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フランス・ルーアンの肉屋ベロルド(Berold)は、1120年11月25日の夜に生き残った最も幸運な男だったかもしれない。彼はイングランド王ヘンリー1世(King Henry I)を取り巻く人々をノルマンディーのバルフルールからイングランドに連れて帰る予定の船、ホワイト・シップ号の乗客だった。ヘンリー1世は自分の船で移動したが、ホワイト・シップ号にはヘンリー1世の世継ぎや他の王家の人々数名、そして幸運なベロルドが乗っていた。
ホワイトシップ号は当時としては巨大で、全長約40mもあった。イギリス海峡を渡るためには、45人を超える漕ぎ手を必要とした。出発して間もなく、左舷が岩に衝突し船は転覆した。
乗船していた300人のうち、生き残ったのはルーアンの肉屋である幸運なベロルドただひとりだった。彼は翌日、地元の漁師によって、船を沈めたまさにその岩にしがみついているところを発見された。ホワイトシップ号の沈没は、ウィリアム王子(Prince William)の死をきっかけにイングランドで60年に及ぶ内戦を引き起こすこととなり、この船の難破は英国の歴史のなかで語り継がれる出来事となった。
ホワイトシップ号の潜水調査
この船の不幸な結末は、英国の著名な作家で歴史家でもあるチャールズ・スペンサー卿(Lord Charles Spencer)の最近の著書、『The White Ship: Conquest, Anarchy and the Wrecking of Henry I's Dream』のメインテーマとなっている。しかし、彼はそれについて書いただけではない。この本が出版される頃までには、彼はイギリス海峡に眠るホワイトシップ号を探検しているに違いない。デジタル考古学研究所(IDA)の創設者ロジャー・ミシェル氏(Roger Michel)は、スペンサー卿がホワイトシップ号に魅せられていることを知って、この船への潜水調査を企画するため彼と連絡を取った。スペンサー卿とミシェル氏は、80年代にオックスフォード大学で同級生だった。
このダイビングは、デジタル考古学研究所の協力を得て行われる。創設者で所長を務めるロジャー・ミシェル氏は、英国海軍のダイバーであるジャイルズ・リチャードソン氏(Giles Richardson)とホルガー・シューマン氏(Holger Schuhmann)とともにダイビングの指揮をとる。4人のダイバーからなるチームは、夜明けとともにプール港を出発し、ホワイトシップ号が沈んだ場所へと向かう。沈没船の上で、チームは船に装備されたプロトン磁力計とGPRを搭載した潜水装置を使って海底をスキャンし、沈没船のデジタルモデルを作成する予定である。ダイバーは、船を転覆させた岩を撮影するとともに、潮流の影響などのデータ収集を行い、IDAが実施する難破船のデジタル復元に貢献する。
チューダーによる貢献
調査遠征のリーダーであるロジャー・ミシェル氏は時計コレクターでもある。彼は18歳の誕生日にもらったチューダーを着け、80年代初頭に初めてバミューダ周辺の沈没船に向けてダイビングをした。彼がチューダーにこのプロジェクトについて連絡を取ると、快く4種類のペラゴス(それぞれのダイバーに1本ずつ)を調査用に寄贈した。チューダーは、1952年の英国の北グリーンランド遠征のために26本のRef.7809モデルや、米国とフランス海軍に提供されたチューダー サブマリーナーなど、調査遠征に時計を提供してきた長い歴史がある。(この海軍は海底探査任務を実施。チューダーの親会社であるロレックスは、ドン・ウォルシュ(Don Walsh)大尉とジャック・ピカール氏(Jacques Piccard)に対し、バチスカーフ・トリエステ号でのマリアナ海溝の海底を目指したミッションに時計を提供した)
ペラゴスはチューダーで最もダイビングに特化したモデルだ。チタン製でブルーまたはブラックのマットセラミックベゼルを採用している。チューダーが寄贈した時計のうちの1本はブルーで、これはスペンサー卿に贈られることになるが、同氏の家系に縁のある色である。残りの3本はブラックで、ミシェル氏、リチャードソン氏、シューマン氏が使用することになる。それぞれのモデルには、工場出荷時に 「White Ship Expedition 」という刻印と、1~4の番号が付けられている。このチームはあらゆる最新テクノロジーを自由に使えるが、この機械式時計は、かつてのチューダーのように、ダイビングの計時において極めて重要な役割を果たすことになろう。
時計は調査遠征の直前にダイバーたちに届けられたが、ミシェル氏がスマートフォンで数枚の写真を撮って我々に送ってくれた。次にこの時計を目にするのは、それが12世紀にイングランドのために新たな航路を開拓した船の復元に貢献したあとになるだろう。
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