ADVERTISEMENT
Photos by Mark Kauzlarich
Watches & Wonders 2025ではランドドゥエラーやキュビタス、さらには関税問題といった話題が世間を賑わせていたが、そんな喧騒の陰で我々時計愛好家の敏感なアンテナをすり抜けるようにして、実に見事な時計が静かに登場していた。
それがこのショパール クアトロ マーク IVだ。直径39mmの貴金属製ケースに収められ、4つの香箱を積層したCasl.L.U.C 98.09-Lによって駆動。結果、9日間のパワーリザーブを実現している。これは客観的事実だ。そして主観的な話をすれば、2025年版クアトロは今年私が手に取ったタイムオンリーまたはデイト付きの新作のなかで間違いなく最高の1本だった。そう、私のボスのベンが“この1世代で最高”と絶賛したパテックの最新カラトラバよりも、そして今あなたの頭に浮かんでいるあらゆる競合モデルよりも素晴らしいと思ったのだ。もちろんショパールのクアトロをカラトラバと呼ぶことは許されないかもしれない。だが私は断言できる。この時計はカラトラバ本来が果たすべき役割を、この20年間でカラトラバブランド自身が提供してきたモデルよりも、ずっと見事に果たしている。これから、その理由を詳しく語ろう。
今の時代、ニュアンスや複雑さは文化の一部ではなくなってしまった。話題性のある新作に対して、深く考えずとも簡単に意見を持つことができる。イースターのブランチで叔父さんが知っていそうなブランドの新作のほうが、HODINKEEではより多くの閲覧数やコメントを集めるかもしれない。だが4つの香箱と9日間のパワーリザーブを備えた自社製キャリバーを、やわらかなカーブを描く貴金属製ケースに収めた時計(しかもいまだに“ジュエリーブランド”と見なされがちなショパールが手がけたもの)には、より深い理解と繊細な思考が必要だ。そして、それこそがこの時計の素晴らしさを際立たせている。
ショパールは1860年に時計メーカーとして創業し、その後ジュエラーとして名声を得た。だが、1996年からは再び本格的な時計ブランドとして大きな注目を集めている。私も先ほど同じ過ちを犯してしまったが、ショパールをジュエリーメーカーとする指摘は必ずしも正確ではない。ブランドが初めてジュエリーコレクションを発表したのは1985年、創業から125年も後のことだ。さらにその11年後には、初のL.U.CムーブメントであるCal.1.96を発表している。このムーブメントは、ミシェル・パルミジャーニ(Michel Parmigiani)氏によって設計され、2002年にウォルト・オデッツ(Walt Odets)氏が「現在スイスで製造されている自動巻きムーブメントのなかでも最高峰」と絶賛している。
ショパールによる初代のCal.1.96。
ショパールのジュエリーでの成功は、時計を買う側に無意識の偏見を生んでいるかもしれない。残念ながら、ショパールの時計を次の世代に引き継ぐべきものとして見なす人は、他ブランドに比べると少ない。それは本当に惜しいことだ。
L.U.Cキャリバーの初代であるCal.1.96については、インターネット上で(HODINKEEを含め)数多くの記事が書かれている。それも当然だろう。しかしショパールの2作目も、決して『スピード2(原題: Speed 2: Cruise Control)』のような失敗ではなかった。2000年に発表されたクアトロは、ショパールの時計製造チームが初のムーブメントを振り返りながら「いいんだけど、パワーリザーブをもっと、しかも劇的に長くできないか?」と考えた末に誕生した。当時、現在は時計製造部門責任者を務めるダニエル・ボロネジ(Daniel Bolognesi)氏が、「マイクロローターを外して、代わりに香箱を増やしてみては?」と冗談交じりに提案したと言われている。そしてそのアイデアは本当に実現された。こうして誕生したのが4つの香箱を積み重ねたCal.1.98であり、これを搭載した初代L.U.C クアトロ Ref.16/1863(通称マークI)である。このモデルは直径38mmのケースに収められ、イエローゴールド、ローズゴールド、ホワイトゴールド、プラチナの4種類で展開。合計1860本の限定生産が予定されていた。ただし初代のCal.1.96と同様、実際には全数が製造されたわけではないと見られており、そのためどちらのモデルも極めて希少かつコレクターズアイテムとなっている。
上: マーク I、マーク II
下: マーク III、マーク IV
クアトロの最初のアップデートは2015年に行われ、“マーク II”が登場した。43mmのケース径と誇らしげに配されたローマ数字は、当時のトレンドには合っていたのかもしれない。だがここはあまり深掘りせず、さらっと流してしまおう。そして2018年の“マーク III”についても同様だ。ムーブメントのクオリティそのものは、これら中間世代でも変わらず高い。だがデザインとサイズ感については、正直に言えば私の好みには合わなかった。ちなみに2012年に登場したクアトロ テーブルクロックにもここでひと言だけ触れておこう……、理由は特にないがせっかくなので。
Watches & Wonders 2025で発表された最新のクアトロ、正式にはマーク IVと名付けられたこのモデルは間違いなくシリーズの原点回帰を果たした1本だ。今回のリリースは、2023年に登場したL.U.C 1860の路線に緩やかに沿うものではあるが、単なる“復刻モデル”という枠からはさらに1歩踏み出したところにある。つまり初代クアトロ(現在では非常に高いコレクター人気を誇るモデル)を単に再現するのではなく、ショパールはケースとダイヤルを根本から再構築した。これは、L.U.Cコレクションの新たな美学を示す取り組みの一環でもある。最初に届いたプレスリリースにはローズゴールドバージョンのみが紹介されていたため、すぐに紹介記事を公開した。しかし実際にショパールのブースを訪れると、そこにはこの見事なプラチナ仕様が展示されていた。まさにうれしいサプライズだった。
この新たな方向性は、今年1月に発表されたフライング T ツイン パーペチュアルとルナ ワンのリリースあたりから示されていたが、個人的には非常にうれしい流れだ。もしショパールのL.U.Cの歴史に批判的な意見を加えるとすれば、それはここ数年と21世紀初頭のあいだに挟まれた“中間期”に対してだろう。この時期は、ブランドが自らのスタイルを模索していた段階だったと見るべきだ。その証拠が、クアトロのマーク IIとマーク IIIだ。クラシックやタイムレスといった言葉が真っ先に浮かぶようなモデルではない。だが今、ショパールがL.U.Cコレクション全体に少しずつ取り入れようとしている変化には期待が持てる。そのひとつが、より洗練された丸みを帯びたケース形状とラグの存在感を高めたデザインだ。(ここから少し私の主観を交えるなら)全体のダイヤルデザインもシンプルで洗練された方向に向かっている。
ショパールブースで新しいL.U.Cのケース(ルナ ワンとクアトロ)を実際に手に取った体験を経て、私は自信を持って言える。このケースは、説明に偽りのない仕上がりだった。多くのブランドは「モダンな愛好家に向けて、装着感と快適性を高めたスリムなケースデザイン」をうたうが、実際にそれを体現できている例はごくわずかだ。だが、ショパールはそれをきちんと実現している。私は普段38mm以下のケース径を好む時計愛好家だが、クアトロを手首に載せた瞬間にその心配は吹き飛んだ。本当に最初から違和感なく腕になじみ、結果的に1時間に及ぶセッションのあいだ、外すことなくつけ続けていたほどだ。その快適さの理由は、おそらく丸みを帯びたミッドケースの設計にある。ドーム型のベゼル部分は公称39mm径だが、実際に手首に触れるケース裏側の直径はそこから数mm絞り込まれている。サイズ感を懸念していたにもかかわらず、すぐに虜になってしまったのだ。
オリジナルのクアトロのケース形状は初代キャリバーことCal.1.96搭載モデルと基本的に同じであり、すでにL.U.C 1860 ルーセントスティール™でリバイバルされている。だからこそ、今回ショパールが新しいクアトロをこの型に無理に当てはめなかったことを私は素直に評価したい。誤解しないでほしいが、あのケース自体は素晴らしい。ただどうしてもネオヴィンテージな印象が強く出る……、それもそのはず、実際にそういうコンセプトだからだ。今回の新作ではラグがケース本体と一体成型ではなくなり、後から溶接する構造になった。上から見るとシームレスにつながっているように見えるが、横から見るとわずかに仕上がりが異なり、たとえばパテックのRef.2523ほど劇的ではないものの存在感のあるディテールとなっている。
全体的に見て、新しいケースデザインは非常によく考え抜かれていると感じた。製造コストや生産効率といった制約をほとんど意識せずに開発されたのではないか、という印象を受けたほどだ。シンプルな時計に5万ドル近い金額を支払うとき、ユーザーが求めるのはまさにこの感覚だと思う。ひとつ注目すべき小さなディテールとして、最近ショパールはプラチナ製モデルすべてに、6時側のラグのあいだに手彫りで小さな蜂を刻印するようになった。これはかつてスイスやフランスで使われていた、貴金属に施される動物デザインの検定マークにオマージュを捧げたものかもしれない。
L.U.Cコレクションは、これまでギヨシェ彫りの文字盤を特徴としてきた。だが、世界有数の文字盤メーカーであるメタレムを傘下に持つ以上、当然ほかの仕上げ技法にも挑戦していくことになる。今回のクアトロには、以前に限定版であるフル ストライク チタンで見られたものと同様のフロステッド(つや消し)仕上げが採用されている。まあ、これまで実物に触れたという人はそれほど多くはないだろう。この仕上げは、私にとって以外であると同時に喜ばしいものだった。実際に目にするとソフトで控えめな質感を持ち、非常に好ましい印象を受ける。特にこのサイズの文字盤では全面にギヨシェ彫りを施すとやや過剰に感じることもあるため、仮に中央部分にギヨシェパターンを配した仕様のクアトロが出たとしても歓迎されるだろうが、今回のフロステッド仕上げという選択は理にかなっていると思う。それはL.U.Cコレクションが目指している、“モダナイズ”という方向性にしっかりと沿うものでもある。
どうしてもこの言葉に立ち戻ってしまうのだが、針とインデックスも非常にいいかたちでシンプルに整えられている。インデックスはわずかにV字を描く楔型となり、適切なサイズ感に。またメインの針は従来のドーフィン型をベースにわずかにリデザインされ、昨年のXPS フォレスト グリーンやHODINKEE限定のXPS 1860 オフィサーよりも控えめなプロポーションとなった。このさりげない変更によって、手首に載せたときのすっきりとした印象が格段に増している。
クアトロを裏返すと、そこには4つの香箱を2組ずつ重ねた独自の設計が現れる。さらにフィリップスターミナルカーブを持つヒゲゼンマイ、スワンネック式緩急調整機構といった本格的な仕様も備わっている。そして何より驚かされるのは、業界トップクラスの仕上げだ。このレベルの仕上がりに匹敵するのは、より知名度の高いブランドか、さらに高額なモデルに限られるだろう。ジュネーブ・シール(Poinçon de Genève)を取得していることが、その品質を裏付けている。さらにクアトロは、COSCによるクロノメーター検定も受けている。L.U.Cコレクションでは当然とも思えるが、9日間ものパワーリザーブを持ちながら高精度を実現している点は特筆に値する。Cal.L.U.C 98.09-Lは全長1885メートルにもなる長大なゼンマイを使いながらも、香箱を直列につなぎ、ひとつの香箱が切れると次の香箱が駆動を引き継ぐ構造によって精度低下を防いでいる。
気になる価格は、18Kエシカルローズゴールドモデルが579万7000円、プラチナモデルが722万7000円(ともに税込)である。まず断っておきたいが、ショパール クアトロ マーク IVは間違いなく高級時計だ。この価格設定から、ショパールがL.U.Cシリーズで競合しようとしている相手が誰なのかは明白である。たとえばだが、ランゲ1(ピンクゴールド仕様)は610万5000円(税込)に設定されている。Watches and Wonders 2025の初日、クアトロと並んで発表されたのはパテック フィリップ Ref.6196P-001(746万円)と、ゼニス G.F.J.(695万2000円)の2本だった。ただしこれらはいずれも日付表示を持たず、9日間のパワーリザーブも搭載していない。
私自身のメジャーではないほうを応援したくなる気持ちや、ショパールがL.U.Cモデルを見事に仕上げたときに感じる深い愛情とひいき目を抜きにしても、私は今回このクアトロ マーク IVをWatches & Wonders 2025のイチ押しとして選んだ。だが、この時計には単なる“リッチ・フォードンのお気に入り”という以上の特別な存在感が確かに宿っている。
過去10年にわたる時計業界の自社一貫製造(インハウス化)の流れのなかで、単に部品を内製することを優先し、結果としてクオリティの劣る製品を生み出してしまったブランドも少なくない。だがショパールはその潮流において正しい方向に垂直統合を進め、高級時計製造(そして高価格帯)に向けた製造力を着実に築いてきた。こうした何十年にもわたるビジネス戦略の積み重ねが、今日のクアトロを実現している。この時計はニュアンスに富み、深みがあり、 そして間違いなくフィリップ・デュフォー、F.P.ジュルヌ、レジェップ・レジェピ、サイモン・ブレットといった独立系時計ブランドによって火がついたインディペンデントウォッチ熱からの影響を色濃く受けている。実際にこれらの巨匠たちの名前を挙げながら、Hands-On記事のなかで比較対象として語ることができるビッグブランドの時計が存在するということ自体、賞賛に値する。そしてすべてのニュアンスや背景を抜きにしても、クアトロは本当につけていて楽しい時計だ。私はいまだに、その魅力の余韻から抜け出せずにいる。
さらに詳しい情報は、ショパール公式サイトをチェック。
話題の記事
Hands-On 帰ってきたロレックス デイトナ Ref.126508 “ジョン・メイヤー 2.0”を実機レビュー
Introducing ロンジンの時計製造を讃える新作、ロンジン スピリット Zulu Time 1925(編集部撮り下ろし)
Auctions フィリップス 香港オークション(2025年5月23〜25日)に出品されるVOGA Museum Collectionsの注目ロット5選