How I'd Spend $100K まずはパテックを買う。それからロレックスを。でも、バニーのために少しお金を残しておこう

　ゆえに私はここに、口先だけでなく、想像上の10万ドルで想像上の時計コレクションを組み立ててみたい。

　もっとおもしろくするために、私が本当に高級時計のコレクターなのか、それとも想像上で10万ドルも出してガラクタの山を築いているだけの俗物なのか、実際の専門家に教えてもらおうと思っている。

　では、何を買えばいいのか？　まあ、テーマは用意してある。私のコレクションを評価する人が、そしてもちろん読者のみんなが、それを理解できるかどうか見てみるとしよう。

　各時計の価格は概算で、四捨五入している。これは妄想であり、私の妄想の世界では時計に税金がかからないため、税金は含まれていない。在庫状況も同様だ。この実験のために、特定の型番を見つけることがいかに難しいか、そして3年間のインフレによるコストをどう考慮しなければならないか、などといった疑問についても保留するつもりである。もっと人生を楽しもうよ。楽しむふりだけでもさ。

パテック フィリップ　ゴールデン・エリプス イエローゴールド製

　さて、理想をいえば1978年頃のRef.3605/2J ジャンボ ゴールデン・エリプス、ゴールドブレスレット付きで2万ドルくらいのものが望ましい。でも、例えばRef.3548Jのようなもう少し控えめなモデルでもいいだろう。自動巻きではなく手巻きで、ゴールドブレスではなくストラップ仕様でも十分だ。

　このモデルには、賞賛すべき点があまりにも多い。ダイヤルのブルー、“黄金比”のシェイプ、ヒドゥンラグ、1970年代のいい部分をすべて取り込んで雑味をすべて省略したような雰囲気。ゴールデンエリプスは完璧な一品だ。私の生涯で最高の時計になってくれそうである。

　というのも、たまたま今HODINKEE Shopで9200ドル（約120万円）で販売されており、パテックのなかで最もお買い得だと思っているからだ。私は「ああ、これは手に入れなければ」と考え続けている。

　そして今、この妄想の世界でついに手に入れる機会を得た。同僚には申し訳ないが、私はストラップ付きのモデルをスキップして、ブレスレットと自動巻きムーブメント付きのものを購入するつもりだ。費用：2万ドル。残金：8万ドル。

ロレックス　デイデイト Ref.118348 グリーンダイヤル＆ダイヤモンドベゼル

　時計のデザインが何かからインスパイアされているという話は、おもしろいなと思う。「私の時計は、舷窓の形からインスピレーションを受けました」（そう、これを“円”と呼ぶ人もいる）。「空の色にインスパイアされた」（これは青だろうか？） 。「私の時計は戦車をイメージしている」（写真立てやクッキングシートをイメージしたのではないのか？）。 私が2回目の妄想で購入した時計は、野外のカフェでソーダとクラブサンドイッチを楽しんでいるときに、見知らぬ人に手首からもぎ取られたいという無意識の欲求に触発されたことは明らかだが……。とにかく、それを手に入れよう。

　自分の手首につけたロレックスのデイデイトを見下ろすことほど、満足のいく体験はないかもしれない。また、ストラップのモデルを買えば少しは節約になると知っていながらも（そしてあまり目立たないロレックスは、誰かに奪われる可能性も低くなる）、この時計はゴールドのブレスレットでなければならない。そうでなくては、この輝かしい体験は損なわれてしまうのである。

　輝かしいといえば、このグリーンにゴールド、ダイヤモンドの組み合わせは少し派手ではある。しかし、このようなクラシックなモデルとの組み合わせは、派手好きな私にはたまらないものだ。費用：3万5000ドル。残金：4万5000ドル。

ウブロ　ビッグ・バン トゥッティ フルッティ“ローズ"マットブラックダイヤル＆ピンクサファイアベゼル

　はあ、金持ちって退屈だ……。例えば、高級時計にゴルフクラブ、透明なチキンコンソメ、そして黄色のセーターとカーディガンのセットが少し窮屈になったときのためのバレエのプライベートレッスンなどなど。私は、豊かさがもたらすどんよりとした空気を吹き飛ばす特効薬を知っている。親愛なる読者の皆様、それはウブロである。

　2000年代前半ごろ、この非常識な時計について初めて執筆したときに一度身につける機会があった。そのときには1万ドル（約130万円）以下で購入できたというのに、買わなかったことに頭を抱えている。

　刺激的なムーブメントでないことは知っている。パートナーに不評なのも、このホットなモデルを街中でつけていたら、美意識のない人々から「マーシャルで買ったのか」と聞かれたのも事実である。でも、マットブラックの読み取りにくい文字盤と、ピンクと輝く宝石とは対照的なスケルトンの針が、私をとてもハッピーにしてくれたのだ。

　ウブロの時計には真の魅力と破天荒なユーモアセンスが混在しており、息苦しいほどの敬意を払うことがデフォルトとなっているこの業界においては極めてありがたい存在だ。この時計は、私のセーター＆カーディガンのセットをアイコニックかつ刺激的なものにしてくれることだろう。費用：1万5000ドル。残金：3万ドル。

デ・ライク＆カンパニー　ミッフィーウォッチ イエロー

　これはミッフィーという名のウサギのキャラクターが描かれた真新しい時計で、私はとても気に入っている。私の尊敬する同僚、マライカ・クロフォードの言葉を引用して、その素晴らしさを紹介しよう。「ミッフィーが主役の時計だが、主張は強くなくポップな美学を持った機能を持つ。シンプルなラウンドシェイプ、洗練されたソリッドカラー、滑らかに回転するケースも、星空に浮かぶ愛らしい小さなウサギと同じくらい魅力的な時計だ」と。

　たった3000ドルでこれだけの喜びを味わえるなんて、ウサギの絵が描かれた時計としては破格だと思う。だが、a) 私はお金を持っているし、b) これは不思議と投資にもなるような気がしている。決して売ろうとは思わない、ウサギを売るなんてどんな怪物だ？　費用：3000ドル。残金：2万7000ドル。

　元の予算の4分の1くらいになってしまった。

　ロレックスのバブルバック、ヴァシュロン・コンスタンタンのパトリモニー、ヴィンテージのゼニスあたりで締めるつもりだった。あるいは、もしデイデイトを買わなかったとしても、ヴィンテージのバブルバックとパテックの4997（ギヨシェ、ラッカー仕上げの文字盤とダイヤモンドが付いたレディースのカラトラバ）は、新品で買えば4万ドルくらいになっただろうと思う。

　そうしたら、HODINKEEでランゲ1の中古が3万5000ドルで出ているのを見つけた。なので、2万ドルのエリプスを“売って”、1万ドルのほうに買い替えた。妄想上の時計コレクターでさえ、厳しい選択を迫られるのだ。

　なので現在、予算は約3万7000ドルまで回復している。

A.ランゲ＆ゾーネ　ランゲ1 Ref.101.022

　我らがベン・クライマーはこの時計を、「過去四半世紀に発表された腕時計を象徴する存在のひとつ」と評している。私はベン・クライマーに反論することができるだろうか？

　私の名誉のために言っておく。私はこの時計をグラスヒュッテのパノマティックルナと比較し、グラスヒュッテもいいがランゲのほうがずっと素敵だと理解したときから、この時計に憧れを持っていたのだ。

　まるでタイムスリップして、街の広場に立って教会の時計を見上げているような気分にさせてくれる時計は、これ以外には考えられない。シルバー地に映える古いフォント、アドベントカレンダー風の大きな日付表示窓、そしてブルースティール針がとても気に入っている。この時計が安いとは言わないが、HODINKEEの情報通によるとランゲ1よりもランゲ クロノグラフのほうが人気が高い傾向にあるらしい。ランゲ1のほうが好きな私にとっては、好都合だそうだ。費用：3万4000ドル。

　これであと3000ドルあれば、時計に保険をかけたり、ドメーヌ・ロマネ・コンティのボトルで乾杯したり、キノで遊んだりすることができるのだが。

そして今、我らが偉大なるジョン・リアドンからひと言

　ジョン・リアドンは、2019年に設立したオンライン時計情報サイト『コレクタビリティ』の創設者である。彼はヴィンテージのパテック フィリップを専門としているが、ほかのブランドの評価にも理解を示している。私の新しいフェイクコレクションを送ったときの、彼の感想はこうだ。

　妄想のコレクションだとしても、あなたのリストがとても気に入りました。

 エリプスのブレスレットウォッチで、リストをスタート。素晴らしいアイデアです。3605は少し大きすぎるのではと思われる方もいらっしゃるかもしれません。確かに、存在感のある時計です。私はそのような3546、3548、あるいはコインエッジベゼルと3987などの代替として、あなたが選んだ小さいサイズのエリプス ブレスレットウォッチをおすすめします。これはよい選択でした。エリプスコレクションのなかでも特にお値打ちなモデルが揃っているので、この時計から始めてもらえるのはとても喜ばしいことです。

　ウブロのビッグ・バン。これは違うのでは？　これはあなたの選択であり、あなたのリストです。しかし、この時計は本当に、手首の上で多くの時間を過ごすものでしょうか？

　ロレックスのデイデイト。これは素晴らしい選択です。どんなコレクションにも、頼りになるロレックスが必要です。ダイヤモンドの有無にかかわらず、間違いありません。

 ミッフィーの時計について。あなたの提案とマライカの熱烈なレビューを読んでもっと詳しく知りたいと思い、私もこの時計を調べました。これは素敵ですし、遊び心にあふれた魅力的な投資だと思います。

 ランゲ1ですって？　見事な提案です。私はパテック一筋ですが、この時計は以前から私の心を捉えています。やはり、あの文字盤のバランスに尽きると思います。私は喜んで、この時計を愛用しますよ。

　マイアミビーチのアンティークショーで忙しくしていたリアドンは、リストの時計について話すことは簡単に思いつくものの、私の統一テーマを見つけ出すのに苦労していると言っていた。

 「あなたは次世代の優れたものを探していて、場合によっては私のレーダーをかいくぐってすらいると言いたいところなのですが。ああ……、このウブロについては本当に疑問視しています」。 翌日、彼が同僚のひとりに 「やっぱり、ウブロはない」と言ったという噂を聞いた。このことで私は自分のウブロをもっと好きになり、前述のウブロを買っておけばよかったと思うばかりなのである。

　リアドンはフライト中に、私のテーマについて考えてみると言ってくれた。

　着陸後、彼は電話で 「あなたのテーマは、あなたの知り合いで大好きな人が身につけている時計ではないでしょうか」 と答えてくれた。

　私は、その答えがとても惜しいことを彼に伝えた。本当のテーマは、単に自分が好きな時計であること。ただ、自分がつけたいと思ったものを選んだだけなのだと。だから、もし私が知っている大好きな人というのが私であるなら、リアドンの言うことは正しい。たとえ、そのお金が架空のものであったとしても。

 「それはおもしろい切り口だと思います」と彼は言った。さらに、以前は理由もなく好きというだけで、時計を選んだものだとも。だが、私は言った。「私にとっては、今でもそうなんです！」と。