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二重振り子式共振クロックについてちょっと考えてみたい。この極めて正確な時計は、隣接してぶら下がる2つの振り子が逆位相で揺れることによる共振現象を利用したものだ。二重振り子式共振クロックは非常に正確であるが、製造と調整が極めて難しい。これまでの歴史において作られた、これらのクロックはほんのひと握りの数しかなく、デヴィッド・ウォルター(David Walter)はそのうちの5つを製作した。ウォルターは間違いなく現代が誇る最高峰の置き・掛け時計職人の一人であり、彼は今、照準を腕時計の世界へと向けている。
ウォルターはオーストラリアのパースで生まれ育った。彼は腕時計とクロックの見習い修理技師として6年間の修行を積むため、15歳で学校を後にした。パースは世界で最も孤立した主要都市の一つであるが、ウォルターが腕時計やクロックを一人で軽々と製作できるようになった理由はここにある。パースは孤立した街であるがゆえ、配送に要する時間が非常に長く、高額な料金を支払う必要があった。修理用の交換部品を調達するのは非現実的な場合が多く、彼は自分で部品を製作したのだ。
見習い期間が終了すると、彼はロンドンへ渡り、3年間働いた後、オーストリアのウィーンへと拠点を移し、オメガで7年間勤務した。ウィーンに在住・勤務していた1978年、ウォルターは最初の置き時計を自らの手で完成させた。彼は最終的にオーストラリアへ戻ったが、2002年にカリフォルニア州サンタバーバラに移り、現在夫人と一緒に暮らしている。ウォルターはこれまでのキャリアで、190を超える数のクロックを手作業で製作し納品してきた。先日、ウォルターはニューヨーク時計協会で講演を行うため、同市を訪れた。私は彼が手がけた新しい腕時計を実際に目にし、彼に会ってより詳しい話を伺う機会に巡り会えた。
2007年、ウォルターには腕時計を作るアイデアがあったのだが、文字盤のコンセプトに満足がいかなかったため、製作を開始するまでには至らなかった。彼はクラシックな雰囲気の、できればギヨシェの文字盤にしたかったのだが、クロック作りの仕事があったため、ギヨシェ彫りについて学ぶ時間を取ることができなかった。彼は腕時計作りのアイデアをしばらく棚上げしていたが、ギヨシェを専門とする南カリフォルニア在住の時計職人であるジョシュア・シャピーロ(Joshua Shapiro)にたまたま出会う。シャピーロが製作する完璧な文字盤が、「ザ・ホワイト」という名前のウォルターの新作腕時計に現在使われている。「ザ・ホワイト」は、38本限定のサブスクリプションウォッチとして提供される。
近い将来、独立した職人たちが製作する腕時計が
アメリカで新たな足掛かりを得ると思います。
– デヴィッド・ウォルター「ザ・ホワイト」のムーブメントは、ヴィンテージもののオメガをベースにしている。ブリッジとネジはウォルターが製作し、部品にはすべて自らが設定した高い基準を満たす仕上げを施した。CAD、CNC、図面のいずれも使用していない。ブリッジはすべてウォルターが手作業で成形し、面取り、研磨、ロジウムメッキ加工を行ったものだ。ウォルターは当初、平らな研磨ネジを使用するつもりだったが、白いロジウムメッキのブリッジとのコントラストを出すために、炎で青く炙ったドーム型のネジに変更した。
シャピーロが製作する文字盤は、アラビア数字、ローマ数字、漢数字の3つのバージョンがある。アラビア数字とローマ数字は、ウォルターが30年前にクロックの文字盤用にデザインしたもので、漢数字のデザインは、ウォルターの弟子であるブリアナ・レー(Briana Le)がよく知る書道家に特注したものだ。針もウォルターのクロックを連想させるデザインであるが、腕時計の大きさに合わせてわずかな修正が加えられている。ウォルターの説明によると、テンワの半径にぴったり合う形状にするために、テンプ受けが製作するのに最も難しい部品であったとのことだ。白鳥のロゴが特徴のリューズはウォルター自らがオーダーメイドで製作するもので、ドイツ製のSSケースは「ザ・ホワイト」のムーブメントに合うように彼が大掛かりな修正を施している。
「ザ・ホワイト」以外にも、ウォルターは他の2つの腕時計の製作にあたっている。「ザ・プラチナ」は、ソリッドプラチナ製のムーブメントを搭載した時計だ。ウォルターがニューヨークに持参した試作品のムーブメントに私は触れることができたが、その重さに驚いた。ご存知のように、プラチナは腕時計のムーブメントに使用するには一般的に好まれる金属ではない。非常に重く、機械による加工がとても難しく、また、かなり高価なものだからだ。「ジ・アズール・ルール・ブルー」懐中時計は、ヴィンテージもののハミルトン 992をベースにした完全アメリカ製の時計で、ケースはタンタル製となる予定である。
とりわけ、ムーブメント部品をアメリカで実際に製作しているウォルターのような腕時計職人に見られるように、現在、アメリカでの腕時計製造に復興の兆しが現れている。私はウォルターに、アメリカにおける腕時計製造の今後の展望について意見を求めた。彼は、「近い将来、独立した職人たちが製作する腕時計がアメリカで新たな足掛かりを得ると思います。強い情熱を持った少数の時計職人が自らの手で腕時計づくりを始めています。加えて、『アメリカ製』または少なくともアメリカ在住の時計職人が手がけた時計を選択肢として希望するコレクターや、時計に興味のある買い手からの関心も高いと思います」と語った。
ウォルターが製作した腕時計は、驚くべきクロックの数々を生み出してきた彼の高い品質基準を確実に満たすものである。彼の南カリフォルニアの工房から、腕時計が続々と送り出されるのを私は楽しみにしている。
デヴィッド・ウォルターの時計についての詳しい情報は、彼のウェブサイトへ。
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