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我々が知っていること
先月、ラウル・パジェス(Raúl Pagès)氏はデテント脱進機を搭載したRP1の後継機、待望の第2作目となるプロダクションタイムピース、ラウル・パジェス RP2を発表したばかりである。そんな独立系時計師である彼が今回あらたに手がけたのが、マッセナLABとのコラボレーションによるノクトグラフ リミテッドエディションである。より(相対的に)手の届きやすい価格帯で、再び注目を集めている。
ノクトグラフは、マッセナLABとラウル・パジェス氏による3度目のコラボレーションであり、これまでに発表されたマグラフとアブサンの系譜に新たに加わるモデルである。マッセナは、1930年代から1950年代の時計からダイヤルデザインの着想を得ており、今回のモデルではこれまで以上にそのインスピレーションが強く感じられる。今回のダイヤルは前作のアブサンと同様、ダークブルーでバーティカルサテン仕上げが施されている。しかし過去のマグラフやアブサンとは異なり、ノクトグラフではダイヤルデザインにさらなる奥行きが加えられている。ダークブルーダイヤルの上層には、立体的に盛り上がったロジウム仕上げのチャプターリングが配置されており、こちらもバーティカルサテン仕上げが施され、ダークブルーのミニッツトラックがプリントされている。
6時位置には、沈み込んだスモールセコンドインダイヤルを囲むようにメタリックなリングが配されており、その内側には同じダークブルーで印刷されたセクタータイプの秒表示を設け、加熱処理によって青く仕上げられた秒針を組み合わせている。インダイヤルのすぐ外側には、ゴーストサインとして“Massena”の文字がダイヤルにエングレーブされており、これはパジェス氏自身が自らの時計のダイヤルに施す手法へのオマージュである。全体をまとめ上げるのは、時・分針に用いられたポリッシュ仕上げのリーフ針だ。
ダイヤルの外周を囲むのは内側に向かって凹んだベゼルで、ステンレススティール製のケースに収められている。ケース径は38.5mm、厚さは10mmだ。サファイアクリスタルのケースバック越しに姿を現すのは、マッセナ独自のCal.M660で、その設計と開発はパジェスが手がけたものである。ブリッジの造形を見るだけでも、このムーブメントにはかなりの配慮が注ぎ込まれていることが伝わってくる。それもそのはず、この時計の価格は9000ドル(日本円で約130万円)近くに設定されているのだ。ただしすべてが新設計というわけではない。パジェスとマッセナは、M660においてバルジュー7750の輪列設計を再現しているが、それ以外の要素はすべてパジェス氏の仕様に基づいて設計・製造されている。ブリッジの構造は、独立系のウォッチメイキングに見られる美学を想起させるものであり、価格を抑えつつもその魅力を味わうことができる。なかでも大型リューズホイールやラチェット機構といったディテールが、ムーブメントのなかで際立っている。
このキャリバーは価格帯であるにもかかわらず非常にていねいに仕上げられており、随所に見どころがある。広く取られた地板には緩やかなコート・ド・ジュネーブ装飾が施され、すべてのブリッジのエッジは手作業で面取りが施されている。内角および外角のいくつかは特にていねいに仕上げられており、RP1やRP2のような時計に見られるクオリティの一部をより手ごろな価格で、工業的な製造背景を持ちながらも実現しようというコンセプトが感じられる。そのため重要なのは、M660ムーブメントの製造が“厳選されたスイスの時計師グループ”によって指揮されているとはいえ、パジェス氏本人が製造や装飾に実際に手を動かしているわけではないという点である。むしろオリジナルのマグラフ発表時にウィリアム・マッセナ(William Massena)氏がローガン・ベイカーとのインタビューで語ったように、“コンポーネントは工業的に製造され、その後、各人の工房で手作業による仕上げが施される。ジュウ渓谷一帯に点在する職人たちが部品を受け取り、それぞれ個人の工房で仕上げている”という体制である。
マッセナLABとラウル・パジェスによるノクトグラフは、99本限定での展開となっており、マッセナLABを通じて購入ができる。
我々の考え
独立時計師やブランドの台頭が顕著になる一方で、数千万円クラスの時計を手がけてきた時計師たちが、1万ドル(日本円で約140万円)以下という価格帯で創造力を発揮しようとする、興味深い現象も見られるようになってきた。たとえばM.A.D. エディションズ、グローネ・オールデンザール、スペースワンなどがその代表例として挙げられる。まったく異なる層のユーザーに向けて、そしてウォッチメイキングそのものにおいてもまったく異なる課題と向き合いながら新たなアプローチで時計作りを探求することは、きっと彼らにとっても新鮮で刺激的な試みなのだろう。
マッセナとパジェスのコラボレーションに関して個人的にとても評価しているのは、この価格帯において、仕上げやムーブメント構造に重点を置いた時計を提供するというニッチな要素をしっかり満たしている点である。セリタやラ・ジュー・ペレ、ETAといった既製ムーブメントの見慣れたブリッジばかりがシースルーバックを埋め尽くす飽和した市場のなかで、独立系時計師の視点から設計されたブリッジが見られるというのはマニアにとって実にうれしいアクセントであることは間違いない。実際、手作業によって仕上げられた内外角の面取りがこの価格帯の時計で見られることなど、そうそうあるものではない。
見た目の印象においても、ノクトグラフはこれまでの3作のなかで最も完成度の高いダイヤルデザインといえる。なかでもダイヤルに施された立体的な造形は視覚的に強い存在感を放ち、このモデルの個性を際立たせている。今月初めジュネーブでノクトグラフを実際に手に取る機会があったのだが、ダイヤル上の配色や仕上げのコントラストによって非常に視認性が高く、小振りな自分の手首にも自然にフィットしていた。コントラスト、奥行き、色彩といったあらゆる点においてこれまで以上に動きのあるダイヤルと、より控えめに配されたマッセナのブランディング。このノクトグラフは、シリーズ全体の洗練という意味でも、確実に数段階前進したと感じられる仕上がりとなっていた。
基本情報
ブランド: マッセナLAB × ラウル・パジェス(Massena LAB and Raúl Pagès)
モデル名: ノクトグラフ(Noctograph)
直径: 38.5mm
厚さ: 10mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤: ミッドナイトブルー
インデックス: プリント
夜光: なし
防水性能: 5気圧防水
ストラップ/ブレスレット: イタリア製ダヴグレーのカーフスキンレザー、SS製のサイン入りバックル付き
ムーブメント情報
キャリバー: M660
機能: 時・分表示、スモールセコンド
パワーリザーブ: 約60時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 21
追加情報: マッセナLAB独自のキャリバーで、ラウル・パジェス氏によって設計・開発されたムーブメント
価格 & 発売時期
価格: 8875ドル(日本円で約125万円)
発売時期: すぐに
限定: あり、世界限定99本
詳しくはこちらをご覧ください。
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