Watching Movies ライアン・レイノルズ、『アダム&アダム』でオメガ　スピードマスターと時を越える旅に出る

タイムトラベルは存在する。あなたがまだ知らないだけだ。

　レイノルズ演じるアダムは未来、正確には2050年から来た戦闘機パイロットで、妻のローラ（ゾーイ・サルダナ演）を救うため現代にタイムトラベルする必要があった。その過程で、偶然にも若き日の自分（ウォーカー・スコベル）と再会し、冒険が始まる（『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のルールでは、これは大きな禁忌である）。彼の使命は、タイムトラベルをきっぱりと終わらせ、世界を救うことだ。普通のよくある仕事だ。『アダム&アダム』は、E.T.とスター・ウォーズ（ライトセーバーのような武器が登場）を半分ずつ、そして前述のバック・トゥ・ザ・フューチャーを半分ずつ、さらにクラシックロックのサウンドトラックでガーディアンズ・オブ・ギャラクシーを少し足したような作品。ひとつだけ確かなことは、とにかく楽しいということだ。

　この映画がWatching Moviesでこれほど早く取り上げるに値するのは（ここではネタバレはしないのでご安心を）、どちらのバージョンのアダムも、それぞれにとって特別な感傷的価値を持つ、宇宙を旅するアイコニックなクロノグラフを身につけているからだ。

　この映画のデビューが十分な理由にならないくらい、スピードマスターの2バージョン、ムーンシャインゴールドのきらびやかなムーンウォッチ2本、サイズダウンしてリフレッシュしたスティール製のスピードマスター'57など、オメガのリリースがこのところ目白押しだった。さて、前置きが長くなった。そう、前述したアイコニックなクロノグラフとは、実はスピードマスターなのだ。

　映画では、少年時代も大人になってもアダムは父親のスピードマスターを腕にしている。この時計は、ふたりが初めて出会ったときにも登場し、若いアダムは未来の自分と会話していると信じることができた（タイムトラベルの存在を確信するには、地球上で最も有名な時計以上のものが必要だっただろうけど）。

　スピードマスターは映画のプロット上、少年/大人の両アダムと、その父親とをつなぐ感情的なスルーラインとして重要な役割を果たしている。父親はタイムトラベルのゴッドファーザーとも言うべき、マーク・ラファロが演じている。彼も当然スピードマスターを着用しているのである。見たところ、このモデルは前世代のオメガ　スピードマスターで、1861ムーブメントを搭載しているようだ。これはその後、キャリバー3861に置き換わり、生産が終了している。なぜかというと、ステップダイヤルでなく、文字の向きも現行とは微妙に違うからだ。たとえば、スピードマスターの文字に「フラットなA」が入っている。実はこれ、本作における素晴らしいディテールだ。この時計はアダムの最近亡くなった父親のもので、映画の舞台はほとんど2022年なので、この家宝が3861スピーディでなかったのは当然といえば当然なのだ。

　好奇心旺盛な時計好き・映画好きである私は、この時計が映画に登場した詳しい経緯を知るためにプロップマスターのディーン・エイラートソン（Dean Eilertson）氏に電話をかけてみた。すると、この時計は脚本にはなかったが、レイノルズがショーン・レヴィ監督にアイデアを出し、監督がそれを気に入ったと教えてくれた。

 「オメガのスピードマスターを探すのに大慌てでしたよ」と、エイラートソン氏は電話で語った。「オメガはすぐに4本の時計を納品してくれました。1本はスタント用でメカニズムは止まっていました」

　しかし、このふたつの時計はまったく同じものではなかった。エイラートソン氏は、これらにはストラップの違いもあると指摘する。「ライアンはパイロットなので、NATOストラップを付けていました。若いアダムのレザーストラップは、彼の父親のものとは違う状態にしていました。時間の経過を示すためです」

　この映画は、父、息子、子という3人のキャラクターを1本の時計を通して見せているところがとても面白い。決して感傷的な映画ではない。スティーブン・スピルバーグ監督らしく、洗練された演出と凄い特殊効果を駆使したタイムトラベルものの冒険映画だ。そのなかに、最も象徴的な時計が登場するのも悪くない。

　映画の序盤、ビッグ・アダムが戦闘機を不時着させたのち、ふたりのアダムは初めて対面する。現実を破壊するような出会いに、彼らは「君は僕だ！」という古典的な瞬間を迎える。まず、あごの傷跡を比べ、最後に時計を比べる（これは誰もが共感するところだ）。そのとき、ふたりは互いに父親の腕時計を見せる [00:13:30]。 若いアダムはレザーストラップ、ビッグ・アダムはNATOストラップ。これは、ふたりを結びつける唯一のものであり、時計が持つ永続的な感傷的価値を示すものだ。

　映画がピッチを上げる頃、ビッグ・アダムのタイムファイターのコックピットに若いアダムが乗っている。彼らは生前の父親を探すため、2018年にタイムジャンプする準備をしている。彼らの前に立ちはだかるのは、タイムトラベルを独り占めしようとする大悪党マヤ・ソリアン（キャサリン・キーナー）だ（もっと詳しいプロットを知りたい方は映画をご覧ください）。ソリアンはアダムたちを追い詰め、彼らの破損したシップ（タイムトラベルの乗り物）には1回のタイムジャンプしか残されていないことを知らせる。

　ビッグ・アダムは若いアダムに、ジャンプをするかしないかは彼の選択だと言う。若いアダムが自分の手首を見る。カメラはシップの窓に押しつけられたスピードマスターをクローズアップする [00:55:27] 。スピードマスターの鮮明なアップだ。実際、このショットは非常にクリアで、私はこの時計のリファレンスを最初に決定することができた。この瞬間、彼はただ自分の父親に会いたがっているのがわかる。そして、ビッグ・アダムに向かって、「さあ、やろうぜ」と言い、彼らは出発したのだ。

『アダム&アダム』（出演：ライアン・レイノルズ、ゾーイ・サルダナ、ウォーカー・スコベル、マーク・ラファロ、キャサリン・キーナー、ジェニファー・ガーナー）は、ショーン・レヴィ監督、ディーン・エイラートソンが小道具を担当。Netflixで配信中。

Lead illustration, Andy Gottschalk