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2024年の出来事から予想する2025年の時計業界 5つの予想

今年も時計界からの話題がホットなことは間違いない。

2024年も本当に多くの話題が生まれ、時計ブームが落ち着きつつあるだなんて体感する暇がないほどにまだまだたくさんの人が注目しているのだなと感じている。なお、その潮流を実数で確かめようとスイス時計協会によるレポートを眺めたところ、過去最高の輸出額を記録した2023年に対して2024年はほぼ同じか2〜3%程度のマイナスになる見通し(11月までの統計から推測)。出荷額ベースではそれほど悪くない数字だが、出荷本数に転じるとコロナ前の2018年には約752万本だったのが、2023年は約628万本、2024年はそこから8〜10%の下落が予想されている。特にミドルレンジプライス、ステンレススティール製の時計での落ち込みが際立っており、人々の価値観の移り変わりが激しいことが分かる。

 日本はというと、スイスからの輸入額は世界2位。中国、香港の低迷により米国に次ぐ時計市場を形成している。決して成長しているわけではなく“底堅い”という印象であり、“グロース”という観点からいくと2桁成長を見せる韓国やインド、スペインなどの勢いが目立つ(それでも規模はまだ日本の半分以下ではあるものの)。これらの数字を背景としながら、昨年から見られる潮流をベースに2025年に対する5つの予想をしていきたい。


周年ブランド戦争

2025年、キリの良い年だけあって大きな周年を迎えるブランドが多数ある。これについての細かい予想は、佐藤さんが執筆した記事を参照いただくとして、今年の台風の目になりそうなブランドと生み出されるであろう渦について僕の予想をお伝えする。創業100年以上かつ10年単位の周年を迎えるブランドだけを一部抜粋しても以下のとおりだ。

A.ランゲ&ゾーネ 180周年(1845年創業)
ヴァシュロン・コンスタンタン 270周年(1755年創業)
オーデマ ピゲ 150周年(1875年創業)
ブランパン 290周年(1735年創業)
ブレゲ 250周年(1775年創業)
グラスヒュッテ・オリジナル 180周年(1845年創業)
ロレックス 120周年(1905年創業)
ゼニス 160周年(1865年創業)


 いずれも甲乙つけ難い名門ばかりだが、このなかの3社は2024年に、1社は今年新しいCEOを迎えている。1月に、オーデマ ピゲはイラリア・レスタ氏、ゼニスはブノワ ド クレーク氏を、ブレゲは10月にグレゴリー・キスリング氏を。そして、本日ヴァシュロン・コンスタンタンはローラン・ペルヴェス氏を新たなトップとして、大きな節目の舵取りを委ねることになる。

今年270周年を迎えるヴァシュロン・コンスタンタンは、本日1月1日より新CEOにローラン・ペルヴェス氏を迎えた。

 ただ、CEOの交代を経てすぐさま商品展開が変わったり、大きな方針の転換ということはまずないだろう。周年に予定されていた重要なプロジェクトの多くは1年や、まして数ヵ月で変更のできるようなものではないから。では何が老舗ブランドにもたらされていくのか、ということだが、それは現在のクラシック回帰の動きに変調を与えるためだと僕は考えている。この4者はマーケティングやマネジメントに軸を置いていたり、携わったことのある人物ばかりだ。それは、市場の声を聞きつつもラグジュアリーメゾンらしい驚きを与えることが期待されての人選だろう。単に過去に回帰していくのではなく、歴史を紐解いた上で現代のストーリーを描いていく。この新CEOたちならば、時に退屈に見えるヘリテージ復刻に頼りすぎず、ブランドの次の方向を見せてくれるはずだ。

 というわけで、オーデマ ピゲがCODE 11.59 バイ オーデマ ピゲで見せたような大胆な指針か、はたまた明らかなコレクションの整理なのか、周年ブランドを中心に以前からの方向転換が1年を通して見られるだろうと予想する。


手巻き回帰

グランドセイコー SLGW003。同社としては50年ぶりとなる新型の手巻きムーブメントCal.9SA4をリリースして話題を呼んだ。

パルミジャーニ・フルリエ トリック プティ・セコンド。トリックのリニューアルとデザインに目を奪われがちだが、ゴールド製の新たな手巻きムーブメントが主役の1本。

 2024年は例年になく手巻きムーブメントが豊作な年だった。手巻きの機械式時計というのはマニアックすぎる存在で、過去30年くらいを振り返ってみても、生産された数でいえばほとんどが自動巻きだろう。ニーズがないから生産されていなかったのに、2024年にしてグランドセイコーやパルミジャーニ・フルリエ、カルティエ、アンジェラスなどから続々と発表された。ちなみに前者2つはタイムオンリー、後者2つはモノプッシャークロノグラフである。

 これらの時計は明らかにコアな時計愛好家に向けたもので、各ブランドは年々成熟していくファンからの要望に応えて、審美性と感性価値を高めた結果、手巻きという選択に至ったのだろう。可能な限り薄く、自社のアイデンティティを体現するケースとあつらえたようなムーブメント。その装飾も含めて心奪われるものが多く、それに反してプライスは可愛くはない。

 先に述べたように、スイス時計の対外輸出額は金額としては過去最高水準にある反面、出荷本数では低迷中。高級時計のセグメント、しかも愛好家向けのコアな時計に限るとまだまだニーズは落ちていないものの、必然的により手をかけた付加価値の高いモデルを各社ともに手掛ける必要があるだろう。たまたま昨年、数社が発表しただけで、まだ様子を見ていたブランドや開発を急がせているメーカーもあることだろう。まず愛好家のハートを掴むことが年々重要になっているこの世界において、手巻き以上に優先される選択肢もないのかもしれない。

 誤解のないように言っておくと、手巻きだから良い、というわけではない。タイムオンリーのムーブメントなどは機構としては簡単に見えるかもしれないが、機能が絞られているがゆえ、輪列や各パーツの作り込みが甘いと“付加価値”を与えるとは全く逆の結果になってしまうのだ。ただ、自動巻き以上に、その時計の持ち主が手をかけないと動作すらしないインタラクティブなものが手巻き時計なわけなので、単純にそうした特徴に目を向けて参入ブランドが増える未来もあるかもしれない。


スウォッチ・グループからのサプライズ

 Watches&Wondersがバーゼルワールドに代わって世界最大の時計見本市として存在感を高めている。2021年からはロレックスやパテック フィリップも加わり、オーデマ ピゲ、リシャール・ミル、スウォッチ・グループ傘下のブランドを除いて、メジャーどころのほとんどが集結する形となった。前身であるSIHH(Salon international de la haute horlogerie)から比べるとほぼ倍ほどの規模になったこの見本市だが、これ以上メジャーブランドが増えることはないだろう。それは、2024年4月にお会いすることができたMr.ハイエックの言葉がその裏付けだ。

 「Watches & Wondersはエリート主義の集まりであり、私たち業界人にとって最も重要な要素である世界中の消費者を排除しています。ジャーナリストや小売業者が一堂に会するのは確かに快適なことですが、真のイノベーションは破壊的な環境のなかでこそ起こるのであって、体制側が好む保護された環境のなかで起こるものではありません」

 なんともスウォッチ・グループの総帥らしいコメントだが、スイス時計産業の復興に大きく貢献した彼らのプライドをもにじませるものだ。聞けば、ETAによるムーブメント供給の停止、いわゆる「2010年問題」も自社の利益追求のためではなく、安価で信頼性の高いムーブメントをスイスで製造するというイノベーションをスウォッチ・グループが起こせたのだから、他の時計メーカーでも可能なはず。業界全体が発展するための動きであったそうなのだ。数は減ったが、現在でもETAのムーブメントは他社に供給され続けており、一方で入れ替わるようにセリタ(Selita)やコンセプト(Concepto)社が製造する汎用ムーブメントの質を向上させてきている。

2024年4月に邂逅を果たしたニック・ハイエック・ジュニア氏。

photo by Masaharu Wada

 一方で、ムーンスウォッチがここ2年で巻き起こしたムーブメントは、間違いなくここ10年で最大級の時計ブームだろう。高級時計とは異なり老若男女の誰もが手にでき、実際そうなった現象は時計というものが再び人々に認識されることに繋がった。Mr.ハイエック直轄のチームが手掛けたこのプロジェクトは、曰く「エルメスやシャネルでは、バッグは買えなくとも香水は買うことができる。高級時計ブランドがそれを提供することは難しく、若い人々に世界を閉ざしてしまうことになる」との思いから実現に至ったそうだ。

 今年もスウォッチ・グループからサプライズが提供される可能性は非常に高いと見ているが、Mr.ハイエックとの会話を頼りにすると、最右翼はシステム51ではないだろうか。ブランパンとのコラボレーションで話題を呼んだが、果たしてグループ内の他のブランドが登場するのか、また別の展開があるのか。システム51自体の革新性もまだ十分に理解されていない気もしており(ぜひ和田によるこの記事を!)、僕としてはこれにまつわる新プロジェクトを期待したい。


インディペンデントの渦

 昨今のオークションシーンで顕著だが、もはや価値の定まったロレックスやパテック フィリップの希少なピースたちは手の届かなくなったプライスを見上げることしかできなくなってきた。それでも欲しければ、手元の時計をすべて集約して夢の1本に、、、という向きもなくはないと思うが、それよりは自分の趣味にマッチする独立系ブランドに手を伸ばすコレクターが増加中だ。昨年、我々HODINKEE Japanもコラボレーションさせていただいたフィリップス香港との“TOKI”オークション。日本をテーマとしただけあり、目玉はジャパニーズインディペンデントブランドたちのロットであった。しかし、全体的なリザルトとしても独立系ブランドが好調だったことも印象的だった。

 この流れは確実に継続するだろう。NH WATCHの代表である飛田直哉さんは、毎年増加するニーズに生産量を高めながら(それでも現状150本程度だそうだ)、まだまだ作りたい作品のアイデアは尽きないと語り、さらに既存のオーナーも“なぜか飛田さんの時計はまた別のモデルが欲しくなってしまう”と口を揃える。彼らのようなブランドの時計は、大手と全体的な質を比較するようなものではなく、あるポイントに魅了されるかどうかというものだ。まだ足を踏み入れていない人は、一度実機を手にとって見ることをオススメしたい。

昨年11月22日に実施されたフィリップス香港でのテーマオークション“TOKI”は、日本のプレゼンスを示す大きな一歩となった。現地でその行方を見守った独立時計師(ブランド)の面々。

 HODINKEEでも、もちろんこのようなブランドを追いかけた記事は今年さらに強化するつもりだ。まだまだ知られざる時計に出会い、知りたいという欲求は個人的にも高まっているので、1年を通して徹底的にシェアしていきたい。


CPO(認定中古)プログラムが本格化

ロレックス ブティック表参道は、現状で日本の最新店舗でありつつ、唯一ロレックスの認定中古販売、買い取りを行っている。

 本国スイスではブヘラによって2022年12月1日から既にスタートしていたロレックスのCPOプログラム。それから2年足らずで、日本でも開始されるという事実を知り僕は去年一番の驚きを受けた。なぜなら、日本は二次流通市場が海外に比べて大きく、また小売店の規模も大きいため長らく正規・並行(中古)の厳格な区別がなされてきたから。クルマ業界のようになりそうでならない、大きな溝があると考えられてきたのだが、このたびそれをヒョイッと超えてみせたのだ。

 日本の時計市場は他国に比べて独特で、例えばロレックスにおいては大手の中間業者が5社も存在する。外国では現地のロレックス法人から直接小売店が買い付ける商流であり、例えば日本のロレックス販売店が実施する販売制限なども海外では存在しない。だが、逆に大手の特約店があればこそ、スイス・ブヘラのような判断が実現できたのかもしれない。この流れは他のブランドにももちろん波及していくことだろう。これまでは、中古を取り扱いたいが正規店だから難しい、中古をやっているがゆえに扱えないブランドある、というジレンマがあったのに、ロレックスが前例を作ったのだから。

 もちろん、ロレックス 表参道ブティックで開始されたCPOはブヘラのそれと中身が異なっており、どのような路線へ向かうのかは現状不透明だ。一般的な二次流通価格を下回って販売しており、買い取り価格もコンサバであるがその代わり同店でのベネフィットが得られるというもののようだが、値付けなど多くの面で慎重な判断が求められるだろう。これは他でも同様で、ブランド価値を向上させながら、ある意味でそのブランドの市場評価とも言える二次流通価格に関わっていくのだ。どこもまだ仕組みづくりの段階だろうが、日本でどのように形成されていくのか適宜レポートしていきたい。

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 こうした時計業界における世界情勢を鑑みると、世界2位かつ成熟した市場である日本に向けては、各ブランドともある種手堅い施策が続くことだろう。我々にとって違和感のある、驚くようなブランドの動きは冒頭に挙げたような“新興国”向けのものであるので、そうしたものを楽しめるとすれば世界の新たな時計コミュニティを察知し、繋がることもできるだろう。

 時計業界の発展の一助には、間違いなく日本人コレクターによる研究の成果があるため、僕らの世代の時計愛好家の役割には、海外コレクターに自分の経験値をシェアし、輪の広がりをリードすることもあると思っている。いずれにしても、自分の趣味を突き詰めていくことに変わりはないと思うので、2025年も楽しんで!