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LVMH Watch Week 2025から見る5つの注目ポイント

ブランドの成長から商業的ポジショニングに関する率直な会話まで、時計そのもの以外で注目すべき事柄を分かりやすく解説する。


2日前のこの時間、LVMH Watch Weekに参加して最初のアポイントメントを終えたところだった。このイベントは、LVMHウォッチグループが毎年初めに開催するトレードショーで、各ブランドが新作を発表し、年内のマーケティングやメッセージの方向性を示す場でもある。今年はティファニー、レペ、そして特に注目すべきはルイ・ヴィトンやラ・ファブリク・デュ・タン傘下のダニエル・ロートおよびジェラルド・ジェンタといったブランドが加わり、さらに盛り上がりを見せていたことだ。

Hublot

この2本のセラミック製ウブロ スピリット オブ ビッグ・バンは実物が本当にカッコよかった。これに異論は受け付けない。

 今回のイベントは、ロサンゼルスが深刻な山火事に見舞われたためニューヨークに場所を移して開催された。その影響もあってか、参加者の多くが予想していたより少し寒い気候であった。それでも、改装されたティファニー “ランドマーク”ビルでのホスピタリティを楽しんだり、いくつかのブランドブティックを訪問したり、新作コレクションをひととおり見ることができた(多くの新作はHODINKEEでも紹介中だ)。

 とはいえ、実際に製品を手に取ってブランドの経営陣、特に最近のLVMHブランドでのCEO交代に関わる動きについて直接話を聞くことで、この業界の現状をより深く理解することができるのは間違いない。以下は、この2日間にわたる“Watch Week”で得られた5つの重要なポイントだ。

Tiffany Diamond

ティファニーダイヤモンドに、ガラス越しではなく3インチ(約7.6cm)まで近づくことができた。そのとき頭に浮かんだのは? 映画『オーシャンズ11(原題:Oceans Eleven)』にてラスベガス史上最も成功したカジノ強盗について語るシーンだ。「どこまで逃げられるだろう?」とか考えつつ、あのセリフを思い出した。「そいつは捕まる前に一瞬だけ新鮮な空気を吸えたんだ。でもその後の3週間はホースから呼吸してたけどな」

ルイ・ヴィトンが新たな次元へ突入

 2日間のスケジュールの最後に、私とベン(・クライマー)はラ・ファブリク・デュ・タンのブランド、つまりルイ・ヴィトン、ダニエル・ロート、ジェラルド・ジェンタとのミーティングを行った。そして特に印象的だったのは、ジャン・アルノー(Jean Arnault)氏と交わされた即興の会話だった。アルノー氏は時計を心から愛する経営者であり、それはルイ・ヴィトンの時計だけに限らずあらゆる優れた時計に対する愛情を持っている。もちろん、どんな仕事にも成功への期待やプレッシャーはつきものだが、彼と話をしていて感じたのは、ラ・ファブリク・デュ・タンがルイ・ヴィトン全体の売り上げ規模から見れば(あくまで私の言葉で言えば)“誤差の範囲”に過ぎないという事実が、逆に自由さを与えているということだった。

Daniel Roth

これまで見たなかで最も美しい“誤差の範囲”だ。

 会社の売り上げの30%、20%、あるいは10%を担う必要がないというプレッシャーから解放されることは、大きな恩恵だ。新しいことに挑戦し、リスクを取ったり、自分たちのアイデンティティや理念を大声で伝えることができる。もし好況の年や長期的な成長が実現すればもちろん素晴らしいことであるが、過度なプレッシャーに押しつぶされることはない。その代わりに真に愛すること、つまりこの場合は優れたウォッチメイキングや優れた時計に集中することができるのだ。

 これまでルイ・ヴィトンは、自分たちの独自性を確立する寸前にいるように感じられていたが、この1週間を振り返るとブランドがついにその地位を完全に確立した瞬間だったと言えるだろう。これからラ・ファブリク・デュ・タンがハイエンドウォッチメゾンとして、確固たる存在感を放つことにまったく疑いはない。

Louis Vuitton
Louis Vuitton Convergence

ギシェ(タンク ア ギシェとは別物)はとにかくカッコいい時計だ。LV的には、傷がついたら“勲章”として刻んでいくのを楽しんで欲しいらしい。ただし最初につける“勲章”のダメージが気になってしまうので、彫刻入りのバージョンを選びたいと思う。

Gerald Genta Gentissima

ジェラルド・ジェンタ ジェンティッシマ ウルサン ファイアオパールは完全にぶっ飛んでいる。確かにほかの時計と比べると少し変わって見えるかもしれなが、時計がみんな同じ見た目ではないといけない理由なんてないだろう?

 スピン・タイムは本当に素晴らしい。確かにこれまでにもつくられてきたが、新ムーブメントを搭載した本作は圧巻だ。ダニエル・ロートの新作も魅力的で、ゆっくりとした成長を見せつつも高品質であることに変わりない。実際、もし新作のエクストラ プラット スースクリプションが手に入るなら、コレクションを一掃してでも手に入れたいとブランドに伝えたが、残念ながらそのチャンスは訪れなかった。コンバージェンス? これもすごく魅力的だ。もちろんジェンティッシマ ウルサンも驚くほどクールで、ちょっと奇抜な感じが新鮮だった。まだまだ魅力的な新作がたくさん控えているため、今後数週間でお見せできるのが楽しみだ。

ブルガリの新作ムーブメントBVS100は、クォーツショックの時代に別れを告げる最後の一撃のひとつだ

 BVS100 レディ ソロテンポという新オートマチックムーブメントの製品発表会で、ブルガリのチームメンバーのひとりが、今まで考えたこともなかった興味深い指摘をしていた。私たちは過去の名ムーブメントが失われたことを嘆き、最近のムーブメントが厚くなりがちなことに文句を言いがちだが、クォーツショックの時代に最初に淘汰されたのが、実は優れた“レディス”用ムーブメントだったという事実には気づかなかった。当時、LVMHはまだ時計製造グループではなかったが、業界全体は今でもあの暗黒時代の名残を引きずっている。

Bulgari Serpenti Tubogas

 BVS100 レディ ソロテンポのようなムーブメントは、非常に特殊で小型、しかも製造がきわめて難しいため、大量生産される商業的な製品にはなり得ない。だからこそクォーツショックの時代には、ブランド全体の生産量のわずか10分の1、もしくは100分の1程度しか占めないムーブメントが、コスト削減のために真っ先に切り捨てられたのもある意味で理にかなっていたのだ。

 しかし時代は変わった。今やブルガリは、薄型で複雑なムーブメントを実用的かつ多用途に使える形にすることにおいて、業界のトップを走る存在となっている。BVS100はいずれゼニスが生産を担い、必要に応じてLVMHグループの他ブランドでも使用される予定だ。同ムーブメントはブルガリがグループ全体に貢献し、クォーツショックの時代の重荷を少しでも軽くしながら、“昔できたことは今でもできる”というメッセージを示しているように思える。それはかなりクールだと思う。

新しいフォーミュラ1コレクションは万人向けではないかもしれないが、タグ・ホイヤーはLVMHブランドのなかでも商業的な製品と時計愛好家向けの製品のバランスを取るのが上手い

 アメリカの一般層、いわゆる“ミドルアメリカ”の人々のあいだで、貯金をして自分が誇りに思える時計を買いたいと考える非愛好家層において、タグ・ホイヤーはロレックスをとっくに超えているという仮説がある。マンハッタンのフィフス・アベニューを歩く観光客の手首を見ていると、タグ・ホイヤーのアクアレーサーをしている人がロレックスのサブマリーナーをしている人よりもずっと多い。

 アクアレーサーは優れた価値を提供し、頑丈で多用途なデザインが魅力だ。それにブティックに行けば特別な手続きを踏まずにその場で購入できる。一方でソーラーグラフのような、アクアレーサーの価値を理解する愛好家も多いが、新しいフォーミュラ1のメカニカルクロノグラフについては意見が分かれているようだ。

Formula 1 Red Bull Racing

タグ・ホイヤー フォーミュラ1 クロノグラフ × オラクル レッドブル レーシング

 タグ・ホイヤーが新しいフォーミュラ1のデザインで施した細かい工夫をいちいち説明するのではなく、ぜひ一歩引いて全体像を眺めてみて欲しい。

 HODINKEEを読んでいるあなたなら、おそらくタグ・ホイヤーには興味があるだろうし、カレラ グラスボックスのパープルバージョンを知らなかったとしても、自然と引かれるのではないだろうか。このモデルは、時計の歴史やクラフトマンシップを愛し、伝統と革新の融合を求める人のためにつくられたモデルだ。一方で、ウィスコンシン出身の私の友人がブティックに入ったら、おそらくフォーミュラ1やアクアレーサーに目が向くだろう。これらは時代とともに進化してきた、より現代的なデザイン言語を反映したモデルだからだ。そしてそれこそが重要なポイントである。

 タグ・ホイヤーは核となる理念をしっかり守りながら、異なるふたつ(あるいはそれ以上)の層に向けてしっかりとアピールするのがとても上手だ。忘れてはならないのは、愛好家コミュニティがブランドの誠実さを保ち、方向性を正してくれる重要な存在である一方で、ブランドが成長を続けるためにはフォーミュラ1の大規模なファン層のような幅広い層に直接訴求する商業製品が必要だということだ。

 タグ・ホイヤーは、LVMHのなかでも両方の世界で成功を収める最も優れた存在なのだ。

LVMHによるレペの買収は、ブランドを独占するためではなく伝統を守るというLVMHの目標の一環だった

 ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)氏とそのチーム(家族を含む)、そしてLVMHの指導層は、歴史を非常に大切にしている。ルイ・ヴィトンという巨大メゾンを所有しているにもかかわらず、2010年には同じく歴史ある小規模ブランドであるモワナを買収した。その理由のひとつが、1849年創業のモワナがルイ・ヴィトンやゴヤールよりも歴史が古いという点だった。守り、そして新たに広める価値がある遺産として認められたのだ。レペの買収も同じ理由だと言える。ラ・ファブリク・デュ・タンを通じてコラボレーションを進めるのと同様に、ルイ・ヴィトンはスイス最後の統合型ウォッチメーカーであるレペを独占しようとしているわけではない。モワナがゴヤールのレベルに達していないのと同様に、レペもまだ成長と進化の段階にあるが、LVMHという時計製造の傘の下で業界全体に新たな命を吹き込む可能性を秘めている。

 レペの製品がすべて自分向きというわけではない。手榴弾やドル記号をモチーフにしたようなデザインの時計は時にちょっと下品だったり、感覚がずれているように感じることもある。しかしブランドの歴史的背景を考えれば、こうしたモダンで前衛的なデザイン以上の可能性があるのは間違いない。レペはほぼすべての部品を自社内で製造しているだけでなく、そのアフターセールスサービス部門は、歴史を通じて時計の修復部門としても機能してきたのだ。

 またティファニーをはじめとしたほかのブランドとのコラボレーションの長い歴史を持ち、今後もそれを続ける意向だ。レペの未来がすぐに大きな変化を遂げるとは限らないが、それでも彼らが存続しているという事実だけで十分に価値がある。時計が時代遅れとされるなかで、さらにその上を行く時代錯誤的な存在であるクロックがこうして生き残っているのだから。

ティファニーはダイヤモンドが大好きだが、ウォッチメイキングにも本気を出し始めている

 ここは手短に済ませたいが、ティファニーに少し驚かされたのは、正直言ってこれまで同ブランドの時計にまったく注目してこなかったからだ。確かに、ティファニーはグループ内でもハイジュエリー志向が強いブランドであることに変わりはない。だが眩いばかりの宝石をセットした作品群のなかで(ちなみに“スノーセッティング”という技法を今回学んだ!)、ハイジュエリーとハイウォッチメイキングがより頻繁に交わる未来の可能性を垣間見た気がした。

Tiffany Jean Schlumberger by Tiffany Bird on a Rock watch

このジャン・シュランバージェ バード オン ア ロックウォッチが2023年に登場していたことさえ知らなかった。分針に配されたダイヤモンドバードはいくらの価値があるのだろうか? おそらく、茂みにいる数十万ドル相当の鳥たちに匹敵するだろう。

 その最高の例が、新作バード オン ア フライングトゥールビヨンだ。価格は30万5000ドル(日本円で約4750万円)で、848個のダイヤモンドがセットされ、巻き上げ用のリューズには0.42カラットのソリテールダイヤモンドが爪留めであしらわれている。一見して圧倒されるデザインであり、特にジェムセッティングは驚くべきものだが、私がより興味を持ったのはムーブメントのほうだった。この時計は厚みがあるが、比較的新しい独立系ムーブメント開発メーカーのアーティム(Artime)がティファニーのために設計した、AFT24T01ムーブメントを搭載しているためだ。

Jean Schlumberger by Tiffany "Bird on a Rock" tourbillon

 功績には敬意を払うべきだ。現在、市場には数多くのトゥールビヨンが存在し、ティファニーも既存のものを購入してカスタマイズするだけで済ませることもできたはずだ。しかし時計愛好家が望むような形でムーブメントをイチから開発する道を選んだ。このプロジェクトでラ・ファブリク・デュ・タンに依頼しなかったのは少し興味深いが、LFT(ラ・ファブリク・デュ・タン)自体の生産能力は年間1000~2000本程度に限られている。バード オン ア フライングトゥールビヨンは25本限定だが、トゥールビヨンの開発は非常に手間がかかる。それでも私が興奮するのは、そもそもティファニーがこの時計をつくったということだ。(LVMH Watch Weekに関して)姉妹ブランドが素晴らしい仕事をしている姿を見て、ティファニーもこの道をさらに進んでいく意欲をかき立てられるのではないかと期待している。

Tiffany Bird on a Rock