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Hands-On チューダー ブラックベイ プロ、新たなオパラインダイヤルで鮮烈な進化を遂げる

自身がオリジナルのブラックベイ プロを手放した理由、そしてこの新しいダイヤルが再び心を動かしている理由。

今年、チューダーはブラックベイ プロのラインナップに新たなダイヤルを追加した。2022年にこのモデル唯一のバリエーションが登場して以来、次なるアップデートがいつになるのか、多くの人が予想していた。特に昨年夏に、ファミリーのなかでも大幅に薄型化されたブラックベイ 58 GMTが発表されたこともあり、その関心は高まっていた。新たに登場した薄型のMT5450-Uムーブメントの存在を踏まえると、7.5mm厚のGMTキャリバーであるMT5652は、もはや時代遅れとなってしまうのだろうか。

 残念ながら、MT5652は今後も継続して使用されるようだ。昨年12月に、チューダーが同じムーブメントを搭載したペラゴス FXD GMTを発表した時点で、ある程度予想できたことではあった。この新しいブラックベイ プロについて言えば、追加されたのは新しいダイヤルだけであり、ケースやキャリバーにアップデートはない。しかしながら新たなダイヤルが加わるだけでも、モデルに新鮮な息吹をもたらしながら、既存のコンセプトを維持することは十分可能である。書面上では、ごくわずかなアップデートに過ぎない。ブラックダイヤルのモデルにホワイトダイヤル版が追加された? そんなのは、時計界の常套手段だ。それでも今回の新しいブラックベイ プロは、改めてじっくり見直す価値があると思う。この時計を新たな視点で捉え直すきっかけになったからだ。

Black Bay Pro lie-flat shot
Bracelet Shot
Case Side shot

 今回のアップデートにおけるスペックはほとんど変わらない。ケース径は39mm、ラグ幅は20mmと、引き続き妥当なサイズ感を維持している一方で、以前からよく指摘されている14.6mmという厚さもそのままだ。もっともこの厚みの一因は、非常に高くて強調されたクリスタルにある(ブラックベイ プロの薄い固定ベゼルによって、さらにその存在感が強調されている)。とはいえ、ブラックベイ ラインのケースが批判を受けがちなのはむしろそのフラットな側面のデザインにある。シンプルで角張ったケース構造は、他ブランドがしばしば巧みに取り入れている“視覚的に薄く見せる工夫”を施す余地が少ない。実際、手首につけた際には、アイロニカルなことに時計自体の直径が小さいために、実際以上に厚く感じられるのだ。調整可能な“T-fit” アジャスティングシステムクラスプを備えた、重厚なフェイクリベットブレスレットと組み合わせても、ブラックベイ プロはトップヘビーな装着感をもたらす(この点については後述する)。

 高く盛り上がったサファイアクリスタルを囲んでいるのは固定ベゼルであり、これがまた非常に魅力的に面取りされている。側面にはポリッシュ仕上げによるコントラストが施されており、全体的にインダストリアルなデザインのなかに、わずかに煌めきを添えている。そして当然ながら、今回の最大のポイントである新しいオパライン(パレクスポの会場では誰もが“ホワイト”と呼んでいた)ダイヤルへと話はつながる。チューダーのダイヤルのなかでも、個人的にはこれは特にお気に入りのひとつかもしれない。清潔感があり、爽やかできわめて視認性が高い。オリジナルのブラックダイヤル版で特に気に入っていた、針のざらついたテクスチャーが、このバージョンでもしっかりと踏襲されている点は非常にうれしい。ブラックダイヤル版で見られたファントム針は姿を消し、明るいイエローの“スノーフレーク”GMT針を除き、時・分・秒針はすべて根元まで黒塗装が施されている。このオパラインダイヤルとの組み合わせにより、針のテクスチャーと視認性の両面で完璧なコントラストが生まれている。ダイヤル上における最高レベルのコントラストといっても過言ではない。

Dial macro for Black Bay Pro Opaline

 もうひとつ大きなビジュアル上の変化はインデックスにある。ブラックダイヤル版で非常にユニークだったデザイン要素(ダイヤル上に浮かんでいるかのように見えたモノブロックのセラミック夜光プロット)は、今回のアップデートで失われた。視認性を優先するという合理的な判断により、これらのモノブロック夜光プロットは黒い縁取りに囲まれる仕様となった。コントラストの面では素晴らしいが、デザイン的なおもしろさはやや後退し、通常のアプライド型夜光インデックスに近い印象を与える。ただし興味深いかどうかにかかわらず、この新しいオパラインダイヤルに施された細かなディテールの積み重ねこそが、チューダー全ラインナップのなかで最も気に入っているライトカラーダイヤルたらしめている理由である。

 オリジナルのチューダー ブラックベイ プロの発表を、今でも懐かしく思い出す。39mmケースに固定ベゼルを備えたフライヤーGMT、当時の自分にとっては、まさに理想的なチューダーに思えた。ベージュインデックス(いわゆる“フォティーナ”)があまり好みでなかったにもかかわらず、である。世間では、このモデルがロレックス エクスプローラーII Ref.1655のコピーだと非難する声も少なくなかったが、正直なところ、自分も多くの同僚たちもそうは感じなかった。そして発表当日、自宅近くのチューダー正規販売店にすぐさま連絡を取り、1週間も経たないうちにその店舗で最初の1本を手に入れることができたのである。そして始まったのがハネムーン期だった。数ヵ月間にわたり、ブラックベイ プロには一切の欠点が見当たらず、まさに完璧なデザインだと断言できるほどだった。しかし最終的に“手元に残る1本”になるかどうかは、このハネムーン期が終わった後に、自分の感じ方がどれだけ変わるかにかかっている。新品を手にしたばかりの高揚感によってどんな不満や批判もかき消されていたが、ハネムーン期が過ぎると、そうした些細な違和感が徐々に積み重なっていったのである。

Wrist side shot

 すでにネタバレしたのだが、そう、最終的にブラックベイ プロは約1年所有したのちに手放すことになった。時計自体への愛着は今も変わらないが、自分にとってどうしても受け入れきれない点がいくつかあり、長い目で見ればこの時計は自分向きではないと判断するに至った。まず第1に、自分は元々フォティーナが好きではなく、そしてこれからも好きにはなれないだろう(この時計に関しては、なんとか納得しようと努力はしたが)。もちろん、オリジナルのブラックベイ プロにおける針やインデックスの色味は、単なるデザイン上の選択であって、厳密にはフォーティナではないと主張する向きもあるだろう。しかし、自分にとってはやはり、やや黄味がかったオフホワイトが好みに合わなかった。これはあくまで個人的な感覚にすぎない。第2に気づいたのは、ブラックベイ プロがほかのチューダーのモデルと比べて、着用時にややトップヘビーに感じられたことだ。たとえば41mm径のブラックベイではその重さが全体にうまく分散されていたが、ブラックベイ プロは39mm径でありながら14.6mmという厚みを持つため、手首にしっかりフィットしていないとわずかに時計がズレてしまうことがあった。

 自分にとって最大の決定打となったのは、意外にも“T-fit”クラスプだった。ブレスレットに賢いクイックアジャストシステムが搭載されたことで、毎回完璧なフィット感が得られるものと期待していたが、“T-fit”クラスプはあと1歩、完璧に届いていなかった。フォーラムを必死で探してみたところ、同じ問題を感じていたのは自分だけではなかったようだ。“T-fit”クラスプの可動範囲は、リンク1本分にも満たない程度であった。そのためリンクを1本外すと、“T-fit”をほぼ最大に広げなければ適正なフィット感が得られず、さらに手首が膨張した場合にはもう調整の余地が残っていない状態になってしまう。一方でリンクを1本戻してみると、“T-fit”を目一杯縮めてもブレスレットが緩すぎるという結果になった。特に、ブラックベイ プロのトップヘビーな特性を考えると、自分にはまさにゴルディロックス的な絶妙なフィット感が必要だったが、それをどうしても見つけることができなかった。これで三振、というわけである。

Black Bay Pro vertical shot

 さて、なぜ今さらこんな話をしているのか。それはこれだけの理由がありながらも、あの時計を少し恋しく感じているからだ。ブラックベイ プロは今なお、チューダーのラインナップのなかでも独自性の高いデザインとして位置づけられている。これは、そのプロポーションや固定ベゼルによるところが大きい。そして今回、新たなダイヤルが登場したことで、本気でもう1度ブラックベイ プロに挑戦してみようかと考えさせられている。新しいカラーダイヤルはブラックダイヤル版と比べても格段にモダンな印象を与える。それはちょうど、オメガのホワイトラッカー仕上げのムーンウォッチが、オリジナル版と比べてモダンに感じられたのと同じだ。だからこそ、このバージョンではブレスレットのリベットも省略して、さらに現代的な文脈を強調して欲しかったと感じる。それでもなお、ブラックベイ プロをただのRef.1655オマージュだと主張する人たちに対しては、この新バージョンがより個性的な存在感を示すものであることは間違いないだろう極地的な(ふふ、わかるだろう)解釈として。もう1度挑戦してみるべきだろうか?

 さらなる詳細については、オリジナルのIntroducing記事を読むか、チューダー公式サイトを訪れて欲しい。

Photos by James Stacey