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我々が知っていること
この週末、マイアミグランプリがフロリダに戻ってきた。2022年にF1のカレンダーに追加されて以来、同レースは今年で4回目の開催となる。近年のF1は“Drive to Survive”ブームを背景に北米市場での存在感が増すなか、アメリカ国内でのレース数を拡大。従来のオースティン(テキサス州)に加え、マイアミ、ラスベガスの2都市が加わり、アメリカで3戦が行われるようになった。この一大イベントに合わせて、チューダーはVisa Cash App Racing Bulls(VCARB)チームとのパートナーシップにより、新作モデルブラックベイ クロノ “カーボン25”を発表した。今回は、単なるカラーバリエーションやセラミックモデルの追加にとどまらない。カーボンファイバー製のケースを採用し、明確にモータースポーツを意識したクロノグラフとして仕上げられている。
限定2025本で展開される本モデルにおいて、チューダーはこの新作限定モデルを標準仕様のブラックベイ クロノとは大きく差別化するために多くの工夫を凝らしている。最大の特徴は、固定式のタキメーターベゼルを備えたカーボンファイバーケースだ。ケース径は42mmで、標準モデルより1mm大きく、厚さは14.3mmとスティールモデルの14.4mmよりわずかに薄い。防水性能は200mを確保しており、リューズ、プッシュボタン、ケースバックにはブラックPVD加工を施したチタンを採用している。
内部には、ほかのブラックベイ クロノと同様にCal.MT5813を搭載。これはブライトリングのキャリバー01をベースとする自動巻きクロノグラフムーブメントで、コラムホイールとシリコン製ヒゲゼンマイを備える。振動数は2万8800振動/時、パワーリザーブは70時間で、チューダーによる厳格なテストにより、2〜+4秒/日の高精度が保証されている。
これまでの説明を踏まえたうえで改めて強調しておきたいのは、このモデルがチューダーとVisa Cash App Racing Bullsチームとの関係性を背景に製作されたものであるという点である。ホワイトとブルーの配色やカーボンファイバーという自動車業界由来の素材の採用は、その証左といえるだろう。そしてこのモデルが、チューダーにおいて極めて希少な本数限定品であることも見逃せない。こうした限定モデルは基本的にブランドがパートナーシップの枠組みにおいてのみ展開するものだ。たとえばインテル・ミラノとのコラボで製作されたブラックベイ 58(1908本限定)が好例である。
前述のとおり、ブラックベイ クロノ “カーボン25”は2025本限定で製作される。すべてのモデルにはカーボン製エンドリンクを備えたハイブリッド仕様のラバー×レザーストラップが装着され、販売価格は103万7300円(税込)となっている。
我々の考え
チューダーといえば、やはりダイバーズウォッチの印象が強い。しかしクロノグラフを頻繁に使うタイプではない自分でも、過去に登場したチューダーのクロノグラフデザインには、特別な愛着を感じることがある。とりわけビッグブロックやヘリテージ クロノ(僕はブルーが好み)などがそうだ。そして今回のカーボン25もまた、新たにお気に入りリストに加えたい1本である。ドーム型のホワイトダイヤル、ブラックのインデックス縁取り、そしてスリム化されたカーボンケースの組み合わせが、ブラックベイ クロノに現代的な表情と魅力を加えている。
また、価格については最初やや高く感じたものの、ブラックベイ クロノグラフの通常モデルが81万1600円(税込)からであることを考えれば納得できる範囲である。しかも2024年3月に登場したピンクエディションのように、このラインは人気モデルの追加によって着実に進化を続けている。さらにこれは購入理由というより思考実験のような話になるが、この価格帯で機械式かつ自動巻きのカーボンケースクロノグラフを、ほかにどれだけ挙げられるだろうか(ここではカーボンファイバーとフォージドカーボン、カーボンコンポジットなどの素材の違いはひとまず置いておく)?
もちろんチューダーには、カーボンコンポジット製ケースを採用したペラゴス FXD “サイクリング”とペラゴス FXD クロノが存在する。どちらもムーブメントは共通でケース径は43mm、価格は77万円(税込)である。なお、両モデルとも限定品ではない。一方でエドックスからはカーボン製のクロノオフショア1が登場しており、こちらは45mm径のケースにセリタ製ムーブメントを搭載し、価格は59万4000円(税込)である。予算をさらに引き上げれば、1万ドル超の価格帯にはジラール・ペルゴ、ベル&ロス、ウブロ、ゼニス、シンガーなどが展開するカーボン製クロノグラフが豊富に揃っている。つまり、スティール製との比較におけるカーボン製クロノグラフの価値評価は極めて主観的なものである。ただし今回のチューダーは、限定モデルとしてプレミアムな価格帯に適切に位置づけられた1本といえる。もっとも、直接的な競合が同ブランド内に存在しているという点も見逃せない。
カーボン素材の話題を離れてもう少し広く捉えれば、カーボン25はブラックベイ クロノの進化形であると同時に、チューダーとF1、そしてVCARBチームとの関係性の進化をも象徴している。VCARBは引き続きレッドブル・レーシングのジュニアチームとして活動しており、2025年シーズンはとりわけ注目度が高い。というのも、元VCARBのドライバーである角田裕毅が、レッドブル・レーシング所属のリアム・ローソン(Liam Lawson)とシートを交代したばかりだからである。近年、特に2024年にダニエル・リカルドがVCARBを離脱した件をはじめとして、レッドブルが姉妹チームのドライバーをどのようにマネジメントするのかについて継続的に関心(あるいは“ドラマ”性)が高まっている状況にある。
単なる時計としてではなく、カーボン25はチューダーがF1における自らの存在感を明確に主張するモデルとも捉えることができる。F1という競技は、今なお時計業界との強固な結びつきを保ち続けている。2025年からはLVMHがロレックスに代わってF1のグローバル・ラグジュアリーパートナーに就任。同年には、同グループ傘下のタグ・ホイヤーがフォーミュラ1を再ローンチしたことも記憶に新しい。時計とモータースポーツの関係は1950年代から続いており、この75年のあいだにチューダーはサーキットにおいてさまざまなクロノグラフを披露してきた。オイスターデイト クロノグラフ、7100シリーズ モンテカルロ、デイトナに似たビッグブロック、79200シリーズ、2010年代のヘリテージ クロノ、セラミック製の個性派モデルであるファストライダー、そして現在の主力ことブラックベイ クロノへとその系譜は受け継がれている。
今回のカーボン25は、そのなかでもブラックベイ クロノというフォーマットを維持しながら、F1が持つ自動車工学的かつハイテクな競争世界に呼応するような仕様へと仕立てられている。カーボンファイバー製ケースの魅力と、全体に漂う現代的かつスポーティなレイアウトによって、モータースポーツファンやチューダー愛好家たちは、この限定モデルの購入枠をめぐってポールポジションを争うことになるだろう。
Godspeed、健闘を祈る。
基本情報
ブランド: チューダー
モデル名: ブラックベイ クロノ “カーボン25”
型番: 79377KN
直径: 42mm
厚さ: 14.3mm
ケース素材: カーボンファイバー(裏蓋、プッシュボタン、リューズはブラックPVD加工のチタン製)
文字盤色: ホワイト(ブルーアクセント付き)、サブダイヤルはカーボン仕上げ
夜光: 針およびインデックスに夜光塗料を塗布
防止性能: 200m
ストラップ/ブレスレット: カーボン製エンドリンクを備えたレザー×ラバーストラップ
ムーブメント情報
キャリバー: チューダー自社製クロノグラフムーブメント Cal.MT5813
機能: 時・分・秒表示、45分積算計付きクロノグラフ、日付表示
直径: 30.4mm
厚さ: 7.23mm
パワーリザーブ: 70時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 41
クロノメーター認定: あり(さらにチューダー独自基準により-2〜+4秒/日に調整)
追加情報: 耐磁性シリコン製ヒゲゼンマイを搭載
価格 & 発売時期
価格: 103万7300円(税込)
限定: 世界限定2025本(各個体にシリアルナンバー刻印あり)
詳細はこちらをチェック
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