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One to Watch フランスの若き時計師がいかにトゥールビヨンをクールに仕上げるか

すでに1本のスースクリプションウォッチが動き出した25歳のレミー・クールズ。これからが本番だ。

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オリジン・ストーリー

見てのとおり、名前までかっこいい。若干25歳のフランス人時計師レミー・クールズ(Remy Cools)は、今最も注目されている新進気鋭の独立系時計師のひとりだ。彼が最初に多くの人の目に留まったのは、2018年のF.P.ジュルヌ ヤング・タレント・コンペティションにて、彼のメカニカ テンプス ペンデュレット トゥールビヨン デスククロックとともに優勝したときだった。

 それから4年経ち、彼はちょうど初の腕時計シリーズであるトゥールビヨン・スースクリプションを完成させたところだ。時計づくりの現場に足を踏み入れる前から、彼はこの世界に入ることを決めていた。

 「11歳の頃から時計職人になりたいと思っていた」と彼は言う。ある日、叔父に連れられてジュウ渓谷にあるスイスメーカーのオープンハウスに行き、見学が終わると家に帰って両親に「時計師になりたい」と伝えたそうだ。わずか11歳の息子に、両親は彼が考えをすぐに変えるだろうと思ったという。しかし、彼の決意は揺るがなかった。

Independent watchmaker Remy Cools

Remy Cools

 彼は15歳の時、スイスの時計産業の中心地ラ・ショー・ド・フォンと国境を隔てたフランス・モルトーにある名門時計学校に入学を希望した。

 やがて彼はモルトーのリセ・エドガー・フォールを卒業し、そこで多くの新進気鋭のインディースである、以前記事でも紹介したシリル・ブリヴェ・ノード(Cyril Brivet-Naudot)テオ・オーフレ(Théo Auffret, 後者は2018年にF.P.ジュルヌのヤング・タレント・コンペで入賞もしている)といった若い時計師たちと肩を並べている。クールズ、ブリヴェ・ノード、オーフレはいずれもフローラン・ルコント(Florent Lecomte)氏の弟子であり、彼もまた自身の名を冠した時計を製作したことで、頭角を現し始めている。

我々が彼を好きな理由

レミー・クールズのスースクリプション トゥールビヨンは、6時位置に60秒トゥールビヨンを搭載している。

私が時計師としてのクールズに惚れ込んだきっかけをお話しよう。あれは、F.P.ジュルヌの目に留まったあのトゥールビヨン デスククロックの製作工程を話し始めたときだった。

 最初は学校の課題で、古い目覚まし時計のムーブメントをベースにして時計を作ることになっていたようだ。しかし、彼には別のアイデアがあった。

 通常の目覚まし時計のムーブメントは、品質が悪すぎて使いたくなかった、と彼は言う。「だから、完全な手作りで時計を作ることにしたんです。先生にも、“じゃあ、部品を全部手作りするのか”と言われました。先生には、なぜそんなことをしたいのか理解できなかったようです。でも、私はその獣道を行きたかった。先生はそれを快く思っていなかったのせすが……」

 彼は「こんなやり方はありえない」と言わんばかりに微笑み、そして淡々と話を進めていくのである。

remy cools desk clock tourbillon

2018年にF.P.ジュルヌのヤング・タレント・コンペティションで入賞したクールズのデスククロック トゥールビヨン。

 学校では習わなかったことを独学で勉強しながらはじめて時計づくりをしたのは、DIYのようだったとクールズは言う。そして結果として、この若き時計師のDNAをはっきりと確立させた時計が完成したのである。

 2018年に学校を卒業した彼は、グルーベル フォルセイに身を置き、ハンドメイド1を手がけた。高級時計会社が手がけたこのプロジェクトの大胆さは、まさにその名前に表れている(グルーベル フォルセイは、完成までに約6000時間を要し、エンドバイヤーが約100万ドルを支払うと思われる完全ハンドメイドの時計だ)。クールズは、グルーベル フォルセイで多くのことを学んだ。

 「学校を卒業したときは、多くのことを学んだと思うものだ」と彼は言う。「しかし、工房で働くようになると、まだまだ学ばなければならないことがたくさんあることに気づきました。学校で時計づくりの技術を学べても、自立する方法は学べないのだ」と。

  2019年、クールズはグリューベル フォルセイを離れ、ジュネーブから南に約25mile離れたアヌシー湖畔で工房を構えた。彼にとって、それは自然な次なるステップのように感じられた。

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 彼は言う。「私は常にあらゆる意味で自立していたと思う。最後の2年間は、スイスのコレクターのもとで、懐中時計やクロックの修復の仕事をしていた。学校に行ってから作業台に行って修復作業をするものだから、1日がとても長かった。勉強が終わったら独立することが、常に頭のなかにあった」と。

 新しい工房から生まれる最初の時計を構想するとき、彼は近代時計学の創始者たちからインスピレーションを得たという。

 「私にとって、時計製造の最も偉大な時代は18世紀と19世紀のフランスです」とクールズは語る。「アブラアン-ルイ・ブレゲやフェルディナンド・ベルトゥーの作品は、ピュアでシンプル。完璧に仕上げられています。仕上げも言葉を失う素晴らしさです」

 シンプルにデザインすることは、とても複雑なことであると、彼は付け加えた。

 結果として、6時位置にトゥールビヨンを搭載し、まさに機械式の目玉焼きのような美しいタイムオンリーウォッチが完成したのだ。

 彼にとって、初めての腕時計にトゥールビヨンを採用することは、当然の選択だった。もちろん、学生時代にトゥールビヨンの腕時計を作っていたこともあるが、それ以上に、彼はこの複雑な作りを愛していたのだ。

 「最も美しい複雑機構です 」と彼は言う。「時計のムーブメントのなかで、小さな部品が腕の上で回っているのは信じられなく見事なのです」

 彼は、学生時代にトゥールビヨンを完成させているが、スースクリプション トゥールビヨンの開発過程でいかに多くを学び、向上させたかを記している。

remy cools souscription tourbillon

 「毎日が勉強です」と彼は話す。「ひとりで作業台に向かっているときは、自分の望むことを実現するために努力しなければなりません。すべてが発見でした。部品の製造、組み立て、セッティングの工程を学ぶのは複雑で、そのすべてと向き合い、重ねた失敗から学んだのです」

 スースクリプション トゥールビヨンは、ブラックポリッシュ、サーキュラーブラッシング、サンドブラストなど、彼が多くの技術を駆使し、全体的に精巧な仕上げを我々にみせる。なかでも歯車の製造は最も困難な作業だという。歯車の歯をひとつひとつ手作業で削り出し、そのたびに旋盤で何百回も加工する必要があるのだ。その数は、2番車だけでも80本。もし、砥石で削り終えても、面取りやサーキュラーグレイン仕上げを失敗してしまったら? そのひとつのミスで、すべてをスクラップにして、また最初からやり直しだ。

remy cools souscription tourbillon caseback

クールズのスースクリプション トゥールビヨンのケースバック

 3時位置の一般的なリューズの代わりに、彼は時計の裏蓋におもしろい巻き上げ機構を採用している。彼は、1920年代のジャガー・ルクルトなど、ヴィンテージウォッチでこの仕掛けを見た記憶があると言い、彼が実装したものはこれを進化させたものだ。ひとつのリューズではなく、ふたつのリューズを使用している(ひとつはムーブメントの巻き上げ、もうひとつは時刻の設定だ)。

 スースクリプション トゥールビヨンは、厚さ15.5mm、40mm径のステンレススティール製ケースを備えている(その多くはドーム型のサファイアクリスタルによるものだ)。

 彼のスースクリプション トゥールビヨンは、8万5000ユーロ(約1210万円)で、9本すべてが購入され、納品された。当初は1本の時計を仕上げるのに4、5ヵ月かかっていたが、作業効率が上がるにつれて最後の2本は1、2ヵ月で納品できたと彼は言う。

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次に来るもの
remy cools tourbillon souscription

若干25歳にして、9本のスースクリプション トゥールビヨンを完成させたクールズは、まさにこれからが本番だ。

 次のステップはすでに進行中だと彼は言う。スースクリプション トゥールビヨンの最終進化形だ。次の作品が、最終プロダクションのトゥールビヨンとなるだろう。スースクリプション トゥールビヨンのDNAを受け継ぎつつ、より薄く、より小さく、まだ公にできないほどの変更があることを彼は約束している。

 現在彼が時計職人として最も苦労しているのは、ベンチでの仕事だけでなく、若いビジネスの商業的、マーケティング的、管理的側面にも焦点を当てなければならないことだ。今でさえ、HODINKEEの編集者から送られてくるメールへの返信から、面取り、ポリッシュまで、すべて彼が行っているのだ。

 「レストランみたいなものです。普通は、料理を作る人、サイドメニューを作る人がいて、フロントにはホストがいて……という具合に。独立するということは、ひとりのシェフがそのすべてを担当するようなものです」

 挑戦の連続だが、彼が次に何を作るのかが楽しみだ。

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レミー・クールズの詳細については、remycools.comをご覧ください。