年末、そしてホリデーシーズンとなるこの時期、時計愛好家にとっては2024年を振り返り、その年のお気に入りの時計を思い出す時期でもある。
ここ数日間で、ドレスウォッチ、手ごろな価格のバジェットウォッチ、そしてコンプリケーションウォッチといったジャンル別に、僕たち編集部がお気に入りの時計を選んで紹介してきた。そして今日は、HODINKEEの編集チームが選んだ2024年のベストスポーツウォッチをお届けする。以下にご覧いただくリストは、予想どおりのもの(いいものはやはりいい)から、驚きのあるものまで幅広くカバーした。リストには堂々たるゴールドの逸品、複数のタイムゾーンに対応したモデル、さらには思わず目を疑ってしまうような驚きのチョイスも含まれている。ぜひご覧あれ!
ロレックス デイトナ ル・マン イエローゴールド [ベン・クライマー]
ロレックス デイトナ ル・マン イエローゴールド
自分は自分だ。ここで何かマニアックで興味深いものを選ぶこともできるだろうが、2024年において手に入れるためなら命を賭けてもいいと思う時計がひとつだけあるとしたら、それはイエローゴールドのル・マン デイトナだけだ。記事「ロレックス デイトナ ル・マン Ref.126529LNを1週間徹底レビュー」で書いたデイトナの魅力をそのままに、さらに楽しさを少しプラスしたモデル。それがこのイエローゴールドのデイトナなのだ。ちなみに、私の生まれ年のデイトナはイエローゴールドの6263で、この時計と驚くほど似ていることを言い忘れていたかもしれない。ロレックスにしかできないことをやってのけた、この時計が本当に好きだ。
– ベン・クライマー、創設者兼プレジデント
エルメス カット [マライカ・クロフォード]
今年、エルメスは36mmの新作スポーツウォッチを発表した。このモデルは機械式ムーブメントを搭載し、主に女性をターゲットにしている。エルメス カットは、男性向けとされるエルメス H08と比べて、サイズが小さく、より丸みを帯びた柔らかなデザインが特徴だ。
私の第一印象は(記事「エルメス 女性向けスポーツウォッチ “エルメス カット”をローンチ」参照)、シンプルで洗練されていて、手に取りやすい(しかも商業的な成功も見込めそうな)時計だということ。この時計は、エルメスがこのジャンルの成長に本気で取り組んでいることをはっきりと示している。
女性向けの時計が、ありがちな花柄や虹色、ダイヤモンドをちりばめた“男性用時計の派生品”ではないデザインで登場するのは、本当に新鮮だと感じる。エルメス カットは、まさに私が“女性のために意図されたデザインが大事だ”と強調してきた理想の形だ。柔らかなラインと手首に馴なじむ絶妙なサイズ感は、デザインのバランスが取れていて、私自身の手首にもとてもフィットする。一方で、日常使いに求めるシンプルで実用的な雰囲気も兼ね備えているのが魅力だ。この時計を身につけると、自分が理解されているように感じるし、未来への希望さえ感じられる。
アルソーやケープコッドといったシグネチャーモデルは、一般市場での人気が波のように浮き沈みを見せる一方で、時計マニアという枠を超えた熟練の愛好者や、ファッションに熱中する人々にとっては常に定番として支持されてきた。たとえば、マルタン・マルジェラが生み出したダブルトゥールなどがその好例だ。
これまでのところ、5000ドル前後のエントリーレベルのモデルが成功を収めてきたのは、美しい馬術にインスパイアされたデザインと、文字盤に刻まれたエルメスブランドの力によるところが大きい。しかしエルメス カットは、女性向けのウォッチメイキングにおけるブランドのアプローチが進化した証だ。この時計は、エルメスらしいカラーやタイポグラフィの遊び心を備えた洗練されたスポーツウォッチであり、同時にブランドのアイデンティティを強く感じさせる一品である。
– マライカ・クロフォード、スタイルエディター
チューダー ブラックベイ モノクローム [マーク・カウズラリッチ]
素晴らしい時計というのは、必ずしもひと目で心を奪われるものばかりではない。時には、じわじわとその魅力がわかり、今だけでなく長いあいだ愛されることを確信させるものもある。Watches & Wondersで初めてチューダー ブラックベイ モノクロームを見たとき、正直あまり印象に残らなかった。41mm径で厚さ13.5mmのケース、オールブラックの文字盤とベゼル。スペックだけ見ると特筆すべき点はないように思えた。しかし、それこそがこの時計の魅力だ。そしてそのよさを本当に理解するには、じっくり観察する必要がある。
新たにマスタークロノメーター認証を受けたムーブメント、T-Fitの微調整可能なクラスプ、ジュビリースタイルの5連ブレスレット、オイスターブレスレット、ラバーストラップの選択肢、そしてギルトダイヤルのスタイルを完全に排除したデザイン。このモノクロームは、間違いなくチューダーのなかでも最も汎用性の高いモデルだ。この時計は、時計好きから一般ユーザーまで、誰でも手に取り、日常で使い倒しながら一生満足できる1本といえるだろう。
チューダー モノクロームは、かつて多くの人にとってのロレックス サブマリーナーのような存在だ。努力して貯金をし、一生使える高品質で信頼できる時計を手に入れたいと思ったとき、かつてはロレックスの5513を選ぶのが定番だった。今なら、この時計がその代わりになるだろう。しかし、ここにおもしろい話がある。63万5800円(税込)という価格とその魅力の広さから、ある正規販売店では“デイトなしのサブマリーナーを手に入れるほうが、チューダー モノクロームを手に入れるより簡単だ”と言われたのだ。これが何より、この時計の価値を証明しているのではないだろうか。
– マーク・カウズラリッチ、エディター兼フォトグラファー
ロレックス GMT マスターII Ref. 126710GRNR [リッチ・フォードン]
多くの男性時計エディターが抱く一般的な意見とは違い、私はこれまで現行のロレックス GMTを欲しいと思ったことがない。とはいえ、HODINKEE的なロレックスの定番には弱いところがある。実際、ヴィンテージのロレックス エクスプローラー Ref. 1016を持っていて、そのギルトダイヤルをとても気に入っている。“自分は少し違うんだ”と言いたい気持ちもわかるかもしれない。
そんな私の考えを揺るがしたのが、今年登場したブルース・ウェインと呼ばれるGMTだ(正式にはRef. 126710GRNR)。現行のロレックスは控えめという言葉とは無縁だ。プロフェッショナルモデルは多くの場合、手首を覆う存在感があり、磨き上げられた仕上げは“ほら見て! ロレックスだよ!”とアピールしているかのようだ。これは多くのロレックスファンにとっては魅力なのだが、私には少し違う。
これまで“控えめ”なロレックスを求めて日付なしのサブマリーナーに興味を持ったこともあったが、ケースやクラスプが少しゴツいと感じてしまった。一方で、GMTのケースは自分の手首にフィットするのだが、どうしても派手なベゼルカラーや、それに付けられるさまざまなニックネームが気になっていた。今回のモデルは、その私の固定観念を変えてくれるかもしれない。
言いたいことはおわかりだろう。2024年のWatches & Wondersで発表された最新のGMTは、まさに私のような層をターゲットにしている時計だ。控えめなデザインのGMTで、現行ロレックスに対する私の考えを大きく変えるきっかけになりそうだ。
これで、前世代のオールブラックベゼルのRef. 116710LNに未練を感じる必要はなくなり、いずれ現代のロレックスユーザーとしての一歩を踏み出せるかもしれない。ブルース・ウェインは、控えめさと存在感のバランスが絶妙で、ちょうどいい程よさを備えている。現代のGMTを求めるユーザーにとって、理想的な選択肢と言えるだろう。
– リッチ・フォードン、エディター
ウブロ ウニコ グリーン SAXEM [タンタン・ワン]
「速報を止めろ、タンタンがやらかした!」なんてコメントがこの記事の下に並ぶのが目に浮かぶ。でも、今年の初めにこの時計を試着して以来、ずっと頭から離れない。毎年、ウブロにはいろんな批判が向けられるけど、このビッグバン ウニコはそのなかでもキラリと光る存在だと思う。
まず何より、何でも“とにかくグリーン”なものにはつい目を奪われる私にとって、この時計も例外じゃない。はい、これが私の偏った見方の告白だ。
そして、この時計はまさにウブロの得意分野を体現している。ウニコは、実はあまり評価されていないけれど、優れた自社製フライバッククロノグラフムーブメントだ。特に42mmという程よいサイズ感のケースに収まると、その魅力がさらに際立つ。そしてもちろん、ウブロといえば“素材へのこだわり”だ。SAXEM(サクセム)は、アルミナ(酸化アルミニウム)に希土類元素を加えた合金で、まるで夢のようなグリーンのクリスタルカラーを生み出す。この素材は、ウブロが他社が手を付けないような領域でR&D(研究開発)を本気で突き詰めていることを思い出させてくれる。美しさだけを追求していると言ってもいい素材開発。そんな姿勢が私は大好きだ。
この時計のとんでもない価格を自分で払うか? それは絶対にない。でも誰かがプレゼントしてくれるなら? それなら大歓迎だ!ただ、本当に期待しているのは、ウブロがこうした素材への挑戦を続けること。そしていつか、この技術がもっと手に届きやすい価格帯の時計にも応用される日が来ることを願っている。
– タンタン・ワン、エディター
パテック フィリップ アクアノート 5164G [ジェームズ・ステイシー]
今年のスポーツウォッチでお気に入りを選ぶ際、何度も迷った。ドクサのサブ200Tをギリギリ予算枠に入れられたなら、次はチューダー ブラックベイ 58 GMTとパテック フィリップ アクアノート 5164Aという、まったく異なる2本の時計をどう評価するかが課題だった。ロレックスやチューダーを代表するモデルについては、すでに上で触れたとおりだ。そこで今回は、自分が一番好きなスポーティなパテックである、2024年版のホワイトゴールド製アクアノート 5164Gに決めた。
多くの人と同様、僕もSS製の5164Aが大好きだったため、そのモデルが廃盤になったときは少し寂しさを感じた。しかし今回発表された5164Gは、その代わりとなる存在として十分に魅力的で、しかもSS製とは異なる個性を持っていると感じた。ホワイトゴールド製の40.8mmケースに包まれた美しいブルーの文字盤と、それに合わせたブルーのラバーストラップ。SSからゴールドへの移行は、ただの文字盤の色替えにとどまらない、特別な位置付けを示す選択だと思う。もともとの魅力を尊重しつつ、独自の個性を打ち出している点で成功していると感じる。
プッシュボタン式のデュアルタイム機能は健在で、ブルー文字盤とストラップの組み合わせに対する僕の愛着は、4月のWatches & Wonders 2024で初めて見て以来、さらに深まるばかりだ。5164Aの後継機として、この5164Gは、オリジナルの魅力を引き継ぎながらも新しい時代を感じさせる1本だと言える。
– ジェームズ・ステイシー、本国版HODINKEE編集長
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