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Inside The Design 銃から作られた時計を身につけたいか?

素材に関する実験は時に策略的に感じられることがあるが、この時計メーカーは、より良い社会のためにそれを行っている。

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銃は非常に高価な金属の塊だ。多くの場合、合金鋼で作られており、高熱にもどんな衝撃にも耐えられるように設計されている。一般的に銃に使われる金属は、時計のケースやブレスレットに使われている高級ステンレススティールとは異なる金属学的世界に存在している。銃の金属は重く、煤煙がついていそうで、腕にはつけたくはないだろう。

 これはもちろん、あなたがそうでない場合の話だ。

 ここ数年、スウェーデンのブランド、トリワ(TRIWA)では、外観からは分からないが、溶かした銃の金属から時計を作っている。トリワのTime For Peaceシリーズでは、その金属はサテン仕上げのアルミニウムダイヤルを備える滑らかでスポーティなSSケースとして使われている。

Gunmetal and a watch

いろいろな姿をした銃の金属。

 スウェーデンの開発パートナーである非営利団体Individuell Människohjälp(IM)との連携により製作されたヒューマニウムメタルウォッチは、銃器の金属をジュエリーに変えたCaliber CollectionFonderie 47などのプロジェクトと同様に、銃器による暴力に反対する声をファッションに反映させることを目的としている。しかし、このプロジェクトは、素材の新しい試みがトレンドサイクルや流行のスタイルに関係なく、目的意識に結びついた時計のデザインにつながることを示す魅力的な実例でもあるのだ。

 トリワのヒューマニウムメタルへ参画は、同社がカラフルな腕時計の最初のラインを発表してから約10年後の2016年にまで遡る。同社の共同設立者でクリエイティブ・ディレクターのルドヴィグ・シェーヤ氏は、もともとは時計製造の限界を超えるという目的のため、パートナーとともにトリワを立ち上げたと語っている(トリワ=Triwaという名前は「Transforming the Watch Industry」の略だ)。しかし数年後、ブランドの成長が小売店や流通モデルに大きく依存するようになると、実験的な試みへのこだわりは薄れていった。2010年代半ばになると、トリワは北欧の伝統を活かした、魅力的で手ごろな価格のファッションウォッチを作るようになっていた。シェーヤ氏は、「見た目も使用感も良かったのですが、非常にありきたりなものでした」と語っている。

Triwa watch

 彼は共通の友人を介して、IMの元運営責任者であるピーター・ブリュヌ氏とヒューマニウムメタルの頭脳でもあるデザイナーのヨハン・ピル氏と出会った。IMのチームは、5年前に世界の殺人事件の中心地であったエルサルバドルで、没収された銃を溶かして市場から排除するという活動を始めていた。エルサルバドルの警察や軍と協力して、ヒューマニウムはすでに何千丁もの押収銃器を入手しており、それらを溶かしてさまざまな製品を作ることができた。問題は、銃を溶かしたものが、必ずしも使える金属になるとは限らないことだ。銃はさまざまな金属を混ぜて製造される。それらを溶かすと、最終的には装飾品よりも建築材に適するような金属の塊ができあがる。IMのサイモン・マルケ・グラン氏は「基本的には金属くずです」と言った。

 トリワがヒューマニウムと提携した当初は、その再生金属を使うことはできなかった。その原料は、触れた人の肌や服を汚染してしまう恐れがあるからだ。「鉄の表面に付着した酸化物は、あらゆるものを汚くし、衣服も汚してしまいます」と説明するのは、化学会社カーペンター・パウダー・プロダクツ社のマネージング・ディレクター、パー・インゴ氏だ。彼は冶金学者として、特定の特性をもつ金属混合物(合金とも呼ばれる)の開発を担当している。ヒューマニウム用の金属の場合、強くて軽く、低刺激で、ススの形跡のない新素材を作る必要があった。「クロム、ニッケル、モリブデンを混ぜると、皮膚にある塩分に反応しないSSができあがりました」

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 簡単そうに聞こえるだろう? だが、実際は違う。銃の金属を磨き上げたSSにするには、大量の熱と時間が必要になる。カーペンター社に到着したときには約98%が鉄でできた金属棒だったものが、時計の製造が可能になる頃には0.5ミリ以下の細かいSSの粒子になっている。そこに至るまでの工程は、インゴのチームが金属を正確に混ぜ合わせることから始まる。トリワの時計の場合、クロムが18%、ニッケルが8〜10%、モリブデンが2〜3%で、残りは銃の金属の鉄分から成る。

 カーペンター社では、約3000℃に加熱された炉の中で、1万2000ポンドまでの金属混合物を溶かすことができる。約3時間後、金属棒は溶けて液体状になり、底に鉛筆大の穴が2つ開いた小さな容器に注がれる。穴を通った液体は霧化室に落ち、高圧の窒素ガスが吹き付けられて細かく飛び散る。「まるで熱いシャワーを浴びているようです」とインゴ氏は言う。霧化室の底に落ちた液滴は、30〜50ft(約9〜15m)の高さで急速に細かい粒子に固まり、これがトリワの時計に使用するSSの粉末になるのだ。

A man wearing a Triwa watch outdoors

 一般的な時計のケースは金属をプレスしたり削り出したりして作られるが、トリワは粉末状の金属を使用しているため、金属射出成形でケースを作る必要があった。そこで粉末を圧縮して固体にした後、宝飾品に使えるレベルの光沢を出すために研磨する。トリワではケースにできる素材と金型の準備に1年半近くが費やされたが、最終的には外観と同じくらいそのストーリーが重要な時計ができあがった。完成した時計は、サテン仕上げの金属の外観に、エンボス加工されたインデックスと明るいレッドの日付ウィンドウが特徴的だ。時計のルーツにちなんで、リューズは銃の薬莢のような形をしている。

 これまでトリワは、ヒューマンメタルがエルサルバドルとザンビアから入手した1万2000丁の銃の一部を使用して時計を製作してきた。また、同社は時計が1本売れるごとに売上の15%をIMに寄付し、銃による暴力の被害者を支援する活動に役立てている。これまでにトリワがIMに寄付した金額は15万ドルを超えている。これは、シェーヤ氏がパートナーとともにトリワを立ち上げたときに最初に思い描いていたような製品であり、狭い時計の世界を超えて、より大きな影響を世の中に与える時計だ。「私が時計の世界で嫌いな点は、時計がステータスシンボルになってしまったということ。そして好きな点は、時計には自分の信念を人々に伝える発信力があるということです」

リズ・スティンソン氏は、AIGAが発行する「Eye on Design」のエグゼクティブ・エディター。デザインに関する彼女の記事は「Wired」「Curbed」「Gizmodo」「Architectural Digest」「The Wall Street Journal Magazine」などにも掲載されている。