Second Opinions テキサスをテーマにしたウブロの新作に、テキサス人の私が言いたいこと

　成長するにつれて自分の住んでいる州に関する、公平であったり不公平であったりする批判をよく耳にするようになった。テキサスは決して完璧ではないし（完璧な場所などない）、私自身が物や人がテキサスにふさわしいかどうかを判断する立場にあるとは思っていない。また、決してそうなりたくもない。しかし、2021年末にウブロからのテキサスをテーマにした時計のリリースがメールの受信トレイに滑り込んできたとき、私は自分の故郷のために声を上げなければならないと思ったのだ。

　ここで単刀直入に言おう。この時計はテキサスとはまったく関係もないものだと思う。

　ダイヤルとストラップがブルーのカモフラージュ？　痛くなるほど目を丸くした。ローターのレッド、ホワイト、ブルーのプリントは安直に大国アメリカやチリでさえも表現できるのだろう。12時位置のロジウムメッキのひとつ星？　なるほど、それなら少しは理解できる。しかし、この5角形の星はテキサス州を表現するのと同様に、ガーナやセネガル、あるいは北朝鮮をも表すのだと私は言いたい。テキサスは非常に広大で多様性のある地域なのにウブロは画一的な路線を取ることで自らを損なってしまった。テキサスの人々が抱く故郷への限りない誇りと関わり、それを語る代わりにウブロは保守的な行動をとり、コミュニケーションから完全に遠ざかってしまったのだ。

　ブルーセラミックのケースは好きだと言わざるを得ない。カラーセラミックはいつだってクールだし、44mmの直径は“テキサスではすべてが大きい”という古い口語を連想させる遊び心に満ちている。しかし、ウブロが自社製クロノグラフキャリバーのUNICOではなく、ETAベースのHUB 4100ムーブメントを採用したことには失望した。人々はウブロの時計製造における実力をひどく過小評価しているようだ。この会社は2010年代初頭にBNBコンセプトを吸収したというのに。7753ベースのクロノグラフに220万円（税込）もの価格を設定したことはどうかと思う。ウブロが過去に発表したテキサスをテーマにした限定モデル、2013年のビッグ・バン フェラーリ テキサス（シックス・フラッグス〈※〉の乗り物になりそうな、これまた誇らしいテキサスの創造物）には、UNICOムーブメントが採用されていたのだからなおさらだ。

※シックス・フラッグス：北米各地にあるテーマパーク。本社はテキサス州グランドプレーリーにある。

　それでも、ウブロが私の故郷との関係を追求することをこの場を借りて称賛したいと思う。ロシアやオーストラリアよりも大きな GDPをもつにもかかわらず、テキサス州の時計市場はひどく未熟だ。多くの時計メーカーがニューヨークやカリフォルニアのような州を優先し、テキサス州をスキップするのは当然のことかもしれない。ウブロは現在テキサス州で2店の直営ブティックを運営しており、ヒューストンではブライトリング、オメガ、パネライ、タグ・ホイヤー、ダラスではオーデマ ピゲ、オメガ、パネライ、タグ・ホイヤーと共同で店を構えている。今年後半には州都のオースティンに3店舗めのウブロ直営ブティックがオープンする予定だ。これは大きな投資になる。

　そうなると、今回の時計に関連した決断はかえってよくわからない。ウブロはダラス・カウボーイズと関係があり、この時計のプロモーションに同チームの新人ラインバッカー、マイカ・パーソンズ（Micah Parsons）を起用することは理にかなっていると言える。しかしテキサス住人なら誰でもカウボーイズファンより多いのは、カウボーイズに我慢ならない人たちだということを知っているのだ。

　私は本当はウブロの時計が好きなのだ。アンチではない。昨年発表されたビッグ・バン ウニコ イエローマジックからは目が離せなかった。そして、ウブロとリチャード・オーリンスキーとの継続的なコラボレーションから生まれた作品は現在入手可能な時計のなかで最も審美的に興味深いもののひとつだと思っている。

　そのせいもあってとても残念だ。今回の時計はテキサス人であること（あるいはどこの出身であっても）についての根本的な誤解を示しているだけでなく、最近のウブロの成功をもたらしたものを歪めているとさえ言いいたくなるものだ。

　なぜならウブロの時計についてどう思うかにかかわらず、彼らの時計は美意識や素材、技術など、どう考えてもおもしろいものばかりだったからだ。ビッグ・バン カモ テキサスはウブロの実力を知っているだけに、こんなことを言いたくはないが、退屈に感じられるのだ。

　ウブロのテキサスに対するコミットメントには拍手を送りたいが、私の故郷であるテキサス州をもう少し深く掘り下げてみることをおすすめしたい。『炎のテキサス・レンジャー』の再放送を見るのはやめて、DJスクリューとチョップド＆スクリュードのヒップホップの世界を紹介させてほしい（そういえば、この時計のパープルのバージョンがあったら、もっともっとおもしろいかもしれない）。月刊誌『テキサス・マンスリー』の定期購読を申し込んであげよう。マシュー・マコノヒーの自伝『グリーンライツ』も送ろうか？

　あるいはただ遊びに来るだけでいい。ブリスケットのステーキを食べながら、テキサスをテーマにした次の時計のアイデアを一緒に練ることもできる。私がご馳走しよう。