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Hands-On セイコー クレドール叡智Ⅱピンクゴールド

新採用されたケース素材と、初代・叡智Ⅱプラチナモデルからの小さなアップデートが、全く違った時計を生み出した。

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セイコー クレドール叡智は多くの点で、高級時計の中でも独特の存在だ。時針、分針、秒針しか見せず、2008年の初代モデルれた時点で、既に余計なものをそぎ落とした時計だった。また、その当時からセイコーのスプリングドライブが動力源となっていた(初代はスプリングドライブキャリバー7R08)。初代・叡智はノリタケ社製の磁器ダイヤル、プラチナケース、テンパーブルー針を持つほか、10時のダイヤルマーカーの外側の端と軸を同じにして、パワーリザーブ表示も備えている。ダイヤルマーカーとロゴはとても深みのある青で、しかも手書きで施されている。極めて精巧に仕上げられているので、最初は手書きとはとても信じられないが、細かく観察してみると、線の幅や端の部分にほとんど目に見えないような、ごくごくわずかな違いがあるので、手作業によるものなのだと分かる。

自然の静かな動きから着想を得るというのは、
  とても日本らしい考え方だと思います。 

– 中澤義房、塩尻のマイクロアーティスト工房・マスター時計職人

多くの時計通にとって、初代・叡智はいくつもの点で衝撃的な作品だった。まず、既存のいかなる腕時計技術をもってしても容易には再現できないような視覚効果と情動を生む、スプリングドライブムーブメントの能力を見せつけたこと。次に、盛岡の職人が手掛けるムーブメントの仕上げの精巧さが、世界のどこと比較しても十分に通用するだけのレベルにあることを証明したこと――しかも、いくつかの点では、時計製造や仕上げで優れているとしてすぐに名前が挙がる国々で作られている製品の多くを、間違いなく上回っていたのだ。 

初代のクレドール叡智。2時、4時、7時の位置に「秘密の」アラビア数字がある。

だが、おそらくいちばん重要なのは、誰の目にも明らかに日本的だと映った、そして今でもそのように映る製品を作ると同時に、真に世界的なアピール力があるデザインとインスピレーションの明晰さを提供できるセイコーの能力が、初代・叡智により披露されたことだろう。2017年に我々が日本を旅し、塩尻のマイクロアーティスト工房でスプリングドライブの製造を取材した時、セイコーの中澤義房(叡智Ⅱの組み立てに携わる人物)は、「 自然の静かな動きから着想を得るというのは、とても日本らしい考え方だと思います」と述べた。これはまさに的を射た発言であると同時に、叡智が持つ非常に日本的な特徴そのものでもある。世界中の時計通を魅了するこの時計は、(年間の生産量がとても少ないので)今ではマンハッタンからシリコンバレー、シンガポールやそのほかの場所において、ごく少数の人が身につけているのを目にすることができる。

初代・叡智のキャリバー7R08 7R08A.

 叡智の次のバージョン、叡智Ⅱは、2014年に発表され、ミニマリズムの点では、時刻の表示を最低限の要素にまで削ったという意味で、初代・叡智をさらに一段階上回った 。

セイコー クレドール叡智Ⅱプラチナモデル。

スプリングドライブキャリバー7R14。パワーリザーブ表示はムーブメントの裏側にある。

叡智Ⅱではパワーリザーブの位置がムーブメントの裏側に移動し、クレドールのロゴもかなりシンプルな形になった。また、初代・叡智のダイヤルにあった「秘密の」アラビア数字も消えている。それによって、極めて余白が多く、全体的なまとまりのためにはどの要素も欠くことのできない時計となった。隠しても問題ない、無関係な要素は一切なくなり、その結果としてあらゆる要素における目には見えない精緻さが、さらに強く前面に押し出されている。

18KPGモデルは叡智Ⅱプラチナモデルが持つ心地良いまでのシンプルさを受け継いでいると同時に、フィット感やあらゆる部分の仕上げの優秀さに関しても、恐ろしい程同じ品質を保っている。私はこの1年の間に何百もの時計に触れてきたし、過去20年間となると何千もの――おそらくは何万もの時計を詳しく見てきたと思うが、眼鏡にかなった時計がごく少数しかなかった。そんな厳しい目をもってしても、叡智は余裕で審査を通過できるだろう――それどころか、検査する側を喜ばせてくれるところさえある。

2つのモデルは基本的にほとんど同じで、18KPGケースを別にすると、最も顕著な違いはインデックスの色だ。PTモデルでは深みのある濃い青だったのに対して、18KPGモデルではとても濃いチャコールグレー――ほぼ黒に近いが、ほんのわずかに添えられたぬくもりが、ケースの持つ琥珀のような暖かい色合いとバランスが取れている。

PTモデルでは、ブルースチールの針がどちらかというと冬らしさを醸し出す――美しさはあるものの、それは足跡ひとつない雪に囲まれた中で、冬の日に氷の下を流れる水の美しさだ。しかし、18KPGモデルにおいては、ブルースティールが別の意味合いを帯びている――夏の午後の太陽の光を浴びた矢車菊を想像するといい。ある意味、ゴールドの使用によって、PTモデルよりも伝統的な意味でいくらか贅沢感のある時計になっている。PTモデルにはある種の質素さが――厳格さに近いものがあり、私が思うにそのことが叡智の哲学を良く表現している。18KPGモデルでは、そんな冷たいよそよそしさがいくらか失われており、そのおかげでよりアプローチしやすい時計になっている。

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ムーブメントは以前と変わらず、世界でも有数の美しさを保って考案・製造されている。非常にハイエンドな高級腕時計の土台としてのスプリングドライブは、とても興味深いと共に挑発的ですらある選択だ。同時に叡智の特徴として不可欠な要素なのは言うまでもない。スムーズで、静かで、滑るような秒針(その先端にかたどられた三日月模様は、時計のダイヤル側では唯一意識的に装飾を前に出した部分だ)の動きは、絶え間ない時の流れの視覚的な表現に当たる。スプリングドライブが一般的なクォーツ式時計とも従来の機械式時計とも、大きく異なることは心に留めてもらいたい――これはつい忘れがちだが、叡智の魅力を理解するうえで鍵となるポイントだ。いくつかの基本的なことを振り返るにとどめておくが、この時計はゼンマイを動力源とする。電池はなく、蓄電システムも持たない。また、一般的な輪列が、従来の時計でガンギ車、レバー、テンプがある場所にまで達している。こうした部品の代わりにあるのは「ステータ」で、これが電磁石の内部で回転する。ステータは発電機のローターとして機能し、提供されるエネルギーはステータのブレーキとして働く電磁石の力を制御するために使われる。調整は水晶振動子を介して行われる。

クレドールのミニッツリピーターや、グランドセイコーのスプリングドライブ8Daysラインナップと並んて、叡智は手巻きスプリングドライブムーブメントを採用した数少ない時計のひとつであり、このムーブメントとの相性が非常に良いのだ。人間の手によって作られたものとしては、そのムーブメントは限りなく完璧だ。近頃では、長い歴史を誇る時計メーカーによる、最も高価な高級時計の中にさえも、じっくり観察すると落胆させられるものがあるものの、叡智のスプリングドライブはどれだけ入念に観察しても尽きることのない喜びをもたらす。叡智が持つ品質のレベルに到達できるような製品は、独立時計師であろうマニュファクチュールであろうと、わずかしか存在しない。さらにスプリングドライブが示す機械的な解決策と圧倒的な美しさという独特の組み合わせを提供できる製品は全く見当たらない。

手首にはめてみると、叡智Ⅱピンクゴールドモデルは、時計製作において最も重要な試み――品質へのこだわりと、美しさへの追求をバランス良く両立させている。時計製作にとってその組み合わせは、腕時計のデザインを形にするために、最も異質な先進技術と非常に伝統的なアプローチをひとつにしていることを意味する。つまり、どの腕時計にも共通する時の経過という避けがたい切迫感と、目に見える動きの静謐さが一体化しているに等しいということだ。

初代・叡智は、時計製造業界がそれまで目にしたことのないような、衝撃的なデビューを果たした。それを上回ることは不可能なように思えたが、あらゆることを考え合わせてみると、叡智Ⅱは既に途方もなく洗練された先代を生かしながら、それを超える製品を生み出すことに成功していると感じる。18KPGモデルで430万円(税抜)という価格は、競合製品が多いと同時に、全く競争相手がいないという、興味深い立ち位置にある。昨今の高級時計の世界は妥協の産物が目立つうえに、金額が5桁の時計を手にしてもいかに少ない価値しか得られないことを考えると、叡智Ⅱの価格はお買い得だと思える。

基本情報

ブランド: Credor(クレドール)
モデル名:Eichi II(叡智Ⅱ)
ケース:18KPG 39.5mm×10.3mm
防水性能:30m防水
耐磁性能:4800A/m(アンペア毎メートル)(約60ガウス)
駆動方式:スプリングドライブキャリバー7R14、手巻き式
精度:月差±15秒
パワーリザーブ:60時間
石数:41石
トルクリターンシステム 搭載
価格:430万円(税抜)

詳細についてはクレドール公式サイト