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Magazine Feature 一見すると同じように見えるGMTウォッチムーブメントが示す大きな違いとは

数あるマルチタイムゾーン機構のなかで、最も広く普及しているのは24時間表示の副時針が備わるGMTウォッチである。HODINKEEではそれをCaller(コーラー)GMTとFlyer(フライヤー)GMTとに大別している。ふたつの違いはリューズで単独操作できる針が副時針であるか主時針であるか。それぞれの魅力を探った。

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Hero Image: セイコー 5スポーツ SKX Sports Style GMT、6万3800円(左)。グランドセイコー エボリューション9 コレクション クロノグラフGMT SBGC251、151万8000円(右)

本記事は、2022年12月に発売されたHODINKEE Magazine Japan Edition Vol.5に掲載されたものです。Vol.5は現在、Amazonなど各種ネット書店にてご購入いただけます。HODINKEE Magazine Japan Editionの定期購読はこちらから。

1884年10月1日から11月1日の期間、ワシントンD.C.で開かれた「国際子午線会議」の決議により、世界は24のタイムゾーンに分けられた。そのとき、イギリス・グリニッジ天文台の時刻を世界標準時=GMT(Greenwich Mean Time)とすると定めた。GMTウォッチは24のタイムゾーンのうちのひとつを24時間表示の副時針=GMT針で示す。原初的なメカニズムでは、主時針とGMT針が同じ時刻を指し、24時間インデックスが備わる回転ベゼルを時差分まわしてGMT針で第2の時刻を知る仕組みであった。そしてGMT針もしくは主時針が単独で操作でき、ダイヤルの24時間インデックスでも異なる時間帯が読み取れるように進化した。


Caller GMT

ベル&ロス BR 05 GMT ホワイト、78万1000円

チューダー ブラックベイ GMT S&G、86万200円

 GMTウォッチのなかで、GMT針を単独操作できるモデルを、HODINKEEではCaller(コーラー、発信者)GMTと呼ぶ。主時針が示すホームタイムが主役であり、自国にいながら海外に住む家族や友人、取引先の現在時刻をGMT針で知り、連絡するタイミングを計るのに便利だからだ。海外渡航時にGMT針を現地時間に合わせることができるが、日付は主時針と連動するためしばしば現地に合わない。そこで現地に到着したら主時針を現地時間に合わせ、日付も再設定したあと、GMT針をホームタイムに合わせるユーザーも少なくない。そして帰国後は同様に、主時針と日付をホームタイムに合わせ直す。少々煩わしいが、Caller GMTはモデル数が多く、比較的手ごろな価格帯からも選ぶことができる。その理由はETA 2893とそのクローンであるセリタのSW330という汎用ムーブメントが存在するからだ。ここで取り上げたCaller GMTウォッチのほとんどが、これらいずれかのキャリバーをモディファイしている。唯一の例外がセイコー5 スポーツ SKX Sports Style GMTで、自社製Cal.4R34を搭載する。

Cal.7はタグ・ホイヤーの日付表示付き3針ムーブメントであるCal.5にGMT機構を加えたものだ。同社のようにETAやセリタといった汎用ムーブメントをベースにするメリットは大きい。数多くのブランドに採用され改良され続けることでムーブメントの信頼性が高まり、また大量生産によってコストを抑えることが可能だ。そのぶんを外装や装飾などほかの部分に予算をかけながらも良心的なプライスで提供できるのだ。

 セイコーも含め操作方法はどれも同じ。リューズをひとつ引いたポジションで右に回せば、GMT針が1時間刻みで前に進む。そして同じポジションで左に回すと、通常の日付調整ができる。操作方法が共通しているのは、いずれもデイト付きのセンターセコンド自動巻きに、GMTモジュールを追加しているから。ETA2893-2のベースはETA2892A2(SW300)、セイコーのCal.4R34は4R系がベースだ。ゆえに日付は主時針と連動し、日付の単独調整もできる。

ブライトリング クロノマット オートマチック GMT 40、79万2000円(左)。タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル300 キャリバー7 GMT、47万8500円(中)。バルチック アクアスカーフ GMT、17万500円(右)

 またセイコー 5スポーツやバルチック アクアスカーフ GMTのように、原初的GMTウォッチから両方向回転の24時間ベゼルを受け継ぎ、3タイムゾーンとしたモデルも数多い。幅広の回転ベゼルが備わる姿はダイバーズウォッチに似て、スポーティな印象となる。タグ・ホイヤー アクアレーサー プロフェッショナル300 キャリバー7 GMTは、まさにダイバーズウォッチのコレクションからの一本で、ベゼルは両方向回転に改められている。そのベゼルを昼夜でツートンに色分けするのは、もはやお約束である。ブライトリングのクロノマット オートマチックGMT 40も回転ベゼルが備わるが、分単位の経過時間を計る航空用として、コレクションのDNAを守った。一方でベル&ロスは、都会的なブレスレットウォッチ「BR 05」にGMT機構を与え、ビジネスシーンでも使いやすく仕立てた。それぞれのモデルは主時針とGMT針とをいかにして視覚的に切り分け、視認性を高めるのかを考察しており、針形状や色に各社の工夫がくみ取れる。


Flyer GMT

 セイコー 5スポーツのCal.4R34は、2022年に登場したCaller GMTキャリバーという点において異例の存在である。理由は2010年代半ば以降開発される自社製GMTキャリバーの大半が、主時針を単独操作できる設計を採っているから。海外渡航時に主時針を現地時間に合わせ、ホームタイムをGMT針で知るため、これをHODINKEEはFlyer(フライヤー、渡航者)GMTと呼んでいる。その先駆けとなったのが、1982年に誕生したロレックスのGMTマスター IIだ。Caller GMTウォッチがセイコーを除き、汎用ムーブメント搭載だったのに対し、Flyer GMTウォッチの大半は、自社製ムーブメントが採用されている。冒頭に登場したグランドセイコーは独自のスプリングドライブによるクロノグラフにGMTを搭載。さらに言えばセイコーは、自社製の機械式とクォーツにもFlyer GMTキャリバーをラインナップしている。チューダーもFlyer GMTのマニュファクチュールキャリバーを持つ。パネライのルミノール ビテンポが搭載するCal.P.9012は少し異例で、GMT針は12時間運針となっている。これも主時針側が現地時間に合わせられる設計で、第2時間帯表示が不要な自国に居る際は、2本の時針を重ねておけば、ダイヤルが見やすく整理される。

Cal.9R86は機械式とクォーツ式のハイブリッドなメカニズムを備えたグランドセイコー独自のスプリングドライブに、クロノグラフとGMT機構を備えたムーブメント。本機のように追加の機構によってさらに複雑になる場合は、初めから自社製ムーブメントとして設計されるものも多い。Caller GMTよりも高価になりがちなのはそのためだ。

 これらFlyer GMTキャリバーは、Caller GMTキャリバーと基本的な操作方法は同じだ。リューズを一段引いた状態が、主時針の単独操作位置。1時間刻みで進めることも戻すこともでき、日付も連動する。このローカルジャンピングアワー機構は、時差がプラスとマイナスどちらの国に出かけても針調整がたやすく、帰国後にホームタイムに戻すのも楽。一方で日付の単独調整はできず、ローカルジャンピングアワー機構で日付を進めるか戻すしかない。

 ではFlyer GMTキャリバーは、どのような設計となっているのか?

パネライ ルミノール ビテンポ、149万6000円(左)。カール F. ブヘラ パトラビ トラベルテック カラーエディション、206万8000円(右)

 前述したとおりCaller GMTキャリバーは、既存ムーブメントに24時間GMTモジュールを追加している。一方Flyer GMTキャリバーは、既存ムーブメントの時針を24時間運針に改良し、あるいは24時間運針のキャリバーを新開発し、これに12時間運針のジャンピングアワー機構モジュールと、それに連動するデイトモジュールを載せている。すなわちムーブメントが直接駆動しているのは、GMT針側。チューダーが、「GMT機能を内蔵した一体型」とアナウンスしている理由だ。そのブラックベイGMT S&Gは、両方向回転の24時間ベゼルが備わる3タイムゾーンウォッチとなっている。ブラウン×ブラックのツートンベゼルを、愛好家はルートビアと称する。グランドセイコーのSBGC251も両方回転の24時間ベゼルが備わるが、ブラックのワントーンとしているのがかえって新鮮である。カール F. ブヘラのパトラビ トラベルテックは、機械式のクロノグラフGMT。ダイヤル外周に備わる2重の24時間インデックスの内側が回転式のインナーベゼルで、10時位置のボタンを押すたびに1時間刻みで回転する。その際ボタンを回せば、右回りと左回りが切り替えられ、地球の東西どちらの方向に移動しても、設定が容易となっている。


アクセシブルなFlyer GMTの登場

 操作性に優れるFlyer GMTウォッチは長く自社製ムーブメントにしかなかった。それゆえ多くが高額モデルである。それがここ数年来でミドルレンジの価格帯にもFlyer GMTウォッチが数こそ少ないが登場しはじめている。ロンジン スピリット Zulu Timeとノルケインのフリーダム 60 GMTがその代表例である。日付の単独調整機構を持たないローカルジャンピングアワー搭載である点は、前出の自社製Flyer GMTキャリバーと同じ。では、なぜ価格を下げられたのか? 理由は、汎用ムーブメントの存在にある。

 以前、ロンジンのマティアス・ブレシャンCEOにインタビューした際、「Zulu Timeのモジュールは、自社製」だと語っていた。それを載せるベースムーブメントは、ETA A31.L01の時針を24時間運針とした改良版であり、さらにそのETA A31.L01はETA 2892-A2をロービート化し、ヒゲゼンマイをシリコン製とした進化系である。ロンジン スピリットZulu Timeが搭載するCal.L844.4は、前述したCaller GMTキャリバーETA 2893-2を進化させたロンジン仕様だと言える。ロービート化などによる65時間の長時間駆動とシリコン製ヒゲゼンマイの高耐磁性能を併せ持ち、さらにCOSCも取得可能なほど高性能な汎用ムーブメントをベースとすることで、ミドルレンジの価格で魅力的なFlyer GMTが実現された。両方回転の24時間ベゼルのリングは、セラミック製。これは同じスウォッチグループ傘下にセラミック技術に優れたコマデュール社がある恩恵であろう。

Cal.NN20/2はノルケインとケニッシ社のパートナーシップによって誕生したGMT機構搭載ムーブメント。基本設計はケニッシ社が担い、仕上げと装飾など細部をノルケインが担当した同社のエクスクルーシブ仕様だ。COSCクロノメーター認定を受けている。

 一方ノルケインはフリーダム 60 GMTが搭載するCal.NN20/2を“マニュファクチュールムーブメント”だと謳う。その開発・製造は長期パートナーシップを締結したムーブメント会社、ケニッシ社と行っている。同社のバックボーンや成り立ちを、多くの読者はご存じのことであろう。そこが製造する“GMT一体型キャリバー”の実績がすでにあり、信頼性が確認されていることも。Cal.NN20/2は、ローターにダブルNのロゴを刻んだノルケイン専用仕様。ノルケイン独自の生産体制によって、価格を抑えることができたのだ。

ノルケイン フリーダム 60 GMT、61万6000円(左)。ロンジン スピリット Zulu Time、47万1900円(右)

 ケニッシ社は、他社に供給ができる汎用Flyer GMTキャリバーの、現況では唯一の作り手である。供給先をかなり限定しているが、現在建設が進む新ファクトリー完成の暁には増産が望める。ETAとセリタの汎用ムーブメントによって、Caller GMTウォッチは広く普及した。そのFlyer GMTウォッチにおける役割をケニッシ社が果たしてくれることを期待したい。また既存ムーブメントの時針を24時間運針に改良することは比較的容易だ。ローカルジャンピングアワーモジュールの設計もさほど複雑ではない。新たな量産型汎用Flyer GMTキャリバーの誕生は夢物語ではなさそうだ。エントリー価格のFlyer GMTウォッチが、近い将来登場するかもしれない。

Photographs by Yoshinori Eto, Styled by Hidetoshi Nakato