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Business News 香港でスイスウォッチが”またもや”低迷

スイスの対香港輸出が6ヵ月連続で減少し、アメリカがスイスにとって最大の輸出市場になろうとしている。

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10月に発表された9月のスイス時計輸出データは、通常であればスイス時計業界のエグゼクティブたちの間に力強いハイタッチを引き起こしただろう。

 9月の輸出は前年同月と比べて10.2%増加した。レポートではスイスの輸出先トップ11市場のうち10市場で増加となり、そのうち8市場では2桁の増加となった。スイスのトップ30市場のうちでは22市場で増加となった。

 だがこんなに素晴らしかったにもかかわらず、9月の輸出レポートをめぐってハイタッチはほとんど見られなかった。 それはスイス時計のトップ10市場の中で唯一減少となった市場が、最も重要な市場、香港であったからだ。

 香港はスイスにとって最大の腕時計輸出市場であり、そこで現在起きている政治的混乱は香港の街におけるスイス時計のセールスに打撃を与えている。9月のスイス時計の輸出は4.6%落ち込み、6ヵ月連続減少を記録した。過去4ヵ月のうち3ヵ月、香港は輸出先ランキングでアメリカに負け第2位に陥落している。香港は世界へ向けたスイス時計輸出の足を引っ張っている。スイス時計の輸出は9月を通じて金額ベースで2.8%増加しているのみだ。

全世界の小売店が売り上げを伸ばしている中、香港の小売店は苦戦している。

 予想外のスランプは、スイス時計業界のトップたちの懸念を増大させている。最もよく売れているスイスの高級ウォッチブランドの一つのとあるCEOは、9月のデータが発表された日、「これは一時的なものではありません」とHODINKEEに対して語った。「どの市場にも多少の浮き沈みはあります」そして「今回は、それとは違います」と話した。彼は20週連続でこの旧イギリス植民地を苦しめている、暴力的な政治デモには終わりが見えないとする香港からの報道に同意した。

 追い詰められた香港のキャリー・ラム(Carrie Lam/林鄭月娥)行政長官による、経済は後退に陥っているという発表がスイスを動揺させたことは間違いない。懸念は、香港の低迷が現在3年目となるスイス時計の回復を邪魔しかねないことだ。


混乱するショッピングの中心地

香港はその面積的大きさに比べて巨大なウォッチ市場であり、オメガやロレックスといったブランドがそれぞれ数十もの公認小売店を有している。

 人口700万の非常に小さな都市である香港は、ショッピングの一大中心地であるため、スイス時計のセールスチャートでおおむねトップである。異国情緒豊かな場所で、高級ブティックが豊富で、消費税がなく、世界中から旅行者が押し寄せる。(香港が経済的に身の丈以上の成績を収めている証しの一つとして、Geneva School of Business Administrationの調査によると、2015年にはロレックスとオメガの公認小売店がそれぞれ64店と52店あったことが挙げられる。両社とも2015年以降、小売ネットワークを縮小している)。

 毎週行われる政治デモが香港の街の小売店に打撃を与えている。Bloombergのレポートによると 8月に観光客は40%減少し、小売販売は23%の落ち込みを記録した。ウォッチとジュエリーは特に大きな打撃を受けた。

香港の不況。2019年1月から9月までスイス時計の輸出額(単位:百万スイスフラン)出典:スイス時計協会

 おまけに、スイスは香港のスランプがウォッチビジネスに及ぼす損害について、まだ生々しい記憶を持っている。2015年1月、香港は深刻なスランプに陥った。スイス時計の対香港輸出は25ヵ月連続で減少した。結果としてウォッチの対外輸出は2015年には3%、2016年には10%落ち込んだ。その後、香港が持ち直すとスイス時計業界も持ち直し、2017年は+3%、2018年は+6%となった。

 だが今回も同じように香港の動向にスイスのウォッチ業界の動向が続くとはかぎらない。

 香港は2015~16年のスランプの大きな要因だった。対香港輸出はそれぞれ23%と25%下落したが、その他の要因も原因となった。急激なスイスフラン高、中国における汚職取り締まりと景気減速、ヨーロッパで観光業に損害を与えたテロの恐怖、アメリカでのスイス時計販売の低迷などだ。

 当時と現在の大きな違いは、スイスにとって第2位と第3位の市場であるアメリカと中国が、2015~16年のスランプ時には助けとならなかったことだ。どちらの市場も、香港の落ち込みの深刻さとはほど遠いものの、それぞれ落ち込んでいたのだ。現在は、どちらの市場もはるかに強力だ。だが両市場は、香港の再度の長期低迷の間中、回復を持続させ得るほど十分に強力だろうか?

 香港において修羅場が展開する中で、注目すべきことをいくつか挙げよう。

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中国人買い物客

 中国大陸からの買い物客は、スイス時計セールスの伸びの原動力であり続けている。彼らは世界中でのスイス時計販売シェアの最大部分を占めている(モルガン・スタンレーは、スウォッチグループとリシュモンのウォッチセールスの40%以上を中国人が占めていると推定している)。中国人買い物客は現在、香港を避けているが、中国本土やアジアのあちこち、それからイギリスなど通貨安のためお得に買い物ができる、ヨーロッパの特定の市場といった場所で買い物を続けている。

香港は経済的に身の丈以上の

成績を収めている。

2015年にはロレックスは64、オメガは

52の公認小売店を香港に有していた。  

 2019年の最初の9ヵ月間を通じて、スイス時計の対香港輸出は6%減少した。だが対中国輸出は15%増加した(通年の対中国輸出は、2015年と2016年はそれぞれ3%と5%の減少だった)。アジアの主要市場でも年初来、輸出は上向きとなっており、対日本では+25%、対シンガポールでは+13%、対韓国では+4%だ。

 またブレグジットへの不安で通貨安となっているイギリスへの輸出は+16%となっている。


アメリカ市場の回復

高級ウォッチの販売はアメリカで伸びている。アメリカではスポーツウォッチやロレックスのようなブランドが一番人気だ。

 アメリカへのスイス時計輸出は2015~17年の間、3年連続で減少した。だがアメリカは主に強力な経済のおかげで現在、持ち直しモードにあり、輸出は2018年に金額ベースで8.2%上昇し、今年の9月までで9%上昇した。 

 我々が最近、報告したようにアメリカでの高級ウォッチの小売販売が好調であることを示すNPD Groupのデータは、アメリカでのスイス時計の回復を示すスイス時計輸出データを裏付ける。これが継続すれば、香港でのセールス減少の影響を和らげる助けになるだろう。

香港の低迷は、現在3年目となる

スイス時計の回復の妨げとなるか?

 スイスのデータは、香港の低迷が続けば、スイスの輸出市場第1位の座をアメリカが香港から奪うであることも示している。今年最初の9ヵ月間は、香港は金額ベースで3億2800万スイスフラン(約370億円)の差でアメリカに勝ってトップ市場であり続けている(20億7000万スイスフラン<約2318億900万円>VS17億4000万スイスフラン<約1948億5400万円>)。だが、すう勢は明らかだ。6、8、9月は、輸出においてアメリカは香港を上回っている。

 HODINKEE ラジオ エピソード53で我々が取り上げたように、過去40年にわたって香港とアメリカが輸出市場第1位の座を4回(1982年、1988年、1998年、2009年)入れ替わっていることは注目に値する。1988年以降、この2つの市場はおよそ10年ごとに順位を交替してきた。歴史的観点から見ると、この周期は予定どおりに継続中であり、アメリカがまさに1位の座を取り戻そうとしているところだ。今に分かるだろう。

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グレーマーケットへの取り組み

リシュモングループ(カルティエ、IWCなどを擁する)は在庫買い戻しを通じて、グレーマーケットセールスとの闘いの最前線にいる。

 香港の2015~16年のスランプでは、販売業者のウォッチ在庫が憂慮すべきレベルにまで膨らみ、グレーマーケットに商品があふれる事態となった。

 グレーマーケットを一掃するため、リシュモンは周知のように苦渋の決断をした。3億500万ドル(約333億9000万円)を費やして在庫(大部分はカルティエのウォッチ)を買い戻し、グレーマーケットに流れないようにしたのだ。

 それ以降、リシュモンは新たな在庫管理システムを導入し、香港やその他の主要市場への出荷が販売を上回らないようにしている。

 一方、スウォッチグループは今年、グレーマーケットとの闘いに本格的に乗り出すことを発表した。同グループは2019年前半期に少なくとも1億スイスフラン(約112億円)をグレーマーケット対策に費やしたという。

 香港の突然のスランプは業界の2大ウォッチグループ、およびスイスの業界全体が、香港における避けられないレベルの在庫の高まりに、いかに対処するかを検証する機会を与えるだろう。


不確かな時代

 スイス中の誰もが予測し得ないことは、香港が1997年に英国から中国へ返還されて以来、最悪の政情不安が今後も継続するかどうかだ。あるいは、27年間ぶりの景気減速に陥っている中国が、今後も消費者支出を堅調に維持しスイスの助けになるのか? もしくは、専門家が記録的な景気拡大の最終段階にあると唱えるアメリカが、スイスを救うかどうかも同じように誰にも分からない。スイス時計業界の今後が好転するか悪化するかは、どちらに転ぶか分からない状態である。

 スイス時計業界の経済状況に一年中、暗い影を落とす地政学的/経済的不確実性(貿易戦争、フランスの黄色いベスト運動、ブレグジット、中国やドイツ、その他の国における景気減速)のリストに香港を加えるべきだろう。