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Second Opinions スモールセコンドが9時位置にある時計は貴重な存在だ

ジャン・アントワーヌ・レピーヌ、本能と出会うとき。

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いつから始まったのかは定かではないが、ここ数年のある時期から、時計のデザインにおけるアシンメトリー(左右非対称)に惹かれるようになった。A.ランゲ&ゾーネ、F.P.ジュルヌ、ジャケ・ドロー、グラスヒュッテ・オリジナルなど、かつての奇抜なデザイン、つまり時計の表示がすべてオフセンターになっているデザインは、私にとってはだんだんと退屈なものになってきた。

 私が言っているのは、タグ・ホイヤー カレラ Datoでさえもできないような、ちょっと変わった腕時計のデザインのことだ。そう、9時位置にスモールセコンドを配置し、そこにクロノグラフも日付表示もパワーリザーブもない時計。最近はそういった時計にこっている。

  今や絶滅危惧種となってしまった時計だ。

 その昔、センターセコンドは希少価値の高いものだった。懐中時計の時代には、6時位置のサブダイヤルに秒表示を配するのが標準だったのである。今日、9時位置にスモールセコンドを配置する時計は、懐中時計のムーブメントを腕時計に適合させたり、クロノグラフムーブメントを時刻表示のみのキャリバーへと変更したものが一般的だ。

 これは、18世紀に活躍した時計師ジャン・アントワーヌ・レピーヌが、ムーブメントの巻真を12時より上に、スモールセコンドを同じ軸上の6時方向に配置することを標準化したことに由来する。また、ハンターケースを備えたポケットウォッチでは、リューズが3時位置、スモールセコンドが6時位置に配置されている。

 考えてみて欲しい。懐中時計のムーブメントを腕時計に搭載する場合、リューズと巻真を3時の位置に回転させ、秒表示を9時位置に配置するのはとても納得がいく。

 クロノグラフのムーブメントを分解して時間を表示することは、当然ながら手間がかかるため、あまり一般的ではないが、最近ではヨーロッパや日本の進取の気性に富んだ時計師たちによって注目されている。ニッチな注目を集めているとはいえ、貴重なレアアイテムであることは間違いない(記事「NAOYA HIDA & Co. NH TYPE 1B 実機徹底レビュー」参照)。

 私がここ数年注目している9時位置にスモールセコンドを配した腕時計を、様々なセグメントに分けて、混沌とした腕時計というテーマに秩序を与えるべくまとめてみた。このリストはすべてを網羅するものではないため、私のアシンメトリーな欲求を満たすのに役立ちそうな時計があれば、ぜひ知らせて欲しい。

クロノグラフ・オルト・デリート

 飛田直哉氏は、HODINKEEでも最近よく紹介されている日本の独立系ブランドだが、それには理由がある。昨年発表した2作めの時計では、バルジュー7750自動巻きクロノグラフを、時刻表示のみの手巻き式ムーブメントに変更している。この選択には賛否両論あったが、理にかなっていると思う。飛田氏が今年の初めに我々のエリック・クー氏に語ったように、同氏が7750を選んだのは、「37mmのケースにちょうど収まる大型のムーブメントであるため」、そして「自分の理想とするスモールセコンドのダイヤル位置を実現するため」という理由だ。どうやら飛田氏と私は気が合いそうだ。

 飛田氏のブランドはまだ新しいが、リチャード・ハブリング氏はバルジュー7750を自分の要求に合うように改造することにかけては古株だ。ハブリング氏は、1990年代にIWCに在籍していたときに、ドッペルクロノグラフという初めての手頃な価格のラトラパンテ・クロノグラフを世に送り出した人物だ。2014年以降は、時間表示のみの手巻きCal.A11を繰り返しベースとして使用しており、このキャリバーは、7750の基本構造を採用し、ETAから部品を一切調達しない自社製ムーブメントである。A11はHabring²を牽引するキャリバーで、デッドビートセコンドや、私のお気に入りのフドロワイヤントなどの複雑機構を追加することが可能となっている。7750とA11の輪列構造は非常に似ており、Habring²のフェリックスシリーズで秒表示のサブダイヤルが9時位置に配置されている理由のひとつとなっている。

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ETAはどうか?

 現在も使用されている最も有名な懐中時計ムーブメントの一つであるETA 6497 ユニタスのベースキャリバーは、ヴァンドーム・パネライ以前のモデル(有名なルミノール デイライト スライテックを含む)から、ハミルトン、ティソ、ラコのエントリーモデルまで、あらゆる時計に搭載されている。また、このキャリバーは若い時計メーカーが製造過程で再現するのにも適している。カリフォルニアのワイス・ウォッチ社は、ETA/ユニタス 6497の設計をベースにした自社製キャリバー3003を搭載した「スタンダードイシュー フィールドウォッチ」シリーズで人気を博している。

忘れてはいけない王者パネライの存在

 パネライは現在、9時位置にスモールセコンドを配する王者と言っても過言ではないが、ほとんどのモデルが3時位置の日付表示とインダイヤルでバランスをとっている。これはユーザーにとっては機能的に素晴らしいことかもしれないが、私のアシンメトリーの好みには合わないのだ。幸いなことに、いくつかのパネライにはその条件を満たすものがある。PAM 422、PAM 655、PAM 676/677、PAM 754、PAM 915、PAM 1084などは、日付窓を取り除いた現代的な手巻き時計であるし、超モダンなLAB-IDモデルも日付窓を残していることで知られている。私のお気に入りのパネライの一つは、エントリーモデルのルミノール ドゥエで、ありがたいことに、これも日付表示なしのモデルだ。

エリート・ウォッチメイキング

 ゼニス エリートは、私が9時位置にスモールセコンドを備えたドレスウォッチに興味を持ち始めたきっかけとなったムーブメントだ。私は常に新しいものを求めているのだが、エリートには何か回帰するものがあるのだ。個人的な意見では、このムーブメントは現在生産されている自社製ムーブメントのなかで最も過小評価されているものの一つだと思っている。

 1969年のデビュー以来、ほとんど変わらない構造で人気を博しているクロノグラフの兄弟機「エル・プリメロ」とは異なり、1994年にデビューした「エリート」は、現代の時計製造技術の粋を集めたモデルだ。CAD(Computer Aided Design)を用いて開発された最初のムーブメントの一つとされている。1994年に発表された「エリート」は、バーゼルのショーケースで「ベスト・ムーブメント・オブ・ザ・イヤー」を受賞するなど、高い評価を得た。近年では、ガンギ車やパレットレバーにシリコン部品を使用するなど、現代的な最高級の素材を採用している。

 エリートは、様々な場所で見ることができる。3針のエリート クラシックには、Cal.670 SKムーブメントが採用されている。このムーブメントは、オフセンター配置の秒針をセンターに配置し、6時位置に日付表示を備えている。より人気の高いデファイ クラシックも同様にこのムーブメントを活用している。ゼニスは過去にエリートのムーブメントをウルベルクなどのLVMHグループ以外のブランドに販売していたが、今年の初めにゼニスのCEOであるジュリアン・トルナーレ氏と話をした際には、そうした販売はやめたとのことだった。

 最終的に、誘惑に負けて9時位置に秒針のある時計を買うことになったら、それはおそらく2000年代半ばのゼニス エリートの中古品になるだろう。ただ、それにふさわしいものを見つけなければならないと思う。

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インディペンデンス・デイ

 時計業界の最高峰に位置するウォッチメーカーは、自分たちの好みに合わせてデザインを追求することができる。個人的に残念なのは9時位置のスモールセコンドのファンはほとんどいないということ。8の字を描くようにアシンメトリーなF.P.ジュルヌ クロノメーター・オプティマムを除外したのちに私が見つけたのは、過小評価されている自社製キャリバーを搭載した2つのインディーズモデルだった。

 みんなが大好きな液体を使った時計メーカーで最近倒産のニュースがあったHYTに、H0というモデルがある。このムーブメントは、3つの隣り合わせたインダイヤルを使用し、秒表示を9時位置の真上に配置している。従来のレピーヌ配列ではないが、中央に時分表示、9時付近に秒表示を配置するという私のなかの基準を満たしている。

 一方、アーミン・シュトロームのCal.AMR13は、まさに私が求めていた時計だ。数年前、スイスのビールにあるアーミン・シュトローム社のチームを訪問する機会があったが、彼らの社内製造プロセスの質の高さを証明することができた。当時はまだこの種の時計への愛情が十分ではなかったものの、次にクロード・グライスラー(Claude Greisler)氏と彼のブランドについて話すときには、ぜひともムーブメントのデザインについて彼の意見を伺いたいと思っている。

残りの素晴らしい時計

 セリタは、9時位置にスモールセコンドを搭載した4種類のキャリバーを製造している。ETA2800シリーズのデザインをベースに、手巻きまたは自動巻きのバージョンがある。セリタのSW219-1、SW295-1、SW290-1、SW295-1はすべて日付窓を搭載しているが、多くのブランドは3時位置ではなく6時位置に配置する。オリス、ミューレ・グラスヒュッテ、タグ・ホイヤーなどは、これらのセリタのベースムーブメントに若干の変更を加えて広く使用している。

2019年に発売されたブレモン  H-4 Hercules リミテッドエディションは、ライト・フライヤーとムーブメントを共有している。

 近年、悪名高いムーブメント論争のひとつに、意外にもレピーヌ配列を採用した時計があった。ラ・ジュー・ペレのベースキャリバーを使用したブレモンのBWC/01は、2014年にライト・フライヤーに搭載されてデビューした際に、その出自を巡って多くの議論を呼んだ。

 いよいよ最後の(今のところは)紹介だ。2016年、ヴァシュロン・コンスタンタンが第3世代のオーヴァーシーズに合わせて、様々な新しい自社製ムーブメントを発表したとき、このジュネーブのマニュファクチュールは、秒針を9時位置に配した新しいタイム・オンリー・ムーブメントを搭載した。直径37mmの小型なオーヴァーシーズに搭載されるこのムーブメントは、今回のリストで最もスポーティで、最も予期していなかったモデルと言えるだろう。

ヒストリーク・アメリカン 1921の初代(左)と2021年製(右)の比較。リューズとスモールセコンドの位置関係に注目。

 そういえば、最近ダニーが「A Week On The Wrist」で紹介していたアシンメトリーなヒストリーク・アメリカン 1921は、オリジナルはそうだったのだが、伝統的なレピーヌのキャリバーではなかったか。