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Second Opinions オリス 孫悟空アーティストエディション 330万円の七宝焼ダイヤルはかなり理にかなっている

"我々は無用な騒ぎを起こさず、静かに仕事をやるのだ" -孫悟空、『西遊記第23章にて、呉承恩著

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先日コロラド州ベイルで行われたオリスのプレビューイベントで、あるリリースが時計ライターたちに衝撃を与え、困惑させることとなった。オリスといえば、スイスメイドの高品質な時計をリーズナブルな価格で提供することで知られるブランドだ。そんなオリスから、1961年のアニメ映画『大暴れ孫悟空(原題:大鬧天宮)』のワンシーンを七宝焼(クロワゾネ)ダイヤルで表現した税込価格330万円のアクイスがリリースされたのだ。これはまったく誰も予想をしていなかった。

Oris watch

 孫悟空アーティストエディションは、300m防水、直径41.5mmステンレススティールケースに120時間パワーリザーブを誇るオリスCal. 400を搭載した、通常生産モデルのアクイスとよく似ているが、ひとつだけ大きな違いがある。それは、アクイスが本来意図していたようなツールウォッチではないということだ。ダイバーズウォッチとしてのISO6425規格を満たしていないのは確かで、(それが重要だとは思わないが)インデックスもなく、超細密なクロワゾネダイヤル(七宝焼)と針があるだけなのだ。

 発表された瞬間、会場を見渡したが、誰も何を考えているのかよくわからない状態だった。かく言う私もそうだった。そして、すぐに3年前のリリースのことが頭をよぎった。

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 2019年、私はオリス ビッグクラウン プロパイロットX キャリバー115の発売を取材するため、上海を訪れた。この時計が私をそこへと導いたのだが(そしてそれは確かに旅行する価値のある時計だった)、私は東洋における時計への熱量についてより広い理解を持ち帰った。通常、重要な市場にはそれぞれ独自の時計発表会があるが、オリスは2019年の“ハローウォッチ(栄光の時計)”を発表するために上海という特別な場所を選択した。アジア各地からコレクターや時計ライターたちが集まり、世界最大の市場を代表する巨大な集団となった。上海での発売は、中国市場での売上を伸ばすための作戦に違いないと思った。しかし、それならなぜ、中国市場を意識したような時計をロッキー山脈の小さなスキータウンでデビューさせたのだろうか?

 ロルフ・スチューダー(Rolf Studer)CEOは、「私たちにとって、この時計は既成概念にとらわれないものなのです」と認めた。しかし、少し考えてみると、すべて納得がいく。オリスは、他の多くの時計ブランドのようにマーケットに特化した方法で世界を見ているわけではない。世界中からのインスピレーションは、オリスをオリスたらしめている要素のひとつなのだ。このブランドは単に時計を作るだけでなく、私たちの住む世界について教えてくれるのである。

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 オリスのオカバンゴ エアレスキュー リミテッド エディションの執筆にあたって、アフリカのオカバンゴ・デルタについて、これまでの人生で一番多く文献をあさった(BBCのプラネットアースはカウントしていない)。オリスのおかげで、ワッデン海の潮の満ち引きについて知ることができたのだ。ビッグクラウン プロパイロット レガ  フリート リミテッドエディションの執筆時には、スイスの航空救助隊、「レガ」(REGA)の関係者とお話する機会を得た。また、フィリップ・ブラシア氏の父親カール・ブラシアを称える時計のリサーチでは、光栄にもインタビューすることができた。そしてもちろん、野球界の偉大な選手の一人であるロベルト・クレメンテを称える時計もそうだ。

 しかし、この特別なオリスを際立たせているのは、インスピレーションよりも時計そのものの完成度の高さだ。330万円という高価格は、限られた生産量と関係している。細密な七宝焼のダイヤルは、月に1、2本しか生産することができないのだ。

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 まず、細い銀線を敷き詰めて、『大暴れ孫悟空』のシーンの輪郭を描いていく。次に、ガラスに金属酸化物の着色剤を混ぜてエナメルを作り、銀線で作った各パーツに流し込む。一段落したら炉で焼くのだが、その温度は正確で安定したものでなければならない。そうしないと、先に流し込んだ他のエナメルの色を台無しにしてしまうからだ。エナメルは宝飾品の世界から生まれた芸術で、紀元前13世紀にギリシャで作られたミケーネ時代のジュエリーにまで遡ることができる。中国では、明の時代(1368年~1644年)に七宝焼の技法が普及した。

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 このような仕事をこなせるのは、スイスでもほんのひと握りの職人しかいない。「私たちのためにこれをやってくれているのは、スイスで最も高価なブランドのために仕事をしている人物です」と、スチューダーCEOは名前を明かさずに言った。プレゼンでは「彼女」という場面があったが、これは現代の七宝細工の最高峰といわれる作品を手がけるアニタ・ポルシェ氏(Anita Porchet)の作品である可能性を意味している。業界の秘密は黙っておくのが常識である。しかし、もしこれがポルシェ氏の作品であれば、コレクターは非常に興味をそそられるだろう。彼女の作品は非常に人気があり、オリスのために仕事をすることは、コレクター界を熱狂させるような珍しいことなのだから。

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 複雑なエナメル細工が、価格の高さを物語っている。七宝焼の文字盤を持つモダンな時計は、そのほとんどが高級時計メーカーから発売されていることを考えると、かなり高額な買い物になる。例えば、ヴァシュロン・コンスタンタンのメティエ・ダール・ヴィル・ルミエールシリーズは1000万円オーバーだ。330万円の時計は、たしかにオリスに期待する時計の価格ではないかもしれないが、クロワゾネの世界に足を踏み入れるには1000万円台前半の価格帯が中心であることを考えると妥当ではないだろうか。

 文字盤に描かれているのは、1961年のアニメ『大暴れ孫悟空』のなかで主人公の孫悟空が竜王の棲家に近づく「天上の騒動」のシーンで登場する竜王の海底宮城。孫悟空の物語は、16世紀に書かれた東洋の伝統的な民話である『西遊記』に描かれている。ホメロスの『イーリアス』や『オデュッセイア』に匹敵する内容である。しかも、中国だけで重要視されているわけではなく、東洋世界のほとんどの人が知っている物語なのだ。私は2014年の実写版を香港の劇場で観たのだが、2022年にも続編が予定されているようだ。2021年にはジュリア・ラヴェルが英訳を発表。これは単なる中国の物語ではなく、ひいては中国市場向けの時計でもないのだ。

Sun Wukong

19世紀に描かれた孫悟空。

 「最近でも“中国コレクション”をやるということは、必死に映ります」と、スチューダーCEOは話し、こう続けた「私たちは中国のコレクターのために時計を作るのではなく、中国に敬意を表し、その課題に飛び込んでいくスイスのブランドなのです。どのようなテーマやプロジェクトにも、同じように真摯に取り組んでいます。少し垣根を越えてみたかったわけです」。

All images by James K./@waitlisted.

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