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One to Watch ペテルマン・ベダ 2作目のリリースにして、スイスで最も勢いのある新興インディーズブランドのひとつとなる

Ref.2941ことスプリットセコンド・モノプッシャー・クロノグラフとともに、若き独立時計師たちは時計製造における独自の視点から探求を続けている。

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開発に至る経緯

時計職人のゲール・ペテルマン(Gaël Petermann)とフロリアン・ベダ(Florian Bédat)に初めて会ったのは、2020年11月のことだ。彼らの最初の時計であるRef.1967 デッドビート・セコンドがGPHGにより若手ブランドに贈られる“オロロジカル・レヴェレイション賞”を受賞する直前だった。

 それから3年が経ち、ペテルマン・ベダは2本目の時計となるRef.2941 スプリットセコンド・モノプッシャー・クロノグラフを先日リリースした。最初の時計は鮮烈な印象を与えるデビュー作であったが、Ref.2941はさらなる野心と創造性をその内に秘めている。このスプリットセコンド・モノプッシャー・クロノグラフは直径38mmのプラチナ製ケースに収められ、生産数は10本限定、価格は24万3000スイスフラン(約3730万円)だ。すでに10本すべてが売れてしまっていたが、4月上旬にジュネーブでペテルマン・ベダのスタッフに会い、Ref.2941のプロトタイプを見ることができた。

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フロリアン・ベダとゲール・ペテルマン。

 これは2007年にジュネーブの時計学校で知り合った30歳の時計職人たちが生み出した見事な後続機である。学校卒業後にふたりは別々の道を歩むことになるが、交流は続けていた。ペテルマンはA.ランゲ&ゾーネに、フロリアンはハリー・ウィンストンに就職。ハリー・ウィンストンでベダは小型のコンプリケーション、そして調整と組み立てに取り組んでいたという。しかし2013年にスウォッチグループがハリー・ウィンストンを買収したのち、時計の組み立ての多くをブランパン(スウォッチ傘下の別ブランド)に移したとき、ペテルマンと再会したと語る。

 ランゲで、ペテルマンはすでにパーペチュアルカレンダーなどの複雑機構を組み立てるまでに至っていた。やがてベダもランゲに入社し、ふたりは早くも独立の道を考え始めた。やがて彼らはドイツを離れ、スイスのルナン(ローザンヌ郊外)という町に拠点を設けることにした。この場所を選んだのは、現在オーデマ ピゲの傘下にある有名なコンプリケーションメーカーであるルノー・エ・パピ(Renaud & Papi)の片割れ、ドミニク・ルノー(Dominique Renaud)氏のすぐそばに店を持つことができたからだ。

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Ref.1967 デッドビート・セコンド。

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デッドビート・セコンド機構の、磨き上げ後と仕上げ前の様子を紹介しよう。Image: Courtesy of Petermann Bédat

 ペテルマンとベダは共同でヴィンテージウォッチの修復を始め、個人コレクターやクリスティーズのようなオークションハウスを顧客に持つようになった。しかし彼らはそれ以上のもの、つまり自分たちだけの時計開発プロジェクトを欲していた。そして2017年、隣人であるルノー氏の協力を得て、彼らは最初のモデル、のちにRef.1967 デッドビート・セコンドとなる時計の製造を開始する。Cal.171は、ふたりの時計職人が時計学校で学んだムーブメント、時計学校の講師がデザインしたデッドビート・セコンド・トゥールビヨンの懐中時計からインスピレーションを得ているという。

 「私たちがやろうとしているのは、時計の修復から現在もなお学び続けていることです。懐中時計のように、美しい腕時計を作りたいのです」と2020年に初めて話をしたとき、ペテルマンは私に語ってくれた。「私たちは懐中時計が大好きで、それらに施された手仕事は驚くべきものでした。私たちの目標は、こうした古きよき時代の意匠やムーブメントの仕上げを21世紀のデザインで腕時計に落とし込むことです」

petermann bedat 1967 deadbeat seconds dial

 当初から、このふたりによるムーブメント製造と仕上げの技術には目を見張るものがあった。プレートとブリッジにはジャーマンシルバーを使用し、4分の3プレートではグラスヒュッテで学んだことすべてに敬意を示しているように見える。ペテルマンとベダは20本分のムーブメントを仕上げるのに、それぞれが340時間を費やしたという。そのうちの10%は4本の矢が尖ったユニークな形状のデッドビート・セコンド・アンクルに使われたそうだ。

 古いものと新しいものがシームレスに調和したRef.1967は、私の目を引いた。例えば、デッドビート・セコンド機構のマットな仕上げにはオリーブオイルを使ったプードル・ドゥ・ルヴァン(Poudre de Levant)というほとんど忘れ去られた技法が使われている。一方、文字盤はクラシックなセクターダイヤルを現代風にアレンジしたもので、スケルトンのチャプターリングがキャリバーのキーレスワークを露わにしている。

なぜ私たちはこの時計に引かれるのか
petermann bedat reference 2941 split seconds chronograph

 この新旧の融合こそが、私がペテルマン・ベダを愛する理由だ。2020年に初めて話をしたとき、私たちはヴィンテージウォッチに関してもたっぷりと話をした。Zoomの画面上で、彼らの工房の壁に貼られたパテック フィリップのクロノグラフ Ref.1463の大きなポスターが肩越しに見え隠れするのを私はずっと眺めていた。

 しかし、うまい具合のブレンドに到達するには時間がかかった。Ref.1967 デッドビート・セコンドのムーブメントは2018年に発表した最初のプロトタイプから賞賛を浴びていたが、文字盤と美観は必ずしもそこまで洗練されてはいなかった。ペテルマン・ベダが提示した最初の数本のプロトタイプは、無機質で個性がないように感じられたのだ。ブランドはその批判を聞いてヌーシャテルのデザイナーと組むことを決め、最終的にRef.1967の完成形であるスケルトンのセクターダイヤルに行きついた。

petermann bedat split seconds chronograph 2941

 彼らにとって2番目の時計であるRef.2941 スプリットセコンドに対する評価は概ね好意的だが、批判がないわけではない。SJXはこのクロノグラフをレビューした際、ラトラパンテ機構をムーブメントの文字盤側に設置し、サファイアのシースルーバックから見えるようにクロノグラフの上部に配置しなかったペテルマン・ベダの決断に疑問を呈した。

 ペテルマン・ベダにこのことについて聞いてみたところ、「時間をかけて仕上げた自慢のプレートやブリッジをラトラパンテで見えなくするのは避けたかったんです」とのことだった。

 ジュネーブで話をしたとき、ペテルマンは「時計づくりに対する考え方が違うんでしょう」と話してくれた。このような批判に対するオープンな姿勢も、私がペテルマンやベダとの会話を好む理由のひとつだ。スプリットセコンド機構が動いているところを見たい、という顧客の視点は理解しつつ、彼らが優先したのは仕上げの美しさだった。この仕上げはムーブメントを構成するステンレススティールの部品ひとつひとつにブラックポリッシュとマット仕上げを施すことから始まる。一目瞭然だが、レバーの先端にはRef.1967のデッドビート・セコンド機構を想起させる鋭い銛が付いている。

petermann bedat 2941 split seconds chronograph
petermann bedat 2941 split seconds chronograph

ブラックポリッシュはRef.2941のなかで時を刻むCal.202を象徴する仕上げのひとつだ。

 クロノグラフムーブメントも技術的に素晴らしいものだ。コラムホイールと水平クラッチ、そして1万8000振動/時のジャンピング ミニッツカウンターを備えている。また、大型のバランスホイール(Ref.1967と同様)には、ブレゲ巻き上げヒゲゼンマイとスワンネック緩急針が採用されている。

 ラトラパンテ機構は、同社のデッドビート・セコンドによく似たオープンワークのダイヤルからその一部を見ることができる。ふたつの“ビッグアイ”インダイヤルは古きよきクロノグラフを意識したもので、ダイヤル上のほかのデザインとうまく調和している。プラチナ製のケースはモダンな形状で、溶接され、テーパーが効いたラグは13.7mmという長さで着用感も非常によい。10時位置に配された長方形のスプリットセコンドボタンはケースの輪郭とシームレスな融合を見せる。

 手首につけたときの喜びは格別で、私が最後に腕に巻いたスプリットセコンド、パテック フィリップのRef.5004よりも薄くてつけやすい印象を受けた(もちろん、Ref.5004でもうるう年かどうかは計測できる。私がこの比較をしたのは人間工学上の理由だけだ)。ペテルマンが「少し調整するために工房に持ち帰りたい」と言っていたにもかかわらず、このプロトタイプにおけるクロノグラフの操作は触感的でありながらスムーズだった。

 Ref.2941 スプリットセコンド・モノプッシャーは、ペテルマン・ベダが自社および販売パートナーであるコレクテッドマン(A Collected Man)とアワーグラス(The Hour Glass)を通じて速やかに割り当てられた10本限定のモデルである。価格は24万3000スイスフラン(約3730万円)と確かに高額だが、最近はほとんどの時計について同じようなことを書いている気がする。パテック フィリップのRef.5370P(約30万ドル、約4125万円)をわずかに下回り、ランゲのPG製ダブルスプリット(約14万5000ドル、約1995万円。ただし、現在ラインナップされていないプラチナ製ダブルスプリットなら最近のランゲの価格高騰を考慮するにかなり近い値段になるだろう)よりも高値だ。デッドビート・セコンドは6万スイスフラン(約920万円)という価格に対し、充実した内容であったように思う。少なくとも、より大きな競合他社が提供できないものを得ることができた。しかしペテルマン・ベダのクロノグラフの場合は必ずしもそうではない。同モデルの価格設定は大手ブランドと競合するものとなっている。しかし幸いにして、その仕上げと完成度は高く評価されている。

これからどうなる?
petermann bedat split seconds monopusher chronograph wristshot

 ペテルマン・ベダは2本の時計で、時計製造における美学と見解を示してみせた。19世紀の懐中時計や20世紀のヴィンテージウォッチのデザインコードに対する理解とドイツとスイスでの経験によって形成されたウォッチメイキングに対する現代的な視点を融合させることに成功したのだ。その結果、高級腕時計を新鮮かつユニークな視点から見ることができるようになった。加えて、彼らはまだ30歳だ。ペテルマン・ベダが目指す最高の時計作りが進化し続けることを思うと、今から胸が躍って仕方がない。