trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Hands-On リシャール・ミル RM UP-01、世界最薄時計の装着感を実機レビュー

190万ドル(日本での税込予価2億4750万円)もするけれど、厚さはわずか1.75mm。しかも、マジックテープ付きだと知っていただろうか?

ADVERTISEMENT

Photos by Tiffany Wade

リシャール・ミルのRM UP-01を試着しに行くという任務の前に、何が薄型時計を薄型たらしめているかについて、私が理解していたことを薄型時計に当てはめることができた。

 例えば、ジャン・アントワーヌ・レピーヌ(Jean-Antoine Lépine)が階段や隅々まで行き届いたタウンハウスではなく、オープンな間取りのランチハウスのように、なるべく建物を1階建てにする構造を採用し、時計を薄くしたことは知っていた。そして超薄型時計の先駆者として、ジャガー・ルクルト(Cal.920)とヴァシュロン・コンスタンタン(Cal.1003)がいることも知っていた。

 時計を薄くするためのマイナーな技術として、金やダイヤモンドのインデックスを使わずにプリントインデックスにすることや、主ゼンマイの香箱をぶら下げることと、またはぶら下げないことを、これがどういう意味であるかは知らずとも、大きな工夫のひとつであることは知っていた。また時計教室に通って、講師に掛からない香箱と掛かる香箱を見せてもらい、その違いを報告することを忘れないようにしたい(超薄型時計の歴史については、こちらをご覧いただきたい)

thin watch

 そういえば、リシャール・ミルのRM UP-01が今年7月に登場して世界最薄時計となる以前は、ブルガリ の オクト フィニッシモ ウルトラが1.8mmで記録を保持していたことも知っていた。かわいそうなのは、2022年3月に登場したばかりで、その(薄さにおける)王座が短いことだ。 それ以前の最薄時計は、2018年に登場したピアジェのアルティプラノ アルティメート コンセプトの厚さ2.0mmだった。

 私は薄型の時計が好きだ。話すときに身振りが多く、いつもベゼルを玄関やカウンターや犬の頭にぶつけてしまうような気がするからかもしれない。私はジャガー・ルクルトのマスター・ウルトラスリムを数週間つけていたが、その薄さは見事なものだった。一般的に、薄い時計は厚い時計よりも美しく見えるもので、多くの愛好家が同意するはずだ。私はこれまで、薄い時計を作るのが難しいということ自体ををあまり意識したことがなかった。しかしそれは、ニューヨーク57丁目にある リシャール・ミル のブティックを歩くまでの話だ。それはまるで私の思い描く乗ったこともないプライベートジェット機の雰囲気と、そのプライベートジェット機がまったく同じであるような感覚だった。

 地下鉄を降りたばかりの私はその気持ちがさらに高まり、乗客たちにこう言いたくなった。今日は190万ドルの時計を試着しているんだと。それに対し、ここニューヨークのRトレインからは、おそらく次のような反応が返ってきたことだろう。お嬢さん、誰がそんなこと気にするんだ? でも、私は気にする。私はこの日のために、黒のシフトドレスにメタリックのサンダル、そしてオフホワイトのルーサイトフープイヤリングを身に着けていたのだから。このスタイリッシュに薄い時計に恥をかかせないように、もっといえば、この時計に負けないようにいい格好をしたかったのだ。

 敷居をまたいで試着スペースに入ると、幾何学模様のレザーチェアにエッグノッグ色のカーペットがマッチしていた。柔らかい黒い布を敷いた黒いトレイにはRM UP-01が横たわり、グレード5チタンのオダリスクが、RM 40-01 スピードテイルとRM 72-01に挟まれて、存在感を見せつけながら私を待ち受けていたのだ。こりゃあ大物だ。私はそんな感覚を覚えた。そして私はいま、190万ドルの時計を身につけようとしている。お金はなんのためにあるのだろうかと疑問に思いながら。

 まず何かサインをしなければならないのかと思ったが、そんなこともなく、私は単にそれを持ち上げ、自身の控えめな手首に紹介することを許されたのだ。重さはストラップを含めて約30g。ホットケーキ1枚、つまり4分の1とほぼ同じである。ストラップはシンプルなマジックテープのラバーストラップで、複雑で凝ったものはない。これがよかった。テバスを身に着けるのと同様、190万ドルの時計をつけるのは楽しかった。

 その時計は、側面が丸みを帯びたクレジットカードのような形をしていた。マライカ・クロフォードもキリングタイムポッドキャストでそうコメントしていたが、決して私がその言葉を盗んだのではないと彼女も同意してくれるはずだ。なぜなら、そのようにしか見えないのだから。右下には、フェラーリのロゴとして世界的に知られている跳ね馬が描かれている。この馬のマークが入ったことで、ある種の混乱を招いた。リシャール・ミルとフェラーリがF1レースでパートナーシップを結んでいることは周知の事実であっても、そこに何の意味があるのか、誰も理解していないようなのだ。

 フェラーリは、このプロジェクトとどんな関係があるのだろうかと尋ねると、1年ほど前、時計が完成へと一歩ずつ確実に足を進めているが、まだ完成していないという段階で彼らが参入してきたのだという。ロゴの刻印の仕方や、針やストラップのデザインなどにも意見を出してくたそうだ。しかし正直なところ、私はまだよくわかっていない。おそらく、まだ理解するべきでもないはずだ。フェラーリのロゴが、ボタンになってミニッツリピーターを作動させ、時間を知らせてくれるとしたら、もっと理に適っているかもしれない。自由な発想でいこうじゃないか。RM UP-02、フェラーリロゴのミニッツリピーターが鳴る。これなら、200万ドル(約2億9745万円)でも払いたい。

thin watch and instrument

 手首に装着してみると、51mm×39mmのチタン製ダイヤルには、大きく分けて5つの見どころがあることがわかる。まず、時計の上部、中央にある小さな時刻表示。そして、右上にある小さテンワ。どちらも無反射コーティングを施したサファイアクリスタルの下にある。上下とも左隅はリューズで占められている(そして、右下にはそう、フェラーリのロゴが)。フェラーリのロゴはないほうがいいのでは……。いや、この時計には必要なのだろう。クレジットカードのように見えるし、クレジットカードにはロゴが必要だ。いざというときに、なんとなく安心できるのではないだろうか。フェラーリのロゴは、キャピタルワンやチェイスサファイアに劣らない、いや、それ以上の安心感を与えてくれる。

 リューズに話を戻そう。この時計には、携帯用のステムがついていて、それを使って巻き上げなければならない。これをズルいと言う人もいる。しかし私は、赤いハンドルと銀色の先端を持つブラックチタンの小さな工具を、一方のリューズに差し込むことで巻き上げとセッティングを選択し(“w”または“h”)、もう一方に差し込むことでこれらの機能を実行するという、魅力的な付加価値を発見した。巻き上げや時刻合わせの際に鳴るクリック音は、とても心地よく、しっかりとした音だった。しかし、このアイテムを持っていることで、どのような不安が生まれるのか想像がつかない。

 私はその腕時計を身に着けて部屋の中を歩き回った。いい時計を身に着けたときの心地よさは、手首にかかる金属のひんやりとした重みに由来することが多いが、この時計は、その軽さからも同様の幸福感、さらには静かな力強さを感じることができた。なぜだろう? 私は190万ドルのリシャール・ミルの時計をつけている。しかも、記録的なハイテク製品だという純粋な反応を、その体験から切り離すことができなかったのだ。

 この時計を、自分が思っていたよりも私はずっと気に入ったことは確かだ。リシャール・ミルは、テニスやマンモスの狩猟をしながらでも装着できるような高性能な時計を作るメーカーである。しかし、美学的な観点からみて、典型的なリシャール・ミルの時計は、2台のロボットに守られているロボットのように見える。最も広く見られるRMの作品には、あまり魂がこもっていないようだ。しかし、これは必ずしも悪いことではない。ラファ・ナダルは魂を身につけてテニスをしたいと思うだろうか? それとも感じられないものを身につけていたいだろうか。明らかに後者だろう。正直なところ、典型的なリシャール・ミルの時計は、私が所有することを空想しながら見つめるものではない。

 リシャール・ミルのRM UP-01については、また別の話だ。ワンダーウーマンの弾除けカフスの女の子っぽくないバージョンというか、まだ発明されていない一人乗りの宇宙船にあるダッシュボードのようであった。好きかどうかはわからなかったが、間違いなく引かれたし、嫌いではなかった。

face of thin watch

 そこで写真を撮っていたティファニー・ウェイドに「この時計、つけてもらえますか」と声をかけた。ヌードカラーのマニキュアを塗り、シンプルなブラックビーズのブレスレットを身につけていた彼女にも、その時計はよく似合っていた。そのとき、私はこの時計を概念ではなく、モノとして見ることができたのだ。

 私たちは、自分たちがスタイリストであるようにこの時計について話し合った。ジーンズとTシャツにブーツが似合うだろうと。あるいは、黒のカクテルドレスにヒールに。ランニングにもぴったりだ。実際、この時計は走りながらでも着けられる。最近の記録保持者であるブルガリやピアジェとは異なり、ムーブメントがケースに内蔵されておらず別体なので、ある程度の衝撃には耐えられる。サントロペに停泊中のヨットの側面から落としても安心な10m防水ではあるが、外洋に落としたら大変なことになる。

ADVERTISEMENT

 この時計は、高価なトラックスーツに最もよく似合うということで意見が一致した。

 私はマジックテープを外し、腕時計をロボット仲間たちとともに小さなベッドに戻した。「あなたは彼らとは違う」と私は思った。「魂があるとは言えない。でも、クールだ」

 私は、未だにこの時計のことを思い出す。台の上に置いてあるのが見える。自分の腕にも。そして、ティファニーの腕にも。時刻表示とリューズだけだと、どんな風に見えるのだろう。フェラーリのロゴがそこにあることが重要なようだから、おそらく知ることはないが。

back of thin watch

 先日、マーク・カウズライヒと超薄型時計について話をした。彼は、超薄型時計を作るのはチキンゲームのようなものだと、この時計の価値をさらに高めるようなコメントを残した。「強さとパワーが必要だが、その両方を手に入れるには通常、質量が必要だ。質量が減るたびにパワーは失われ、パワーを維持する方法を見つけたとしても、時計が強度を失い、パワーに耐え切れず崩壊するのは時間の問題だ 」と。問題は、その両方をどこまで減らしてもなお動く時計、そして着用に耐えられる強度を持つ時計を作ることができるかということなのだ。RM UP-01がその絶対的な限界であるように思えるし、誰もがそう考えたことがあるはずだ。

 とにかく、超薄型時計の歴史はそれを問い続けるものあり、この時計を身につけると、すべての思考が手首に伝わってくるような気がする。デザインとしての時計はすでに素晴らしい輝きを放っているが、文脈がそれをさらに強める。もし私がリシャール・ミルの社員だったら、この時計はセリーヌのトラックスーツに包まれているのが理想的だと主張するはずだ。

Shop This Story

リシャール・ミルの時計についてもっと知りたい方は、ブランドの公式サイトをご覧ください。