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A Week On The Wrist グランドセイコー SBGK005を1週間レビュー(動画解説付き)

スタイルも内容も充実の個性派時計。

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仕事柄、時には冷めた目で時計を見てしまうこともあります。一日中、そして毎日ひたすら時計を見続け、その中で最も興味深い、注目に値するものだけを選りすぐって皆さんにお届けしようとしているわけです。もちろんそれは僕の大好きな仕事であるわけですが、時には疲れてしまうことがあるのも事実です。1つのラウンドケースのイエローゴールドのドレスウォッチを、その隣の時計から区別する作業が無意味に思えてくることもあるし、一人の男性が扱える40mm〜42mmケースに黒文字盤とセラミックベゼル付きクロノグラフの数にも上限があります。だからこそ、「その他大勢」とは明らかに違う、真に新しい時計を見た時の高揚感は、おそらくご想像いただけるでしょう。

 スペックだけを見れば、グランドセイコー SBGK005が革新的な時計には見えないかもしれませんが、実際腕に着けてみると、なんとも形容し難い今まで見たことも着けたこともない何か特別なもののように感じました。この時計の根幹が手巻きのドレスウォッチであることは間違いないですが、変わったケースデザイン、美しい文字盤、そして細部まで作り込まれたその佇まいは、この時計を、既存のカテゴリに収まらないレベルへと押し上げています。2019年2月の発表以来、数回目にする機会がありましたが、SBGK005がいったいどんな代物なのか、良い第一印象に見合うだけの内容を持つ時計なのか、ゆっくり時間をかけてレビューをする必要があることは一目瞭然でした。

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『エレガンス』とセイコースタイル

 SBGK005そのものを掘り下げていく前に、現在のグランドセイコーの多彩なラインナップと、セイコーおよびグランドセイコーのデザインの歴史について、軽くおさらいしておきましょう。それらに目を向けることで、この時計へと至る道のり、グランドセイコーが埋めようとしているラインナップのギャップ、そしてなぜこのデザインが僕に強く語りかけてくるのかが分かると思います。

57GSはグランドセイコー初の「セイコースタイル」を採用したモデルとされています。

 SBGK005は、グランドセイコー エレガンスコレクションに追加された薄型手巻き仕様の4モデルのうちの一つです。今回取り上げるスティール製モデルに加え、白文字盤のイエローゴールド、黒漆・蒔絵文字盤のピンクゴールド、そして赤系透漆・蒔絵文字盤のピンクゴールドという3種の純金製モデルが用意されています。エレガンスコレクションという名前自体はあまり馴染みの無いものかもしれませんが(特にアメリカで聞くことはほとんど無いかも)、実はたくさんの人気モデルがこのコレクションに含まれています。
 例えばSBGW231、SBGM221、そして最新のスプリングドライブ搭載モデル達が当てはまります。優美な佇まい、非クロノグラフ、そしてクロコダイル革のストラップ仕様であることが、これらの共通点となります。個人的には、その名の通りのエレガントさとスーツに合わせやすい全体的なパッケージを意識している点以外に、これらの時計を一つのコレクションに縛る決定的な根拠は見当たりません。

 より重要なのは、エレガンスコレクションの従来モデルと比べると、この時計が明らかに「セイコースタイル」(英語圏では“Grammar of Design”)を強く主張しているように感じることです。ご存知ない方のために改めて書くと、セイコースタイルとは、1950年代後期から1960年代初頭にかけて田中太郎氏が確立した、時計デザインのセオリーです。田中氏は時にジェラルド・ジェンタ氏(Gérald Genta)と比較されますが、個人的にはこの対比があまり好きではありません。ジェンタ氏は確かに革新的であり、彼以上に現代スイス時計市場の形成に貢献したデザイナーはいないといって良いでしょう。
 しかし、田中氏が作り出したのは、全く新しい時計デザインへのアプローチであり、その根幹には日本という国のアイデンティティがありました。セイコースタイルという存在の一部は、それが「日本的である」という点であり、前世紀中盤のスイス時計技巧への抵抗だったのです。田中氏が作っていたのは、ただ単にセイコーのヒット作を形成する要素ではなく、日本独自の時計技巧そのものを根本的に理解するための骨格でした。

2010年に復刻モデルが発表された1967年の62GS。

 田中氏は確かに「グランドセイコー ファースト」と呼ばれることになる時計の設計にも関わっていましたが、その後続モデルとなる57GS、44GS、そして62GSが、セイコースタイルというデザインアプローチを体現した例となりました。セイコースタイルの本格的な掘り下げについてはまたの機会にするとして、そのデザインの基礎は、ケースのジオメトリーを平面主体とすることで鏡面仕上げと明確に区切られた表面からなる造形を可能にし、針をはじめとするすべての要素においてシャープで高い視認性を維持すると共に、ありきたりな丸みを捨て、より意図的な輪郭を実現することでした。もちろん、この説明がかなり端折った表現なのは間違いないですが、ひとまず話を進めていきましょう。

 このデザインセオリーと田中氏による過去のマスターピースを背景に見据えることで、SBGK005という時計の素顔と個性が浮き彫りになります。この新しいケースが、セイコーのミッドセンチュリーデザインへの回帰を意識しており、その他のエレガンスコレクションの時計と一線を画すものであることに気づくでしょう。そのデザインには強い着眼点が存在し、所有者に対して、なぜ普通の時計ではなくこの時計を腕に巻こうとしているのか、その意図を問いかけてきます。この時計がジュウ渓谷(Vallée de Joux)から生まれる可能性はゼロに等しく、グランドセイコーならではの一本であることは、一目瞭然でしょう。

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SBGK005という時計

 これまでの話を念頭において、この時計そのものを掘り下げていきましょう。僕が初めてSBGK005を目にしたとき、僕が見ている「それ」が一体何なのか、理解するのには多少時間がかかりましたが、その甲斐は十分にありました。SBGK005は、時と共にその心を開く時計であり、使用すればする程、その潜んだ魅力を発見させてくれるのです。僕は、そういう時計が大好きです。消費者として、新しい時計に対する「驚きと喜び」が、自宅に持ち帰った時点終わってしまって満足ですか? それじゃつまらないでしょう。

ケース

 これが、上記のセイコースタイル主義を一番強く認識できる部分でしょう。スペックだけを見れば、単純に「丸い文字盤を持つ、直径39mm、厚さ11.6mmのSS製ケース」と形容できるかもしれません。しかし、この時計を実際に手に取ってみると、ただ「丸い」という表現は不適切なものだと感じるでしょう。短いラグが文字盤下部からシームレスに伸び、弧を描くように腕にフィットするその様は、どちらかというとトノー型の雰囲気です。しかし、ラグそのものも存在感を失わず、丸みを帯びたミドルケースとの良い対比になっており、ケース全体を縦方向に拡張する役割を果たしています。このケースデザインにおける緩急のつけ方は実に見事で、見る者に喜びを与えてくれます。

 ケースのほとんどは鏡面仕上げですが、ミドルケースの側面のみヘアライン仕上げとなっており、その隣接面の造形を際立たせることにひと役買っています。各金属パーツは反射度が高くスムーズに仕上げられており、それぞれの部位への移行を鋭いエッジ(例えば、ベゼルとケースが出会う部分など)もしくは放射状の曲線(ラグの形状など)によって実現することで、鏡面仕上げを保ちつつ、それぞれの面の反射を利用して、ジオメトリーの変化を明確なものにしています。その魅力を写真で描写することはほぼ不可能ですが、このケースの格好良さは、実物をひと目見れば分かると思います。

文字盤

 この文字盤は、SBGK005のハイライトのひとつだといえるでしょう。そのディープブルーの文字盤は、グランドセイコーを製造する盛岡の時計工房近くに鎮座する大火山からとって『岩手山パターン』と名付けたテクスチャを持っています。
 僕なら「荒目のグレイン加工とサンバースト仕上げのコンビネーション」と形容するでしょうが、本当に重要な点をひと言で表すなら「メチャクチャカッコ良い」です。この時計を初めて見たときに目に焼きついたのはこの文字盤であり、この時計を 週間に渡って朝から晩まで使った今でも、その魅力は全く色褪せていません。

 それでは、文字盤のレイアウトを見ていきましょう。アプライドのインデックスとそれらの間に入るプリント仕様のミニッツマーカーの組み合わせに、9時位置のスモールセコンド、3時位置のパワーリザーブ、そして12時位置にアプライドとプリントが組み合わさったロゴを配する構成です。時・分針は前面がエアライン仕上げ、側面がダイヤモンドカットに研磨仕上げ、そして小ぶりな秒針とパワーリザーブ指針はブラックポリッシュ仕上げとなっています。左右非対称のレイアウトは心地よく、個人的には、グランドセイコーが日付表示と数字インデックスの使用を省く決断をしたことを、非常に嬉しく思います。数字や文字盤上の開口部が無いことで、その仕上げと精巧な佇まいをじっくりと楽しむことができます。

 この時計の大きな魅力の一つと言えるのが、まるでケースの中心部から爆発的に発散しているかのような文字盤の存在感でしょう。その文字盤は時計全体のバランスからみて非常に大きく、スリムな鏡面仕上げのベゼルによって、その存在感がさらに強調されています。この比較的小ぶりなパッケージに搭載されたインパクトの強い文字盤によって、この時計は39mmというスペック上の数字よりも大きく見えます。

ムーブメント

 SBGK005には、もちろん自社製ムーブメントであるCal.9S63が搭載されています(知らない人のために書くと、セイコーの時計はてすべ自社製ムーブメント搭載)。9S63は既存キャリバーである9S64の進化形であり、この新しい文字盤のレイアウト向けにスモールセコンドとパワーリザーブが追加されています。これまで通りの72時間のパワーリザーブを保持し、平均日差+5秒~-3秒(実際の携帯使用において平均日差+10秒~-1秒)まで追い込まれています。
 その仕上げは安定のグランドセイコー・クオリティで、プレートとブリッジのストライプ処理、深く青焼きされたネジ、そして見事な香箱周りの面一処理は健在です。そして、それらのすべてをサファイアガラスのシースルーバックから拝むことができます。で、そのケースバックについてなんですが…

 僕のSBGK005に対する唯一最大の苦言となるのが、このサファイアケースバック 上のライオンロゴなのです。この歴史的なロゴがグランドセイコーにとって重要なことはもちろん分かっていますが、シースルーバックにプリントされたロゴという組み合わせは、正直に言って最悪の妥協策だと思います。もしロゴが重要なら、玄人好みのスティール製のケースバックにすれば良いでしょう。ロゴが最重要というわけではないのなら、シースルーバックを無地にして、オーナーがそのムーブメントを存分に楽しめるようにするべきだと感じます。サファイアバックでありながら(この場合、非常に素晴らしい仕上げの)ムーブメントを妨害されずに鑑賞することができないというのは、結局どちらの目的も満足させていないのです。これが致命傷だという気はありませんが、あなたがこの時計を真に楽しみたければ、この事実を事前に納得しておくことをお勧めします。

ストラップ

 もう一つだけ、この時計を初めて手にした時に僕の中でしっくりこなかったのが、そのストラップでした。もちろん、この時計がスリムでエレガントなドレスウォッチとして提案されているのは重々承知していますが、僕は、この時計がそれ以上の存在になりうると思うのです。確かに、シャープなスーツに映える一本であることは間違い無いですが、Tシャツとジーンズの組み合わせにも同じくらいよく馴染むと思います。この時計の自由度を上げるため、光沢仕上げの青色クロコダイルストラップから、スレートグレイのヌバック・ストラップ(興味があれば、これです)に交換してみました。
 付属の青色クロコダイルストラップには何の問題もないのですが、この時計を少しばかりドレスダウンさせたかったのです。僕個人の主観としては、控え目な色合いのスエードやヌバック地のストラップは、シャープさと精密性の塊のようなこういう時計に、対比的によく馴染む選択肢だと思うのです。

 三つ折れ方式の中留は、最近目にした中でも良くできている例の一つではありますが(でしゃばり過ぎない)、僕は筋金入りのスタンダードな穴留めバックル派です。細めの手首を持つ僕にとって、あの余分な金属パーツがストラップの裏側に重なる感じがどうしても好きになれません。とはいえ、このバックル自体は非常に美しい仕上がりで、トラディショナルなグランドセイコー刻印は個性に溢れています。

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On The Wrist

 そんなわけで、カジュアルなストラップをSBGK005に装着し、一週間毎日使用してみました(実は数日オーバーしてしまったことを正直に言えば、このレビューがどこに向かっているか想像できるでしょう)。上にも書いたように、じっくり時間をかけることが、この時計の魅力をより一層引き出すといえますが、決して「慣らし運転」が必要というわけではありません。初めて腕に着けたその瞬間から、この時計を存分に楽しむことができました。あのきらめくブルーの文字盤に文句をつける方が難しいでしょう。

 とはいえ、時間と共に、この時計の素晴らしいポイントが次第に明らかになっていきました。例えば、このケースは僕が最近試した中でもかなり装着感の良いもののひとつです。ケースの両サイドにかかる傾斜と短いラグの組み合わせは、腕への低重心なフィット感を高めています。結果として、11.8mmというスペック上の厚さよりもスリムな着け心地で、39mmというより、37mmから38mmケースの時計を着けている感覚になりました。その一方、この文字盤は39mmという数字を上回る存在感を持っていると言えるでしょう。この装着感と外観の間に生まれるコントラストは、この時計のかなり面白いポイントの一つです。この感覚を、ここまでのレベルで感じたことは過去に無いかもしれません。

 これまで、それなりの数のグランドセイコーを試してきましたが、それらと同じく、SBGK005は「小さな部分にこそ、その完成度が光る」と言えるでしょう。例えば、針の仕上げはまさに史上最高の部類で、その評価に価格帯による区切りは必要ありません。同じく、ブラックポリッシュが施されたサブレジスターの針が、腕の動きと共に見え隠れする様は圧巻です。
 個々が微妙に違った光の捉え方をするインデックスのすべてが同じ表情を持つこともありません。この文字盤は本当に至高の一品です。よりハイエンドの18KPGモデルの文字盤は蒔絵・漆仕上げですが、僕はこのモデルの文字盤が、新作スリム・エレガンス4種の中で最高の仕上がりだと思います。結論は至ってシンプルでした。SBGK005を使えば使う程、僕はこの時計を好きになっていったのです。

 SBGK005について、気になった点が全く無かったというわけではありません。予想外だったともいえる点は、文字盤のレイアウト上、それぞれの針の配置が奇妙な組み合わせになりうることでしょう。スモールセコンドとパワーリザーブの位置関係により、それぞれの針がちょうど良い位置に落ち着いて絶妙なバランスを生み出す瞬間があると同時に、すべての針がごちゃごちゃと入り混じった状態になってしまう瞬間も存在します。後者が起こることは稀ではありますが、ふとその文字盤に目を落とした瞬間、「ん? 何がどうなってるの?」と感じたことが数度あったことを書き留めておくべきでしょう。

 もう一つだけ、鏡面仕上げを多用したグランドセイコーの時計に共通する欠点を挙げると、それは汚れや傷が非常に目立つことです。僕は自他共に認めるA型人間であり、気がつけばマイクロファイバークロスに手を伸ばしていました。これに関しては、正直そこまで深刻な問題ではないですし、グランドセイコーのケースが放つ輝きは、その欠点を補って余りある魅力を持っています。

 全体的に見て、今回の僕の試みは成功です。SBGK005はドレスウォッチという位置付けではあるものの、適当なストラップよってどんなシーンにも変幻自在に対応する、日常使いに最適な時計になりうるのです。常に注目を集めるだけの特徴を持ちつつ、あなたのファッションコーディネートの邪魔をするようなことはないのです。ピュアでシンプルな、素晴らしいデザインです。

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競合モデル

 75万円という価格設定のSBGK005は、エレガンスコレクション内の上位に位置し、グランドセイコーの中核となるラインナップ全体で見ても、貴金属モデルを除けば高価な部類に入ります。僕個人としては、その価格に十分見合う時計に仕上がっていると思います。あなたがユニークなデザイン、素晴らしい文字盤、そして高品質の自社製ムーブメントに重きを置くならば尚更です。ただ、50万円から100万円の価格帯は、購買層の比較対象になりうる時計がひしめく激戦区であることもまた事実です。これまで書いてきたいくつもの要素を併せ持ち、僕が「ドレスウォッチ」と「日常使い時計」のバランスをうまく保っていると感じた、この価格帯の時計をいくつか見ていきましょう。

 その前に、SBGK005は1500本の限定モデルであり、今年3月に発売されたことを書いておきましょう。僕が最後に確認した時点では、まだ市場に残っているとのことでしたが、その辺のグランドセイコー取り扱い店に立ち寄って、いつでも入手できる代物ではない事をお忘れなく。

オメガ デ・ヴィル トレゾア 40mm

 新型オメガ デ・ヴィル トレゾア 40mmは、僕が見つけられた最も直接的な競合モデルです。両者の価格差は900ドル以下、ケースサイズの違いも1mmのみ、更には両者共にスティール製ケース、テクスチャ付きブルー文字盤、そして優秀な自社製ムーブメントを搭載しているのです。この2つの時計を横に並べるということは、スイスと日本の、時計作りという一つのアートに対する独自のアプローチを考察することに他なりません。わずかに下回る価格で、この時計はマスター クロノメーター認定ムーブメント(高水準の精度⁠、耐磁製など)の搭載を実現していますが、文字盤のインパクトはSBGK005のレベルではなく、全体的により保守的なスタイルを好む購買層向けといえるでしょう(日付表示があることもお忘れなく)。どちらを選んでも後悔はしないと思いますが、僕個人の意見としては、グランドセイコーの方がより興味深く、よりユニークな要素を提供していると感じました。

70万円(税抜) omegawatches.jp

ジャガー・ルクルト マスター・コントロール・デイト

 僕がHODINKEEでレビューした多くの時計の中でお気に入りの1つが、ジャガー・ルクルトのセクターダイヤル仕様のマスター・コントロール・デイトです。かれこれ2年ちょっとになりますが、この時計への愛は、後ろ髪を引かれる思いでJLC本社に時計を返却したあのときから全く変わっていません。初見では、これら2つの時計は似ても似つかぬと思うかもしれませんが、実は、両者共に非常に似た魅力を持っていると思うのです。共に優良な価格設定で、自社設計・製造の素晴らしいムーブメントを搭載し、その表情を自在に変えられる独自のスタイルを持っているのです。上記のオメガと同じく、マスター・コントロールは非常にスイス時計然とした一本であり、明らかにヴィンテージスタイルを意識したモデルに仕上がっています。もしもあなたがSBGK005のコンセプトを気に入りつつも、自分には少しだけ冒険しすぎていると感じるならば、この時計は非常に魅力的な選択肢だと思います。

65万円(税抜) jaeger-lecoultre.com

ブルガリ オクト フィニッシモ オートマティック

 思いっきりズルしていることをまず認めましょう・笑。ブルガリ オクト フィニッシモ オートマティックはSBGK005より約75%も高額な価格設定なのですが、ひとまず、僕の話を聞いてください。SBGK005最大の魅力の一つは、その一般的な丸型ではないケースにあります。上記の2本の時計は、揃ってその「普通の丸型の時計」なわけです。それに対してオクト フィニッシモは、丸い(っぽい)文字盤を、単純な表現で説明できない形状のケースに入れるという、グランドセイコーに近いコンセプトを実現し、新鮮さと親しさが混在する一本に仕上がっています。グランドセイコーが超鏡面仕上げ一直線であるのに対し、オクトのケースは完全艶消し仕様のチタン製である点も見逃せません。また、鮮やかなブルー文字盤の代わりに、ブルガリはかなり落ち着いた雰囲気の文字盤を提供しています。僕がクレイジーなのかもしれませんが、この2つの時計は、魂で繋がった親戚同士のようなものだとも感じるのです。多くの共通するコンセプトを、全く違う手法で体現しているわけです。

141万4000円(税抜)  bulgari.com


総評

 グランドセイコー SBGK005と一週間過ごしてみて、「送り返すのが辛い」カテゴリーに入る時計だと断言できます。時間の経過と共に、文字盤の精巧な仕上げはより美しく、ケースの着け心地はさらに印象深くなり、僕が初見で好感を持ったインプレッションは、一週間ちょっとの使用を経てより確実なものになりました。グランドセイコー は、他のメーカーが真似出来ない独自の時計作りを貫くことで、慎み深さと特質性が見事に同居する、多くの時計を生み出しているのです。SBGK005という時計は、個としての存在意義を確立しつつ、日常のどんな場面にも対応する一本です。

 「何か違うことをする」という行為そのものを目的にすることは、必ずしも得策ではありません。しかし、熟考された動機を伴い、そしてユーザーの笑顔のために何か違うことを試みれば、本当に興味深いものが生み出されることもあるのです。グランドセイコー SBGK005は、馴染みのある方式を使い、新鮮さとユニークさという視点から具現化されたひと品であり、時間をかければかける程、その良さが引き出される非常に魅力的な時計なのです。

より詳しい情報は、グランドセイコー公式サイトへ。