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Auctions F.P.ジュルヌの時計2本がフィリップス第11回ジュネーブ時計オークションで250万ドル(約2億7680万円)以上で落札

独立ブランドにとって最良の一日となった。

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先日ジュネーブで開催された、フィリップス第11回ジュネーブ時計オークションでは、ホテル ラ・レゼルヴのテント下に集まった群衆と、記録的な数の参加者(フィリップスによると)がオンラインで参加していたが、その中で特に2つのロットが注目を浴びた。注文販売されたF.P.ジュルヌ クロノメーター・レゾナンスとトゥールビヨン・スヴランだ。どちらもたった1人の所有者が注文販売をしたユニークコレクションではあるが、高額な想定落札額を打ち破ったのだ。クロノメーター・レゾナンスのロット49は104万スイスフラン(約1億1800万円)で、トゥールビヨン・スヴランのロット101は140万スイスフラン(約1億6000万円)で落札された。両モデルの入札は非常に活発で、トゥールビヨン・スヴランの想定落札額が15万~30万スイスフラン(約1700万円~3400万円)、クロノメーター・レゾナンスが8万~16万スイスフラン(約900万~1800万円)という高値予想を大幅に上回る結果となった。2つの時計を合計すると、244万スイスフラン(バイヤーズプレミアムを含む)、約2億7680万円という値がついたのだ。

ロット101、落札価格 140万スイスフラン(約1億6000万円)。

 5月に上記の2本について議論したが、今日の結果の背景にある文脈の一部を明らかにするために、いくつかのポイントを思い出す価値があると思う。どちらの時計もそれぞれのモデルの初期シリアルのもので、両方とも以前の所有者は1人しかいない-実は同じ所有者で、パリのジュエラーであるロレンツ・バウマー(Lorenz Baümer)だ。どちらの時計もコレクターのために、スースクリプション(注文販売)制で販売。トゥールビヨン・スヴランは1991年に発表されたモデルで、ジョン・ハリソン氏(John Harrison)が実験的なマリン・クロノメーターのために開発した定力装置-ルモントワール・デガリテを搭載した最初のトゥールビヨンウォッチである。クロノメーター・レゾナンスも同じく、2000年にF.P.ジュルヌによって注文販売された。

 トゥールビヨン・スヴランと同様に、 レゾナンスは時計史の中においてすごく大きな存在だ。正式発表される前は、ごく少数しか製造されていなくて、腕時計に搭載されることはなかった(主には時計師アンティド・ジャンヴィエやアブラアン-ルイ・ブレゲによるものだ)。いずれの場合も、この時計は非常に複雑であるだけでなく、調整や一般的なセットアップの技術が要求されている。例えば、クロノメーター・レゾナンスには2つのテンプがあり、これらのテンプが共振効果を発揮するためには、毎日の振動数の偏差に対して非常に近い許容範囲内で動作するように調整しなければないのだ。

ロット49、 落札価格104万スイスフラン(約1億1800万円)

 このように、腕時計としての重要な一歩を踏み出した2つの時計は、時計史において重要な役割を果たしただけでなく、ジュルヌの時計におけるかなり厳格なデザイン言語を遵守している。彼に影響を与えた時計メーカー、特にブレゲの要素もあるが、デザインの観点から見ても、彼の時計には本人以外のビジョンが反映されない部分も多々存在する。時計製造の最も偉大な過去の巨匠の一人の精神の全て、そして非常に認知度の高い革新的なデザインの巧みな組み合わせがなければ、時計は単に注目すべきメカニズムに過ぎず、美学と機械学の両方で等しく興奮させる力をもたないだろう。


億単位のF.P.ジュルヌ:彼らはどのようにしてそこにたどり着いたか

 ジュルヌの仕事における不変の要素は、長年にわたって、少数ではあるが非常に献身的なコレクターのグループが彼の仕事を非常に密接に追いかけてきたことだ。振り返ってみると、それが今日の結果に役立ってきた。2015年5月、ベン・クライマーは、F.P.ジュルヌの時計が人気と価値の両方で上昇し続けるだろうと推測するための議論のいくつかを見てみた。

 5年前、彼は「ジュルヌの時計は決してオークションハウスの寵児ではなかった-通常、現在の小売価格の数分の1の価格で落札されていた。もちろん、これは成功を測る基準ではないが、再販価値は多くのコレクターにとって無視できないもの。しかし今週、いくつかのF.P. ジュルヌの時計がオークションに出品され、予想以上の高値で落札されたのだ」と述べた。

 記事は、ユニークなジュルヌの時計はより高い落札価格で落札されていくだろうと指摘している。記事によると、2015年には、クロノメーター・レゾナンス(クリスティーズ、ジュネーブ「重要な時計」オークション)が10万6250スイスフラン(約1200万円)で落札されたが、「年代や機構にもよりますが、40代後半から60代前半で落札されることが多かった」当時にしては、驚くべき注目すべき結果だった。しかし、それよりもはるかに高いオークション結果は遠くない将来にあったわけだ。

ロット79、クリスティーズ、ジュネーブ「重要な時計」オークション、2015。



 F.P.ジュルヌの時計が今日に見られるようなオークション結果を達成するのに、1つの安定した兆候は、筋ジストロフィーの研究のために何百万ドルもの資金を集めたオンリーウォッチ(Only Watch)のチャリティオークションでの落札価格だ。オンリーウォッチ2015では、F.P.ジュルヌ トゥールビヨン・スヴラン ブルーが55万スイスフラン(約6232万円)で落札。これに続いて、2017年にはユニークなスプリットセコンド・クロノグラフが115万スイスフラン(約1億3000万円)で落札され、2019年には再びオンリーウォッチで「アストロノミック・ブルー」が180万スイスフラン(約2億300万円)で落札された。希少なジュルヌの時計に対する意欲は非常に顕著で、億単位の金額を記録したのはユニークなモデルに限られていたが、2017年と2019年には、シンプルな機構も同様、高額で落札されたのだ。

アストロノミック・ブルー 、オンリーウォッチオークション2019、落札価格180万スイスフラン(約2億300万円)。


トゥールビヨン・スヴランの興隆

 ジュルヌの最初のスースクリプションシリーズ作品、つまり注文販売していたトゥールビヨン・スヴランとクロノメーター・レゾナンスは、以前のオークションでそれなりの結果を出してきたが、先日のように劇的に価格が跳ね上がることはなかった。実際、今日の結果が非常に驚くべきものであった理由の1つは、時計のオークション結果が桁違いの価値上昇の傾向を示していることだ。2015年(私たちがこれらの時計に近い注意を払うようになった年、どうやら)で、フィリップスジュネーブ時計オークションでロット212(同じ注文販売のトゥールビヨン・スヴラン)で、既にこの症状があったのだ:12万スイスフランの落札予想額に対し、最終的に26万9000スイスフラン(約3000万円)で落札されたという。これは、私が認識する、これまで公に販売された最初のスースクリプショントゥールビヨン・スヴランだった。

No. 9/20、 スースクリプション トゥールビヨン・スヴラン。

 この結果は、2015年にしては印象的ではあるが、今では中央値にしか見えない価格が、当時はむしろ新たな天井を表しているのではないかと思えた。注文販売のクロノメーター・レゾナンスは、 200万HKD(約2780万円)で、昨年香港のクリスティーズでハンマーを打った。しかし適切な状況下において、億単位の結果がそれほど遠くなかったわけだ。フィリップスでの2018年の結果は、スースクリプション  トゥールビヨン・スヴランが18万4000スイスフラン(約2080万円)の最低落札額に対し46万8000スイスフラン(約5300万円)で落札されたのだ。


競売ナンバー49の叫び(101も)

 最初のスースクリプション・ウォッチが登場したときの会場の興奮は、遠隔で見ていた私にも伝わってきた。入札は瞬く間に行われ、徐々に千万単位まで上り詰めた。多くの熱心なコレクターたちの入札が、ハイエンドウォッチメイキングの洗練された技術、歴史的な重要性、非の打ち所のない証明、そして希少性を兼ね備えた時計を手に入れるチャンスを求めて、莫大な金額を提示した。約1800万円という高額な見積もりは、振り返ってみると少し保守的にも思えるが、それでも最終的な約1億1800万円という価格は、シリーズ生産されたクロノメーター・レゾナンスとしては前例がないことだ。

ロット49

 オークションでは、ジュルヌの2モデルの間の長い待ち時間が、期待感をかなり高めた。ロット101が上がってくる頃には、同様に億単位に達するのはほぼ当然の結論だと感じた。ロット49と同様に、非常にダイナミックで、時には非常にアグレッシブな入札が行われ、100万スイスフランのマジックマークに向かって上昇していく入札を見るのは、やはり気が遠くなるような経験だった。最終的には140万スイスフラン(約1億6000万円)の落札結果となり、競売人オーレル・バックス氏(Aurel Bacs)とフィリップスはオークションを締めくくった。このような初期のスースクリプション時計が頻繁に出品されることはないため、この2つのジュルヌのロットは、しばらくの間、新しい基準として頂点に立つことになるだろう。驚くべき点は、両方のロットは同一人物が落札したことだ。これは明らかに、初期のジュルヌ、そして独立系ブランドを真剣に収集している人がいるということだ。

 ちなみに、ドラマや時計が好きな方は、第2回のオークションに注目することを強くお勧めする。ジャン-クロード・ビバー氏のコレクションのロットには、強いドラマがあるからだ。もちろん、不屈の精神を持つオーレル・バックス氏も登場する。久しぶりに表舞台に立った彼を見て、彼の膨大なエネルギーがどれほどのものであるかを忘れていたところだったが、そのエネルギーの強さが手続きを面白くしている。(私のメモによると、今日の午後早くのジュネーブの蒸し暑い雰囲気にもかかわらず、彼が最初に水を口にしたのはオークションが始まってから4時間6分後のことだった)。

ロット 101

 フィリップスによると、67ヵ国からの入札があり、アメリカからは642人、カナダからは「非常に多くの」入札者があり、ヨーロッパからの参加者も多く、中国(香港を含む)からも非常に強い参加があった。興味深いことにニュージーランドからの強い参加があり、その中にはジュルヌの作品を真剣に競い合って千万単位の高値をつけた入札者も含まれているという。

 これらの結果は、いくつかの興味深い可能性を示していると思う。第一に、時計学的なメリットという点では、長い間このようなプレミアムを与えるに値する、彼の卓越した時計製造の価値を高めるという点では、もちろん F.P. ジュルヌにとっては素晴らしいニュースだ。
 第二に、それは時計収集の重心の移動の可能性について私に疑問を抱かせている。ここ数年、高い価格だけでなく、ますます高い成果を上げているという点では、オークションは一部の大手ブランドに支配されてきたが、コレクターの間では、独立した時計製造への関心が高まっている兆しが見られてきた。例えば、23歳にして既に大規模なコレクションを築き、Instagramのフォロワー数は11万4000人に達しているShanghai Watch Gangの共同創設者オースティン・チュウ(Austin Chu)は、最近ニューヨーク・タイムズ紙にこう語っている。「時計業界を創造的で楽しいものにしてくれている彼らに拍手を送りたいと思います」。チュウ氏は、MB&F、H.モーザー、ドゥ・ベトゥーンを挙げた。それはコレクターの間で、独立系時計が提供するものへの共感が徐々に高まってきていることの表れかもしれない。そこにコレクターたちが感じているのは、確立された優良ブランドがもつ時計づくりだけでなく、より個人的に表現しやすく、単純に面白いコレクションを構築するという意味でも、独立系ブランドは重要な意味を持っていることだ。

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