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Auctions ユニークなプラチナのロレックス ヨットマスターが競売にかけられた。どれほどの高値が付くだろう?

これはロレックス1000万個目のクロノメーターを記念して、元ロレックスCEOが自身のために依頼したもので、ヨットマスターのなかのヨットマスターともいえるモデルだ。

Photos by Mark Kauzlarich

ロレックスはユニークな時計をつくらない。少なくとも、その存在を我々が耳にすることはない。ただし、4月22日にモナコ・レジェンドで開催されるオークションに出品される、このプラチナ製ヨットマスターは、その点において極めて例外的なものだ。これは1992年に、父のアンドレからCEOを引き継いだロレックス前CEOのパトリック・ハイニガー(Patrick Heiniger)氏が依頼した、この世でただひとつのプロトタイプヨットマスターだ。

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 文字盤に“Dix Millionieme Chronometre”という表記があるように、ロレックス1000万個目となるクロノメーター認定ムーブメントの製造を記念して、ハイニガー氏はこの時計をオーダーした。プラチナ製のケースとブレスレット、フリップロック式のクラスプに加え、ユニークなグレーの文字盤にはブルーサファイアとダイヤモンドをセット。全体としてのパッケージが素晴らしく、最高に豪華で華麗なのだ。ロレックスは、1992年にサブマリーナーに代わる高級モデルとしてヨットマスターコレクションを発表。サブは海を潜るダイバー向けのもの、ヨットマスターは海辺のクルージングをする人向けのもので、なかでもこのプロトタイプはヨットマスターのなかで最もヨットマスターらしいといえるだろう。

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マークの腕に巻かれたプラチナ製のユニークなヨットマスター。

 ロレックスは創業以来、精度とクロノメーターの製造を自社のアイデンティティとマーケティングの核に据えてきた。またチャーチルやアイゼンハワーといった歴史上の人物に記念すべき(例えば5万本目、10万本目のように)クロノメーターロレックスも贈っている。しかし1000万本目には、プラチナのヨットマスターをぶつけたのだ。

 つまりロレックスが最もロレックスらしい記念日で祝杯をあげようとしたとき、これに似たような方法をとったのだ。この時計は一般向けではなく、ハイニガー自身に向けてつくられたのである。2010年、それは祝うに値する結果だったと旧友のジョー・トンプソン(Joe Thompson)氏が報告しているように、ロレックスは2000年から2010年にかけて700万本のクロノメーターモデルを製造し、それと同時期に230万本を突破したオメガを圧倒したという。

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 モナコ・レジェンド・グループのダビデ・パルメジャーニ(Davide Parmegiani)氏によると、ハイニガー氏が1992年にイエローゴールドの新型ヨットマスターを発表したその日、彼の腕にはこのプラチナのプロトタイプが装着されていたそうだ。ハイニガー氏は2008年までCEOを務め、在任中に発表した唯一の新モデルが、このヨットマスターだった。1960年にハンス・ウィルスドルフが亡くなり、南米ロレックスを経営していた父親がCEOの座を引き継いだ(ウィルスドルフの死後、2年間はこの席が空いたままだった)あと、ハイニガー氏はロレックスのトップの座に就いた3人目の人物だった。

 モナコ・レジェンド・グループはこの時計の見積額を100万ユーロから200万ユーロ(日本円で約1億4675万円から、約2億9345万円)とした。ハイニガー家の末裔といわれる委託者に、この低い見積額を保証している。


ヨットマスターは本当に“コレクターズアイテム”なのか?
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ハイニガー氏が証明するプラチナ製ロレックスが発見されたのは、この数年でこれが初めてではない。そして、それらの過去の時計はすでに記録を更新していて、現代のロレックスがオークションで達成できることの基準となっている。

 90年代後半、ハイニガー氏はプラチナのデイトナコレクションも依頼していて、4本がつくられ、そのうちの1本をハイニガー氏が自分用に保管していたと見られている。過去5年間に残りの3本がオークションで落札されているが、すべてリファレンスナンバーは16516で、それぞれがユニークな文字盤を備えていた。2018年、最初に登場したのは、プラチナ製のデイトナにブラックマザー・オブ・パールの文字盤を組み合わせたモデルだった。それはサザビーズで約87万2000ドル(当時の相場で約9630万円)で落札された。次いで2020年、ラピスラズリ文字盤の16516が、3.27万ドル(当時の相場で約3億4925万円)で落札された。これは自動巻きのデイトナに限ってではなく、現代のロレックスのオークションでの最高記録を樹立したのである。これに続くのが、2021年に314万ドル(当時の相場で約3億4465万円)で落札された3例目のターコイズ“ステラ(Stella)”、16516である。

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ハイニガー氏が依頼したユニークなプラチナ製デイトナ。どちらも過去3年のあいだにサザビーズで300万ドル(約3憶万円)以上の価格で落札されている。

 しかし、このヨットマスターはそれらとは違う、完璧なるユニークピースだ。それにプラチナ製のフルブレスレットも付属している。そして特別なデイトナのうち、少なくとも数本は贈答品だったが、このヨットマスターはハイニガー氏が自身のために依頼したものだった。

 「これぞまさにプロトタイプです」と、Loupe ThisとThe Keystoneのジャスティン・グルーエンベルグ(Justin Gruenberg)氏は言う。「あのデイトナとは違い、続けて生産されてきたものではないため、シリアルナンバーもモデルナンバーも記載されていないのです」。パルメジャーニ氏が説明してくれたように、ロレックスがプラチナ製のプロフェッショナルシリーズをつくるのは何年も先のことだ。プラチナのデイトナは、2013年にカタログに掲載されたばかりなのだから。

 デイトナは独自の伝説を築いているが、ヨットマスターは現代の基準において、少なくともまだ“コレクターズアイテム”とはいえない。好きか嫌いか、そのどちらかだろう。しかも特にヴィンテージコレクターのあいだでは、ヨットマスターを愛する人よりも嫌う人のほうが大多数だ。

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 「初代エクスプローラーII の1655やミルガウスなど、比較的人気のないモデルもそうですが、スタイルが進化するに伴い、ある時期から今以上にヨットマスターが評価されるようになるかもしれませんね」とグルーエンベルグ氏。

 一方でこのヨットマスターについて、すでに一部の人がすでに好意的な意見を持っているようだ。

 ディーラーであるゾーイ・アベルソン(Zoe Abelson)氏は、「このモデルは、今日のトレンドである“静かな贅沢 ”を体現しています。フルプラチナケースのクラシックなスポーティデザインと、ダイヤモンドをさりげなく見せるシルバーダイヤルが特徴です」と語る。プラチナのヨットマスターは現代ロレックスの最高峰かもしれないが、ダイヤモンドとサファイアのインデックスを備えているために、そう主張しているわけではない。確かに数は多いが、プラチナのロレックスにサファイアとダイヤモンドをあしらった比較的控えなデザインなのだ。

 その美的感覚が好き嫌いが分かれるところだが(あるいは好きだからこそ)、このヨットマスターはあのラピスラズリのデイトナが打ち立てたモダンロレックスの記録(327万ドル)を超えるはずだというのが、私が話を聞いたほとんどの人の意見だった。1990年代が過ぎ去り、ヴィンテージ、あるいはネオ・ヴィンテージと呼ばれるようになるにつれ、この時代のロレックスに興味を持つコレクターが増え、この時代の最もコレクターの多い時計がわかってきた。希少性という点ではこのモデル自体がまだ少し変わった存在であったとしても、ユニークなヨットマスターに勝るものはない。

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 いや、ポール・ニューマンのポール・ニューマンでもなく、バオダイでもなく、マーロン・ブランドのGMTマスターでもないため、時計愛好家以外からの入札者を呼び込むこともできないかもしれない。パルメジャーニ氏は、もし大規模なオークションがこのヨットマスターを国際的なロードショーで紹介することができたなら、もっと大きな結果を得ることができたかもしれないと私たちに語っている。しかし彼は賢いコレクターが注目し、1点もののヨットマスターの価値を理解してくれると確信している。

 4桁のヴィンテージロレックスなら、1992年のヨットマスターにはない魅力があるが、このプラチナ製ヨットマスターは、ロレックスにとって歴史的に重要な、唯一無二のロレックスを購入できる初めての機会なのだ。その価値は大きく、オークション開催日には記録的な結果をもたらすかもしれない。

 ロレックスが大きくなり、時計界の注目を集め続けるにつれて、ロレックスにまつわる神話もまた大きくなっていく。それに伴い、このような時計はより興味深いものになる。ロレックスの時計は、たとえ一般に公開されることを意図していなかったとしても、ロレックスが重要な時計として作ったという理由だけで重要な時計なのだ。

 このプラチナ製ヨットマスターは、4月22日から23日にかけて開催されるモナコ・レジェンド・エクスクルーシブ・タイムピース・セールにて競売にかけられる。詳しくは、モナコ・レジェンドをご覧ください。