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One to Watch すばらしい詩の世界観を持つフレンチウォッチブランド、ビュシに出合った話

ヌセイマ・バラケット氏は、いつも手首に素敵な“詩”を乗せている。そして画面の前のあなたにも、そうして欲しいと思っている。

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オリジン・ストーリー

ヌセイマ・バラケット氏は、詩と時計のふたつに夢中になっている。その大好きなふたつを組み合わせる方法を真摯に見つけたいと思った彼女は、勤めていたアラブ世界研究所を2016年に退職し、自身のブランドであるビュシ パリ(Buci Paris)を立ち上げた。

 現在33歳のバラケット氏は、スイス北西部の国境に位置するフランスの時計産地、フランシュ=コンテで生まれる。ブラケ氏は、「時計は私の家族の物語ではありませんが、私は時計に囲まれて育ちました」と話す。「私の友人の多くはこの地域や周辺の大きな時計会社で働いていて、私はそこから影響を受けました」

Baraket

 時計は38mmのラウンドケース、針はリーフ針、インデックスはプレーンなステンレス製で、12時位置にダガー型のインデックスをひとつ備えている。さらに12時位置の下には、パリの通りにちなんで名付けられた“BUCI”の文字をシンプルなフォントで大きくプリントし、その下に小さく大文字で“PARIS”と書かれている。6時位置のすぐ上には、王冠のようでありながら、ロレックスのとがったコロネットよりも高いヘッドドレスのようなビュシのロゴがある。文字盤は紙のような質感でテラコッタのようなカラー、淡いピンクがかったオレンジベージュ、ダスティグリーンの3色で展開。また簡単に交換ができる植物性タンニンなめしのレザーストラップは、ブラック、ブラウン、タンの3色を用意しており、ストラップには詩人であるアポリネール(Apollinaire)やルーミー(Rûmi)が綴った詩の名言がエンボス加工され、こちらは表地か裏地どちらに加工するかを選ぶことができる。

Buci watches

 2022年4月に、クラウドファンディングのキックスターターでプロジェクトを立ち上げ、プラットフォームを通してオーダーメイドで時計を発表するプロジェクトを成功させた。バラケット氏は現在、オンラインと、パリでよく知られたふたつのリテーラー、プランタン・オスマン(Printemps Haussmann)とユニタム(Unitam)だけでコレクションを販売している。

 「時計市場では自分の存在を見出せませんでした」と言うバラケット氏。「時計はドライブやスポーツと結びついたものが多く、そのデザインや背景にあるストーリーを楽しむことはできても、決して私自身のストーリーにはなりませんでした」

 バラケット氏と私は長時間にわたり、時計の世界で働く女性として彼女が歩んできた道のりについて話した。本来であれば当然のように商品やブランドメッセージに焦点を当てるべきだが、このトピックには飽き飽きもしてきたところだ。「私のブランドが、ウォッチ・オブ・ザ・イヤー(LA MONTRE DE L'ANNÉE 2022)にノミネートされたことは本当にうれしかったです。パリにあるグーグルのオフィスへ招かれて、広々とした部屋に入ると、チューダーのCEOやオーデマ ピゲのCEOなど、スイスの巨大ブランドのトップが勢ぞろいしていたのです。あたりを見渡すと、女性の創業者は私ひとりでした」。そしてバラケット氏はさらに決意を固めたのである。「正直に言うと、自己紹介をしたとき、みんな私をスタッフと間違えていたんです。とても大変でした。でも同時に、すべてが初めてのことでしたが、やり遂げようとも思いました」

Buci watch
我々がなぜ気に入ったのか

バラケット氏から話を聞くまで私は、フランスの時計製作についてほとんど知識がなく、フランシュ=コンテという土地についても基本的には何も知らなかった。だが彼女が信念に満ちあふれた語り口だったため、私は彼女のロマンチックなフランス語の罠にまんまとはまってしまったのだ。

 時計はフランスで製造され、一部の部品はスイスから調達している。搭載する(ソプロッド社製の)ニュートン自動巻きムーブメントは、20%をフランス、80%をスイスのジュラ渓谷で生産し、またバラケット氏の時計は“モルトーにある、最後にして唯一の針のマニュファクチュール”と協力してつくり上げている。パワーリザーブは約44時間、ムーブメントは耐衝撃性に優れ、さらに時計には反射防止加工を施したサファイアクリスタルを採用している。

Buci watch caseback

 エンボス加工を施したストラップはブザンソンで製造。組み立てはミュルーズで、設計と開発はパリで行っている。

 このファーストコレクション、“Poetry of Time - Chapter 1”の展開は300本、価格は1185ユーロ(日本円で約17万円)だった。“時間があれば、自由もある”は、詩人ギヨーム・アポリネールの詩の一節であり、彼女がストラップのエンボス加工のために選んだものである。もうひとつ、同じく哲学的なルーミーが残したフレーズは、“この瞬間がすべてである”だ。

 私が初めてビュシを知ったのは、Instagramのページがきっかけだった。このページは、私がいままで見てきた、時計に特化したソーシャルメディアのページとは一線を画す美しさだった。まるで新聞の日曜版を補足するような、クリーンかつシャープな静物画だったのだ。「時計に目を向けたときに、時間に対する認識を変えたいと思っているのです。遅刻しているのか、それとも時間どおりなのかという点だけに注目をするのではなく、心に響く名言を見て、別の感情も感じられるようにしたい。私のビジョンは、時間を詩的に表現することです」

 時計は本のようなボックスに入っている。バラケット氏のアイデアは、このボックスを本棚に置いてもらうことだそう。「本を見るとセンチメンタルな感情になるはずなのに、時計のボックスともなれば捨てたくはないでしょう。ボックスを捨てずに取って置くことも、素敵な時計を所有する経験のひとつになってくれるはずです」

Buci watch box
次に来るもの

今月、バラケット氏はフランスのジュエリーハウスであるヴェヴァー(Vever)とパートナーシップを締結した。ヴェヴァーは1982年から休眠状態にあった、7代にもわたる家族経営のジュエリーカンパニーだ。フランスで作られた詩とグッズに特化したコレクションを展開し、ブランドの復活を果たした。ビュシとヴェヴァーは、それぞれのコレクションを並べて展示する。詳しく尋ねてみると、「両ブランドの共通点に着目して、商品を紹介します」とのこと。私はさらに詳しく聞くと「彼女のブランドにとても触発されました」とのこと。時代は変わっても本質は変わらない!

 「もっとリアルなミートアップを企画して、自分と同じ価値観を持つアーティストやさまざまな団体とパートナーシップを結びたいです」とバラケット氏は説明してくれた。「自身のブランドをスタートしたことで、自分の居場所を見つけることができました。これからも、詩がもたらす人と人とのつながりに焦点を当てたいと思っています」

Buci watch
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ビュシ パリについてもっと知りたい方は、ビュシ パリのウェブサイトをご覧ください。