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One to Watch ブライトリングのデザイナー、シルヴァン・ベルネロンは自らアシンメトリーの探求に挑む

同デザイナーが初めて手掛けたインディペンデントウォッチは、因習に逆らいながらクラシックなインスピレーションを継承している。

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オリジン・ストーリー

今ある刺激的なインディペンデントブランドをどのように取り上げるかは難しい。多くの場合、新しい時計メーカーが時計愛好家やコレクターから支持を得ると、時計が完全に完成するまでに数年にわたって販売され続ける。

 ブライトリングのクリエイティブディレクター、シルヴァン・ベルネロン(Sylvain Berneron)氏の新ブランド、ベルネロンがまさにそうだ。ベルネロン氏はこの2年間、初の自社製時計であるミラージュの開発に取り組んできた。一見するとパテック フィリップ カラトラバとアシンメトリーなカルティエ クラッシュの美しいマッシュアップのようにも見える。しかし、ベルネロン氏は自身のビジョンに妥協することなく、なかも外もユニークなものを提供する時計を作り出すことに成功したのだ。

berneron mirage sienna

イエローゴールド製のベルネロン ミラージュ “シエナ”。

 「ある家に入ったら、ひとつのドアでしか出入りできないと言われたとしましょう」とベルネロン氏。「ただそのドアを通り抜けたいだけです。私にとって、ウォッチメイキングにおけるそのドアはシンメトリーでした」。ベルネロン氏は過去15年にわたって、大手ブランドのプロダクトデザイナーとして活躍していた。最初はBMWのような大手自動車会社で働き、その後ブライトリングへと移る。ブライトリングのCEOであるジョージ・カーン(Georges Kern)氏との関係性のおかげで、非常勤でブランドのクリエイティブな仕事をする傍ら、独立したブランドを立ち上げることができた。

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ベルネロン創業者のシルヴァン・ベルネロン氏。

 ベルネロン氏は「デザイナーはその仕事をしているブランドのトーンや要望に合わせて、自分を制限しています」と言う。「でも自分のためだけに何かをして、あの忌々しいドアを開けたいと思うようになったのです」。ミラージュでは左右非対称のケース、ムーブメント、ゴールドキャリバー、針の重ね方の順序など、彼が時計業界で働いて以来ダメだと言われてきたことをすべてやっているという。

 「このプロジェクトを“ミラージュ”と呼んでいるのは、時計業界の“ダメなこと”をひとまとめにしたもの自体が存在した、ほとんど幻想に近いものだからです」

 まずそれはムーブメントから始まる。ベルネロン氏は、ムーブメント製造会社であるル・セルクル・デ・オルロジェ(Le Cercle de Horlogers)と共同で、ミラージュのためにアシンメトリームーブメントを開発した。ル・セルクルはトリローブ、ビバーウォッチ、ルイ・ヴィトンといったブランドにムーブメントを供給する著名な会社だ。その結果ミラージュでは、わずか2.3mm厚のゴールド製メインプレートとブリッジを備えたキャリバーが実現した。F.P.ジュルヌ以外で、金無垢をムーブメントの素材に採用することはほとんどのブランドがやらない。ベルネロンのキャリバーは、現在生産されている金無垢ムーブメントのなかで最も薄いものとなる。

berneron mirage caliber

 ムーブメントの美観は重要だが、ベルネロンはパフォーマンスも妥協していない。この手巻きキャリバーは約60時間のパワーリザーブを確保し、2万1600振動/時で時を刻むなど、このような薄型ムーブメントとしては印象的なスペックだ。また古い懐中時計のクロノメーターを参考にしたテンプも備えている。

 最も注目すべきは、ムーブメントの形状である。

 「このプロジェクトで最も難しかったのは、外部の意見を説き伏せることでした」と同氏。同僚やサプライヤーはみな、彼のより大胆な衝動を抑えようとしたというのだ。「アシンメトリーなムーブメントを作りたいとル・セルクルを説得するのに4週間かかりました。そして、私が実際に素材用のゴールドを注文しようとサインするまで、誰もが実際に金無垢キャリバーを作るとは思わなかったと言われました」。ゴールドムーブメントを見かけないのには単純な理由がある。サプライヤーはゴールドで作るのを嫌がり、通常使われる真鍮とは別の機械を必要とするからだ。ベルネロンの場合資金面でのコミットメントもあり、ムーブメントの注文には費用の50%を前払いする必要もあった。

sylvain berneron gold caliber

 通常、アシンメトリーのムーブメントはその用途をケースから切り離してしまうために作られない。もっと簡単に言えば、もしベルネロン氏がラウンドムーヴメントを注文してプロジェクトが失敗した場合、少なくとも彼らはそのラウンドムーヴメントを刷新して、より伝統的なケース形状で再利用することができる。これが変形キャリバーがめったに生産されない理由のひとつである。

 これは伝統的な“複雑機構”ではないが、ベルネロン氏は別の興味深い方法で慣例を打ち破った。彼は文字盤上に設置された針の通例順序を逆にし、短い時針を長い分針の上に置いたのだ。ベルネロン氏によると、これをすることでクリスタルがより劇的に湾曲できて、時計の厚みを15%薄くできると言うのだ。


我々がなぜ気に入ったのか
asymmetrical watches

クラッシュとカラトラバがバーに入ると...

 これはミラージュの特殊なデザインにつながるもので、ベルネロン氏はふたつのインスピレーションを挙げている。まずブレゲ、ヴァシュロン、そしてパテック フィリップ カラトラバのクラシカルな時刻表示のみの時計である。第2に、彼はジルベール・アルベール(Gilbert Albert)、ルパート・エマーソン(Rupert Emmerson、60年代と70年代にかけてカルティエ ロンドンのデザイナーを務めた人物)、そして多くのMB&Fウォッチを手がけたデザイナー、エリック・ジルー(Eric Giroud)氏の作品に目を向けた。

 「芸術と技術を完璧に融合させるために、このふたつのインスピレーションを融合させようとしました」とベルネロン氏は述べる。「ミラージュが新しいアプローチであるのは、芸術により技術を損なわず、その技術が芸術の感情に妥協していないからです」

 その結果、カラトラバとカルティエ クラッシュのどちらの派生とも感じさせない、中間のような非対称ケースが誕生した。ミラージュのサイズはラグからラグまでが42mm、直径が33.5mmである。3月にプロトタイプを試着しているのだが、その自然なラインは手首になじんでいた。

見方によってミラージュのデザインは、ダリに似たアートか、ピッチャーに注がれたサングリアを何杯か飲んだあとバーからふらふらと出てきたカラトラバみたいだ。私にとっては、考え抜かれたまとまりのあるデザインだと感じているが、それは単にシェイプウォッチのトレンドに乗ったデザインだからではない。タイポグラフィ、文字盤、ケース、ムーブメントはすべて時計製造の一貫したビジョンの一部であり、メカニズムとデザインが相互に機能している。巨大なテンプを支える湾曲したブリッジでさえ、ケースとダイヤルのラインを反映しているのだ。

 キャリバー以外だけでなく、ミラージュは文字盤、針、ケース、バネ棒に至るまですべてK18ゴールドで作られている。ベルネロン氏は、開発中に愛好家たちからのフィードバックを受けてこの決断を下したと述べている。“手を抜くな”というのが、興味を持った愛好家たちからのアドバイスだった。

100年後、時計職人が私の時計を開けたとき、どんな気持ちになるでしょうか?

– シルヴァン・ベルネロン(Sylvain Berneron)氏

 「私がベルネロンをスタートしたとき、“最初の腕時計が誕生してから100年後に私が来たとしたら、人々はその仕事に注目するだろうか”と自問しました」とベルネロン氏は言う。「時刻表示だけの作品ならパテックやランゲを買うべきです。しかし私の知る限りこのような形をした時計のなかに、さらに変形ムーブメントを収めるというアプローチは、現代の時計においてはユニークなものだと思います」

 ベルネロン氏はミラージュに、YG製の“シエナ”と、ホワイトゴールドの“プルシアンブルー”の2種類を用意した。どちらもセクターダイヤルをイメージしたレイアウトで、フォントはベルネロン氏が自らデザインしている。ゴールドハンドも曲がっているが、これはこの不規則なシェイプによりまっすぐな針と同じような工具を使うことができず、手作業で削り、ポリッシュ仕上げを施している。

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18KWG製のミラージュ “プルシアンブルー”。

 彼は今後10年間、ミラージュの年間生産数を24本にすると約束しており、シエナとプルシアンブルーはそれぞれ12本ずつ生産される。最初のサブスクリプションは2024年前半、そして最初の通常販売は2024年後半に予定されている。サブスクリプションの価格は4万4000スイスフラン(日本円で約740万円)で、その後も通常販売期間ごとに、確実に値段は上がっていく。

 ベルネロン氏はInstagramでミラージュをゆっくりと焦らすように公開したことで、マニアやコレクターの注目を集めることに成功した。彼は2024年に納品される48本すべてのデポジットをほぼ受け取っているという。その理由のひとつは、カルティエやジルベール・アルベールなどのアシンメトリーウォッチコレクターの欲をかき立てたからに違いない。しかしよく見ると、ミラージュは単なる流行に乗った変形デザインではない。

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常識をひっくり返す。

 ミラージュの開発が進むこの1年間、私は何度もベルネロン氏と話をした。彼の時計づくりに対するビジョンについて私も共有している。メカニックは重要であるが、それは時の試練に耐えうる美しいデザインを作る役目を果たすためのものだ。ミラージュは伝統的な時計製造に対する彼の評価を新鮮に表しているに過ぎない。

 それでもすでに人気を得ていて、数十本もの(安くない)腕時計を販売し、しかも実用的なプロトタイプもない新しいインディペンデントブランドを取材することに葛藤は感じている(ベルネロン氏は年末までには完成させると言っている)。ただ彼と話をして、ディテールやプロセスへのこだわり、そしてブライトリングでの経験を目の当たりにした上で、約束を果たしてくれると信じている。しかし、すでにミラージュの購入を決めている顧客にとっては思い切った決断だっただろう。

 ベルネロン氏はまた、彼が受けたこの注目の高まりについても称賛に値する。というのも彼はこの2年間、熱心にコレクターと向き合い、彼らからフィードバックを得てきた。しかしそれは特定の買い手が“次の大物”を推測したがるという、大きな兆候のひとつでもある。この件に関してはベルネロン氏の責任はなく、ここ数年の時計収集が急成長したことによる大きな問題である。


次に来るもの
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ミラージュのあとも、ベルネロン氏は複雑さを増したものを作りたいと語っている。彼はデュアルタイムや、パーペチュアルカレンダーについて考えているが、今後のプロジェクトはこれらの複雑な問題を別のアプローチで解決する必要がある。ミラージュは伝統的なスモールセコンドに対する彼の見解であり、またベルネロン氏はすべてのプロジェクトにも同じアプローチを取りたいとも言っている。

 「100年後、時計職人が私の時計を開けたとき、どんな気持ちになるでしょうか?」とベルネロン氏。「すべてがゴールドでできていて、私たちが近道をしなかったと気づいたとき、それは素晴らしい瞬間になると思います。私は文字盤に自分の名前を入れました。それは自分自身、私という人間、そして私が何を信じているかを反映しているのです」

詳しくはベルネロン公式サイトから。そしてInstagramでベルネロンをフォローしよう。