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Entry Level ヴァシュロン・コンスタンタン フィフティーシックス・オートマティック

そのクラシックなスタイルは、流行に左右されない確固たる万能性を備えている。

『エントリーレベル』企画では、高級時計メーカーのなかで最も手ごろなモデルを紹介する。そうはいっても手ごろではないものもあるが、どんなブランドでも入門機というものがあるのだ。

信じられないかもしれないが、ヴァシュロン・コンスタンタンのような高級ブランド界のエリートにも“エントリーレベル”と呼べるモデルが用意されている。そこは世界最古の時計メーカーであるヴァシュロンのことなので、安っぽさや初歩的だと感じさせることはまったくないのだが、2018年1月になって初めてエントリーモデルとしてフィフティーシックスコレクションを発表したのだ。ミッドセンチュリーの魅力と日常のどんなシチュエーションにも対応できることを目的とした同コレクションは、直径40mmサイズを中心としたドレッシーなスポーツ/カジュアルウォッチで、本記事で紹介するオートマティックをはじめ、デイデイト、コンプリートカレンダー、さらにはトゥールビヨンなど、伝統的な複雑機構までラインナップしている。

The VC Fiftysix on a blue background.

 貴金属を惜しみなく使うことで知られるヴァシュロン・コンスタンタンだが、スティールモデルも充実しており、オーヴァーシーズの37mmサイズのオートマティックが235万4000円(税込)から用意されているのに対し、SSケース/レザーストラップのフィフティーシックス・オートマティックは145万2000円(税込)から展開される。

 現在、ヴァシュロン・コンスタンタンが製造している時計のなかで最も廉価な時計として(そう、33mmのオーヴァーシーズ・クォーツでさえ税込177万6600円と、このモデルよりも高価なのだ)、フィフティーシックスの背負う役割は非常に難しいものだ。ヴァシュロン・コンスタンタンの特徴やおもしろさを表現しなければならない一方で、購買層が期待する要素(自社製ムーブメント、複雑機構、貴金属などが思い浮かぶ)は省く必要があるからだ。

All three iterations of the Vacheron Constantin Fiftysix.

 フィフティーシックス・オートマティックは、40mm径のSS製で、シルバーまたはブルーダイヤルに時刻、日付、センターセコンドを表示する。どちらのダイヤルにもマッチしたレザーストラップが付属するが、ブルーダイヤルモデルには30万8000円の追加料金でマルチリンクSSブレスレットを選択することが可能だ(総額で税込176万円)。

 前述したミッドセンチュリーの魅力は、ヴァシュロン・コンスタンタンが1950年代に製造していたRef.6073に由来している。このヴィンテージリファレンスは、ドレッシーな要素とカジュアルな要素を融合させ、万能性とエレガンスを兼ね備えたデイリーウォッチとして、独特の建築学的なラグデザイン、クラシカルで見やすい時刻表示、さらには夜光塗料を使用していた。一方、フィフティーシックス・オートマティックはRef.6073のマルタ十字のラグにインスピレーションを得たラグ/ケースデザイン、見やすいセクターダイヤルレイアウト、ひとつおきに配置されたバトンマーカーと針への夜光塗料を特徴としている。

The case details of the Vacheron Constantin Fiftysix.

 現代のフィフティーシックスの特徴は、わずかに左右非対称なケースデザインを採用することで、リューズを埋め込み(ねじ込み式でない)保護する。厚みは9.6mm(最厚部分)、30m防水であることから、ダイバーズウォッチというよりもドレスウォッチとして身につけることになるだろう。

 フィフティーシックス・オートマティックは、シースルーバックから自動巻きムーブメント Cal.1326を眺めることができる。このキャリバーは、リシュモングループのムーブメント専業メーカーであるヴァルフルリエ(Horlogère ValFleurier)が供給する機械をヴァシュロン・コンスタンタンが独自の基準で仕上げ、組み立て、調整を行っている。2万8800振動/時で動作するCal.1326は、48時間のパワーリザーブを持ち、約142点の部品で構成されている。また、ハック(秒針停止)機能、手巻き機構付き自動巻き、瞬間日送りカレンダー機能、ピンクゴールド製巻き上げローター(何とSS製モデルにも搭載)を備えている。グループ内供給キャリバーであることからジュネーブ・シールを取得していないため、一定の価格帯を達成するためにいくつかの妥協がなされたことがうかがえる。

The movement view on the back of the Vacheron Constantin Fiftysix.

 ブルーとシルバーの2色ダイヤル展開のこのモデルはドレッシーな雰囲気だが、フォーマルというほどではない。ヴァシュロン・コンスタンタンのラインナップのなかで、スポーツウォッチとは呼べないものの、ドレスウォッチというわけでもない。フィフティーシックス・オートマティックは、1950年代のデザインから強いインスピレーションを受けており、現代的なSS製時計のカテゴリーに縛られることなく、’50年代のデザインがもたらす万能性を支柱としているのだ。

 最後の一文はわかりにくかったかもしれないので、具体的なSSウォッチモデルを例示すれば、いかにフィフティーシックスは難しいカテゴリーの境界線をまたいでいるかということがわかるかもしれない。オメガ アクアテラ(150m防水、ラバーストラップ)などと比べると明らかにスポーティではないが、同時にIWC ポートフィノほどドレスウォッチ然ともしていない。

Dial macro of the Vacheron Constantin Fiftysix.

 思うに、同じリシュモン傘下のブランド、ジャガー・ルクルトの非ドレスウォッチコレクションと同じ雰囲気を、ヴァシュロンはフィフティーシックスで表現しているのではないだろうか。

 機能面では、ダイバーズウォッチやパイロットウォッチ、クロノグラフなどの伝統的なスポーツモデルではないことから、フィフティーシックスは時間と日付機能のみのグランドセイコーモデルを愛する人にも魅力的に映るだろう。例えばSBGW251ではなく、SBGH277のような、あまりドレッシーではないモデルはいいライバルになるのではないだろうか。

The Vacheron Constantin Fiftysix on a person's wrist.

 ヴァシュロン・コンスタンタンのなかでも、フィフティーシックスはパトリモニーと比べて格段にフォーマル性が低く、オーヴァーシーズよりも官能性に欠ける。あえて言えば、フィフティーシックスは少し地味な存在だ。しかし、そこにこそ重要なポイントがあるのだ。

 パトリモニーよりもフォーマルでないことで、この時計は(ヴァシュロン・コンスタンタンのような伝統的なブランドが重視する)若年層でもアクセスできる選択肢となり、オーヴァーシーズよりもやや控えめであることで、ブランド内でのカニバリゼーション(共食い)を防ぎつつ、ブランドの最も親しみやすいレベルで多様性を提供することが可能となるのだ。

The Vacheron Constantin Fiftysix on a blue background.

 より下位の高級ブランドの領域に切り込むための価格設定がなされているフィフティーシックス・オートマティックは、古典的で無難なスタイル、優れたプロポーション、ストイックなカラーリング、万能性を最大限に発揮するなど、可能な限り広い範囲をカバーすることでヴァシュロン・コンスタンタンの入門機として成功している。