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Introducing ラウル・パジェス デテント脱進機を復活させたスペインの独立時計師

ラウル・パジェスの第3作目には、初の自社製ムーブメントが搭載されている。

我々が知っていること

スペイン人時計師、ラウル・パジェス(Raúl Pagès')氏は、パルミジャーニ・フルリエやパテック フィリップの修復工房で経験を積んだあと、2010年代初頭に自身のブランドを立ち上げた。そして先週、この独立時計師の最新作が発表された。

Raùl Pagés at his bench

ラウル・パジェス氏

 新作レギュラトゥール・ア・デタントRP1(Régulateur à détente RP1)は、パジェス氏のこれまでの作品とは一線を画している。“ソバリー・オニキス”とは異なり、RP1には彼による新しい手巻きムーブメントが初めて採用された。このムーブメントは自社製で、昔ながらの脱進機のスタイルであるピボット・デテントに新たな創意工夫を加えている。彼はこの脱進機を自ら設計し、ひとつひとつ手作業で製作している。

 我々が用意した用語集(Watch 101 section)から引用すると、伝統的なデテント脱進機は「受け石が取り付けられた非常に薄い板バネでガンギ車を拘束し、テンプに取り付けられた受け石がバネを通過させることでガンギ車を解放し、前進させる。このとき、ガンギ車はテンプに直接衝撃を与え、板バネが元の位置に戻ると再び拘束されるという仕組み」である。

The detent mechanism with Pages's patented anti-tripping mechanism

このデテント機構には、パジェス氏の特許であるアンチ・トリッピング機構が採用されている。

 ピボット・デテント脱進機は、マリンクロノメーターの時代やピエール・ルロワ(Pierre Le Roy)、ジョン・アーノルド(John Arnold)、トーマス・アーンショー(Thomas Earnshaw)らの作品に見られるように、古くから精密計時に用いられてきた。しかし、デテント脱進機は衝撃に弱く、現代ではその用途が限られていた。2010年代初頭、ウルバン・ヤーゲンセン(Urban Jürgensen)は、Ref.1140Cの内部に搭載されたムーブメント、Cal.P8でその常識に挑んだ。その数年後には、クリストフ・クラーレ(Christophe Claret)やブルガリが独自の試みを行っていたことからも、パジェス氏の試みが非常に敷居が高いものだとわかるだろう。

 パジェス氏が考案したデテント脱進機では、テンプの上に安全ローラー(彼によると“アンチ・トリッピング機構”と呼ぶ)を設置し、衝撃を受けた際にデテントを受け止めることで衝撃から守るということだ。

 彼はデテントのロックを解除するスプリングを手作業で製作し、その厚さはわずか0.02mm。また、パジェスはユニークなデテント脱進機をはっきり見せるために、4番車をあえてダイヤル側に配置した。

A diagram illustrating Pages' pivoted detent mechanism with patented "anti-tripping" mechanism.

特許取得済みの "アンチ・トリッピング "機構を備えたパジェス氏のピボット・デテント機構を示す図(両方とも赤で表示)。

 時計のもう一方の面では、ダイヤルの美しさが、時計製造のもうひとつの古典的な要素(レギュレーター表示)をより現代的に表現している(彼曰くル・コルビュジエにインスピレーションを受けたそうだ)。

 レギュレーターは、時間の計測を完全に分離して表示するもので、時、分、秒のすべてがダイヤル中央のピニオンを共有するのではなく、ダイヤル上の独立した位置に配置される。RP1では、分針は中央、12時位置に12時間のインダイヤル、6時位置にスモールセコンドが配置される。

The Raùl Pagés Régulateur à détente RP1 on a grey backdrop.

 全体的に落ち着いたグレーダイヤルに、インキーブラック(漆黒)のフランジとライトブルーのスモールセコンドが美しく映える。6時位置のスモールセコンドに使用されている特別なブルーの色合いは、1959年にル・コルビュジエの『建築における色デザイン(Polychromie Architecturale)』と呼ばれる色見本帳から引用されている。これらの色は魅力的で際立っているが、RP1の最大の特徴は、その絶妙な立体感だ。沈み込んだインダイヤル、片持ち式の分表示、ダイヤモンドポリッシュ仕上げで縁取られたスモールセコンドが、この時計に躍動的な生命力を与えている。

 時計愛好家好みの38.5mm×10.2mmのプロポーションは、ステンレススティール製ケースによって与えられている。

我々が思うこと

ラウル・パジェス氏は新人のように見えるかもしれないが、この業界に入って10年以上のベテランだ。2012年にスイスのレ・ブレネ(Les Brenets)に工房を設立し、今年で10年目を迎えたが、そのあいだ、彼は独力で活動してきた。それだけに台頭してきた若手時計ブランドを紹介するコラムOne To Watchに彼を取り上げたのは違和感があった。しかし、新作RP1は40歳を迎えた時計師の新機軸を確立し、現代の目の肥えた時計コレクターに古い世界の時計に新たな解釈を与えた、注目に値するすばらしい時計の新境地を拓いた。

 レギュラトゥール・ア・デタント RP1は、パジェス氏の時計修理の経験を活かし、手作業による装飾的な仕上げが施されている。ニッケルシルバー製のブリッジには面取り加工、さらにブラックポリッシュ仕上げが施されるが、デテントシャフトのSS製受けも同様だ。ラチェット車と丸穴車の歯は、すべて手作業で面取りと研磨が施される。また、コハゼは鏡面仕上げされたSS製で、同じく手作業で面取りされる。

A flatlay of the movement inside the Raùl Pagés Régulateur à détente RP1, on a grey background.

 実は、まだレギュラトゥール・ア・デタント RP1の実物を見たことがないのだが、画像からも明らかに時計の手仕事のすばしさが伝わってくる。パジェス氏によると、年に4~5本しか生産できないとのことで、近い将来、入手困難な時計になるだろう。

 自社製デテント脱進機を搭載した時計の価格設定は、あまり前例がなく、RP1の製作に要した時間と労力は最終的に8万5000スイスフラン(約1060万円)という時間のみを表示する時計としては高額な価格設定に表れている。


基本情報

ブランド: ラウル・パジェス(Raúl Pagès')
モデル: レギュラトゥール・ア・デタントRP1 (Régulateur à détente RP1)
直径: 38.5mm
厚み: 10.2mm
ケース素材: 316Lステンレススチール
ダイヤルカラー: サンドブラスト加工、ダイヤモンドとニッケルメッキを施したダイヤル、ブラックニッケルメッキを施したミニッツフランジ(外周部分)、マットラッカー(セルリアンブルー59番)仕上げのスモールセコンド
インデックス: ダイヤモンドポリッシュ仕上げ、サーキュラーグレイン仕上げ、ロジウムメッキのフランジ
夜光塗料:  なし
防水性能: 30m
ストラップ/ブレスレット: レザーストラップ

The dial of the Raùl Pagés Régulateur à détente RP1

パジェは、ダイヤルの美しさについてル・コルビュジエに影響を受けたと語っている。


ムーブメント情報

キャリバー: 自社製RP1, デテント脱進機付き
機能: 時、分、秒(レギュレーター表示)
直径: 33.6mm
厚み: 5.6mm
パワーリザーブ: 47時間
巻き上げ機構: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 17
その他の詳細: アンチ・トリッピング機構を備えたピボット・デテント脱進機、4つの18Kゴールド製可変慣性ウェイトを備えたフリースプラングテンプ、部品点数171点


価格&発売時期

価格: 8万5000スイスフラン(約1060万円)
入手方法: ラウル・パジェス公式サイト