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Business News 米国におけるステンレスモデルの品薄が、ゴールドモデルにとっては朗報に

NPDグループによると、アメリカでのゴールド製腕時計の2019年前半の売上は、金額にして19%上昇したという。

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アメリカにおける、ロレックスならびにパテック フィリップのスポーツタイプのステンレスモデルの慢性的な供給不足は、貴金属製時計の2019年前半の売上に大いに貢献した。アメリカ市場での腕時計のセールスを観測するNPDグループのデータからは、今年上半期の金製腕時計の販売額が2018年前半と比較して19%上昇したことが分かる。コンビの腕時計(主にスティールと希少な金)のセールスは18%増えた。プラチナ製時計の売上は33%アップした。

 貴金属製腕時計の売上の大幅な上昇は、スイスブランドが独占するアメリカの高級腕時計市場の類まれなる強さを示すものだ。NPDの腕時計・高級品業界アナリストのレジ・ブラック(Reg Brack)はHODINKEEに対し、「高級腕時計業界は順調だ」と話した。

 「今年度のスタートから現在まで、アメリカにおける1000ドル以上の腕時計の売上は金額にして13%上昇しています」とブラックは言い、「メーカー希望小売価格が3000ドル以上の男性用腕時計がこの上昇の主な要因です。この価格帯の売上は16%上がっています」と続けた。しかも、これは男性用腕時計だけの話ではない。NPDのデータによると、メーカー希望小売価格が5000ドル以上の女性用腕時計の1月から6月までの期間のセールスも16%増加している。NPDは、このような高級品カテゴリーが、アメリカにおける腕時計販売額を前年同時期と比較して9%のアップとなる36億ドル(約3940億円)に押し上げたとしている。

NPD時計アナリストのレジナルド・ブラック(Reginald Brack)。

 NPDの腕時計販売トラッキングサービスでは、アメリカにある数千の小売店のPOSデータを収集している。これらの小売店は、腕時計メーカーの卸売ネットワークの一部も構成する(NPDのデータは小売店が所有するブランドブティックでの売上を含むが、ブランド自体が所有する腕時計ブティックでの売上は含まない)。NPDのデータはアメリカの時計市場の状態を測るのに最も広く使われているバロメーターだ。これらのデータは、NPD独自のプライベートなもので、NPDのクライアントにのみ公表されている(NPD独自のデータであることから、NPDがHODINKEEに対して開示したのは市場全体の額だけで、価格帯ごとの額は開示されなかった)。


ゴールドという代替品

 ロレックスやパテック フィリップといった、いくつかの最高級スイスブランドが発売するスポーツタイプのステンレスモデルが品薄であることは広く知られているが、ゴールド製腕時計のセールスの劇的な伸びについて尋ねられたブラックは、その供給不足が要因のひとつになっていると答えた。ブラックが該当するブランドを名指しにすることはなく、彼は守秘義務を理由にブランド個別の情報を開示することは拒否した(SSモデルの品薄に関して語ったパテック フィリップのティエリー・スターン(Thierry Stern)のインタビューはこちらから)。
「たくさんのSS製モデルの品薄が、貴金属製モデルに好影響をもたらしています」とブラックは話した。「多くの主要高級腕時計メーカーのSS製スポーツモデルに対する継続した需要を観測していますが、これらのブランドは、圧倒的な消費者の関心に応え得るペースでの生産を続けられません」

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2015年に発売されたローズゴールドのパテックRef.5711 。

 「いくつかのブランドの小売店と話してみると、消費者は苛立っていて(自分が欲しい)SS製スポーツモデルの在庫がなく、どこを探しても見つからなければ、貴金属に走る傾向が多分にあると彼らは言います。つまり、SS製モデルの品薄が貴金属にはプラスに作用したのです。これがゴールドとコンビの腕時計が好調な唯一の理由ではありませんが、ひとつの要因であることに間違いはありません」


ロレックスとパテックの大勝

 このトレンドは、スポーツタイプのSSモデルの供給不足が最も酷いロレックスとパテック フィリップの、アメリカにおける腕時計市場の高級価格帯での一人勝ちをさらに加速させる。この2社はそれぞれ、アメリカで最もよく購入されるスイス製腕時計のナンバー1と2だ。NPDの2018年の推定によると、1万ドル以上の時計の売上額のうち、70%という驚くべきシェアをこの2ブランドが占めている。
 興味深いことに、多くの腕時計ブランドがオンライン販売やブランドブティックを通じて直販に切り替えている時代において、ロレックスとパテックはアメリカ国内では、小売りパートナーとの昔ながらの卸売りネットワークに完全に依存している(ロレックスならびにパテック フィリップの、アメリカにおけるいくつかのブティックはブランド自身のリテールによって所有および経営されている)。両社とも近年になってこのネットワークを縮小したものの、売上は上昇している(パテック フィリップ社によると、同社の認定ディーラーはアメリカ国内に80ある)。

ステンレスモデルの供給不足が、

貴金属モデルの売上に貢献した

– NPD腕時計アナリスト レジ・ブラック

 ブラックの昨年の言葉を借りれば、アメリカの腕時計市場の高級品セグメントに属するブランドの中でも、ロレックスとパテック フィリップは顕著な「富める者はますます富む」の典型例だ。大きな売上を誇るいくつかのモンスターブランドが、アメリカの高級腕時計市場の中の残りのブランドを引き離している。ブラックは今年のデータをもとに、「富める者がますます富む状況が続いているといえます。継続したトレンドですね」と話した。

非常に希少な、ロレックス GMTマスターII Ref.126170 BLNR

 NPDの実売データと、アメリカの高級腕時計市場が2年連続で回復基調にあると示す、スイス腕時計業界の出荷データは合致する。スイス製腕時計のアメリカへの輸出額は2015年、2016年、2017年と減少した。2018年になってようやく潮目が変わり、8.2%の回復にともなって輸出額は22億2000万スイスフラン(約2472億円)を記録した。2019年の前半7ヵ月間を通して、アメリカへの輸出は7%伸びた。世界最大の市場である香港で続く問題を考慮すれば、スイスブランドにとって香港の次に大きな市場であるアメリカの変調は諸手を挙げて歓迎したい展開といえる。


大衆向け市場の低迷

 アメリカの高級腕時計に対する気前の良い出費が、今後も続くのかはまだ分からない。NPDのデータによると、価格面でいえば盛り上がりを見せているのはハイエンド価格帯だけだ。

Apple Watch シリーズ4のイントロダクション。

 現在のアメリカ腕時計市場のひとつの特徴が、高級腕時計市場の中の低価格帯も含めて、価格帯が低くなれば低くなるほど熱が冷めていくという点だ。1000ドルから3000ドルの価格帯は「依然として難しく課題が多い」とブラックは語った。「混み合ったフィールドで、高級品志向の客にとってはむしろエントリーレベルのような感じです。ブランドは顧客から認識してもらうためにまだ苦しんでいます。このカテゴリーの不調の原因を突き止めるのは難しいです。もしかすると、消費者が最初から一気に高い買い物へと飛び込んでいるのかもしれません」

 一方、中間および低価格帯の状況はさらに悲惨だ。NPDによると、2019年上半期の1000ドル以下の腕時計の販売は前年同期と比べて15%減少した。500ドル以下の腕時計は16%の下落だ。

 ブラックはスマートウォッチを主な理由に挙げた。アメリカでのスマートウォッチの販売は好調そのもので、2019年上半期には24%の伸びを見せた。このサブカテゴリーは、中間価格帯のファッションウォッチや大衆向けのモデルを作る従来の腕時計メーカーにとって悩みの種であり続ける。HODINKEEでは今後、この価格帯における展開について別記事で取り上げる。


苦し紛れの策?

 スイス腕時計メーカーの幹部は、アメリカの高級腕時計市場が2019年前半の勢いを保ったまま年末を迎えることを祈っている。スイスにとって最大の顧客である香港での状況を受けて、香港の次に大きなアメリカ市場での回復は新たな緊急性を帯びた。

 中国のコントロール下にある香港政府に対する、民主化を求める数ヵ月にもおよぶ抗議活動によって生じた政治的混乱は、この地域の腕時計市場を急激に悪化させた。スイス製腕時計の香港への輸出は4ヵ月連続で減少しており、2019年7月までで5.8%のダウンとなった。

 これは、スイス腕時計業界の2年連続の回復を危険にさらすことになった。2018年には6.3%の上昇によって212億スイスフラン(約2兆3613億円)に達したスイス製腕時計の世界への輸出だが、2019年に入ってからの7ヵ月間での上昇はわずか1.9%に留まっている。
 前回香港市場がスランプに陥った際には、スイス腕時計業界は大きな打撃を受けた。2015年と2016年、スイスの香港向け輸出は25ヵ月連続で減少となり、スイス製腕時計の国外輸出が2年間にわたって低迷する要因となった。

 2015年から2016年にかけては、アメリカ市場も落ち込んでおり、スイス腕時計業界のさらなる頭痛の種となっていた。2019年は、アメリカでの好調な売上が後半も続けば、今回はスイス勢も香港の嵐を乗り切れるかもしれない 。