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クロノグラフのパルススケールを使いこなすのはそれほど難しくない。しかし操作の仕方は、伝えるよりも見せるほうが簡単だ。ということで、第2回目となる今回もブランドン(Brandon)と私のコンビで、動画と記事でパルスメーターについて詳しく解説しよう(かわいいカップルだろう?)。我々が愛するいくつかのパルスメータークロノグラフを紹介する前に、ブランドンによる秀逸な映画のような1分間の映像をご覧いただきたい。
それまで私は待っていよう。
オーケー、ありがとうブランドン。さて、パルスメータークロノグラフの読み方はおわかりいただけただろうか。簡単だと伝えたが、どうだろう? “自分もパルスメータークロノグラフが欲しくなってきたよ”と思ったかもしれない。もうすぐバレンタインデーだし、心が欲しがっているのであれば、その声に耳を傾けたほうがいいかも。
パルススケールは20世紀に誕生したもので、本来は医師が患者の心拍を把握するためにクロノグラフに搭載したものである。現在ではむしろそのデザイン性のほうが重要視されている。見た目がクールで、時刻を表示する以外の付加価値、つまり仕事をこなすための道具だった時代を思い起こさせてくれるものを、時計マニアが求めているのだ。私は、これらのクロノグラフが今日、実用的であると主張したいわけではない。それらはただ美しい時計であり、バレンタインデーに求める理由はそれで十分ではないだろうか。
ヴィンテージのパルスメータークロノグラフの多くは、おそらく医師が心拍を測るために特注したものであるため希少価値がある。そのためパルスメーターダイヤルのロレックス デイトナや、パテック フィリップのヴィンテージクロノグラフは、ほんのわずかしか発見されないのだ。そして私が言っても仕方がないのだが、それらは私がこれまででいちばん好きなヴィンテージクロノグラフのひとつでもある。(6桁想定の)高額プライスであればなんとかなるとしても、それを探し出すというのが問題だ。
そんなヴィンテージパルスメータークロノグラフすらも超えて、胸が高鳴るようなサーモンピンクの文字盤にミネルバキャリバーを搭載した、モンブラン ヘリテイジ パルソグラフ リミテッドエディション 100のようなモダンなモデルも、私の心を揺さぶる。だがこれは2019年のもので、3万ドル(日本円で約324万円)、100本の数量限定品だった。ほかにも、90年代製のユリス・ナルダン モノプッシャークロノグラフに、ジュルヌ(Journe)氏のサインが入ったムーブメントを搭載したものや、(あえて言うなら)ヴァシュロン・コンスタンタン コルヌ・ドゥ・ヴァッシュ HODINKEEバージョンも私の心を躍らせてくれるかもしれないが、同様に手に入れるのが困難である。
しかし本稿では、もっと手軽に手に入る時計にフォーカスした。ということで、以下では私が思い焦がれるパルスメータークロノグラフのなかから、お気に入りを5本紹介する。どれもあなたの心を掴んで離さないだろう。
A.ランゲ&ゾーネ 1815 クロノグラフ
まずはランゲ 1815 クロノグラフからスタート。これがモダンクロノグラフの最高傑作だ、と言い切ることもできるのだが、今日の心暖まる目的のためには、ただ“現代最高のパルスメータークロノグラフのひとつ”とだけしておこう。2004年にランゲが、パルスメーターダイヤルを備えた1815クロノグラフを発表した。しかし何らかの理由で、つまり誰にでも間違いはあるが、ランゲは次の1815 クロノグラフ第2世代でパルスメーターを廃止したのだ。
やがてその過ちに気づいたランゲは、かつての恋人のもとに舞い戻るかのように、再び1815 クロノグラフにパルスメーターを備え始めた。2015年、ホワイトゴールドケースにシルバーの文字盤とブループリントを組み合わせた完璧ともいえるすばらしいブティック限定ウォッチとして始まり、そして2017年に、ランゲはWGとブラックダイヤルのコンビネーションによる、第3世代の1815 クロノグラフをローンチして我々の心を完全に取り戻したのである(Ref.414.028)。ブティック限定と同じく、この新しいリファレンスにはパルスメーターと、2015年に詳細をお届けした、アップデートが加えられたCal.L951.5を搭載。さらにランゲは2018年に、ブラックまたはシルバーダイヤルを持つピンクゴールドケースの1815 クロノグラフを発表。2018年、PGケースとブラックダイアルのバリエーションを紹介したとき、1815 クロノグラフの希望小売価格は5万300ドル(日本円で約550万円)だった。
私は1815 クロノグラフのどれに対しても胸がキュンとなるが、なかでも2004年から2008年までしか製造しなかった第1世代の1815クロノグラフがいちばん好きだ。1815 クロノグラフは、現代のクロノグラフ市場にセンセーションを起こした自社製クロノグラフであるダトグラフをスリム化した弟分だが、どちらも技術的に優れていることに変わりはない。
ランゲ 1815 クロノグラフの詳細については、当時発表されたばかりの1815 クロノグラフを詳しく紹介した記事をご覧いただくか、ランゲのウェブサイトをご覧ください。
パテック フィリップ 5170J&5170G
(流れ星に願い事を願うかのように)“現代最高のクロノグラフのひとつ”と早口で3回いえば、パテックはきっとあなたの前に現れるだろう。ランゲが1999年にダトグラフとそれに搭載された自社製キャリバーを発表したとき、スイス勢はこぞって開発に着手した。それから10年、パテックは初となる自社製Cal.CH29-535 PSを搭載したクロノグラフ、5170Jを発表した。
前作の5070と比較すると、よりスリムで繊細なデザインとなっており、力強くてモダンな5070というよりもパテック ヴィンテージクロノグラフのRef.130を継承しているような印象を受ける。5170は時計がより大きく、より存在感を放ち、より複雑になっていった、20世紀最初の10年間の時計業界に反発したような、審美性も感じた。5170は39mmというサイズ感に角型のプッシャー、カラトラバに似た流線形を描くケースなど、クラシカルなスタイルのほか、5170Jに採用されたアプライドローマ数字とパルスメーターは、ひと昔前のものを感じる。その3年後に発表したWGの5170Gでは、アプライドローマ数字をブレゲタイプに変更し、より心を揺さぶるものとなった。
パテックはブランド初となる自社製クロノグラフとして、これらのクラシカルな要素はあえてそう表現した、といえるような意図が感じられる。というのも現代の時計産業は、頑丈で、よりよく、早く、そして強さを求められる傾向にあるが、パテックは多くの場合、なおいっそういままでのやり方を踏襲していくという意思表示に感じたからだ。そのうちのひとつが、クロノグラフ市場における最高の手巻きクロノグラフを作ることである。5170はヴィンテージからインスピレーションを受けているのが明らかで、それはパルスメーターによって完璧に際立っていた。
2019年にパテックは5170の生産を終了し、以降5172に切り替わった。今日5170Jや5170Gは、絶賛人気を博す、時間表示しかないスポーツウォッチの何分の1くらいかで購入することが可能で、しかもこれらの時計のオリジナルの小売価格に比べてさらに割安で手に入る。その相対的な価値に、私の心はさらに豊かになるばかりだ。
5170Gについては、ヴァシュロン・コンスタンタンやランゲの手巻きクロノグラフと比較した“スリー・オン・スリー”記事で詳しく紹介しています。
ジャガー・ルクルト マスター・コントロール・クロノグラフ・カレンダー
パテックの5170とは異なり、ジャガー・ルクルトのマスター・コントロール・クロノグラフ・カレンダーは、JLCのカタログに掲載されている、1〜2世代くらいのモデルだと考えるのも無理はない。だが意外なことに、このモデルは2020年にメーカーが刷新したマスター・コントロールのラインナップのひとつとして追加され、それに加えて細かいディテール変更が行われたばかりだ。
マスター・コントロール・クロノグラフ・カレンダーは、コンプリートカレンダー(およびムーンフェイズ)とクロノグラフを組み合わせた、時計業界ではよく知られるコンビネーションだが、JLCではこれまで実現しなかったのである。マスター・コントロール・クロノグラフ・カレンダーについて言える最高に優れた点は、人気や誇大広告、大々的な主張や創意あふれる工夫など、現代の時計にありがちな弊害が一切ないといえるところだろう。ただ、すごくいい時計なのだ。
搭載しているフリースプラング式のCal.759は、コラムホイール・垂直クラッチ式のクロノグラフキャリバーで、シースルーバックからそのディテールを見ることが可能だ。またここではSSバージョンを中心に紹介しているが、ローズゴールドバージョンも用意している。サイズは直径が40mm、厚さが12mm。まじめで正確なピュリストであれば、もう2~3mmほど小さくてもいいのではないかと愚痴をこぼすかもしれないが、これらのスペックを合わせればバランスよく着用できることに気づいて異論は出ないだろう。
マスター・コントロール・クロノグラフ・カレンダーはもっと注目を集めてもいいかもしれない。しかしこの時計の魅力はそうではないところ、また注目を集めることを必要としないことでもある。伝統に触発されたわけでもなく、かといって頑丈で現代的でもない(それはJLC ジャイロトゥールビヨンに任せようではないか)、ただただ美しく複雑なドレスウォッチとして、発売から3年経ったいまでも、私の心を奪い続けているのだ。
ジャガー・ルクルト マスター・コントロール・クロノグラフ・カレンダーの希望小売価格は1万6300ドル(日本円で約172万円)です。詳細はこちらのハンズオン記事、またはJLCのウェブサイトをご覧ください。
オメガ スピードマスター CK 2998 リミテッドエディション
パテック、ランゲ、そしてジャガー・ルクルトは、気の遠くなるような価格設定であり、オート オルロジュリー(高級時計)の域にいることは間違いない。ただ幸いなことに、パルスメーターは宇宙に向けてつくられた時計にも備わっている。オメガは60年代から、パルスメーターを配したベゼルを装備したスピードマスターを、身近な選択肢として提供している。
現代の形では2018年に発売したスピードマスター CK 2998 リミテッドエディションが、その形を色濃く受け継いでいるといえるかもしれない。この限定モデルは、ある特定のヴィンテージスピードマスターを忠実に再現しているのではなく、単に見た目の美しさを追求したモダンなスピードマスターであったからこそ、成功を収めたといえる(ただそのなかにも非常に成功を収めたものもあるが)。シルバーの文字盤にブラックのインダイヤルは、もちろん“竹を食べる仲間”を連想させるクラシックな組み合わせだが、赤いクロノグラフ秒針と“Speedmaster”の文字が、完全にモダンな雰囲気を醸し出している。一方ベゼルにはパルスメーターがあるため、一般的なタキメーターベゼルに比べて黒の面積の割合が多く、より力強いスタイルにも見える。
もちろんこのスピーディーは2018年時点で、希望小売価格が5850ドル(日本円で約64万円)、数量2998本限定で発売していた。今となってはセカンドマーケットで、その倍近くを叩き出しているものもあるが、もしあなたが心から欲しいと切望し、根気強く探せば、いい個体に出合えるだろう。
2018年に発売したスピードマスター CK 2998 リミテッドエディションの詳細は、オリジナルのハンズオン記事からご覧ください。
P.S. 1938本限定で、2010年に発売した大好きなオメガ ミュージアムコレクション “MD's クロノグラフ”も紹介したかったのだが、市場で探して手に入れる際、より胸やけを起こさずにできそうなものとして、CK2998を選んでみた。
フェーラー コブ モノプッシャー
さて、楽しいことをしよう。Worn & Wound(ブルックリンを拠点とする、大小さまざまなブランドの価値あるタイムピースを提供する会社)のワインドアップ・ウォッチ・フェアのようなものに行くたびに、フェーラーはいつも最初に立ち寄る場所のひとつだ。楽しい気持ちにしてくれ、カラフルで、さらに手ごろな価格のフェーラーは小ロットで生産している。フェーラーのコブ パルススケールクロノグラフは、今回取り上げた時計たちよりも明らかにシリアスさに欠けつつも、パルスメータークロノグラフの歴史に思いを馳せながらうなずいてくれることだろう。鮮やかなブルーの文字盤にオレンジのアクセントが施されており、ランゲやパテック、JLCのしっかりと整ったルックスに比べてカジュアルなパルスメーターである。
なかには約62時間のパワーリザーブを持つモノプッシャークロノグラフムーブメントの、セリタ SW510を搭載。丸みを帯びたCラインケースは一見ずっしりとした印象だが、直径40.5mm、厚さ12mmという扱いやすいサイズだ(ラグからラグまでは44mm)。この形状は、初代の自動巻きカレラや特定のオメガ シーマスター クロノグラフなど、1970年代のイカした形状のクロノグラフを参考にしたように感じる。
フェーラー コブ モノプッシャーの詳細については、フェーラーのウェブサイトをご覧ください。
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