアルでした。目立たず、控えめで、シンプルで、私が望んでいたそのものでした。
それ以来、私はほかの時計をあまり身につけていません。なぜでしょう? 未だにこの時計に違和感を覚える場面に遭遇したことがないからでしょうね。
腕周りの大きい人にとって、36mm径は少し小さすぎると感じるかもしれませんが、このスタイルと目的を持つ時計は、私にとってスィートスポットなのです。時間を知る必要があるときは、常にそこにあり、そうでないときにはジャケットの袖の下に簡単に隠れてしまいます。どんな状況でも、すぐに目につくところに隠すことができるという点に、私はとても満足しています。確かに、私のタトゥーが人目を逸らすのに役立っているかもしれませんが、自分だけに許された秘密の贅沢を持っているという考え方が、この時計にさらに愛着を感じる点です。
今でもサブマリーナーやデイトナのことが頭に浮かびます(私だって人間ですからね)。気まぐれな愛好家の私の心のなかには、“すべてを兼ね備えた究極の1本”はありません。それでも価格が上昇し、私の優先順位が変わっても、もう二度とロレックスを所有する機会がないのであれば、自分の決断に満足しています。この時計は50年後の私の腕の上でも、今と同じように普遍的な佇まいを保つでしょう。
結局のところ、私に豪華なショーケースも魅力的な販売員も必要ありませんでした。私が必要としたのは、世界で最も不便なフェデックスのトラックと“過ぎたるは及ばざるがごとし(まさに)”という真理を思い出させてくれるものだったのです。
Photos by Andrew Turner
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