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In-Depth バーゼルワールドの次の一手とは?

ブランドが出展するブース料金の値下げとデジタル化は、見本市復活の決め手となるのか?

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世界最大の時計と宝飾品の見本市「バーゼルワールド」が開催されたが、去年に続き、見本市のあり方自体が注目を集めた。昨年、出展数が50%減少したバーゼルワールドは、 存続の危機に立たされていた

それは今でも変わらない。

3月21日〜26日にスイス・バーゼルで開かれた2019年の見本市では、あらゆる主要指標が悪化していた。出展数は20%減少して520社になり、入場者数は22%減少して8万1200人、マスコミ関係者の数は12%減の3300人であった。

見本市の規模が縮小し、内容が薄れたことに、多くの入場者は衝撃を受けた。私があるスイスブランドのブースへ近づくと、米国ブランドマネージャーを務める担当者に「バーゼルワールド・ライト版へようこそ」と声を掛けられた。

私達は負のスパイラルに陥っていました。

バーゼルワールドの構成を、

全体的に変える必要があります。 

– ミシェル・ロリス=メリコフ(MICHEL LORIS-MELIKOFF)、バーゼルワールド ショー・ディレクター

今年は去年と比べ、一つだけ大きな違いがあった。今年のバーゼルワールドは、デジタル時代へ向けて見本市を抜本的に改革する決意を抱いた、新しい管理チームの下で開催されたのだ。102年の歴史を持つ見本市にメスを入れた管理チームは来年、今年以上の変化を起こすことで起死回生を図る。

見本市成功の鍵を握るのは、パテック フィリップを含む大手ブランドだ。

刷新された管理チームによる取り組みが功を奏するかは、スイス時計ブランドの各CEOが、来年の見本市に出展する決定を数週間以内に下すかにかかっている。管理側は現在の出展者に加え、過去3年間で撤退した1000社の出展者を復帰させ、呼び水にしようとしている。

バーゼルワールドは見本市の最終日、インセンティブとして、来年の展示スペースの料金を10〜30%値引きする新しい料金体系を発表した。

2020年の見本市は、大きなハードルをすでに一つ乗り越えている。見本市の存続に不可欠な二大ブランド、ロレックスとパテック フィリップが、管理側の長期計画を支持し、出展を継続する意向を表明したのだ。パテック フィリップのティエリー・スターン(Thierry Stern)社長は見本市の開催中、出展を継続する旨をHODINKEEに伝えている。出展者らによると、ロレックスも同期間中、今後4年間の出展に同意し、支持の姿勢を明確にしたそうだ。

見本市の開幕記者会見で語るパテック フィリップのティエリー・スターン社長。

スイスの二大高級時計ブランドによる「信任票」は、中小メーカーに安心感を与えるだろう。いまだに年間売上高の大半を見本市に依存しており、来年も当然出展するからだ。情報筋によれば、長年見本市を支えてきたショパールも出展を続けるそうだ。

(これまでのところ、いずれのブランドも2020年見本市について公式声明を出していない。ショーディレクターを務めるミシェル・ロリス=メリコフは閉幕記者会見で、どのブランドが来年出展するかについて、見本市はコメントしないと発言している。そうした発表はブランドに任せるとのことだ) 

バーゼルワールド2020にとって、ロレックスとパテック フィリップの決定が追い風になるのは確かだ。しかし、バーゼルワールドが息を吹き返すには、出展中のトップブランドを引き止める以外にも、撤退してしまったブランドを呼び戻す必要がある。2年前に175社だったスイス時計ブランドの出展数は、今回85社まで激減しており、事の深刻さを物語っている。

ブランドの大小を問わず、複数の要素が判断に影響を与えるだろう。

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Vision 2020+

マスコミ、小売業者、出展者へ向けて語るミシェル・ロリス=メリコフ。最終日のバーゼルワールド2019にて。

なかでも来年へ向け計画されている大幅な変化は、最大の要素だ。ミシェル・ロリス=メリコフは見本市の開催中にこう語っている。
「私たちは負のスパイラルに陥っていました。バーゼルワールドの構成を、全体的に変える必要があります」

伝統的な企業間の見本市であったバーゼルワールドを「体験プラットフォーム」に作り変えることが、新しい管理チームの新しいコンセプトだ。バーゼルワールドを、時計作りと宝飾品の世界的なコミュニティにとって、最も重要なイベントにすることが目標だ。これらのコミュニティは、業界のプロだけでなく、時計収集家や愛好家、オークションハウスなど、あらゆる関係者を積極的に受け入れているという。「すべての参加者に向け、情報、サービス、ネットワーク作りのツールを豊富に備えたデジタルプラットフォームを、一年を通して提供することを目指しています」と、閉幕プレスリリースで見本市は発表している。

見本市の開催中、「Blue Room」と呼ばれるプレゼンテーションルームでは、新コンセプト「Vision 2020+」を説明する映像が出展者限定で流された。(動画は baselworld.com でご覧になれます)。ビデオでは、イベントのライブストリーミング、セミナーとカンファレンス(小売業者の集まりやCEOの講演など)、新しい製品や出展者(スマートウォッチやウェアラブルデバイスなど)向けの新設展示エリア、コミュニティが一年を通して利用できる双方向型のデジタルコミュニケーション・プラットフォームなど、2020年に実現する数々のイノベーションについて説明が行われた。来年中に、デジタルプラットフォームを筆頭とする新サービスが追加され、エンド顧客の体験が強化される予定だ。

来年中に、デジタルプラットフォームを筆頭とする新サービスが追加され、エンド顧客の体験が強化される予定だ。

バーゼルワールドは、入場者向けの新しいサービスも提供する予定で、eコンシェルジュサービスでは、開催期間中、バーゼルへの渡航や滞在に必要な予約(交通機関、ホテル、飲食店、観光など)を行うことができる。

管理側は、見本市のインフラを改善することで、ブースをより開放的で入場者に配慮したデザインにすると同時に、出展者の建設費や保管費用を抑えることを目論んでいる。

ミシェル・ロリス=メリコフによると、詳しい情報は後ほど発表されるそうだ。2020年見本市は、メリコフがデジタル時代へ向けてバーゼルワールドを再発明する期間と位置付ける、「変化の3年間」の幕開けとなる。


コスト要素

コスト抑制は、バーゼルワールドの行く末を左右する重要な要素だ。LVMHなどのグループ企業は、ブランドを合わせればブースに数十億円を費やすことだってある。

バーゼルワールドは、どの参加者にとっても費用が高額なことが問題視されているが、特に出展者についてはそうであり、過去数年間で出展数が激減した要因にもなっている。また、出展を継続するか決める際にも検討を要する課題である。

バーゼルワールド2019からブランド17社を撤退させた世界最大の時計会社、スウォッチ・グループは、出展費用が44億円であったことが報じられている(ブースの利用料、建設費、人件費、宿泊費、飲食代、顧客の接待費用など)。LVMHグループの幹部によれば、同社のブランド4社はおよそ22億円を費やすそうだ。「高くつきました」と声を漏らすのは、時計ホールの2階奥のブースで展示していた中堅ブランドのオーナーだ。出展するのに6億6000万円かかったという。

バーゼルワールドはこの問題に対し、出展スペースに低価格の料金体系を新たに導入しようとしている。今年は6日間の開催期間中、ホテルや飲食店と共同で料金を抑える取り組みを実施したことで、費用の高騰にある程度の歯止めがかかった。しかし入場者からは、「まだバーゼルワールド価格ですね」という声も多く聞かれた。バーゼルワールドの期間中、スイスフランの高騰に、ホテルや飲食店の需要急騰が加われば、旅費が高くつくのは避けられない。


別の選択肢

スウォッチ・グループはバーゼルワールド期間中、独自の小売業者向けイベントをチューリッヒで開いた。

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各企業は、バーゼルワールドと他のイベントの費用を比較したうえで、出展先を決める。 

バーゼルワールドの開催期間に合わせて、スイスで独自の展示会を開いた企業もある。モバード・グループは、バーゼルワールド開始直前のタイミングで、傘下の時計ブランド11社を集め、3日間の「サミット」をスイス・ダボスで開催。これには40の国々から、計500社の顧客、販売業者、マスコミが参加した。エフライム・グリンバーグ(Efraim Grinberg)会長兼CEOによれば、バーゼルワールドでは出展費用に11億円をかけていたそうだ。今年で2年目を迎えるダボスのイベントでは、2億2000万円余りで済んでいる。グリンバーグは、来年も独自イベントの開催を予定している。

バーゼルワールドの期間中、スウォッチ グループも同様に、傘下の高級時計ブランド6社の顧客を対象とするイベントを、ハイエック・エンジニアリングAGのチューリッヒ本社で開いている。

一方、バーゼルワールドの会場に立つ2軒のホテルでは、小規模な独立系時計ブランドの数々が、ロビーや宴会場、客室で店舗を開いた。オブザーバの見積もりによると、出展ブランドは100社を超えたそうだ(見本市に出展したスイスの時計ブランドの数より多い)。そのうちの一社、H.モーザーのエドゥアール・メイラン(Edouard Meylan)CEOの話によれば、もしハイペリオンホテルから数百mのところに入り口があるバーゼルワールドに出展していれば、5倍の費用がかかっていたという。

モバード・グループは、

バーゼルワールドに11億円かけていた。

それが今では、ダボスで500社のイベント開催に

2億2000万円しか使っていない。

独自のイベントとしては他に、地域の展示会がある。スウォッチ グループの一部ブランド(ロンジン、ティソ、ラドー、ハミルトン)は今年、主要市場の地域イベントに顧客とマスコミを招いた。ブライトリングのジョージ・カーン(Georges Kern)CEOは一年を通し、新製品の発表場所として地域イベントを好むことで知られる。H.モーザーなどのブランドは、バーゼルワールドの近くで出展するものの、見本市には公式出展していない。

H.モーザーなどのブランドは、バーゼルワールドの近くで出展するものの、見本市には公式出展していない。

来年、バーゼルワールドが5月第1週に移動する一方で、セイコーは3月、アジアの顧客を対象に、東京で地域的な会合を開く。地域的なイベントの効果を試すのが目的である。グランドセイコーとセイコーは、バーゼルワールド2020に出展するのだろうか。私は見本市で、セイコー関係者に質問した。「会社でも大きな議論になっています。コストが高すぎるので」

これ以外に、出展しないという選択肢もある。撤退したブランドの大部分は実際そうしている。「バーゼルワールドがなくなったらどうなると思いますか?」と問いかけるのは、時計のメイン展示場「ホール1.0」で堂々と出展する、スイスの時計ブランドのCEOだ。
「答えは簡単です。デジタル化です。ビジネス面での変化はないでしょう」。見本市を強く支援してきた同CEOは、スウォッチ・グループやその他数多くのブランドが撤退したことを残念に感じている。「業界への損害です」と語るCEOだが、ブランドの大部分がもはや、ビジネスのために年一度の見本市を必要としていないことは認識している。


日程を遅らせるのは得策か

来年のバーゼルワールドは、例年より1ヵ月以上遅れて開催される。

バーゼルワールドとSIHHは、バイヤーが一度の渡航で両方の見本市に参加できるよう、来年の見本市の日程を調整した。これまで長年、数多くの小売業者が時計を調達するため、1月にSIHH、3月にはバーゼルワールドと、3ヵ月のうちにスイスに二度行かなければならなかった。2020年、SIHHは4月26日〜29日、バーゼルワールドは4月30日〜5月5日の日程で開催される予定だ。

この決定は、3つの理由により議論を呼んでいる。まず、日程を遅らせるとラマダーンの期間と被ってしまう。イスラム諸国からの参加者にとって不便だ。

さらに、新しい日程が時期的に遅すぎるとの意見も、一部の出展者や小売業者から出ている。バーゼルワールドが3月から5月に移動すると、一部でサプライチェーンの問題が生じ、製品を秋シーズンに間に合わせるのが難しくなるそうだ。

打診もないまま決定が下されたことに困惑するCEOもいる。5月の日程について打診があったかの質問に対し、スイスのある時計ブランドのCEOは怒りを込めてこう答える。「何も聞かれていません。私は5月に時計を発表することに、何の興味もありませんよ!」  

出展者らは、見本市を順次開催できるよう日程を調整する構想については意向を聞かれたものの、日程自体についてはそうでなかったと、情報筋は伝えている。一方、新しい日程で問題ないとするCEOもいる。今後時計業界では、渡航問題の解決に加え、順次開催される見本市のあり方が、マスコミの注目を集めることになるだろう。


独立系ブランドの日

本格的なブースが不相応にも思える、職人気質の小規模ブランドを取り込むことも、バーゼルワールドにとっては重要である。

おそらく新しい日程の意図しない結果としてではあるが、これまで時計見本市では存在感を示せなかった部類のブランドが、新しい交渉力を手に入れている。これら少数生産・職人気質のブランドは、目利きの時計収集家たちに愛され続けてきたが、バーゼルワールドではそうもいかなかった。バーゼルワールドの最盛期には、主会場から離れた区画で、「パレス」と揶揄された即席のテントに押し込められる有様であった。

それも過去の話。新体制の管理チームは小規模ブランドを「Les Ateliers」と呼ばれる25ブース分のスペースに招き入れた。かつてモバード・グループが使用していたホール 1.0の向かい側の場所だ。さらに小規模な零細時計ブランドやスタートアップ向けに、余計な飾りのない低コスト(ブースあたり39万円)なスペースも作られ、インキュベータと名付けられた。バーゼルワールドの新任コマーシャル・ディレクター、パスカル・ベシュ(Pascal Béchu)は、「独立系ブランドを数多く迎えていますが、その数をさらに増やしたいと考えています」と私に語った。

この結果、バーゼルワールドとSIHHの間で、独立系ブランドを巡る競合が発生した。SIHHは2016年、独立系ブランドに対して門戸を開き、今年の「Carré des Horlogers(カレ・ド・オロロジ=時計の広間)」では17社が展示を行っている。その一部(MB&F、フェルディナント・ベルトゥー、ウルベルク、ヴティライネン、ローマン・ゴティエ)は、バーゼルワールドにも出展している。一方で、H.モーザーやオートランスなど、ホテルでの出展を選んだブランドもある。来年は日程が調整されるにも関わらず、独立系ブランドは出展を一本に絞る可能性が高い。SIHHはバーゼルワールドの料金引き下げを加味したうえで、2020年の料金交渉を行うようだと、情報筋は伝えている。
「どちらが選ばれるかは、オファーの内容によるでしょう」とH.モーザーのメイランCEOは言う。


予測

見本市では、ロレックスがバーゼルワールドへの今後4年間の出展に同意したとの噂が出展者の間で広まっていた。

バーゼルワールドを複雑なパズルになぞらえるなら、ここまでに挙げた要素はそのピースの一つひとつだ。

独立系ブランドと中堅ブランドの出展をバーゼルワールドが望むのは当然だ。しかし、バーゼルワールドの運命を握るのは、ホール 1.0に大規模なブースを構える大手ブランドであると、見本市の支援者でありドイツのチュチマ・グラスヒュッテでオーナー兼CEOを務めるディター・デレケイト(Dieter Delecate)は言う。「大手出展者の決定がすべてを左右するでしょう」。同社は2階のホール 1.1のブースで出展している。

見本市では、三大時計ブランドの意向についてさまざまな臆測が飛び交ったが、これら3社の「パワーブランド」は、小売業者を惹き付けるだけでなく、その鶴の一声でバーゼルワールド2020の成否を左右するほどの影響力を持っている。

なかでもスウォッチ・グループは、今年の見本市から撤退したことで、会場の中心部に大きな空白を作った。LVMHグループ傘下のブランド4社(ブルガリ、ウブロ、タグ・ホイヤー、ゼニス)は、ホール 1.0を独占した。ブライトリングは、バーゼルワールドに不満を抱いていることが知られている。 

スウォッチ・グループは来年も出展を見送る公算が大きい。

バーゼルワールドは2020年に

復帰してもらう期待を込め、

スウォッチ・グループがホール 1.0の中央で使ったスペースを残している。

というのが、私が話を聞いた業界の幹部やオブザーバによる大方の見方だった。彼らが指摘するように、バーゼルワールド開催の1週間前、スウォッチ・グループのニック・ハイエック(Nick Hayek)CEOは、ブルームバーグとのインタビューで、同社が見本市に復帰しないと述べている。「出展の必要性がなくなりました。世界は変わったのです」とCEOは語った。

さらに、バーゼルワールドのスウォッチ・グループ用ブースは、撤去されリサイクルされたと、出展者らが証言している。また、ハイエックは昨年7月に撤退を発表した際、見本市を公の場で批判しており、復帰しても面目が立たないだろうという主張もある。

2019年に新たに追加された飲食店やラウンジなどのアメニティは、2020年見本市ではより大きな役割を占めるだろう。

一方、オメガを含むスウォッチ・グループブランドのためにチューリッヒを訪れる前に、バーゼルで一日を潰さなければならなかったことに、不満を持つ小売業者が多かったという指摘もある。見本市への参加を見送った顧客もいる。一部の小売業者は、スウォッチ・グループ内で、撤退を決めたことについて意見の不一致が見られることに気付いた。バーゼルでの出展を希望するブランドマネージャーもいたそうだ。見本市に変化を促したハイエックだが、新しい管理チームはそれを実行に移しており、もしVision 2020+の提案が気に入るものであれば、ハイエックは面目を失うことなく復帰できるだろう。出展を見送ったおかげで、見本市に必要な変化がもたらされたということができる。

ショーディレクターのミシェル・ロリス=メリコフは、スウォッチ・グループを諦めていない。メリコフはスウォッチ・グループがホール 1.0で使ったスペースを、目立つ形で残しており、今年の見本市でも展示には使わせなかった。出展スペースにするのではなく、メリコフはそこを「セントラルプラザ」に作り変え、飲食店や新しいプレスセンター、会合場所を設けたのだ。ハイエックの気が変われば、いつでも容易に撤去できるようにもしてある。見本市の閉幕記者会見で、ミシェル・ロリス=メリコフは新しいプレスセンターの場所について、「来年も同じ場所にあるとは保証できません。理由はやがて分かります」と述べた。

バーゼルワールドの親会社は、過去2年間で330億6000万円の損失を出している。

LVMHについていえば、傘下ブランド4社のうち少なくとも3社は出展する可能性が高い。決定権を握るのは、各ブランドのCEOだ。見本市の終わりに、タグ・ホイヤー、ウブロ、ゼニスの各CEOが、「Blue Room」でのプレゼンテーションに対し前向きな反応を示したと、情報筋が伝えている。乗り気でないのはブルガリだ。ジャン=クリストフ・ババン(Jean-Christophe Babin)CEOは、ドバイでブルガリが経営するホテルで、地域イベントを開催することを検討していたと、情報筋が伝えている。

ブライトリングは撤退する模様だ。カーン(Kern)CEOが自社チームに対し、出展を見送る意向を伝えたことが報じられている。これを受けバーゼルワールド管理側は、ブライトリングが来年に予定している地域イベントにバーゼルワールドを組み込んでもらうことで、出展を促そうとしていると、情報筋は伝えている。

バーゼルワールドは慌ただしい交渉の渦中にあり、それに伴うリスクが非常に高まっている。このことは、バーゼルワールドの親会社であるMCHグループが、ある発表をさり気なく行ったことで鮮明になった。

バーゼルワールド2019は見本市として過度期を迎えた。バーゼルワールド管理側は2020年へ向け、大幅な変化を計画している。


さらなる赤字の拡大

あの忙しい火曜日、MCHは2018年度12月末締めの決算書を公開した。74の展示会を主催する同グループは、売上高として前年比6%増の576億2000万円を報告したが、純損失は2017年の121億6000万円を上回り、209億8000万円にのぼった。 

膨れ上がった損失の原因はバーゼルワールドだけではない。だが損失の大部分を占めているのは事実だ。「バーゼルワールド2018の規模縮小」が、2018年度の損失を生んだ三大要因のひとつとして挙げられている。バーゼルワールドの有形固定資産の価値が低下したのは大きな損失だったと、同グループは発表している。

MCHは、今年も赤字を見込んでいる。

10年前、2000社以上が出展していたバーゼルワールドは、MCHにとって金のなる木であった。それが今では穀潰しになっている。ミシェル・ロリス=メリコフとそのチームには、見本市再建へのプレッシャーがかかる。だがその成果が現れるのはまだ先だ。MCH取締役会は、辛抱強く待つしかない。ある見本市関係者はこう語る。「取締役会はミシェル・ロリス=メリコフに対し、今後4年間で5億5000万円の損失を出しても許容できると伝えました。バーゼルワールドに投資する必要性を理解しているのです」