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In-Depth シチズン プロマスター 1000M プロフェッショナルダイバーとともにダイビング

クラーケンは放たれた!

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本稿は2017年12月に執筆された本国版の翻訳です。

難破船、ヒルマ・フッカー号のダイビングは簡単だ。珊瑚礁の海底の砂地に右舷側が横たわる、この沈没した麻薬密売用貨物船は、沖合まで200ヤード(約182m)の距離を泳ぐだけで、海底100フィート(約30m)地点でダイビングを終えることができる。このアクセスのよさ、透明で暖かい海水、そしてほぼ完璧なプロポーションの難破船は、オランダ領カリブ海にあるボネール島で最も人気のあるダイビングスポットのひとつだ。泥を巻き上げ、海洋生物を追い払うダイバーたちを避けるためには、日の出とともに起床し、海岸沿いの道から岩場のビーチまで急いで進み、ほかのトラックや恐ろしい“キャトルボート”(家畜などを輸送するための船)が8時頃に到着する前に、スーツを着て海に入らなければならない。この早起きによるご褒美は、ひっくり返った左舷側のガンネル(船べり)の影にたむろするターポン(巨大な海水魚)の群れを除けば、全長240フィート(約73m)の船を独り占めできることだ。そこは不気味で魅力的な探検場所となり、想像力を働かせれば自分がトレジャーハンターになったふりができたり、沈没船の暗い地下で盗まれた核兵器を探す諜報員になったりすることもできる。もちろん、適切な腕時計をしていることは重要だ。シチズンの最高級ダイバーズウォッチ、プロマスター 1000M プロフェッショナルダイバーを最初に試すことにしたのは、そんなヒルマ・フッカー号での朝のダイビングでのことだった。

朝早くに始めたので、筆者は難破船ヒルマ・フッカー号を独り占めすることができた。

 現実を言えばダイバーズウォッチ、ましてや1000mもの防水性など、もはや誰も必要としていない。しかし、この必要性の欠如がある意味では、最近無数にあるダイバーズウォッチの選択肢を楽しむ自由を与えてくれている。そしてこのシチズンのリヴァイアサン(旧約聖書に登場する海獣)ほど楽しいものはない。私はこのモデルに愛情を込めて“クラーケン”というニックネームをつけた(結局、セイコーだけがニックネームですべてを楽しむことはできないのだ)。この時計はオーバースペック、無骨で妥協を許さない時計だ。その深海防水性能は、海洋研究開発機構の潜水調査船、しんかい6500にくくりつけられ、水深1kmよりはるか深い航行で性能が確認された。そして時計自体は直径52.5mm、厚さ21.4mmと、その辺のROV(遠隔操作型の無人潜水機)よりはるかに小さいというわけではない。そう、プロマスター 1000Mはロレックス サブマリーナーのラグ幅よりもデカいのだ。シャツの袖口はとおらない。

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 ダイビングのためのスーツ着用には儀式があり、その繰り返しが強迫観念を刺激するのだが、それには理由がある。浮力ベストをタンクに装着し、レギュレーターを取り付け、エアーをオンにし、レギュレーターの動作を確認。ウェイトも確認し、器材を装着する。空気は入っているか。マスクをきれいにして、フィンを引っ張る。もう一度、本当に空気が入っているか? ここまで言えばわかるだろう。1000M プロフェッショナルダイバーは、オーシャニック製リストコンパスの横にバックルをつけて装着しているが、驚くほどサイズが似ていて、レジメン(行動指針)に簡単に適応する。この時計は、普段使いのタイムキーパーとして機能するように見せかけているのではない。その巨大なプロポーションと、水深でウェットスーツの袖が圧迫されるのを補うために設計された、超ロングのアコーディオンラバーストラップは、どちらかといえばダイビング用リストゲージに属する。さらに厚手の耐寒耐水服の上からでも使用できるように、シチズンはラバーストラップのエクステンションパーツまで同梱している。

この時計は細部にまでこだわっているので、間近で見てみたくなる。

 “クラーケン”の性能が、これまで使ってきたほかのダイバーズウォッチと比べて優れているとか劣っているとか言うつもりはない。そのやり過ぎなまでの徹底的なエンジニアリングは、100フィート(約30m)の深さの沈没船ダイビングでさえ楽勝だ。そして40分間の移動では、ソーラー駆動のクォーツムーブメントの精度はほとんど関係ない。ダイバーズウォッチの優れているところは、経過時間が記録できて、気密性が高いことだ。これは非常にシンプルなミッションであり、ほとんどのダイバーズウォッチが完璧にこなしている。しかしダイビングには、ある種の目に見えない要素があり、それがほかの時計よりも少しだけ優れている。その事実が私にとって特別な自信を与えてくれる。分厚いドーム型風防の奥深くにある秒針が時を刻むのを見たり、沈没船の暗いエンジンルームを探検しながら、夜光塗料が塗布された文字盤と針が原子レベルの輝きを放つのを見たりなど。時計とともにダイビングを楽しんでいる人なら、私が何を言っているのか理解できるはずだ。

長いラバーストラップは、水深が深くなるにつれてウェットスーツの袖が圧縮されるのを補うため、波打つ形状になっている。

 シチズンは優れたダイバーズウォッチを製造し続けている。専門家のあいだでは、日本のライバルであるセイコーの影に隠れてしまったが、ダイバーズウォッチを見かけたら、それはシチズンである可能性が高い。シチズンは比較的遅れて登場したにもかかわらず、1980年代にプロマスターラインを発表して頭角を現した。1981年には、当時生産されていた時計のなかで最高防水とされていた、水深1300mを誇るプロフェッショナルダイバーを発売している。そして1985年1月、“ツール”ウォッチデザインの最高峰であり、ダイブコンピュータが普及する前に正規の潜水用計器として使用された最後のダイバーズウォッチ、アクアランドが登場した。初期のアクアランドの多くは、アナログとデジタルを組み合わせて経過時間と潜水深度を表示したものであり、現在も使用されている。

手首の上で存在感を放つ、本格的な腕時計だ。

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 80年代以降、シチズンはあらゆる形とサイズの専用ダイバーズウォッチをリリースし続けた。その美学はしばしば、漫画のようなプロポーション、奇妙な形、ときには機能性に疑問を投げかけるなど両極端になっていた。しかし彼らは一貫して忠実なファンを維持してきた。1000M プロフェッショナルダイバーは、この進化の最新版であり、その極端さを考えると、エンジニアリングとデザインの練習、いわば“コンセプト”モデルとして存在していると確信している。この大きな時計には、間近で見たくなるようなディテールがたくさん詰まっている。そして言葉では言い表せない魅力がある。単純ににうまくいくはずがないのだが、うまくいく。そして普段は時計に見向きもしないような人たちでさえも、この時計に興味を示すのだ。

 この巨大なケースは、シチズン独自の表面硬化技術、デュラテクトMRKを採用したスーパーチタニウムから削り出されたもので、軽量、耐食性、低刺激性、耐磁性といったチタニウムの優れた特徴を備えながら、ステンレススティールの5倍の硬度を持つと言われている。シチズンはこの合金の長い歴史を持ち、1970年には世界初となるチタン製ケースの腕時計を発表している。その大きさにもかかわらず、ケースはストラップラグのない完全なシリンダー型なので、直径は52mmでさまざまな手首サイズに驚くほど幅広く対応する。ケース左側面にはヘリウムエスケープバルブを装備しているため、ねじ込み式の裏蓋には混合ガスダイビングに適していることを示すエングレービングが刻まれている。さらに外側のリングは、所定の位置にネジ止めされている。これにより単なるバネ棒よりも安全に、がっしりとしたラバーストラップを時計に固定しているのだ。

プロマスター 1000M プロフェッショナルダイバーは、ロレックス サブマリーナーのラグ幅よりも厚みがある。

 このモデルが日常的な着用にやや不向きとなるのが、ケースの厚みである。これはベゼルのロック機構に起因している可能性がある。このラチェットリングは、ベゼルとケース本体のあいだに挟まれており、これにより全高が5mmほど高くなっている。リングには“FREE LOCK”というマークと回転方向を示す矢印が付いており、時計回りにクリックするとベゼルがロックされ、反対方向に回すと解除される。ロックが解除されるとオレンジ色の帯が現れ、誤ってベゼルを回してしまう可能性があることをユーザーに警告する。この機構の有用性には疑問がある。これまで何十本もの腕時計をつかってダイビングをしてきたが、ベゼルの位置がずれたことは1度もないし、ベゼルの正確な反時計回りのラチェットは、それだけでも十分な防止効果があるように思える。しかし、洗練されたファセットとマットな表面、そしてロック機構を備えたこの翼付き回転ベゼルは、一緒に使うと純粋に楽しく遊べる。

裏蓋にはこの時計が混合ガスダイビングに適していることを示す刻印がある。

 私は普段ゼンマイ駆動の時計を愛用しているが、ハードな使い方に特化した時計には、頑丈なクォーツムーブメントが適している。そして、この時計に搭載されている光発電エコ・ドライブは実証済みだ。今年のバーゼルワールドで発表された際、ソーラーウォッチのなかで最も深い防水性能を持つと大々的に宣伝されたが、まず競合製品の分野が狭く、この機能が難解であることを考えると、かなり疑わしい部類に入る。水深に関係なく、ダイブロッカーのような真っ暗な場所や海面下1000mに時計を置いた場合でも、パワーリザーブは18カ月続く(ほかのエコ・ドライブモデルは6カ月)。

パワーリザーブは、完全な暗闇のなかに保管しても18カ月間持続する。

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 真っ暗闇といえば、ある日の日没後、手足を広げたテヅルモヅル、歩き回るタコ、狩りをするターポンを見つけたいと思い、我々はナイトダイビングに出かけた。真っ暗闇、360度見渡せる環境、そしてダイブ用トーチ(懐中電灯)から発せられる小さな円錐の光の中泳ぐという、一般的な見当識障害を考えるとナイトダイビングはやっかいな命題になりかねない。私が見つけた最も簡単な方法は、方位磁針を持ってその方向に一定時間泳ぎ、その後180°反転して同じ時間泳いで戻ることだ。夜になると、片手に懐中電灯を持ちながらコンパスと潜水時間を注意深くチェックする必要がある。私のダイブコンピュータ、スント D9は、ダイヤルのバックライト機能を作動させるためにボタンを押し続けていなければならず、ほとんど役に立たなかった。そのためコンパスとシチズン(それとタンク残圧計)の夜光ダイヤルを頼りにしていた。降下する前、ダイブ用トーチを計器のダイヤルにかざすと、水中にいる47分のあいだ文字盤は光り続け、サンゴ礁に沿って進み、我々が再び戻る道しるべとなってくれた。

 私がシチズンについて尊敬するようになったことのひとつは、同社がこのような大規模な技術品質に誇りを持っていることだ。シチズンは世界最大級の時計会社であり、SKUの数と時計の種類の多さには驚かされる。しかし、シチズンの腕時計の品質に問題があったという報告は今のところ1度も聞いたことがないし、私が扱ったものはどれも、見た目の美しさにもかかわらず盤石だった。ソーラー充電と衛星電波時計の技術に対する彼らの誇りは、HODINKEE読者にとっては興味の範疇に入らないかもしれないが、シチズンがよりよい時計をつくるためにこれらの技術革新を追求した情熱には感心せざるを得ない。

プロマスター 1000M プロフェッショナルダイバーは、腕時計というよりもダイビングツールのような装着感だ。

 シチズンによると、プロマスター 1000M プロフェッショナルダイバーは、1日に35本の生産に制限して、専任の時計職人チームが手作業で組み立てているという。そして、時計は信じられないほどよくできていると感じる。斜めにポリッシュされたベゼルファセット、裏蓋周りのポリッシュ仕上げのリング、タイミングリングインサートを固定する小さなネジ、ずっしりとした分厚いピンバックルまで、すべてが印象的にパッケージングされている。価格も“ハイエンド”という性質が反映されており、希望小売価格は2300ドル(税込30万8000円)だ。一般的なシチズンダイバーではないし、多くのトロピカルダイビング愛好家の日焼けした手首で見られるものでもない。しかし先に述べたように、この時計はシチズンの声明のようなものであり、彼らの能力を示すために打ち込まれた杭なのだ。

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 この時計に欠点はあるか? もちろんある。着用感は前述したとおりで、オフィス住まいの人にとっては週末だけのアイテムになりそうだ。ややごつごつした針、幾何学的な文字盤マークは、期待するほど読みやすくはないが、蛍光オレンジの分針は十分特徴的だ。そしてストラップは非常に硬く、着脱が困難である。またヘリウムエスケープバルブやベゼルロックのような余分なエンジニアリング部分がなくても生きていける。しかし、これはシチズンダイバーズウォッチのなかで最もタフであることに偽りはなく、あらゆる機能を備えている。もっと控え目なものが欲しいのなら、選択肢はほかにもたくさんある。

難破船の探検は、この時計を身につけるのに最適な場所に思えた。

 時計愛好家である我々は、ブランドの重要性、ムーブメントの起源、洗練された美学、仲間内での信頼性にとらわれることがよくある。しかしときには、完璧にパティーナされたドット・オーバー 90(DON)のヴィンテージスピードマスターに飽きてしまうこともあるだろう。そしてカラフルで巨大な時計に分厚いラバーストラップをつけて、カリブ海の海底で盗まれた核兵器を探しているふりをしたくなることもある。これはそんなときにぴったりの腕時計かもしれない。

詳しくはシチズン公式ウェブサイトをご覧ください。

Photos: Gishani Ratnayake