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Photos by Mark Kauzlarich
GPHGウィークへようこそ! この小テーマ連載で2024年のジュネーブウォッチグランプリ(GPHG)で入賞した時計のなかから、見逃しがちな4本を取り上げる。本日は、ベルナルド・レデラー(Bernhard Lederer)氏による今年のクロノメトリー賞に注目する。この賞は、“優れた精密計時性能(特殊なエスケープメントまたは独特の調整装置)が際立ち、検査機関によって公式に認定(ISO 3159規格)された最優秀の時計”に与えられる特別賞だ。
1年ちょっと前、元同僚のローガン・ベイカーのすすめで、ウォッチタイム期間中にニューヨークを訪れていたベルナルド・レデラー氏に初めて会った。ベイカーが執筆したレデラーのセントラル インパルス クロノメーターに関する詳細な記事は魅力的だったが、当時の私には少し難しく感じたかもしれない。しかし、“レデラー氏に会えば有益な情報が得られるだけでなく、とても楽しめるはずだ”というベイカーの説得力ある言葉に背中を押され、会うことを決めた。予想どおり予定の1時間をはるかに超えて会話が続き、それ以来私はレデラー氏の時計に強く引かれるようになった。
今日は、ジュネーブウォッチグランプリ(GPHG)でクロノメトリー賞を受賞した、セントラル インパルス クロノメーターの最新モデルである“トリプル サーティファイド オブザバトリークロノメーター”を取り上げる。しかしその前に、すべてがどこから始まったのかを振り返る。
私はレデラー氏が“確固たる信念を持つ”時計職人であることを知った。彼に、ほかの時計職人のムーブメントについて率直に尋ねれば、何がよくて何が悪いのかについて正直な意見をたっぷり教えてくれる。特定のムーブメントだけでなくその背後にあるコンセプト自体の欠点についても、レデラー氏が記事のなかで巧みに指摘している部分をベイカーの記事で読むことができる。たとえばナチュラル脱進機について、レデラー氏は脱進機の重量がゼロ(追加のエネルギーを必要としない)である場合にのみ本当に機能すると主張している。まあ、それはまた別の機会に詳しく話そう(前述の記事も参照)。
レデラーの最新作を理解するためには、彼のオリジナルのセントラル インパルス クロノメーターを振り返る価値がある。しかし、それにはかなり深い専門知識が必要であり、この記事(そしてこの時計)は必ずしも万人向けではないことをご了承いただきたい。セントラル インパルス クロノメーターは、その名が示すとおりブレゲのナチュラル脱進機とジョージ・ダニエルズ(George Daniels)が開発した独立した、2輪のデュアルインパルス脱進機からインスピレーションを得た脱進機を搭載した高精度ムーブメントだ。このムーブメントはCal.9012で、基本モデルとほぼ同じ構造となっている。レデラー氏は今年初め、このムーブメントの小型版を39mmのCIC(セントラル インパルス クロノメーター)用に製作したが、今回のモデルでは大型化されたムーブメントを使用しており、下の写真のように44mmのケースに収められている。
本作は4番車と5番車のあいだに配置される、ふたつのルモントワールを備えた二重輪列を特徴としている。これにより各エスケープホイールへのエネルギーとトルクが安定して供給され、より安定した動作と精度の向上を実現している。ルモントワールは時間差で動作するよう設計されており、それぞれが10秒ごとに作動しながら、交互に連動して5秒ごとに動力を解放する。この過程を経て、テンプに直接力が伝わる仕組みになっている。
オリジナルのCICウォッチにはふたつの輪列があるため秒針が2本搭載され、それぞれが逆方向に動いていた。文字盤にはガンギ車や10秒ごとにルモントワールを巻き上げる役割を果たすルーローの三角形(数学や工学の分野で知られる特殊な図形のひとつ)が見える開口部が設けられていた。これはあくまで個人的な好みだが、私はこのデザイン要素があまり好きではなかった。今年初めに発表されたルノー・ティシエ “マンデー”というモデルもこの時計によく似たデザインだが、やはり私の好みには合わなかった。どちらも魅力的な技術を備えてはいるものの、私がこのような時計に求める、クラシックで深みのある魅力を感じることはできなかった。
新作のレデラー トリプル サーティファイド オブザバトリークロノメーターは、美的にも大きな進化を遂げた、時計製造の魅力的な物語を語るモデルだ。残念ながらこの時計はGPHGの投票過程で予定よりも早く情報が漏れてしまった(ただし、タイムオンリー部門で最終選考に残っている)。だがそのリークがすぐに私の興味を引いた。今回の新作は、優れたムーブメントとドーム型ケースバックを継承しつつ、904Lステンレススティール製ケースを採用している。またデザインも刷新され、頑丈なスターリングシルバー製ダイヤルを備えたことで、44mm×12.2mmというサイズながらスポーティでカジュアルな印象を与え、より装着しやすくなった。これだけでもこのモデルをより魅力的なリリースにしているが、まずはムーブメントに焦点を当てたいため、デザインについてはのちほど触れる。
この手巻きムーブメントは、ふたつの独立した輪列、ふたつのルモントワール・デガリテ、そしてナチュラル脱進機を搭載しており、時・分そして簡潔なシングルセコンド表示を備えている。レデラーは古典的なスイス時計製造のアプローチに対して、より現代的なムーブメントデザインと仕上げを採用しており、それが非常に効果的に機能している。特にケース内で縦横に広がるブリッジの角ばった形状は、この複雑なアイデアが斬新でモダンな解釈であることを力強く物語っている。このアイデアは長年にわたりさまざまな形で試みられてきたが、レデラー氏のアプローチは独特で洗練されている。
CIC全体をとおして、この独特なケース構造は私のお気に入りの特徴のひとつだ。ミドルケースのエッジを部分的に切り取ることで、レデラーはムーブメントをさまざまな角度から鑑賞できるようにしている。また裏蓋はネジではなく接着剤で固定されており、そのため修理が難しくなっているように思う。ただレデラーのチーム以外でこの時計を修理してくれる人がいるとは思えない。
ムーブメントには、限定8本のトリプル サーティファイド オブザバトリークロノメーターのみに刻まれる黄金のコンパスローズが施されている。そのほかの部分にも、美しい面取りやポリッシュ仕上げ、つや消し加工が施されているが、このような時計を選ぶ理由は仕上げの美しさよりも、そのクロノメトリー性能にあると私は思う。
文字盤側に目を戻すと、ひとつのインダイヤルの内側に経度と緯度の3つの座標が刻まれていることに気づくだろう。この背景には、オリジナルのCICにまつわる物語がある。初期のころ、レデラー氏はスイスの法的要件である公式認定を受けていないにもかかわらず、自身の時計を“クロノメーター”と呼んだことで批判を受けた。しかし、彼がこの時計をクロノメーターと主張するには、それなりの理由があった。採用された脱進機の技術的特性や、彼自身のテストで精度基準を満たしていたことなどが挙げられる。ただしこの時計のテストは非常に難しかった。ダブル輪列と4つのルモントワールを備えた構造のため、ほとんどの標準的なテスト装置では正確に測定することができなかったからだ。
この課題をいちど解決したあと、レデラー氏は新作ウォッチのテストをさらに高い次元へ引き上げることを決意した。フランスのブザンソン、ドイツのグラスヒュッテ、そしてスイスのジュネーブにあるクロノメトリー検定所(Observatoire Chronométrique)でそれぞれの時計をテストしたのだ。各時計には、これら3カ所の検定所から発行されるテスト証明書が添付されており、レデラー氏がこのプロジェクトに込めた自信がさらに裏付けられている。当初の計画ではこれらの地名をすべて文字盤に記載する予定だったが、グラスヒュッテという名称は保護対象であり、その計画が問題を招く可能性があると指摘を受けた。結果として、この方法は彼の業績を控えめかつ洗練された形で誇示することとなった。
よりシンプルで視認性の高い針のデザインなど、ほかにも素晴らしいディテールや改良が施されている。針は美しい青焼きが施された2ピース構造で、手作業で曲げられている。ただこれらのデザインにも細かな工夫が込められている。分針の内側にはポインターがあり、6つの目盛りで構成された特別なスケールを指し示す。この目盛りはそれぞれ10秒間隔を表しており、ルモントワールの機構によって針は10秒ごとに動き、そのスケールに正確に一致する。
レデラーの卓越した時計技術はそのままにデザイン面での一貫性が増し、ブランドの魅力が高まっている。だが新作のトリプル サーティファイド オブザバトリークロノメーターは限定8本のみの製造で、価格は14万6000スイスフラン(日本円で約2460万円)と高額だ。レデラー氏は“ゆっくり、着実に”を信条としており、この新作が彼の数十年にわたる経験を基にした新たな世代のレデラーウォッチの幕開けとなることを期待している。
詳しくはレデラータイムピースをご覧ください。
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